第12話「桜井恵美の正体」
1「恵美の転校初日」
朝食を食べ、渡された女子の制服を見て恵美は、
「はぁ」
とため息をついた。二重底の引き出しから女性下着を取り出し、
(やっぱトランクスはまずいか)
パジャマを脱いで、トランクスも脱ぎ、女性下着を身に着け、女子の制服を着る。
「いつか来るとは思っていたけど」
と呟きながら、スカートのチャックを上げる。
そして制服のリボンをつけ、ブレザーを着た後、姿見で自分の姿をチェックしつつ、
「はぁ~」
と再び深いため息をつく。その後、机の引き出しを開け、
一枚のカードを取り出した。
(これは、持って行かなきゃいけないよな)
恵美は、それを財布に仕舞った。
そして、学校に行こうと家を出ようとした時、
「似合ってるわよ。行ってらしゃい」
と功美は微笑みながら言った。その姿に、
(他人事だと思って……)
と感じつつも、
「行ってきます……」
と返事をして、家を出た。
(通学路はいつもと同じなのに、妙に緊張するな)
恵美はそわそわしながら、学校に向かう。
その足取りは妙に重い。登校途中、すれ違う同級生に、
「あれって、うちの生徒?」
「あの子、誰だろう?」
とヒソヒソ話されつつ、好奇の目にさらされていた。
学校の校門が見えてくると、下駄箱の前で靴を履き替えるが、
ここでも生徒達の視線を感じて、落ち着かない。
その後、恵美は職員室へと向かい、時間が来ると、
担任教師のマチルダと一緒に教室に向かった。
そして朝のホームルームにて、マチルダは
「桜井修一君は病気の為、当分の間欠席します」
と告げ、急な話にざわつく教室。
「ですが、命に係わる事ではないので、必ず元気になって戻ってきます」
と皆をなだめつつ、
「そして、転校生の桜井恵美さんです。彼女は桜井君の従姉でもあります。
仲良くしてくださいね」
と恵美を紹介し恵美も、
「よろしくお願いします……」
と言った後、ペコリとお辞儀をする。
その後、クラスメイト達は、恵美を質問攻めにする。
修一が居なくて、クラスで唯一の男子となった秋人は、
何も言わなかったので、質問してきたのは女子だけだった。
なお女子の中でもメイは特に何も言わず、無言でじっと見つめるだけだった。
恵美は魔獣軍団の一件で、イノを含めた蘭子の取り巻きから、
話が広まる形で、有名人だった。ただ、「赤い怪人」に関しては、
蘭子からの口止めもあって、知られておらず、修一も何も言わないので、
正体不明の凄い人と言う形で知られていたので、
女子たちは、「どこから来たの」とか「趣味は何」など、
その実態を知ろうと、質問してくるのだった。
どれに対し、恵美は面倒くさそうにしつつも、質問に答えていった。
そんな中で、マチルダは、
「はい、皆さん、質問はここまで」
女子を制しつつ、
「じゃあ、恵美さんは、しばらく来ない桜井君の席を使ってくださいね」
と言い、恵美は、
「はい……」
と返事をしつつ、席へと向かう。隣の席は秋人で、
「浮島の一件以来ですね。恵美さん」
と声をかけて来る。
「そうだな……」
と返事をする。この時、秋人は笑顔を見せていたが、
内心は、彼女に疑念を抱いていた。
両親の話から、桜井修一には従姉がいない可能性があるからだ。
しかし、担任教師まで従姉と言っている以上、認めざるを得ないのであるが。
一方、恵美は、蘭子をチラリと見る。
すると彼女は、こちらを見ており目が合うと、不敵な笑みを見せ、
前を向いてしまった。それを見た恵美は、
(正体に、勘づいてるんだろうな)
と思う。
ここで秋人から
「修一君って病気だって話だけど、何の病気?」
「それが、分からないんだ」
「えっ?」
「か……じゃなくて、功美さんは、何も教えてくれないんだ。
入院してるらしいんだけど、どこの病院かも教えてくれないし」
「そうなんだ……」
「うん……」
更に秋人は、
「ところでどうして、こっちに転校してきたの?
そういや、前はどこの学校に居たの」
すると困ったような様子で、
「あの……えっと……」
言葉を詰まらせる。するとここでマチルダから、
「そこ私語しない」
と注意されたので、話を止める事になり、
秋人の質問に関してはうやむやになる。
その後、ホームルームが終わると、授業になり、
休み時間になると、再び女子に囲まれて、質問責めに遭い。ここでも、
「ねえ、恵美ちゃん、貴方前はどこの学校だったの?」
と聞かれるのだった。
この質問に、上手く答えらえないでいると、
「皆さん、質問も大概になさい。恵美さんが困ってますわよ」
と蘭子が穏やか口調で制止した。彼女のお陰で、質問攻めは無くなった。
そして昼休み。恵美は、学食で食べようとすると
「あの恵美さん。良かったら、ご一緒しませんか?」
と蘭子と、イノを含めた取り巻き連中に、誘われた。
「いいけど……」
なお断りづらい雰囲気であった。
そして一緒に、食事をしていると、イノが
「この前は、ありがとうございます」
と魔獣軍団の一件の事で、礼を言い。
更に、あの時一緒にいた女子生徒たちも、礼を言う。
「こっちは、修一に頼まれただけだから、気を使わなくていいよ」
と答える恵美に対し、蘭子が
「『頼まれた』ですか……」
どこか意味深に言い。
「ところで、桜井君のご病状の方は、やはり市民病院に、
入院してるのでしょうか?」
「さあ、さっきも秋人にも行ったけど、知らなくて、
功美さんは何も言わないし」
「それは残念、お見舞いに行きたかったのですが」
と蘭子は言いつつも、
「それにしても、有間君を、名前呼びとは、
随分と仲がよろしいんですね」
この一言に、ハッとなった恵美は、妙に焦りだして、
「いやアイツ、名前呼びしてたから、つい、名前呼びになってるだけで……」
すると蘭子は、
「そうですか……」
とどこか、意地の悪そうな笑みを浮かべる蘭子。
(やっぱり、勘づいているのか……)
そう思うと、落ち着かない昼食であった。
そして放課後、恵美は現視研の部室の前にいた。
今日は部活のある日である。そして部室に入ろうとして、
恵美はハッとなり、この場を立ち去ろうとすると、
「ウチの部に、なんか用?」
と声をかけて来るは、副部長、古都愛梨。現視研しか入っていない第二部室棟。
しかも、校舎から遠く離れた場所に、
わざわざやって来るとなると、現視研に用があるとしか思えない。
「いや、あの……その……」
答えに困る恵美。
ここで、
「恵美さん?」
と声をかけて来るのは、現視研ラノベ班の御神春奈。
「知り合い?」
と聞く愛梨に、
「今日転校してきた桜井君の従姉ですよ」
「もしかして、部長がお世話になったっていう……」
お菊とその配下の不良軍団との一件の事である。
さらに愛梨は、恵美の顔をじっと見て、
「そう言えば、似てる~」
と言いつつ
「もしかして、桜井君に用なの?でもまだ来てないよ~」
ここで、春奈が、
「桜井君は、病気で入院したとかで、当分学校に来ないみたいで」
するとここで恵美が
「そう!その事を、伝えに来たんです。先に言われちゃいましたけど」
と言うが、誤魔化してるように見えた。
「ふ~ん……そうなんだ」
と納得したように見せつつも、
愛梨は疑いの眼差しを見せていた。
だが、追及するつもりはないのか、それ以上はないも言わず
「でも、転校してきたばかりって事は、部活もまだよね。見学していかない?」
と誘う。
「そう言えば、恵美さんってゲームとか、アニメとかラノベが好きだって、
言ってましたよね」
と春奈は言う。確かに恵美は女子から質問攻めにあった時、そんな事を話した。
「だったら、ちょうどいいじゃん!見学してこうよぉ~」
結局、半ば押し切られる形で、見学していくことになった。
そして部長は、恵美の事を聞くと、
「君が桜井の従姉か、あの時は、世話になったな」
と礼を言うが、
「アタシは、頼まれた事をしただけだから……」
と謙遜する恵美。
「それでも、本人に礼が言いたかった。ありがとう」
と言って深々と頭を下げ、その様子に、ひたすら気まずい恵美だった。
さてこの修一が来ないとなると、一つの問題が発生していた。
「桜井がいつ退院してくるか。わからないのか」
「はい……」
「まいったね~コンテストが近いのに」
その言葉を聞いて
「あっ!」
声を上げる恵美
「もしかして聞いてたかプラモコンテストの事」
そう修一は、半ば強引ではあったが、コンテストに参加する羽目になり
それに出品する作品を作っていたのだ。
「弱ったな。届け出は出してるし……」
部長は腕を組んで、首を傾げる。
仮面で表情は分からないが、困っている顔をしていてもおかしくない。
(部長の素顔で、困っている顔となると……)
居てもたってもいられなかった恵美は、
「話は、修一から聞いてますから、私が代わりに作れますけど……」
「作れるのか!」
「まあ……」
すると渡りに船と言う感じで、
「じゃあ、頼む。届け出も共作に変更しておく」
「いや別にいいです。修一の単独作って事で」
「そうはいかない」
と言って譲らず、
「共作ならさあ~部員じゃなきゃいけないんじゃ~」
と愛梨が言う。コンテストは部として応募するので、
制作者は、部の人間じゃないといけないのだ。
「恵美ちゃんに作ってもらうには部に入ってもらわなきゃ」
「無理強いはできない」
と言う部長。
「修一の単独作って事で」
と再度提案するが、
「それはダメだ」
と突っぱねる部長。
しかし、コンテストには間に合わせたいので、結局、
「現視研に入ります」
結局、部活に入る羽目となる。恵美だった。
そして部活の後、恵美が疲れを感じながら家に帰って来ると、
「おかえり」
功美がいた。
「居たんだ……」
「今から出かけるんだけどね。はいこれ」
彼女は、荷物が入ったエコバッグを渡した。
中身は、ナプキンや鎮痛剤などが生理用品が入っていた。
近所のドラックストアで買って来たらしい。
「これから必要でしょ」
と言いつつ
「どうだった学校は」
「なんだか疲れたよ」
と恵美は疲れ切ったような顔で言い。
「中学の頃は大丈夫だったのに、どうして今になって」
すると功美は、
「結構よくある話よ。それに、もう慣れてるでしょ、何度も使ってるんだから」
「普段とは違って、学校生活はさすがにキツイよ」
と言う恵美に、
「まあ、それも慣れるでしょ」
と言って笑う功美
「もしかして楽しんでない?」
「どうかしらね。それじゃ、もう行かなきゃ」
と言って、家から出ていく功美。残された恵美は、
「絶対、楽しんでるよな、母さんは……」
と言ってため息をつくのだった。
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