16「犯人の末路」
そして間もなくして、結界が消え、
「とりあえず帰るか」
と修一達は、家に帰ることにした。
そして、ナタリアと別れて秋人と二人きりになった時
「修一君、あの超人、どう思う?」
と秋人は聞いてきたので、適当に誤魔化すこともできたが、
話しておいていい様な気がした。既に規格外の事は、知られているから、
気兼ねがないというところがある。
それでも、まだ隠しておきたいことはあるが。
「なあ、これから時間あるか?その事で、
ここじゃ話しにくい事があるんだ。だから俺の家で……」
「時間はあるけど……」
と怪訝そうな表情の秋人。その後、そして修一の家に移動し、居間にて、
サキュバスがジェミニであった事、
さっきの超人が修一のジェミニだった事なども話した。
「えっ、修一君ってジェミニも使えたの?!」
「さっき使えるようになったんだ」
修一は、以前に魔法少女たちに話した。力に触れるだけで、
自分のものにできる事を話す。超能力だけで、なく超技能も含まれることも
「超能力なら、『コレクト』で納得できるけど、超技能もとなると……」
秋人は頭を抱えて、混乱しているようだったが、
「修一君の事は置いておくとして、あのサキュバスはジェミニだって言うんだね」
「ああ、俺の分析眼ではそう出たが……」
「だとしたら、あの強さはセカンドクラスだね」
ジェミニの場合はセカンドクラスになると、
能力名は変わらないが、ジェミニの姿は変わり、
しかもかなり強力なものになると言う。
「それに、誰のジェミニなんだろ?」
「東雲じゃないか、彼女の能力もジェミニなんだろ」
「だったら、おかしいよ。セカンドクラスなら、噂になるはずだし」
「本人が隠していたとか、俺たちみたいに……」
しかし、秋人は、
「僕みたいな、魔王や……」
と言いかけたところで
「勇者だよ、お前は」
と割り込むように言う修一。秋人は、
「そう言ってもらえるのは、悪くはないけど」
と言いつつも、
「とにかく僕の魔王や、君の規格外とは違って、
変な目で見られることはないし、
むしろ、この街じゃ有利に働くはずだから、隠す事じゃないと思うよ」
と言われて、
「そう言うものなのかな?」
いまいち実感が持てない修一。
ここで秋人は、
「そう言えば、さっきの除霊弾って一体」
「それなんだかな……」
亮一から聞いた話を話しつつ、
「まあ、相手がジェミニと分かった以上、
撃つ意味はなかったんだが、撃たないといけないって、気持ちになってたから」
「それって、麗香さんを死なせたくなかったから」
「ああ、彼女には、良い感情は抱いてないけど、死なせたら寝覚めは悪いからな。
まあたとえ助かったとしても、まともな人生は遅れないだろうからな」
修一は、秋人に亮一から聞いた。魔物化した奴が、助かった後の末路も話していた。
ここでふと修一が、
「なあ、あのジェミニは東雲が魔物化した所為という事はないか」
そう能力者の魔物化に伴いジェミニが強化されたのではと思ったのだ。
「でも本体を倒したわけじゃないから、まだ終わってないって事になるか」
すると秋人は、ハッとなったように、
「そう言えば、ジェミニは偶に、能力者の変化を肩代わりする事がある」
「どういうことだ?」
秋人の話によると、ジェミニは、能力者の変化。
例えば、能力者が、トレーニングをして、
本人は筋肉が付かないが、ジェミニが代わりに筋肉が付いたり、
他にも、どんなに不摂生しても太らないと思ったら、
ジェミニがブクブクに太ったりと、能力者自身の変化を、
ジェミニが肩代わりするという。
「つまり、本人が魔物化せずにジェミニが魔物化したって事か」
修一はあくまでも、本人が変化して、
その煽りでジェミニが変化したと思っていた。
「そう言えば……」
サキュバスが消える瞬間、一瞬女性のような姿が見えたのを
思い出す。
「それじゃ、あの女性が、東雲の本来のジェミニ……」
秋人も女性の姿を覚えていて、
「僕もそう思うよ。修一君が除霊弾を使ったから、元に戻ったんじゃないかな」
そう考えると、修一がやったことは無駄じゃないし、事は終わったことになる。
ただ実際に、麗香が魔物化したかどうかは不明だし。
WTWの事故も、淫獄の書の影響は分からない。
あのピンク色の光も関りがあるのか謎のままだった。
ただ、サキュバスはナタリアを狙っていたように思えたので、
これまでの一件と、関係ないとは二人とも思えなかった。
いろいろと話をした後、秋人は、帰って行った。
修一は、釈然としないものの、すべてが終わったような気がした。
翌日、東雲麗香は、まだ休んでいた。
修一達は気になったものの、その日は何事もなかった。
そして、ある日の休日の事。家にいた修一は携帯電話で、蒼穹から連絡を受けた。
着信を見た時に、
(何事だ)
普段、連絡してくることはないから、そんな事を思いつつ、
電話に出ると、騒がしい声をバックに、
「桜井修一!アンタ、東雲って人に何かしなかった!」
因みに、蒼穹や里美には麗香の事を、話していて、
蒼穹はイノの一件の時お茶会で、蘭子の取り巻きとして、
麗香はその場にいて、その為蒼穹は、修一から話を聞いて、
誰であるかは分かっていた。
しかし、蒼穹の言葉に全く身に覚えが無かったので、
「何もしてないぞ!つーか東雲に何があった!」
蒼穹の話によると、いつものフィールドワークで街に出ていたら、
人通りが多い場所で、麗香が現れて、とんでもない事をしたという。
それは、淫獄の書の『真実』の魔法を使ったように。
「私が、どうにか取り押さえて、今、警察に引き渡したところなの」
修一は声から彼女が、顔を真っ赤にしている姿が思い浮かぶ。
「どうして、俺が何かしたと?」
「だって、あんた、魔導書を回収したんでしょ、何かしたんじゃないかって……」
「何かって、魔導書はWTWに引き渡したぞ」
加えて異性愛者の修一は、異性には淫獄の書は使えない。
「つーか、何で俺が……」
尋ねると、蒼穹は
「消去法よ」
蒼穹によれば、秋人はそう言う事はしないだろうし、
ナタリアも、そう言う感じじゃない。
「つまり、俺はそういう事をしかねないと」
少し不機嫌な口調で尋ね返すと、
「そうじゃないわ。あくまで消去法よ。ただ……」
少しの間の後
「アンタは、謎が多い。従姉の事も含めてね」
「だから、何かしかねないと……」
ここ修一は、ため息をして、
「ところで取り押さえたなら、背中の魔法陣は確認したのか?」
「いいや、ちゃんとは見てない、取り押さえるのに、必死だったから……」
更に修一は追い打ちをかけるように、
「淫獄の書は、俺の場合は同性にしか使えないってこと忘れてないか?」
すると電話の向こうで
「あっ」
と素っ頓狂な声を上げたかと思うと、
「ごめん……」
と気まずそうで、申し訳なさげにそう言って、蒼穹は電話を切った。
修一は自分が疑われたことは特に気にしなかったが、
麗香の行動が、気になった。
「同じだな……」
と修一は呟き、秋人にも連絡を入れた。
翌日、学校に登校すると、麗香の所業がクラス中に知られていて、
話題になっていたが、特に蘭子の取り巻き連中は、蘭子の顔に泥を塗ったと、
ご立腹であったが、
「急にこんな事をするのは、何かあっての事、
東雲さんも被害者なのかもしれません。ここは冷静に、成り行きを見守りましょう」
と当の蘭子は取り巻き連中をなだめていた。この事で、蘭子の株が上がる事となる。
この状況を見ていて、浮かない顔の修一。秋人は
「修一君、浮かない顔をしているね。どうしたの?」
「ここじゃ、ちょっとな」
二人は空き教室に移動する。
「お前にも話したよな。淫獄の書で魔物化した人間が元に戻った後の末路を……」
「まるで淫獄の書の魔法にやられたような行動を取るんだよね」
今、麗香が行っている行動は、正にそれであった。
過去に、亮一が関わった一件でも、
除霊弾で元に戻った人間は、同じことをしたのだ。
「やっぱり、麗香さんは魔物化してたんだね。
実際に変化してたのはジェミニなんだけど」
すると修一は、
「それなんだよ。お前、ジェミニを破壊しても、本人への影響は殆どないんだよな」
つまり除霊弾を使わなくてもよかった。そしてもし除霊弾を使わなかったら、
麗香がこんな事にならなかったんじゃないか、と言う思いを抱いたのである。
すると秋人は、
「本人が、おかしくなるのは除霊弾の所為じゃなくて、
僕が思うに元に戻った所為だと思うよ」
事実、除霊弾を人間に当てたとしても、
プラスチック弾を当てたくらいの負傷をするだけで、
おかしくなってしまう事はない。
「弾を使わずにサキュバスを倒したとしても、ジェミニなんだから、
また復活するはずだよ」
ジェミニは破壊しても、本人が無事なら時間が経てば、
出現する。
「多分、除霊弾を使わない限り、同じことの繰り返しだから、
結局は、こうなるはずだから気にしない方がいいと思うよ」
更に、
「そもそも、彼女は人の人生を狂わせようとしたんだ。
今、自分の人生が狂っても、それは自業自得だよ」
秋人から、そう言われると少し心が軽くなる修一だった。
その後、麗香は、学校を休学した。過去のケースでは、
治るのに数年かかったとの事で、このまま、退学すると思われる。
そして、ナタリアとマチルダの背中の魔法陣も消えて、
二人は、完全に心配が要らなくなった。
その後、電話で秋人から、
「この前、捕まった人。魔導書の影響が認められて、
不起訴になったそうだよ。
それでも、これまで通りの生活はできないだろうけど」
「まあ、迷惑な人みたいだったから、同情は出来ないな」
「同じような人が、3人ほどいるみたい。僕らが知らない犠牲者がいたみたいだね」
その三人も、罪には問われないが、人々の奇異の目に晒され、
これまで通りの生活はできないと思われる。
そう思うと、麗香の自業自得さが大きくなっていって、
より心が楽になるのであった。
そして秋人は、
「まあ、魔導書に関わると、碌な事はないよ。
そう言えば、修一君は好奇心が病的なんだよね」
「ああ……」
「だったら、気をつけてね。好奇心で魔導書に手をつけちゃだめだよ」
「分かった……」
そう答えるが、実際の所、好奇心に勝てるかは分からない。
ともかく淫獄の書をめぐる出来事は、これで終わった。
だが変身能力者に係わることは、まだ終わらない。
翌朝、妙な夢を見ていた気がするが、うまく思い出せないまま、目を覚ます。
「良く寝た……」
寝覚めは悪くないが、自分の異変に気づいていない。
寝室を出てリビングに来ると、功美がいて、朝食が準備されていた。
「あらおはよう、恵美ちゃん」
「えっ、何を言って……」
「鏡見てくれば」
その後、洗面所から、
「えぇ!」
という素っ頓狂な声が響いた。
そして恵美が呆然とした様子で、リビングに戻ってくると、
「どうやら、例の時期が来たようね」
そう言うと功美は一旦その場を離れ、
「いよいよ、これの出番ね」
彼女は、不津校の女子の制服をもって戻ってきた。
「デザインが変わってなかったら、私のお古を持ってくるんだけど」
と言って彼女は笑っていた。
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