12「魔導書の処分」

 修一達は、書庫の奥の方を探していた。奥にある本は、小難しい専門書で、

一部の生徒が、論文大会に出る際に資料として使うものであるが、

普段生徒が読むことは無い本ばかりである。


「ホンマにここにあるんか」


と不満そうに言うナタリアに、


「ここは、サーチの利きが悪いから、地道にやっていかないといけないし」


と言う秋人。そう蔵書の数はかなりの物。

確かに、ここに隠されると見つけるのは容易じゃない。


 ここで、ナタリアは確認のために


「淫獄の書って黒くて、表紙にハートの絵が描いとるんやっけ?」

「そうだよ」


と返事をするが、


「ここの本、そろいもそろって、黒い本ばっかやな」


あと大きさも普通の単行本くらいの大きさだから、目視で探すのは難しい。


 なお二人は本を、一冊から数冊ずつ確認しているが、

修一は、本を棚から、いっぺんに下ろした後、

棚を確認して、その後、本を確認しながら元の場所に戻している。


「修一君は、棚を確認しているの?」


と尋ねると、


「必ずしも、棚に並べてるとは限らない。棚の奥という事もある」


書庫の棚は奥が深いので、本の裏側に物を隠したとしても、

気づかない可能性は十分ある。


「俺が、小学生の頃、棚の裏に変なものを隠していた奴がいたからな」


修一の話を聞いて、


「そう言うのもあるね」


と言う秋人に、


「そういや、先輩から、そんな話を聞いたな」


と言うナタリア。ここから二人も本棚の奥も調べ始めた。


 しかし、棚も多いという事もあり、なかなか見つからなかった。


「それにしても、個々の蔵書も結構多いな」


と修一が呟くと、横で棚を確認していた秋人は


「噂だと、大十字久美が、寄贈したって話だよ」

「また大十字久美か……ってなんで?」

「聞いた話だと、彼女は、ここの卒業生だからとか」

「へぇ~」

「あくまで噂だけどね」


と言う秋人。


 その後は黙々と、本棚の確認をして言ったが、

蔵書の量ゆえに、時間はどんどん過ぎ去っていった。


「そろそろ、部活が終わる時間やな。早くせんと、

東雲が本を取りに来るかもしれんで」


取りに来なくとも、無事か確認に来る可能性もある。

すると修一は、


「その時は身を隠して、彼女がどこから取り出すかを、確認すればいい事だ」


ただ、確認を終えた棚は、綺麗に本を並べているが、

全く同じにできていないので、棚に並ぶ本の変化に気づいて、

本を持ち出して別の場所に隠すことは、有り得た。


 その後、時間を確認した。ナタリアは、


「もう部活が終わった時間や、そろそろ来るかもしれん」

「そうだね、片付けて身を隠そう」


と言う秋人。ちょうど二人は棚から本を下ろして、確認している途中だった。


「………」


修一は黙ったまま、動きを止めていた。


「ねぇ修一君も早く本を片付けて……」


何だか修一の様子がおかしい。すると彼は、秋人に、


「この本、見てくれよ」


彼の手には黒く表紙に、ハートが描かれている本を手にしていた。

表紙には、なにかは判らない文字かがれている。


「これ、淫獄の書だよ」


するとナタリアは、


「ほんまか!」


と大声を出したので、


「ちょっと静かに」


と秋人が言い、ナタリアは口を抑え、


「そうやった」


と気まずそうに言う。


 修一の思ったとおり、棚の奥に、隠すように置いていた。

しかも、その棚にあるのは、ファンタテーラ関係の、

小難しい本が並んでいる棚だった。淫獄の書がファンタテーラ由来であることは、

知らなくても、容易に想像がつくことであるから、

一種の目印もかねてここに隠していたと思われる。


 この後、これを持ち出すことにして、

とりあえず棚の片づけをする。するとこのタイミングで、


「まずい、麗香さんが来たよ」


片付けつつの、誰か来ないか見張っていた秋人が、

小さい声で言った。三人は急いで棚を片付け、見つかって、

騒ぎになったら不味いので、彼女に気づかれないように魔導書を持って、

三人がコソコソと書庫を後にして、図書室からも出ていった。


 図書室から出た三人は、学校を出て、秋人がWTWに連絡をした。


「ルイズさんが取りに来てくれるって」


その後、待ち合わせ場所の近場の公園に向かい、

少しした後、アキラの時に会った職員のルイズ・サーファーがやって来て、

秋人が、彼女に魔導書を手渡し、事情を聞かれた時は、拾ったと話した。

その際に修一たちの方を見て、


「貴方は、秋人君の知り合いよね」


ナタリアの方を見て、


「そちらの貴女は」

「アタシは、同級生の風紀委員ナタリアや

そいつらがおかしな本を持っとったから、

何かいかがわしい本をもっとるんかと思ってな」


それで、監視していたと言った。

もちろん出まかせであるが、持っている魔導書は

いかがわしい本であることには間違いない。


 その後、ルイズは淫獄の書を手に、パラパラとページをめくって、


「確かに淫獄の書だけど……」


そして本を閉じ、考え込むような仕草をしたかと思うと、


「まあいいわ、ご協力ありがとう」


そう言うと、本を手にして、車に乗って去って行った。


 ルイズの車が去って行くのを見ながら、


「これで一安心だよな?」

「大丈夫だと思うよ」

「ほんまかなぁ」


まだ不安気なナタリア。それは修一も同じで、


(本当に解決したのだろう)


不安が拭い去れなかった。


 そして、秋人はナタリアに


「背中の魔法陣が消えるまでは、お札を捨てない方がいいよ

麗香さんの手を離れても、魔法の効果は、しばらく残るからね」


因みにマチルダはこの事を知っている。


「アンタらのお陰で助かったわ。ありがとうな」


改めて礼を言う。

その後、修一は、マチルダや蒼穹達にも魔導書を引き渡したことを連絡した。

もちろん、マチルダからも礼を言われている。


 連絡を終えた後、


「それじゃあ、僕は、家に帰るね」


と言って、秋人は帰って行き、


「ほんならアタシも帰るわ」


ナタリアも帰っていった。一人残った修一も、


「さて俺も帰るか」


と呟き、不安は残るものの、家に帰って行った。


 家に帰ると、


「おかえり」


功美の姿があった。


「あれから、どうなったの?」


修一は、これまでの事を話した。


「WTWに、引き渡したなら、後は処分を待つだけど……」


真剣な表情になる


「なんかあるの?母さん」

「いえね、これまでにない事だから」

「どういう事?」


功美は、


「私も少し調べたんだけど……」


と前置きをしつつも、


「過去の、『淫獄の書』の顛末だけど、発見されて、即処分。

また人を貶めるために、数回使用されたものの。

直ぐに使用者が捕まり処分、そして最も多いのが

使用者の魔物化の後の処分よ」


過去に、マチルダが被害あった時も、三番目に該当する。


「数回使用した程度なら、兆候すら出てないと思うわ」

「何が言いたいんだ、母さん?」

「これまでは、何かが起きる前か、手遅れになったかの、どちらかしか無いのよ」


つまりは魔物化の前兆が起きてから、魔導書が処分されたって事はないのだ。


「もし、このまま魔導書が処分されたとしても、何も起きない保証はないわ」


功美の言葉は、嫌な予感を感じさせるものだった。


 翌朝、功美は、早朝に出かけたらしく、

修一が朝起きて、リビングに来るとテーブルに、

朝食と出かけたことを告げる手紙があった。


 その手紙を見た後、修一はテレビをつけた。

すると、朝のニュースをやっていたのだが、内容は、


「昨夜未明、WTW本部で爆発事故あり、職員2名が軽傷を負いました。

危険物処理中の不慮の事故で、原因は調査中とのことです。

また爆発の際に、ピンクの光が飛びだした言う目撃情報もあり、現在関連を……」


と言うものだった。


(まさか……)


 修一は不安になった。その危険物と言うのが淫獄の書だとすれば、

処分の際に、何か異変が起きたと思われる。

不安な気持ちを抱えながらも、修一は、登校の準備をして、

家を出て、学校に行く。そして深刻そうな表情で、秋人がやって来た。


「なあ、ニュース見たか?」

「見たよ。あれが、もし魔導書によるものなら、

何かよからぬ事が起きてる気がする」


秋人も修一と同じことを考えてるようだった。


 そしてこの日、麗香は学校を休んでいた。

体調不良との事だが、この事が余計に、二人の不安を掻き立てるのだった。

しかし、当人であるナタリアやマチルダは、

爆発事故と魔導書を結び付けておらず、特に気にしてないようだった。

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