11「魔導書を隠すには」

 再び空き地に戻る修一。見失ったことを詫びると、


「まあ、人ごみに入られたんじゃ、しゃあないな」


と言うナタリア、秋人も、


「気にしなくていいよ。麗香さんが犯人だって確定したんだから、

後は、どうとでもなるさ」


とフォローしてくれるが、その後、修一の家に集まり、

蒼穹たちにも、話をすると里美が、


「何で、連絡を入れ忘れるんですか」


嫌みったらしい口調で言う。


 確かに、連絡をし忘れたという、負い目もある。

これは修一だけでなく、他の二人も同じだ。加えて、


「私がいれば、見失う事は無かったでしょうに」


確かに、里美の力を使えば、

あの状況から追跡が可能だったという事もある。


 なお、その後、麗香が帰って来たのは確認したものの、

時間的に、魔導書から魔力が発生しているはずなのに、

秋人は、何も感じなかったので、恐らく魔導書をどこかに隠してきたと思われる。


 さて、蒼穹はと言うと


「でも犯人が確定したわけだから、監視していれば、

魔導書の場所も、分かるんじゃないかな」


とフォローと今後への、方針を示唆するように言った。

すると里美は


「桜井修一の肩を持つんですか?」


と言われ、蒼穹は気まずそうな顔をしたかと思うと、


「そうじゃ、無いけどさ、これ以上責めたって、どうしようもないでしょうが」


と返した。すると里美は、


「まあ確かにそうですね」


と言った後、


「まあ、犯人が分かっただけでも、良しとしましょうか」


と嫌みったらしい口調で言った。


 さて、修一はと言うと、実は、隠し場所の目星は付いていた。

しかし、里美の態度に、自分に負い目はあるものの、

イラっとしていたので、その場では言わなかった。


 そして翌日、麗香は顔色どころか、見るからに窶れていた。

これは魔物化が、次の段階に入った事を意味していた。

魔法の重ね掛けを行って、それがお札で跳ね返った結果、

状況が進行したようだった。


 昼休みに、空き教室に集まる修一達、

マチルダは授業の準備の為、ここにはいない。

昨日、ここで修一は、あの場で言わなかった目星について話をした。


「魔導書は学校に隠している可能性がある」


彼の言葉に、


「何でそう思うの?」

「なんで学校なん?」


と言う秋人とナタリア、そんな二人に修一は、


「東雲は、学生服で出かけていた。お前らも帰って来た時の姿は見てただろ」

「確かに学生服姿だったけど」

「うちの学校は、普段から、着てなきゃいけないって、校則じゃないだろ。

いったん家に帰ったなら普段着に着替えるはずだ」


ここでナタリアが


「急ぎやったんちゃうん?」


と言うが、修一は


「着替える時間はあったと思うぞ」


確かに、彼女が魔法の儀式を行うまで、数十分ほどの時間があった。


 すると秋人が、ハッとなったように、


「確かに、彼女は着替えてるはずだ」

「秋人君まで、どうしてそう思うん?」


すると秋人は、顔を赤くして、言いづらそうに


「魔法の力を高めるためには、儀式の際に、

特殊な格好をしなきゃいけないって言うか……」


ナタリアは、察した様に、顔を赤くして、


「それ以上は言わんでええ」


と言った後、


「つまり、特殊な格好をした後、

わざわざ、学生服で着替えたちゅう事は、

学生服で行かなきゃいけない場所やったわけやな」


そして修一は、


「学校の校則だと、学内に入るには、

学園祭などのイベントを除くと基本的に、学生服じゃないといけないだろ

例え、忘れ物を取りに来る場合でも」

「確かにそうや……」


風紀委員は、風紀を取り締まる関係上、校則を知り尽くしているから、

彼女もこの事を知っている。

あと、麗香が出かけた時間は、まだ学校が開いている時間帯だから、

怪しまれることもなく、学校に入る事も出来る。


 しかし、場所に目星をつけたところで、


「でもどうするの学校は広いよ」


不津校は、中規模であるが、それでも広い学校である。

例え、教師であるマチルダの力を借りたとしても、探すのは容易ではない。


 そして秋人は、


「それに、机の中とか、ロッカーの中とかだったらどうする。

勝手に探しているのを他の人に見られたら、大変だよ」


と言うが、ここで、ナタリアはニヤリと笑って、


「だったら、アタシにお任せや」


この一言に、嫌な予感がする修一と秋人、


「何を、するんだ?」


と修一が聞くと、


「アンタらのクラスじゃ、まだやってへん事や」


と言って不敵な笑みを見せた。


 彼女の言葉の意味が分かるのは翌日の事だった。

翌日のホームルームで、彼女を含めた風紀委員が、修一のクラスにやって来て、


「抜き打ちの持ち物検査するで!」

「えええええええええええええええええ!?」


と生徒の声が上がる。


(そういう事か……)


修一も、話で聞いたことがあった。風紀委員が抜き打ちで行う持ち物検査。

持ち物とは言うが鞄の中だけではなく、机の中、更にはロッカーの中まで確認され、

校則違反の持ち物があれば、容赦なく没収される。


 修一の学校は、私物の持ち込みについては寛容で、よっぽどの物でない限り、

没収はされないが、中身の精査は行われ、その際に、私物が外に出されて、

自分の机に並べられる。更にはスマホのアプリがまで確認され、

さらされる事になるので、結果として、自分趣味がクラスメイトに晒され、

公開処刑のような感じになるので、

生徒たちに恐れられている。


(あんまり、自分の趣味が知られたくないなら、

知られかねない私物を持ってくるなよ)


と修一は思っていた。


 なお持ち物検査は、阿鼻叫喚となり、

泣き出す生徒もいたが、詳しい話は割愛とする。

なお修一は、特に見られて困る私物は持ってきていないので、

涼しげな顔で、持ち物検査を受けていた。

なお検査は、ナタリアは行っていた。検査の際に小声で、


「手心は加えんで」


と言った。先に記したとおり、見られて困るものはない。

 


 ただナタリアは、


「何や、このキーホルダー」


彼の持ち物に一つであるキーホルダーに食いついた。


「見たまんま、車のスマートキーだけど」


彼の言う通り見るからに車のスマートキーだった。


「なんで、こんなもん持っとんねん」

「呪いのアイテム」


修一の言葉を聞いて、


「はぁ?」


と訳が分からないという顔をしている。


「これは、どんなに離れた場所に置いてきても、

勝手に俺のポケットに入ってるんだ」

「はあ?そんなアホな……」

「試してみると良い。これを持って、出来るだけ離れた場所に行くんだ。

そうしたら、手元から消えていて、

俺のポケットに入ってるって感じだな」


すると横から秋人、


「それって、まるでカオスセイバーのリモコンだ」


ナタリアは


「つーか、どこで、手に入れたんや」

「母さんからもらった。誕生日プレゼントに」


と修一が答えると、しばらくスマートキーをじっと見つめた後


「……まあ、ええわ。校則違反でもないしな」


修一の持ち物検査は終わった。


 その後、クラスメイトの多くにトラウマを与えつつも、

持ち物検査がおわり、昼休みに空き教室に集まる三人。

マチルダは、以前と同じで授業の準備のため居ない。


 そして修一は


「今日の持ちもの検査って、検査にかこつけて、魔導書探しをしたのか?」


ナタリアは


「そうや、アンタらのクラスはまだやったからな。申請は簡単に通ったで」


すると秋人は


「これって職権乱用だよ。その上、魔導書は見つからないし……」


秋人の言葉にバツの悪そうな顔をするナタリア。

麗香の持ち物からは、ロッカーも確認したが魔導書は見つからなかった。

あと彼女は人に見られて困る様なものは持っていなくて、

修一と同じく平穏無事に検査をパスしたのである。


「結局、大勢の生徒にトラウマを植え付けただけだったな」


との修一の一言は、追い打ちになったみたいで、

益々、気まずそうにするナタリア。


 そして修一は、


「ロッカーとか机の中が違うとなると、あと思いつくのは、あそこしかないな」

「どこや?」


と聞くナタリアに


「木の葉を隠すなら、森の中さ」

「?」


そして放課後、三人は図書室にいた。本を隠すなら本の中と言う事だろう。


 ナタリアからは、


「安直やな」


と言われたし、秋人からも、


「隠す場所としてはうってつけだけど、

他の人が持っていく可能性だってあるんじゃないかな」


とも言われたが、


「彼女は、図書委員だし、当番以外の日も出入りしている。

図書室の事を知り尽くしていてもおかしくない。

例えば、生徒がほとんど手を付けない本棚とか……」


不津校の図書室も光弓校ほどではないものの、

結構な規模があり、本も多い。

しかし、中には生徒たちにほとんど読まれない本もあって、

そういう本が集まっている場所があると考えられた。

実際、修一の通っていた小学校、中学校には、

そういう本が集まる本棚が部屋の奥にひっそりと置いてあった。


 話を聞いた秋人もナタリアも半信半疑であったが、

他に当てはないので、図書室を探すことにした。

因みに昼休みにも、三人は図書室に来ていたが、

その時は、麗香の姿を見かけたので、引き返した。

なお、今は彼女の姿はない。今日は彼女は部活である。


 図書室の奥を探す修一たち、半信半疑の二人に対し、

修一は、言い出しっぺであるから、確信めいたものをもって

探している。もちろん確証なんてものはない。

正直賭けなのだが、

それでも自分でも分からない妙な自信があるのだった。

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