9「騒動の後で」

 裏玄関から家に入ると、修一は、蒼穹に電話をした。


「事は解決した。二人は家に戻ってる」

「解決って、アンタが?」

「いや、恵美が」

「やっぱり……」

「やっぱりって……」

「見たのよ。赤い怪人を」


二人を探して、繁華街に来た時、バイクに乗って走る赤い怪人を見たと言う。


「まったく、前のおいのちゃんの一件と言い、

アンタって、困ったときは従姉頼みなのね」


と責めるように言う。


「他力本願なのは否定しねえよ」


と開き直るように修一は答えた。


「とにかく、二人は家に戻ってるから」

「わかった。戻ったら連絡するから、二階に来てくれる?」

「ああ……」


そして電話を切る。


 その後、修一は


「従姉頼みか……それも悪くない……」


とどこか自虐的に呟くのだった。


 その後、蒼穹たちも戻ってきた後、連絡を受けて修一は二階に行った。


(そう言えば、二階に行くのは初めてだな)


二階は里美のお陰で、綺麗で作りは一階と変わらなかった。

ただ、居間の掃き出し窓の向こうがベランダになっている。

そして、二階の居間には蒼穹、里見、マチルダにナタリアがいるが、


「あれ、秋人は?」

「妹さんが事故にあって、病院に行ったの」

「真奈さんが……」


そして蒼穹は、ここまでの経緯を話しつつ、

更には、二人から家に戻って来るまでの経緯も聞いたことも話した。


 話を聞いた修一は、蒼穹と里美が、

マチルダたちを押えられなかったことについては、


「聞いた通りだな……」


思わずつぶやいた。


「聞いたって誰から?」


と蒼穹が聞くと、修一はビクッとなるが、


「母さんから……」


里美は、


「そう言えば、桜井さんに会いに行かれたのでしたわね。

どちらに行かれました?」


と聞かれて、どうこたえるか悩んだ。

この街に来て、まだそんなになっていないから、

適当な地名が思い浮かばず、


「九龍に……」


と答えてしまうが、マチルダは、


「先生、また九龍に行ってるのね」


どうやら功美は、よく九龍に行っている見たいで妙な疑いは持たれなかった。

まあ、会った人間こそ違えど、九龍に行ったことは事実なわけである。


 そして修一の方も、功美からと誤魔化しつつも、

二種類のお札を貰ったことと、お札の詳細と、

魔法の効果が出ると、セカンドクラスが数人でも抑えられないことを話した。


「だから、私たちでも抑えられなかったのね」


と蒼穹は納得してるように答えた。


 更に、修一は、


「天海から、連絡を受けて、俺じゃあ無理だと思い。

恵美に連絡を取って、札を託したんだ」


すると、ナタリアは


「あの赤い怪人は、恵美って言うんか、何もんや?」


と聞かれ、


「俺の従姉だよ」


すると、マチルダは笑みを浮かべると


「やっぱり、従姉さんか……」


すると修一は、目を見開き驚いたように


「先生は、従姉の事、知ってるんですか?」

「私だけじゃないわ。教員は、全員知ってるわよ」

「えっ!」


驚愕の声を上げる修一。


「従姉さん、一時的かもだけど、うちの学校に通う可能性があるらしいから、

その為に、情報を知っておく必要が有るからね」


ここで、里美は


「あの従姉さん、不津高に通うんですか?」

「まあ、一時的で……いつ転校してくるかは分からないんだけど」


一方、何とも言えない表情になる修一。ここで、蒼穹が


「どうしたの、かなり驚いてるみたいだけど」

「いや、ちょっと初耳なものだから……」


すると修一は、妙にソワソワし、妙に落ち着かない様子になった。


 修一の様子に、蒼穹は疑いの眼差しを見せるが、思い立ったように


「恵美さんの連絡先ってわかりますか?」


と聞いた。するとマチルダは、


「それは、個人情報だから言えないわ」


確かに、蒼穹は部外者であるから当然の事と言えるが、


「どうしても、話がしたいんです。桜井修一は、頑として教えてくれないし……」


するとマチルダは、苦笑いしながら、


「まあ、桜井君にも、いろいろあるのよ」


となだめるように言う。


 ここで、マチルダは、


「取り合えず、恵美さんに『ありがとう』って伝えといて、

私たちを拘束した魔法少女たちも、恵美さんが手配してくれたんでしょうし」


魔法少女と恵美とのやり取りを見ていれば、そう思ってもおかしくない。

里美は、驚いたように、


「恵美さんは、魔法少女とお知り合いなのですか、だからあの時、助けに来た……」


ここで、修一が、


「知り合いになったのは、あの後だ」


一方、蒼穹は、黙ったまま、修一の方を見ている。

恐らく、修一を通して知ったのだと思っている。

修一いわく、彼は恵美には隠し事が出来ないとの事だから。


 こんな話をしていたところ、修一の携帯電話が鳴った。相手は、秋人だった。


「修一君、今大丈夫かな?」

「大丈夫だけど、そっちこそ、真奈さんは大丈夫?」

「どうして……あっ蒼穹さんから、聞いたんだね。

怪我は、大したことないんだけど、修一君への連絡が遅れちゃって……」

「いいんだよ。家族の方が優先だからな。こっちの方は、

お札も渡せたし、万事うまくいったから、

今日の所は、もう戻ってこなくてもいい。真奈さんに付いていてくれれば……」

「ありがとう、修一君」


もう事は終わったから、マチルダたちが逃げだして、

ひと騒動となった事は話さなかった。


 とにかくお札を得た事で、今日の所は、解散となった。

一階に戻った修一は、


(しかし、恵美の事を先生たちが、全員知ってるとはな……)


修一は、まだ動揺しているようだった。


(まさか、あれが起きた時の対応なのか、

中学までとは違って、出席日数があるから……)


そんな事を考えていた。


 お札によって二人の安全は確保したが、相手が魔物化したら、

狙われる羽目になるので、根本的な解決の為にも、

翌日から、修一たちは麗香を含めた犯人と目される三人の監視を行う事になった。

亮一から聞いた兆候は、まず第一段階は、顔色が悪くなる。


「悪魔とかと契約した時みたいな感じだね。

まあ、こういう時は顔色の割には、本人は元気なんだけどね」


と秋人は行った。三人のうち顔色が悪い奴はと言うと、

休み明け、三人が揃いに揃って、顔色が悪かった。


「とりあえず理由聞いてみようか」


修一は、最初に話を聞きに行くまでは、

麗香以外とは、面識はなかったが、

秋人とは、面識があるので、麗香を含めてさり気ない感じで、

話を聞くことができた。


 しかし結果は、全員揃って、


「何でもない」


との回答だった。ただ麗香以外の二人は、何かを隠しているような感じだったが、

麗香は、本気で何のことが分かっていない様子だった。

取り敢えず、話を聞き終えた後、屋上にて、


「もし、あの二人のどちらかなら、淫獄の書の魔物化の事を、

知っていて、自覚があると言う事になる。麗香さんの場合は、

魔物化の事を知らないか、知っていても自覚がない」


実際、魔物化の前兆は、実際に出くわした亮一は、

知っていたが、秋人も知らないことであったから、

麗香が知らなくても、おかしくはない。


「まだ、絞り込むことはできないか……」


と修一は言うが、彼としては、麗香に疑いを持っていた。

理由は、自覚がないと言う点と、

魔物化の前兆は、淫獄の書を知っていた秋人さえも知らない

それこそ、知る人ぞ知る話。

残りの二人が知ってるのが、おかしいと思えるほどの事なのである。

だから、残りの二人は別の事で顔色が悪いと思っていた。


 なお、蒼穹たちは学外の方を調べていたが、

疑いのある人間は、何人か見つけたが、

その中で顔色の悪い人間は、二人ほど、

どちらも年配であったが、偏屈でマナーのなっていない人間で、

ナタリアが注意するのも、よくわかる人間であった。

ただしどちらも二日酔いとの事で、顔色の悪さに理由があった。


 放課後、桜井家一階の居間にて就業中のマチルダを除いて、

皆で集まり、情報の交換をした。ここで里美は、


「校外の人ではなく、校内のほうが怪しい気がしますね」


疑いのある人間の中で、顔色の事がはっきりしていないのは、

校内の三人だけなのだから。

そして、二日ほどたって、他の二人の顔色は治った。

彼女たちが抱えている秘密は分からずしまいであるが、

それは、この件には、関係ない事。


 ただ麗香の顔色だけは、そのままだったから、

修一だけでなく、他の面々も、麗香に疑惑を向けるようになった。

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