8「急変」
その後、修一は再び電車に乗って、九龍を出て少しした所で、
携帯電話の振動を感じた。電車に乗っているので、
当然、マナーモードである。携帯をポケットから出すと、蒼穹からの着信だった。
(嫌な予感……)
最寄りではないいが、ちょうど駅に停まったので、
一旦電車から、降りて電話に出た。すると蒼穹が、切羽詰まった声で
「緊急事態よ!あの二人に逃げられたの!」
「えぇ!なんで!」
「ゆっくり話している暇はないわ。私たちも探してるから、アンタも探して!」
そう言って電話が切れた。
「最悪だな……」
更に悪い事に、修一が電話に気を取られている間に、電車が発進してしまった。
「しまった!」
次の電車までは、まだ時間がかかる。
この事態を前に、修一は、どこかに電話をかけた後、
「止むを得んな……」
そう言うと駅を出て、どこかに行ってしまった。
さて修一に連絡を入れた後、蒼穹は、二人を探して、街を駆けていた。
(まったく何でこんな事に……)
事の発端は、秋人が一旦桜井家を離れた事だった。
その時、秋人は蒼穹たちと何かあった時、直ぐに動けるように二階にいた。
因みに、秋人は修一が出かけた事については、
母親の呼ばれて、出て行ったと説明した。
「もしかしたら、お札かもしれないわ」
とマチルダが言う。
「お札?」
「前に先生が作ってくれたの、それをつけると衝動が収まるのよ」
昔使ったものは、無くしていて、この前、来た時にそれを貰おうとしたらしい。
実際は功美ではなく亮一が作ったのだが。
その後、しばらく五人は二階にいたものの、
急に、秋人の電話が鳴った。相手は秋人の母親の樹里で、内容はと言うと、
「妹が、事故にあって病院に……」
マチルダは、
「早く行った方がいいわ」
更に蒼穹も、
「ここは、私たちだけでも大丈夫と思うから」
「ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます!」
そう言うと、秋人は、桜井家を出て行った。
だが事態は、その後、急変したのだった。
マチルダとナタリアは、息を荒くし始め、
「来たみたい」
「早くアタシを、縛って……」
蒼穹と里美は、事前に用意していたロープで拘束した。
なおこのロープは、超能力や魔法でも、引きちぎるのは容易ではない。
魔法は重ねがけをしても、効果が出るのは、長くて一時間、
効果が切れて、再発動までは、最低でも24時間のインターバルを必要とする。
とにかく一時間耐えきればいい。しかし、十分と経たないうちに、
「ちょっと!」
思わず声を上げる蒼穹。二人は、変身していないにもかかわらず、
引きちぎるのが容易でないロープを引きちぎり始めた。
「何て力……」
と驚く里美であったが、
「止めないと!」
と蒼穹が言い、里美ともに止めようとする。
ロープを引きちぎったので、二人とも超能力で腕力を増強したが、
「うわっ!」
「くっ!」
二人は、いとも簡単に振り払われた。
室内なので、強力な力が使えないと言う事もあるが、蒼穹たちは知らないものの、
今のマチルダとナタリアは、蒼穹たちと同じくらいの能力者を、
かなりの人数集めないと止められず、
例え、強力な力を使っても、蒼穹と里美だけでは、無理なのであった。
この後も、蒼穹達は、何度も止めようとしたが、
そのたびに振り払われ、マチルダ達は、服を脱ぎ棄て、変身した。
変身後は、余計に止められなかった。
ただ幸いと言っていいのか、理性はわずかに残っているのか、
壁をぶち破ったりせずに、窓を開けて出て行ったのと、
あと偶然にも、近所を人が通っていなかったので、騒ぎになることもなかった。
「追わないと」
後を追って、蒼穹と里美は飛び出したが、
二人の動き早く、外に出た時点で見失っていた。
蒼穹は、秋人は家族の事があるから連絡は入れず、
修一の方に連絡を入れつつ、二人は繁華街へと向かった。
魔法の特性から、そこに向かう可能性が高かったからである。
蒼穹達の予想通り、変身した二人は、繁華街にいた。
そして、本人たちに、危害を加える気持ちは全くないものの、
魔獣の様なものが二体も現れたから、逃げだす者、逆に退治しようとするもので、
繁華街は、パニックとなっていた。
「桜井君の言う通り、蝙蝠と宇宙生物ね」
「でも、変身能力者……人間なんだよね……」
その様子を人気のない離れた場所で見ているのは、
御神春奈と夢沢麻衣の二人、風伊千代子の姿はない。
彼女は、家の都合で街から出ていて、夕方まで、不在であった。
そして二人は、人がいないのを確認して、
「「マジカルジュエル・メタモルフォーゼ!」」
変身の呪文と共に、二人は変身し、飛翔して
繁華街を駆け回るマチルダたちの元へと向かって行く。
魔法少女の出現によって、一部で歓声のようなものが上がるが、
特に気にせずに、メタルマギアは、
「キャプチャービーム!」
右手からビームと言うより光の帯のような物が放たれ、
マチルダの変身体に巻き付き、拘束する。
フェイブルの方は、左腕の茨を伸ばして、ナタリアの変身体を拘束した。
(警察が来ないうちに、二人を人気のない場所に運ばないと)
二人を拘束したまま、移動を開始する。
二人は、修一から連絡を受けていたが、
この行動は、修一が頼んだことじゃなく、二人と言うか、春奈の提案で、
麻衣も同意している。
修一からは、変身能力者の正体が、
マチルダとナタリアであることは、聞いていなかったが、
二人が、魔法によって本人の意思に背いて、
変態行動を取らされている可哀そうな人たちで、
人に危害は加えないから、手を出さないでほしいと聞かされていた。
騒ぎが起きた場合、春奈たちが出て来るだろう事を予測して、
連絡入れたとの事。確かに、連絡が無ければ、何かしていた可能性はある。
なお、急ぎなので淫獄の書を含めた詳しい話は聞いていない。
修一から話を聞いた春奈は、
「それでも、捨て置けない。悪いけど拘束して、人気無い場所に連れていく」
「だったら、場所を教えてくれ。俺いや、恵美が処置するから」
と言うわけで、このまま人気のない場所に着いたら、
修一に、連絡するつもりだったが、相手の力は思いのほか強く、抵抗され、
ある程度は移動できたが、途中からは止まってしまい。中々移動ができずにいた。
そうこうしていると、パトカーのサイレンの音がしてきた。
(まずいなぁ……)
修一からは、
「罪には問われないだろうけど、人生が狂いかねない」
と警察に引き渡さないように言われていた。
しかし、うまく移動ができない。サイレンは近づいてくる。
どうしようか困ってしまうが、一台のバイクが近づいてきた。
一瞬、明菜ことロストルナかと思ったが、やって来たのは、
(赤い怪人、恵美さん……)
そう赤い怪人が、バイクに乗ってやって来たのだった。
ブレーキターンで、スライドさせながらバイクを停め、
降りると、素早く拘束されている二人に近づく、その両手には、お札。
二人に接近する前に、両者は拘束を引きちぎったが、
逃げる間もなく、お札を張られた。
すると動きを止め、手で体を隠し困っているかのような仕草をする。
ここで、サイレンの音が近づいてくる。赤い怪人は、二人の魔法少女に
「ありがとう……って修一は言うと思う」
「別にいいよ。私が言いだした事なんだから、それより警察が来るよ」
すると赤い怪人は、変身体のマチルダとナタリアを見ながら
「ギリギリ行けそうだな」
そう言うと、左手でナタリアの腕をつかみ、右手でマチルダの腕をつかむ。
次の瞬間、赤い怪人を含めて三人は姿を消した。
「!」
魔法少女たちは、驚いていたが、警察が近づいてきたので、
彼女たちも、その場を離れた。
あと赤い怪人が乗ってきたバイクは地面に沈むように、姿を消した。
少しした後、桜井家の玄関の前に、三人は姿を見せた。
赤い怪人の光学迷彩は、触れているものにも作用させることができる。
ただ限度があるが、二人はいけたようである。
「ここまで来れば、もう大丈夫」
と言った赤い怪人は、どこからともなくカギを取り出し、
ドアを開け、そして、二人に人型の紙を渡す。
「これは!」
変身した姿のまま声を上げるマチルダ、
「使い方は……」
「知ってるわ。血判を押して、肌身離さず持っておくんでしょ」
「そうです」
「でも、どうしてこれを?」
更に、ナタリアも
「助けてくれて、ありがとう。でもアンタ,何もんや?」
「私は、修一の身内、彼に頼まれて、札を届けに来た」
マチルダは
「身内……」
そして赤い怪人は、
「それじゃあ……」
と言って、再び光学迷彩で姿を消した。
そしてナタリアは、
「何やったやろ」
マチルダが、何か思い当たることがあるのか
「信頼できると思うわ」
と言って、その後、二人は、人目を気にしながらも、
玄関から中に入り、変身を解いて、二階に向かい服を着るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます