7「拝み屋」
さて翌々日は、休みという事もあり、修一は、
龍宮と言う男に会う事にしたのだが、その前に秋人に、先に逮捕された女性の背中に魔法陣があった話をすると、
「これは、かなり不味いね。それに明日は休みだから、
もし魔法の重ね掛けをされたら……」
「真実」の魔法は、簡単なものでもいいが祭壇を必要とするし、
呪文や、所定の動きなどの工程を必要とするので、時間をとる必要がある。
魔法使いなら、使ううちに工程を簡略化することが出来るが、
そうでなければ、使うたびにこれらの工程を踏む必要がある。
時間を取れる休みが、要注意なのである。
「最初の内は、重ね掛けの効果は出なかっただろうけど、
今は力が強くなってる今は違うかもしれない」
加えて、二人が何もしないことに疑念を抱いて、
秋人の防御魔法の事には気づかないにしても、
利きが悪いんだ判断して、重ね掛けをするかもしれない。
「こうなると、最悪、先生とナタリアさんを拘束しないと行けないかも」
この事に関しては、蒼穹たちにも連絡を入れ、
拘束とは行かなくとも、休日二人は、蒼穹たちと過ごす事になった。
場所は秋人の家は、難しいので桜井家を使わざるを得なかった。
この事は、拘束の件も含めて、
「まあ、しゃないな。アタシも自分を縛ったんやけど、どうもあかんでな……」
「仕方ないわね。でもうまくいくかどうか、
ああなると自分を押えられないから、前もそうだったし……」
と二人は承諾した。
そして前の日の晩から二人は、桜井家の二階、蒼穹たちの住居に泊まる事になり、
一階には、秋人も泊まり込んで、番をする事になった。
魔法面でのサポートがいると思われるからだ。
夕食は、修一と里美、更にはマチルダが作る形で、準備し皆で食べた。
そして女性陣が二階に向かった後、修一は秋人に龍宮と言う男の話をした。
「じゃあ、本当はその人が、解決したって事?」
「母さんの話が確かならな」
「でもどうして、皆がいる時に、言わなかったんだい?」
「母さんに、二人には、黙っておいた方がいいって言われたんだ。
何でも、龍宮って人は、先生の知り合いなんだけど、良くは思ってないそうだ」
「どういう事?」
と秋人が聞くと、修一は、何処か気まずそうに、
「それが……女たらしだそうだ」
「女たらし!」
「おそらく、綾崎も嫌がるだろうから、母さんの話だと、
その対処法は、お札を使うらしいんだか、本人が嫌がると効果がないんだとさ」
だから以前も功美が助けた体にしているし、
今回も、二人には秘密裏に、会いに行くとの事だが、
全員に内緒だと問題なので、秋人に話したとの事。
更に、他の面々への誤魔化しも頼んだ。
そして秋人は、
「拝み屋か……確かに、魔法や超能力とも異なる不思議な力を使う奴らだけど」
と言いつつも
「自分の息子に危ない人に、紹介することは無いだろうし、
あと洋さんの知り合いみたいだから大丈夫なんだろうけど」
やはり女たらしと言うのが、引っかかっている様子。
「分かったよ。皆の方は僕の方から誤魔化しておく」
とりあえず功美から呼び出された体で話をすることにした。
翌日、修一は、早くに起きてみんなの朝食を作った後、
リュックを背負い、早めに出かけた。駅に着くと、
「九龍行きは……ここだな」
券売機で切符を買う。そして所定のホームに向かうと、既に電車が来ていた。
(路面電車みたいだな)
そこには、一両編成の昔ながらの路面電車と言う感じの車両があった。
そして、朝早いが、結構人がいて、多くは武装していた。
(冒険者か……)
ただ、以前のナアザの街に行った時とは違い、
ファンタジー的な格好ではなく、SF的な格好の人が多かった。
乗客は、多かったが修一が来た時は、満員ではないので、
座席に座ることができ、
「ふぅ……」
と一息つく修一、後から更に冒険者が乗ってきて、電車は満員となった。
しばらくすると、電車が動き出す。
修一は、車窓から、外を見る最初は街中を走っているが、
徐々に、建物は少なくなっていき、殺風景になっていき、
そして電車は、その建物に向かっていく。
修一が車窓から、それを見た時
「本当に九龍城だ……」
かつて香港ににあった九龍城砦と呼ばれる場所。
今は取り壊されたが、そうなる前、
多くのペンシルビルが建つその全盛期の頃に
瓜二つの建物があった。なおこの建物は、ゲートから出現したものだという。
そして、瓜二つであるから、一見多くのビルが建ち並んで、
一つの塊を成しているように見えるが、
あれで一つの建物だという。
その見た目故に「九龍」とよばれ、
一応、市の管理下に置かれつつ、多くの人々が住んでいる。
あとここは、ナアザの街と同じく、異界への入り口がある場所で、
電車に冒険者が多いのも、異界突入の拠点である為。
なお修一が乗っているこの電車は、実はこの九龍城もどきが、
この世界に来た時に、一緒にやって来たものある。
実は建物内は線路が走っていて、そこを走る電車であった。
しかも電車用のエレベーターがあって高層階に移動する。
冒険者たちは、途中で降りて行ったが、
修一はもう少し先で降りるので、引き続き乗っていた。
車窓から見える建物内の風景は、暗い街と言う感じで、
(なんだか、映画に出てくるディストピアの様だな)
そんな事を思いつつも、目的地について、電車を降りた。
(そうでもないか……)
電車を降りると、そう考えを改める。
見た感じは、ディストピアと言う感じがしないでもないが、
待ち行く人々は、普通な感じな人が多くて、
物語に出てくるような、悲惨さや息苦しさのような事は無かった。
さて、電車を降りた後、少し歩いて、
「ここか、大衆食堂『interwine』か」
修一の行きつけであるカフェレストラン「interwine」から、
のれん分けした店で、ここで待ち合わせだった。
実は、いきなり会いに行くのではなく、
母親から電話番号を聞いていたので、事前に連絡を入れていた。
ただ、
「学生には、俺の家は刺激が強すぎるから、外で会おう」
と言う話になって、この大衆食堂で会う事になったのである。
待ち合わせ時間よりも先に着いたので、先方らしき人物はいなくて、
適当な場所に座り、待ち合わせの目印として、
決めていた赤い帽子をリュックから取り出し、被った。
そして食堂には飲み物だけ頼み、それを飲みながら待っていた。
少しすると。食堂に一人の男がやって来た。
ショートヘヤーの髪型で、皮のジャンバーとジーパン姿で、顔はイケメンだが、
どことなくホストっぽく、遊び人と言う感じの男であった。
その男は、修一を見ると寄って来て、
「お前が、桜井修一か?」
「ええ、アンタが龍宮亮一……」
この人物が、洋や功美が言っていた人物である。
名前は読みだけなら修一の父親と同じ人物。
そしてもう目印は必要なので、修一が帽子を脱いだ。
すると驚いた顔で、修一をじっと見ながら
「こいつは、目印は要らなかったな。アイツにそっくりだぜ」
修一は、正直な所、父親の話をしたかったが、
今日は、淫獄の書の方が重要だった。
「それより、淫獄の書の方を……」
「そうだな」
電話で軽く話をしていたが、詳しい話をする。
すると、亮一は数枚の札と、それよりも数の少ない人型の紙の二種類を出して、
「昨日連絡を受けて、作って来たんだ」
と言ってテーブルの上に置いた。そして亮一は人型の方を手にして、
「こいつは、呪い返しの札だ。魔法の効果が出ていない時に、
血判を押し、肌身離さず持っておけば、以降効果が出ることはない。
3、4年は持つ。なくした時の為に予備も渡しておく」
次に札の方を手にして、
「こっちは、効果が出てしまった時に抑え込む札だ」
効果が出ている時に張り付ければ良いとの事
「ただ、一日しか持たない」
効果が出ていないうちは、呪い返しの札だけでいいが、
魔法の効果が出ているときは、
抑え込みの札で、効果を抑えたのち、呪い返しの札を使う必要がある。
なお、これらが淫獄の書に効果があると分かったのは偶然との事。
ここで修一は
「呪い返しって事は、逆に犯人に効果が出るって事ですか」
と質問するが、
「いや、返しても術師には、何の効果も出ない。
代わりに、術師の魔物化が早まる。
そして魔物化した犯人は、二人を襲ってくるだろう。以前もそうだった」
と違う意味で、恐ろしい事を言った。
お札は二人を助けるが、別の危機を呼び込み。
根本的な解決が出来てないという事だった
「変身は急激じゃない。兆候は目に見える形で、現れるから、
札を渡したら、翌日には、最初の兆候が出たから
そこをついて犯人を捜して、魔導書を奪えばいい」
魔導書を奪い、破棄する事に成功すれば、犯人も魔物化する事はないとの事。
そして亮一は、その兆候について話した。
もし間に合わなかったときの対処法も聞いた。
話を終えた亮一は、
「しかし、マチルダは二回目だな。まあ、教師をやってたら、
注意した生徒からの逆恨みや、
毒親たちを相手にしなきゃいけないだろうからな」
付け加えるように、
「まあ、美人だと、嫉まれるって事もあるだろうし、
前の時もそうだった。学生時代の頃も美少女だったからな」
と懐かしげに言いつつも、釘を刺すように、
「あと俺の事は言うなよ。不信感を持たれると、効果が出ないからな」
「わかりました」
と言いつつも、ここで下賤な好奇心が湧いてきて
「先生と昔何かあったんですか?」
すると、
「何もねえよ。ただ俺が嫌われてるだけ、先生から聞いてるだろ。
俺が女たらしだって」
と言った後、
「言っとくが、マチルダには手を出してないぞ。
俺は人の女には手を出さない主義だ」
「じゃあ、当時先生は、誰かと付き合ってたんですか?」
「いいや、片思いの相手がいただけ、まあ俺にとっては、
そう言うのも人の女だからな」
と言った後、
「お前を見ていると、お前の親父の話をしたいが、
状況は、刻一刻と変化するからな。早く戻ってマチルダと、
もう一人の生徒に、札を渡してやれ、特に変身の能力者は効果出ると厄介だからな」
これは、以前のマチルダのケースであるが、
変身して、身元を隠すと言う理性的な部分があるようだが、
魔法の副作用なのか、通常時の何倍もの力が出るという。
「セカンドクラスが数人でも抑えきれなかった」
その言葉を聞いて、血の気が引くのを感じる修一。
マチルダも、抑えられなかったと言っていた。
一応、秋人がいるが、それでも不安を感じざるを得なかった。
「お代は、タダでいい。早く行け」
「はい、わかりました」
と修一が答えると、会計伝票を手にするが、
奪うように亮一が手にして、
「あと飲み物の支払いもしてやるよ。大事な友人の息子だからな」
と言うと、修一は、
「ありがとうございます」
と礼を言って、急ぎ足で、その場を去った。
この後、亮一の言う通り、状況は変化するのだった。
修一が去った後、亮一は
(顔は、アイツそっくりだが、性格は先生に似てるな)
そして修一が去って行った方を見ながら、
「頑張れよ、後輩」
とエールを送るのだった。
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