5「犯人捜し」

 引き続き、話を聞いて回っていた修一と秋人。


「次は、東雲麗香さんだね」

「そういや、前に図書室で会った時、鬼軍曹と何かあるって感じだったな」


彼女は、職員室に行ったとの事で、修一たちも職員室の方に向かっていったが、

そこでは、修一の担任であるマチルダが麗香を叱責していた。

何が原因で、マチルダが怒っているかは分からなかったが、


「珍しいね先生が怒っているのって、修一君の時以来じゃないかな」

「………」


以前、学校をサボった時のことである。

その時まで、マチルダに怒られることはおろか、

怒っている姿も見たことはなかった。普段の彼女はそれだけおっとりしているのだ。


 その後、麗香に話しかけた時、


「聞いてくれる……」


と言って、勝手に何で怒られていたか話し出した。


 内容に関しては、今後も関わってこないので割愛するが、


「厳しすぎるよね……」

「「………」」


修一と秋人は、同意できなかった。

なぜなら、麗香が全面的に悪かったからである。

腹立たし気にしているが、はっきり言って彼女の逆ギレである。


 彼女が怒られた事は置いておいて、


「そういやさぁ、図書室で鬼軍曹に文句言ってけど、

なんかあったのか?あれから気になっちゃって」


すると彼女は、待ってましたと言わんばかりに、ベラベラと、話を始めた。

ここも割愛するが、多くは些細な事であった。

ただ中には、軽く引くような内容もあり、些細な事も含めて彼女が全面的に悪く、

同意できることではなかった。


 話をある程度聞き終えた修一は、これまでと同じように本が好きか聞いた。


「なあ、お前、図書委員だし、この前は当番じゃないのに、

図書室にいたけど、やっぱり本とか好きなのか?」

「うん……」

「場所を取らないから、電子書籍も良いけど、実物の本もいいよな?」

「そうだね……」


彼女も同意見なのか、妙にうれしそうであった。


「基本は、ラノベだけどな、でも夏目漱石の『坊っちゃん』とか、

宮沢賢治も読むな、あと江戸川乱歩とか……」


すると、麗香は


「私もラノベも読むけど……海外の古典文学も好き……

特にファンタジーが好きかな……」


なお修一の本の趣味は、相手から話を聞き出すための嘘ではなく本気の話である。


 更に修一は、


「俺さぁ、昔の本が好きで、それこそ明治大正期の本とか、

まあ復刻版しか持ってないけどさ。

そう言うのを探して古本屋とか行くけど、東雲はどうだ?」


因みにこの話も本当の話で、実際、修一は古本屋に出入りする事がある。


「私も、古本屋で探したりするかな……」


と言った直後、修一の背後に何かを見つけたようで、


「ごめん、ちょっと用が出来たから……」


修一の背後の方に向かって、速足で去っていく。

振り返る修一と秋人、そして麗香は、


「蘭子様~」


と声を上げる。そう修一の背後の方に蘭子がいたのである。


 麗香が去った後、


「どう思う?」

「そうだな。あの性格の悪さだし、あり得るかもな」


自分の非を認めず、逆ギレしてるくらいだから、良い性格とは言えない。


「性格がよけりゃ、良い友達に成れたかもだけど」


と修一は言い、更に頭を掻きながら、


「でも確証はないな」


ここまで、会ってきたナタリアと揉めた生徒には、彼女と同じように、

全面的に悪いのに、非を認めず、加えて古本屋に出入りしている人間が、

何人かいた。だから彼女が犯人とは断定できない。


 ここでふと思い立って、


「そう言えば、東雲は、超能力者だっけ?」

「たしか、前に『ジェミニ』を使えるって言ってたけど、どうして?」

「もし犯人だった。魔導書を取り上げる際に、揉めるかもって思って」


と言いつつも、


「そう言えば『ジェミニ』って?」


初めて聞く能力だった。


「ジェミニと言うのは、自分の意志で自由に動かせる分身を生み出す能力だよ」


なお能力名だけでなく、分身自体をジェミニとも呼ぶらしい。

そのジェミニの姿は、人によって異なり、人型もあれば、動物型もある。

更にジェミニは、様々な力を使えるという。


「分身型使い魔に似てるけど、常時出現してるわけじゃないから、

ある程度の距離で、

自分の手を離れて自由自在に動かせるソウルウェポンみたいなものかな」


ただウェポンクリエイションとは、異なる能力して分類される

そして分身は、主に人型が多いという。


「今も人気の漫画の側に立つ、力のビジョン的なやつか」

「その漫画知ってるよ。

でもあれとは違って普通の人間にもみえるらしいけどね」


秋人は、麗香が「ジェミニ」を使えると聞いているだけで、

どんな分身かは知らない。


 なお話を聞くのは、彼女で最後なので、今日の所はここまでとした。

その後は、二人とも、それぞれの部活に行き、

修一は、プラモのコンテストの話が、本格的になって来たので、

更なる新作を作っていた。一方、秋人はというと、こちらも剣道の大会に向けて、

練習に打ち込んでいた。


 そして二人とも、同じ時間に部活が終わったので一緒に帰る事に、

学校を出て下校途中、


「桜井君に、有間君」

「ナタリアさん……」

「なんだ、これから寄り道せず、速やかに下校するんだが」


声をかけたのはナタリアである。


「なんか、アタシの事を嗅ぎまわってるらしいな」

「アンタじゃなく、アンタをハメようとしている奴を探ってるんだ」


すると不機嫌そうに


「なんで、それはアタシの仕事や、

まあ魔法の事を調べてくれたのは、ありがたいけどな

でも、そこまでやってもらわんでもええ」


しかし修一は、


「悪いけど一種の病気でな。こっちとしても引けないんだよ」


秋人も


「僕も、ここまで来たら引けないって感じだね」


そんな二人に対して


「お節介な奴らやな、正直迷惑や」


と不機嫌そうに言うナタリア。


 ちょうどその時、


「あら、お揃いですね」


声をかけてきたのは、修一たちと同じく下校中の里美、

あと蒼穹の姿もあった。


「有間君もいますね。ところで例の魔法陣の事は?」

「秋人から聞いてる。でも内容が、ここで話すのはちょっとな代物でな」


秋人もコクコクと頷く。


「それでは、家に帰ってから話を聞きましょう」


そんな訳で、全員桜井家のリビングに集まった。

なお、ナタリアはこのような集まりになる事は無くとも借りた服を返しに、

今日来る予定であった。


 そして修一は、皆の前で淫獄の書について話し、


「これで合ってるよな?」


淫獄の書についての説明があっているかどうか秋人に聞き、


「そうだよ」


と答える秋人。話を聞いた里美は、


「そういう魔導書もあるのですね。

まあ似たような魔導書は聞いたことがありますね。

でも、そちらは恋愛対象を落とす事が目的ですが」


秋人も


「それは確か、恋愛の書だね」


と言いつつも、顔を赤くして、


「恋愛なんて名ばかりで、実際は酷いものだよ」


と言った。


 更に修一は、ナタリアから注意を受けた生徒から話を聞いた事も話す。


「確かに、その中に犯人がいてもおかしくないですね」


と言いつつも、


「しかし、風紀委員は、恨みをかうのも仕事ですから、

大変ですよね。私も風紀委員だからわかります」


ここで修一が、


「そうなのか……」


と初耳だったから声を上げた。


(でも、ぴったりだな。ラノベのキャラみたいに腕章を手にして

『風紀委員ですの』とか言ってそうだ)


とも思った。ここで里美は修一に、


「何か?」


と聞いて来たので、


「何でもない……」


と答えた。


 そしてナタリアは、


「黒神さんの事は知っとったけど、風紀委員と言うのは初耳やな」

「高等部からです。中等部の頃は、成れませんでしたから」


この後、同じ風紀委員故か、妙に話題があって、最終的には意気投合してしまい、

里美は、


「この一件、私も手伝わせていただきます」


ナタリアは、


「それじゃあ、悪い。この件は、アタシが調べるから」


と遠慮するも、里美は


「良いんです。学校は違えども、同じ風紀委員のよしみです」


と言った後、蒼穹の方を見て


「ねえ、天海さん」


この時まで、蒼穹はこの場にいたが、我関せずという態度を取っていた。

しかし、突然の話に、びっくりした様に、


「ちょっと、何で私まで!」


声を上げるが、


「かわいそうだと思いませんか、このままではナタリアさんが、

犯罪者になってしまうんですよ。例え、後に無罪になったとしても、

人生に影を落とします。それでいいんですか?」


真剣な目で、ここまで言われてしまうと断りづらいようで、


「分かったわよ……」


と彼女も関わる事になる。


 ここで修一が、


「俺たちは、学内の方を調べるから、そっちは学外を頼む」


彼女は校内だけでなく、郊外でもマナーを守らない人間に、

注意して、逆恨みを買っていてもおかしくはないと思ったからである。


「確かに、マナーの悪い奴に何度か文句を言うたことはある」


とナタリアも身に覚えがある様子。


「分かりました。確かに私たちでは、そちらの学校の事は、

分かりませんからね」


そんな訳で、今後の方針は決まった。


そして先に話を聞いたことは話したものの、

具体的に、どんな話を聞いたかは話してなかったんで話した。

実際に聞けたのは、麗香と同じくナタリアへの逆ギレによる文句で、

犯人に繋がるものはない。誰が犯人でもおかしくない。


「悔しいですが、貴方の読み通り、その人々の中で、

古本屋に出入りしている人が、怪しいですわね。

魔導書が古本屋に出回ったという事は、私も聞いた事がありましたから」


生徒の中に犯人がいるとしても、どうやって絞り込むかが

課題であった。もちろん、学外の人間の可能性もある。


 その後も色々と話をしていると、すっかり遅くなってしまった


「そろそろ、私たちは二階に戻りましょう」


と言う蒼穹に、


「そうですね。今日はここまでと言う事にしましょう」


ナタリアも


「もうこんな時間か、そろそろ帰らんと……」


秋人も


「僕も、帰らないと、」


修一は、


「また明日な」


二階に行く蒼穹たちと、家から出ていく秋人とナタリアを、見送ろうとしたが、

突如、なにかが落ちてきたような物音が聞こえた。その音に全員が足を止めた。


 突然の事に、


「何が……」


と声を上げる蒼穹、音の方角から、


「庭の方だな」


と言う修一。秋人は。


「もしかしたら、飛行中の魔法使いが落下してきたのかな。だったら大変だ!」


実際は、どうかは分からないが、とにかく異常事態のようなので、

懐中電灯を手に修一は、外に出た。


(昨日と似てるな……)


と修一は、そんな事を思った。


 修一が、外に出て、後を追って、他の面々も外に出る。そして、庭に来ると、


「なんだ!」


そこにいたのは大きな蝙蝠だった。

しかし、蝙蝠型の魔獣とは感じが違った。その形状は人型に近く、


「吸血鬼?」


ホラー映画に出てくる吸血鬼の変身体にも見えた。

あと、落下したと思われたが、

しゃがんでいるように見える格好で、降着したように見えた。


 ここで、秋人は


「……マチルダ先生?」

「「えっ?」」

「マチルダ先生の変身体だよ」


ここで、修一は


「えっ、先生って変身能力者?」


初耳だった。その言葉を裏付けるように、

その体は、変化していき、修一の担任であるマチルダへと姿を変えた。

なお、修一と秋人は、完全に元に戻る姿を見ることは無かった。

その状況が問題なので、修一は蒼穹に、秋人はナタリアに、

手で目隠しをされた。


「またかよ」


と言う修一。


 落下時の音は大きかったので、近所の人が集まってくる気配がした。

とりあえず人が来るまでに、マチルダを含めた全員が家に入った。

なお修一と、秋人は目隠しをされたままであった。

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