4「淫獄の書(2)」
さて、この魔法が、なぜ厄介なのか。秋人は説明を始めた。
「この魔法自体は、直ぐに解くことは出来るけど、
掛け直しも出来るから、魔法をかけた人間をどうにかしないといけない」
使い手は、魔法が解けたことは判るという。修一は、
「だったら、かけ直しに来たところ、捕まえればいいんじゃ」
「いいや、この魔法は、相手の体の一部さえあれば、
遠隔でも使える。それに、特殊な魔力残滓を残すせいで、
使用者の特定もできないしね」
なお体の一部と言うのは、髪の毛や爪、唾液くらいでもいいという。
「それじゃ、警察に頼んで……」
と言いかけて、
「まてよ、警察が動いてくれないって事は」
「この街の警察は、この手の事で動いてはくれるけど……」
悩まし気にする秋人。
「淫獄の書は、単純所持でさえも罪になる魔導書だけど、
一般的に知られていないからね……」
秋人は知ってはいたが、広く知られているものではないという。
それに魔導書を回収し処理をするのはWTWで、そこは知っているが
警察側は知っているかどうかは分からない。
「聞きづらいんだけど、ナタリアさんの魔法陣は『真実』の魔法で、
その……人前で裸を……」
秋人は、顔を赤くするが、ナタリアも顔を赤くし、
「そうや、というか」
修一を親指で刺しながら、
「コイツが見た変身露出狂が、アタシや」
そして、これまでの事情を説明する。
「そうなんだ……でも警察に追われてたんだよね」
すると、腕を組んで考え込むような仕草をし、
「それだと、警察が知っていたとしても、罪逃れに思われて、捕まるかもね。
この魔法は、魔法陣に直接、サーチを使わないと分からないし」
普通にサーチを使っただけでは分からないから、
訴え出ても、分からない可能性もある。
「『淫獄の書』じゃないけど、魔法と言うか、もはや呪いだけど、
その所為で、罪を犯す結果になった事件があって……」
その事件は、同じような魔導書を使った第三者の魔法によるもので、
心神喪失と判断されたが、これもサーチでは、分かりにくいとあって、
警察検察共に、罪逃れと判断してしまい。
裁判までもつれてしまった。罪には問われなかったものの、
犯罪をした事には違いないので、世間から白い目で見られることになった。
「捕まっても、最終的には罪は問われない。
でも広く知られてしまったら、もうこれまで通りの生活は出来ないよ」
秋人の話を聞いて、辛そうにするナタリア。
その様子を見た修一は、病気である正義感も出てきて、
「どうにか、ならないのか?」
「魔導書の回収処理をしているWTWに頼むという方法はあるけど、
犯人捜しまで頼むとなると、詳しい事情を説明しなきゃ動いてくれないから、
そこから話が漏れないとも限らないし……」
と悩ましげに言いつつも、
「まあ僕らで、犯人を探し当てて、魔導書を取り上げて、
WTWに引き渡した方がいいよ。魔導書の引き渡しなら、
あまり追従はしてこないから、適当に誤魔化せるしね」
一応持っていたらいけない代物だから、向こうも取られた所で、
文句を言えないだろうし、たとえ言って来たとしても、
その事実を突きつければいいという事だった。
ただ事情を知ってしまったからか、秋人も関わる気になっていた。
そして修一はナタリアに、
「なあ、恨んでるやつとかは」
「風紀委員やからな、恨まれてなんぼや」
つまり大勢いるという事。
「でも、使っているのは恐らくは同姓だろうから、女子は?」
「ほとんど、女子や」
「それも、そうか」
修一のいる不津校は、共学だが、女子の比率が異常に高い。
「でも犯人が女子と言うのはいい線や、アタシ、
同性愛者の男に、恨みを買うた覚えはない」
女子も同様との事。
ここまで話したところで、
「後は、アタシの仕事やから……」
と言って立ち去ろうとする。
「ちょっと待って、防御魔法をかけるから」
そう言うとナタリアに、魔法をかける秋人。
「防御魔法なら、向こうに気づかれないけど、
ただいつまでもつかは分からないけどね」
と言う秋人。
「ありがとう……」
と言って、今度こそ出ていこうとするが、
「犯人は、多分魔法使いじゃないよ。もし魔法使いなら、
もっとひどい事になってるから……」
「分かった……」
そう言って、ナタリアは空き教室から出ていった。
そして、修一は、
「じゃあ、俺も行くわ」
「修一君……この件には……」
「悪い病気が出てきちまった。鬼軍曹がどう思おうが、関わらせてもらう」
すると秋人も
「僕も知っちゃったからには、黙ってられないよ。
まあ僕も、修一君の病気がうつっちゃったみたい」
と言いつつ、秋人も加える形で、引き続き修一も関わる事に。
ふと疑問に感じることがあった。
「そう言えば、どうして犯人が魔法使いじゃないってわかったんだ?」
と修一が聞くと秋人が
「可能性が高いというだけなんだけど……」
と言いつつも、
「『真実』の魔法は、超能力者でも使える魔法なんだよ。
効果は弱くなってしまうけどね」
本来なら、夜だけに事は済まず、昼間、ひどい時は朝から事を起こすらしい。
その上、防御魔法も効果がないという。
しかし現状から考えると、効果が弱くなっているので、
魔法使いじゃない人間とみていいらしい。
「でも時間が経つと、効果が強くなっていって、
魔法使いが使用するのと同じくらいの力が発揮されると思うよ」
つまり急ぐ必要があるという事。
二人は、さっそく行動を開始した。休み時間を使って人から話を聞く。
最近越してきた修一とは違って、この街で元から暮らしていた秋人は人脈が広く、
いろんな生徒から、話は聞けた。もちろん外の人間の可能性もあったが。
先ずは生徒たちからである。
ただ、話を聞く前に秋人に、
「なあ、魔導書ってどこで、手に入るんだ。
アキラのところみたいなアイテムショップか?」
「物によるよ。白紙の魔導書はそこだけど……」
一般的に、魔導書は自分で作るもの。何も書いていない「白紙の魔導書」を買い、
そこに自分が習得する魔法を書き込んでいく。
そうすることで、本が魔法発動の手伝いや、増幅が出来るという。
「すでに書かれたものなら、親から子、師から弟子に引き継ぐ形になるけど、
中古品としてアイテムショップに並ぶこともあるよ」
淫獄の書のような危険なものは当然ながら、
一般のアイテムショップでは扱っておらず。裏のマーケットで、
それこそ高値で取引されている。
その話を聞いた修一
「それじゃあ、生徒の可能性は無いよな」
最初は学生が、そんな危ないところで取引しているとは思えなかったが、
「確かに、学生のお小遣いで買えるものじゃないしね。
でも、そう言うところに入り浸って、補導されたって学生の話は聞くよ」
「じゃあ、生徒の可能性もあるって事か……」
ここでエクスマキナの事を思い出し、
(危ない事に関わっている生徒がいてもおかしくないか……)
と思った。
更に秋人は、
「まあ、危ないところに関わってなくとも、手に入れる機会はあるからね」
「どういう事だ?」
「例えば、ゲートから落ちてきたのを偶然拾うとか、
あと魔導書と言って、見た目からは古い時代の立派な本って感じだから、
普通に古本屋においてある事もあったらしいよ」
魔導書の中には、何もしていなくとも怪現象を起こすものもあるが、
殆どは普段は普通の本にしか見えないので、
淫獄の書以上の危険な魔導書が、古本屋で売っていたこともあるという。
「しかも店頭にワゴンに入れられて百円以下で、売られていたんだから、
もうびっくりだよ。まあ、高位の魔法使いの人が見つけてくれたから良かったけど」
素人が手にして、暴走させていたと思うと肝が冷える事例だという。
話を聞いた修一は、
「なんだか怖い話だな」
と言いつつも、
(古本屋か……)
と思った修一は、その後、秋人の人脈で、いろんな生徒に話を聞いて、
過去に彼女に注意を受けた生徒たちの話を聞いた。
そして話を聞く際に、修一は、
「本は好きか?」
と聞いて回った。
その後、秋人から、
「ずっと本が好きか聞いたけど、
やっぱり、古本屋の線を考えてたのかな?」
「ああ、物語じゃ、そう言うところからのが多いか、もしかしてと思ってな」
そして自虐的に
「まあ、俺のオタク的な考えだけどな」
恥ずかしそうに言う。
「まあ、無い話じゃないけどね」
と言いつつも、秋人は真剣な様子で
「実は、淫獄の書には、妙な噂があってね。本に書かれている魔法を使い過ぎると、
色欲の魔物になるって言うんだよ」
修一は、揶揄だと思い、
「それって、使ってる人間も変質者になるって事か?」
すると秋人は、手を縦に振りながら
「いやいや、そうじゃなくて、文字通りの魔物になるんだよ」
「つまり化け物というか、魔獣みたいになるって事か」
「どんな姿になるかは人それぞれとのことだけど」
と秋人は真剣な面持ちで言う。
更に秋人は、
「実際、そう言う危険なマジックアイテムがあるからね。
有り得ない事じゃないんだよ」
修一は、
「もし、噂が本当だとしたら、その人間は元に戻るのか」
「この手のアイテムは、たいていは戻れない。
戻るときは死ぬ時だよ。まあ人間に戻れたという話も無いわけじゃないけど、
老婆に成ったりとか、美貌を失ったりとかするらしいよ」
基本的に変身したら最後と言うところである。
修一は、話を聞いて、いつもの様に、嫌な予感は感じたが、
しかし、いつもの病気が出ている修一は、このまま引く気にはなれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます