2「予想外の展開」


 放課後、今日は、部活はなく、昨日こともあってか、気になった修一は、

図書室で、変身能力者について調べていた。


(まあ、他人事じゃないしな……)


とそんな事を思いながら、関係書籍を見つける。


 能力「変身」は、普通の超能力とは違い発現が早く、

生後間もない内に、既に発現しているという。

ただその頃は、収集期と呼ばれ、無能力者の状態だが、

この状況下で、触れたものの遺伝子を収集する。


 収集期が何年続くかは、個人差があるが、

その間に集めた遺伝子の一つを基に、変身する姿が決まり、

変身が可能になる変身期に入る。一般的には、この時点で能力発現と見られる。


 変身能力者は、狼や山猫が多いが、それぞれ犬、猫の遺伝子で発現していて、

これらは、動物の中で人間が触れる機会が多いからと言われる。

また犬猫に関わらず、ペットを飼っている場合は、

ペットと同じ動物の変身体となる事がある。


 しかし、なり易いというだけでどんな変身体になるかは、運である。

また触れる機会が多いとは言っても、昆虫類は変身体になりにくい。

くわえて稀に、複数の動物の特性を持った変身体になる事もあり、

これらを「キマイラ」と呼ぶ。


 その後も、本を読む修一。


(『変身』のセカンドクラスは『シェイプシフター』で複数の変身体もつのか)


とここで、


「!」


修一は、視線を感じた。周りを見渡すと、ナタリアの姿があって、

彼女は、修一の方をじっと見ていて、どうも彼女が視線の主の様だった。


(俺が何かするとでも、思ってるのか)


そう思いながらも、無視して、修一は、本を読み続ける。


 すると、ここで一人の女子生徒が小さな声で、


「桜井君だっけ……何かしたの……?」


女子生徒は、修一のクラスメイトで図書委員の東雲麗香だった。

なお今日は当番ではない。一応、木之瀬蘭子の取り巻きの一人だが、

ぼさぼさなロングヘヤーの暗い印象の少女である。

図書室であるから、小さな声と思われるかもしれないが、

彼女は普段からこんな感じである。


「何で、俺が?」

「綾崎さんが、睨んでるから」

「何もしてないぞ」


と修一は否定をする。

確かに何もしていないが、心当たりがない訳でもない。

言うまでもないが、現視研の事。部長が番長である故に、

風紀委員から目を付けられている。

まあ声をかけて来るのは、ナタリアくらいであるが。


 麗香は、


「多分、桜井君が気づかないくらいの、些細な事なんだよ……」


と言った後、どこか腹立たし気に、


「厳しすぎるんだよ。あの鬼軍曹……」


麗香も、怖い目付きで、ナタリアの方を見ていた。その様子に、


(彼女、何かあったのかな?)


と麗香とナタリアの因縁の様なものを感じながらも、

それ以上は、特に病気である好奇心も出なかったので、

特に何も聞かなかった。ただ、


「そう言えば、桜井君って母子家庭だっけ……私もなんだ……」

「へぇ~」

「まあ、私の場合は、七時くらいには母さんが帰って来るけど……桜井君は……」

「いつも家を空けてて、唐突に帰って来るから、びっくりするくらい」

「そうなんだ……」


それ以上、話は続かなかった。


 その後、本を読み終えた修一は、棚に戻して、図書室を後にした。

帰宅途中の家に向かって歩きながら、


(そう言えば、昨日の露出狂、どこの誰なんだろうな?

まあ、普段はごく普通な人間なんだろうけど)


そんな事を考えている内に、家に着き、そして修一は、夕食の準備を始めた。


 



 その日、天海蒼穹も、彼女が通う光弓学園の学校図書館にいた。

なお、光弓学園のは、校舎内ではなく、校舎とは別棟の建物で、

蔵書数もかなり多く、多くの学生達が利用している。

彼女は、ここで本を読むわけではなく、近く全国模試があるので、

それに向けての勉強をしていた。

特待生である彼女は、学校への貢献が必要なので、ここでいい点を取って、

上位に食い込む必要が有った。そうする事で、学校の名が世に広まるからである。


 なお彼女だけでなく、里美も含めた同じ特待生の友人たちと、

共に図書館にやって来て、


「この辺がいいわね」


と呟きながら、読書スペースに入り、

そして全員、席に着くと、各々鞄から参考書を取り出して、勉強を始める。

図書室は、静かにしなければいけないのと、勉強に集中しているので、

会話は、皆無である。そしてなかなかの集中力なので、

閉館時間まで、科目を変えつつも勉強に打ち込んだ。


 光弓学園の学校図書館は、夜の七時まで開いているので、

蒼穹たちが下校したのも、その時間になるが、

今日は、真っ直ぐに家に帰らず、そのまま友人たちとinterwineに寄って夕食をとり、

その後、皆と別れ蒼穹と里美は一緒に家に向かっていた。


 道中は、遅い時間なので真っ暗である。蒼穹は、


「こんな時間に二人きりだと、少し不安よね」


と思わずそんな事を口にしていた。


「何言ってるんですか、セカンドクラスが二人もいるんですよ。

何があっても対処できます」


 セカンドクラスとは、超能力が変化した。

いわゆる第二段階の事を言う。もちろん普通の超能力よりも、強力な能力である。


 二人の能力、エレメンタルマスター、シューターは

共にセカンドクラスの能力である。

なおセカンドクラスは、超能力を鍛えたり、

自然と変化する場合もあるが、変化する人間は少ない。


 なお、能力によってはセカンドクラスが存在しない物もあるが、

セカンドクラス並の力を持った場合、市に申請することで、

「セカンドクラス相当」と認定される。


 そして蒼穹は力を含め有名であるから、襲ってくるようなバカはいない。

だが帰り道、修一の前に現れた変態露出狂が電柱の上にいて、

桜井修一と同じように、電柱の上から降り立ち、二人の前に姿を見せる。


「「!」」


見たことない人型魔獣が出たと思い揃って身構えるが、

修一の時と同じく体をくねらせて、いやらしい動きを始めた事から、

直ぐに魔獣とかではなく、変身露出狂であることに気づいた。


 しかし魔獣ではなかったが、里美は


「この変態!」


と叫んで、結局攻撃を始めた。しかし露出狂は里美の撃つ光弾を、

軽々とそれでいて妙にいやらしい動きで、避けていく。

その姿に苛立ちを覚えた里美は、さらに強力な攻撃を仕掛けようとするが、


「だめ、それ以上だと過剰防衛になる!」


と止める蒼穹、いくら相手が変身しているとはいえ、

明らかに、攻撃の意図がないので、あまり強い攻撃を使えば、

彼女の言う通り、過剰防衛になりかねない。


 丁度この時、


「見つけた!」


と二人は知らないが、修一の時と同じ女性警官がやって来て、


「またアンタね!」


逃げだす露出狂、


「待ちなさ~い!」


と追いかけていく女性警官。


 残された二人は、


「帰ろうか?」


と言う蒼穹に、


「そうですね。帰りましょう……」


そんな訳で、二人は帰路に就いた。


 家に帰ると二階に行き、朝出発時に干していた洗濯物を取り込むことにした。

ベランダに出て、二人係で、取り込んでいると、


「コラー!待ちなさーい!」


とさっきの女性警官の声が聞こえてきた。


「まだ捕まってないのね」

「あの変態、次に会ったら、今度こそ一撃喰らわせましょう」


と怖い顔で言う里美。


 そうこうしていると、


「えっ!」


この時、蒼穹は暗くてよくわからなかったが、

さっきの露出狂らしき奴が、壁を飛び越え、庭に入ってくるのを、

見たのだった。里美も見たらしく、


「あの変態!」


と声を上げて、素早くベランダから部屋に戻る。


「ちょっと、里美?」


後を追う蒼穹、そして居住空間をでて玄関に向かって階段を下りていく。


「待ちなさい、里美。危ないわよ」


と下に降りたところで、捕まえる蒼穹。


「離してください!あの変態に食らわせないと」

「落ち着きなさい。大体相手がどんな攻撃能力を持つか分からないのよ」


加えて、彼女の力ならば、ベランダにいる状態で、

庭にいると思われる変質者を狙い撃ちすることが出来るが、

それが思いつかないほど、里美は頭に血が上っているようである。


 ここで、


「あら、貴女達、どうしたの?」

「「桜井さん……」」


そこにいたのは、桜井功美。手には平たい箱を持っていて、


「今日は、貴女達に、お土産を持って来たんだけど……」


彼女の持っている箱は有名な銘菓である。


 二人は、


「「ありがとうございます」」


とお礼を言いつつも、


「それより今、庭に変質者がいるみたいなんです」


と蒼穹は言った。とりあえず、家主である彼女に言うべきだと、

思ったのであるが、


「まあ、大変!修一!」


と修一を呼び出したので、


(ちょっと、桜井修一を巻き込まないで)


と思い、困った顔をする蒼穹であった。







 功美に呼び出された修一は、

ちょうど功美が持ってきたお土産の銘菓を食べていた。


「なに?母さん?」


と玄関に向かった。そこには蒼穹や里美もいて、


「本当に何事?」


と思わず言ってしまった。


「庭に変質者がいるんですって」


すると里美が、


「変身露出狂の変態ですよ」


と言ったので、


「変身露出狂って……」


昨日出くわした露出狂の事を思い出す。


 ともかく懐中電灯を手に、全員で庭に出た。そして周りを見渡すが、


「誰もいないな。もう逃げちゃったんじゃないのか?」


と修一は言う。二人そろってなので、見間違いとは思えなかった。

だが庭に入ったからと言って、ずっといるとは限らない。

直ぐに別の場所から出ていった可能性もある。


 ただ直ぐに諦める気にはなれなかったので、四人とも引き続き庭を見回ると、


「ん?」


と修一が声を上げ、側にいた蒼穹が、


「どうかしたの?」


と言い、


「ちょっと物置が……」


更に、


「どうかしましたか?」


と里美もやって来て、功美も来る。


 ここで修一が、


「物置の扉が動いているような……」


この一言に、蒼穹と里美は、身構える。功美は身構える様子もなく、


「開けてみたら?」


と言う。修一も緊張した面持ちで物置の扉に手を掛け、ゆっくりと扉を開けた。


「!」


 中には、誰かがいるようで、懐中電灯を照らすと、


「えっ?」


向こうも、


「!」


驚いた顔をする。修一の側にいた蒼穹は、血相を変えて両手で、修一の目を覆った。

修一は一瞬見てしまい、目隠しをされた理由がわかるから、その事には触れず、


「どうして、鬼軍曹が」


と言った。物置には鬼軍曹こと、ナタリア・綾崎がいた。

しかも、男の目を塞がなければいけないような状況だった。

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