第11話「変身能力者と危険な魔導書」

1「変身能力者の事情」

 さてデパートに、新しい服を買いに来た修一は、

偶然、試着室の前で、女性客と女性店員のやり取りを見た。

女性が試着室から、顔を出して、かなり大声で


「すいません!店員さん!」


と言ったので、修一は思わず、そっちの方を見てしまった。

女性店員が、試着室の前に行くと、この女性の癖なのか、

やはり大きめの声で、


「変身用です。ズボンの裾上げお願いします」


と言って女性は顔を引っ込めた。この「変身用」という言葉が気になり、

その後も様子を見ていたが、少しして、


「!」


試着室から服を着た人型の狼が出てきた。

いわゆるワーウルフと言う奴だが、そいつは、さっきの女性の声で、


「それじゃあ、お願いします」


すると店員も、突然現れたワーウルフに対し、特にリアクションもなく、


「じゃあ、鏡の方を向いてください」

「はい」


ワーウルフは、店員に背を向ける。店員は、


「この辺でいいでしょうか?」


と言う感じに裾上げを行って、それを終えると、ワーウルフは試着室に戻り、

少ししてズボンを手にした、女性が出てきた。


 ここまでのやり取りを見ていて、修一は思った。


「『変身』か……」


超能力の一つ「変身」、その通り変身する能力の事。

言うまでもない事だが、さっきのワーウルフは、女性が変身したものである。


 変身用と言うのは、肉体の変化に合わせてサイズが変わる服で、

普通よりも少々お高め。この服を着れば、フィクションの様に、

変身時に服が破れることを防いでくれる。


 この手の服は、様々な有名ブランドも出しているが、

この街でしか売っていなくて、修一もこの街に来てから知った。

なお有名ブランドも販売しているのは、

噂であるが、大十字久美が関わっているからだと言う。


 ミューティーションの様に部分的な変化などは見た事があるが、

変身能力者を見るのは、この時が初めてであった。

試着室からワーウルフが出てきたのは、少し驚いたものの、

それ以上は、少し親近感を覚えたくらいで、

特に何も感じなかった。ただ、


(ワーウルフが服を着てるってのが、何かな……)


修一は、その姿に一種の滑稽さを感じた。


 なお変身用の服の事を、秋人から聞いたときに、


「変身能力者にとって、服は重要だよ。

変身体が人型魔獣と間違えられない為にもね」


ワーウルフやリザードマンの様に、人の形をした魔獣は存在し、

異界で「変身」を武器に魔獣を狩る冒険者も多く。

服を着ていなかったばかりに、誤って討伐されてしまうケースもある。

秋人の言う様に、服は重要なのである。


 さて、変身能力者と係わる事と言えば、

ちょうどゲーム内で達也との一件から、少し経った頃の事、

その日、修一は夕方の番組で、


『それは性サービスか、はたまたアニマルセラピーか。

変身能力者による風俗の実態』


という特集がやっていて、なんと気なしに、それを見ていた。


 それは変身能力者だけの風俗店の話。

「変身」の能力で、動物の姿に変身して、サービスを行っているのだが、

多くの客は、性的な目的ではなく、心の癒しを求めて来る。

だから、ふれあいのみで、性的なサービスは行わない。

言わばアニマルセラピー的な感覚で、これを性風俗と見ていいのかと、

番組の中で、言っていた。番組内では、提供者は変身した姿で、

客の前に現れるとはいえ裸で、もてなす訳だから、

これは、性風俗だと意見も述べられていた。

 

 修一はテレビを見ながら、


(そう言うのもあるんだな……)


と思ったくらい。テレビをつけたまま、夕食の準備をした。

まあ風俗の事は、ともかくとして、

この後、変身能力に関わる出来事と遭遇する事となった。

 

 夕食後、今日は宿題もなく、くつろいでいたら、

買い忘れがある事を思い出した。

明日でもよかったが、ここ数日、忘れては思い出すを繰り返すので、

また忘れても、困るので、夜は遅かったが、

コンビニでも買えるものなので、買いに出かけた。


 コンビニに着いて、お目当てのものを購入し、


「これで良し……」


そして帰路に就くと、人気のない場所で、そいつが現れた。

どうも、近くの電柱に登っていたようで電柱のそばに、上から降り立って、

修一の方に寄って来る。


「宇宙生物!」


映画に出てくるような人型で、グロテスクな感じの宇宙生物みたいな奴だった。

あと鋭く長い尻尾も生えている。

新手の人型魔獣かと思い修一はとっさに身構えた。

だが相手からは何も仕掛けず、妙にいやらしいというか、体をくねらせ始めた。

まるで、修一に体を見せつけている様に見えた。


(よく見ると、女性的な体つきだな、何かエロイ)


と修一は思った。まさしく痴女のような感じである。

ただグロテスクな見た目と、それ以前に、訳の分からなさも相まって、

何とも言えない変な雰囲気に辺りが包まれた。

いやらしさを感じたものの、病気である好奇心が出てきて、

ここから立ち去らず、宇宙生物をじっと見ていた。


 少しして、


「あっ!いた!」


と女性警官がやって来て、宇宙生物は逃げ出した。


「待ちなさい、この痴女!」


と言いながら、追いかけていった。


 残された修一は、


「何だったんだ?」


引き続き何とも言えない気分を抱えたまま、修一は帰路についた。


 翌日、秋人に話をすると、


「多分それ……その……変身露出狂だよ……」


と恥ずかしげにっていた。


「変身露出狂?」

「変身して、裸になってうろつく人の事だよ。変身能力者で、

尚且つ、露出症の人が、そういうことするらしいよ」

「ようは変態か。でも何で変身なんか……」

「それは、公然わいせつ罪に抵触しないためだよ」


刑法によれば「わいせつ」とは、

「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、

善良な性的道義に反するもの」

とされるが、しかし、変身体の多くは、

見た目は人間とはかけ離れていて、全裸であったとしても

性欲を興奮、または刺激すると言う事は、ほぼあり得ない。

故に公然わいせつ罪は適応しづらい。


そして本人は、変身していても、裸と言う感触があるので、

気持ち的には、満足するらしい。


「まあ公然わいせつ罪は無理でも、軽犯罪法には抵触するよ」


実際に、昨日の宇宙生物、改め変身露出狂は、

警察に追われていた。加えて痴女ともいわれていた。


「それ以前に、攻撃性超能力をみだりに使うことは、銃刀法に抵触するしね」


変身体は攻撃能力を有する場合が多いので、

攻撃性の能力と言う事になる。

因みに修一が見た変身用の服の裾上げは、変身が必須なので、

正当な理由とされ、銃刀法には抵触しない。


 あと変身露出狂には、もう一つ問題点がある。


「服を着ていないから、魔獣と間違えられて、

討伐されそうになって事があるから、

周囲に迷惑だけでなく、自分も危ない行為って事だよ」

「そうなのか……」


確かに、修一自身、出くわした時、化け物だと思い身構えていた。


「ちょっと、あんたら何の話してんの?」


声をかけてきたのは、ブロンドの髪でショートヘヤー、

日本人離れした顔立ちで、中々の美人で

背も高く、体つきも良くて、セクシーという言葉が似合う少女だった。


「ナタリアさん」


秋人は言い、修一は、


「鬼軍曹」


と言った。


 少女の名はナタリア・綾崎、帰化した外国人の父親と

日本人の母親を持つハーフである。

その美貌で、和風美人の蘭子と、よく対比される。そして風紀委員である。


(そういや秋人の知り合いの冒険者に、同じ名前の人がいるって聞いたな)


ふと修一はそんな事を思った。


 そんなナタリアは、修一達をじっと見つめながら、


「何か、いやらしい話しとらんかったか?

猥談で風紀を乱す事は許さへんで」


彼女は千代子と同じく、関西出身で、修一と同じく高校入学前に、

引っ越してきたとの事。故に彼女は関西弁である。

そして風紀委員としては、厳しいで有名で、通称、鬼軍曹。

特に、番長が部長を務める現視研にいるせいか、

ちょくちょく声を掛けられる。


 修一は


「昨日の夜、謎の生物と鉢会った話をしてたんだよ。

それで、その生物が変身露出狂だったんじゃないかって話」


と説明をした。


「へぇ~それで、どうやったんや?ヤラしいもん見れて、幸運やと思ったんか」

「ヤラしいって……確か色気はあった気はするけど」


昨日の、変身露出狂を思い出し、修一は笑いながら、


「あれに、欲情はするのは、相当なフェチだぞ。

まあSF映画のオタクなら興奮しそうだけど、それも性的なものじゃないし

アレをイヤらしいなんて思う奴なんて、それこそかなりの変態だ」

「ほぅ……」


話をしていると、なぜか機嫌が悪くそうな

険しい顔を浮かべるナタリア。


「まあええわ。教室での猥談は厳禁や、分かったな」


そう言って不機嫌そうに去って行った。


(何で女性のってわかったんだろ)


女性だとは言っていないものの、「幸運」という言い方が、

気になった。まるで女性の裸を見たかのよう扱い。

しかし修一は性別の話はしていない。


 彼女の様子が気になるものの、

何時もの病気は起きなかったので、その事を問い詰める事はなかった。

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