18「ゲームエンド」
倒れている鳳介に駆け寄ると、彼はボロボロであったが、
すっきりとした顔で、それこそ満足そうに笑っていた。
「鳳介君……」
達也は立っていたようだったが、おぼつかない足取りで、鳳介のもとにやって来た。
状況から見て、大技がぶつかり合って達也の方が強く、押し切ったのだと思われる。
しかし、威力自体は、だいぶ相殺されて、
鳳介をノックアウトする程度まで、抑えられたようである。
ただ全力を出し切った技であるからか、達也もフラフラなようで、
鳳介の傍に来ると倒れてしまい。丁度、彼の隣に倒れるような形になった。
「これは、引き分けかな」
達也もまた、すっきりした顔で言うが、
「いや、俺の負けですよ」
と笑いながら言う鳳介、その様子を見た修一は、
(勝っても負けても気持ちいい、これこそ良い戦いってやつなのかな)
と二人の様子を見ながら、そんな事を思いつつも、
特に、何も考えずに、彼らの傍に座る修一だった。
そして、達也も鳳介と一緒になって笑っていたが、ふと思い立ったように、
「そう言えば、鳳介君の現実での名前は聞いてなかったね」
「俺は、そのままですよ」
「じゃあ、本名でネトゲーしてたんだ。でも苗字は?」
「煌月ですよ。煌月鳳介……」
すると
「でも、その顔だと君は養子なのかな?」
「はい、現当主の妹の養子です」
と鳳介が答えると、
「それじゃあ、君の養祖母は、雪子かい、それとも夏奈かな?」
「雪子様です」
それを聞いた達也は
「そうか、まあどちらにせよ、血のつながりは無いけど、
僕は君の大叔父になるんだね」
ここで修一が、
「その二人は?」
と尋ねると
「僕の妹さ、あと双子。煌月家は双子の女の子が生まれやすいんだよ」
それは今も同じで、現在道場を継いでいる鳳介の伯母、
綾香の姉は、綾香とは双子である。
「ところで、雪子は春人君と結ばれたのかな?」
「はい、雪子様は春人師と結婚され、春人師は婿養子になり前当主となりました」
それと、達也は安堵した様子で、
「それはよかった。二人は付き合っていたし、
それに彼は、道場を継ぐにふさわしい人間だからね」
春人という人物は、達也と同い年の門下生である。
「僕がいなくなった後も、煌月は安泰なようだね。よかった、よかった……」
すると鳳介は、
「いえ、貴方が道場を継ぎ当主になるべきでした」
と言うが、
「それじゃあ、駄目なんだよ。春人君が後を継いでくれたからこそ、
今も続いてるんだと思う」
ときっぱりと言った。
ここで、達也の体が透け始めた。
「どうやら目覚めの時だね。次は無いかもしれないな」
と言いつつ、
「鳳介君、君と手合わせは、よかったよ。こんなに、良い戦いは初めてだ」
すると鳳介も、
「こちらこそ、ありがとうございます達也師。貴方と手合わせ出来て、嬉しいです」
そして、修一に対しても、
「あとユウト君、いや修一君も、色々と教えてくれてありがとう」
と礼を言うと、
「いつの日か、ゲームじゃなくて、現実世界で君たちと会いたいね」
そう言うと時計の様なものが浮かび、達也は消えてしまった。
この日以降、達也は、現れることは無かった。もちろんNPCとしての達也は、
存在しているが、ネットの情報によると、
前のようにおかしな動きはしなくなった。
丁度、大規模なアップデートがあったので、
それによって、修正されたんじゃないかと言う書き込みが、SNSでは多く見られた。
修一は何となく、そういう物じゃなくて、
例のチックタックの気まぐれじゃないかと思った。
そしてある日、CTWにログインすると久しぶりにベルと会った。
「最近は忙しくて、ゲームにログインできませんでしたが」
と言いつつも、
「今日は、鳳介君はいないんですか」
とも聞いてきた。
「彼は、目的を達したよ」
「確かに、あれから、だいぶ経ちますからね。商会に入るのはおろか
もうイベントをこなしていても、おかしくないでしょうね」
と言った後、
「どうでした?」
「僕が、戦ったわけじゃないけど、良い戦いだったと思うよ。
まさに、全てを出し尽くした。
それこそ、勝っても負けても気持ちいい戦いってやつかな」
とユウトが感想を述べた。
「それで、勝敗は?」
とベルに聞かれると、ユウトは悩まし気な様子で、
「引き分けって感じだったけど、鳳介君としては敗北。
でもカオスセイバーが手に入ったんだよね」
あの戦いの後、転移ゲートを通して事務所に戻ってくると、
魔機神カオスセイバーが手に入ったというメッセージがあり、
実際に、鳳介のアイテムボックスにカオスセイバーが入っていた。
「カオスセイバーの入手は、煌月達也に勝利した証ですよね」
「そうなんだけど、アレを勝利と言っていいのかな。
少なくとも、鳳介君は認めないだろうね」
と言いつつも、
「まあ本人は、物凄く満足してたみたいだけど」
「それは、なによりですね」
と言いつつも、ベルは
「でも私もその場にいて、その戦いを見たかったですね。
まあリアルが忙しかったから、仕方なかったのですが……」
残念そうに言ったので、
「映像記録を取っているから、今度、送ろうか?」
一応、ベルの連絡先は知っている。
そんな話をしていると、
「いたいた!」
と言って二人の元にやって来たのは、
「おや貴女は……」
と言うベルに、
「えっ、ネメシス?」
と声を上げるユウト、その姿は蒼穹の着ている鎧そのものだった。
その人物は、
「そう、私はネメシス。アンタの知り合い、鳳介君の連絡先を教えてくれる?」
彼女の言葉から、蒼穹で間違いないようだった。
ユウトこと修一は、初めて見るが、
ゲーム中にあの鎧と同じデザインの鎧があったようである。
そしてゲーム中でも、彼女はネメシスと名乗っているらしい。
(さすがにPCエネミーの姿で、街にいないよな)
あのミズキの姿は、PCエネミーとして戦う時だけのもので、
プレイヤーとしては、別のキャラを使っているのが普通である。
さてネメシスの申し出に対して、ユウトは思い立って、
「ちょっと待って、もしかしてリベンジメールを送る気?」
PCエネミーに勝つと、時々リベンジメールとよばれる物が、
送られてくることがある。場所と時間を指定した再戦の誘いで
この誘いに乗って、再度勝負し勝てば、報酬がもらえる。
ここでいうメールは、一般的に使える電子メールではなく、
CTW専用メールと言うか、ゲーム中、あるいはソフトに付随する
メール機能でしか使えない特別なもの。
ちなみに、メールはPCエネミー自身が送っているとの事だが、
「そうよ、この前の戦いが、納得いかないから、
でもメールを送りたいんだけど、教えてくれなくて」
PCエネミーが負けた場合。メールアドレスを教えてもらえるらしいが、
しかし、もらえるかどうかはランダムで、
加えて彼女は、勘違いしていることがある。
その事に気付いたユウトが指摘しようとする前に、ベルが、
「リベンジメールは専用のメールソフトを使うのはご存じですよね」
「知ってるわよ……」
「アドレスの方も特別なものを使うのをご存じですか」
「えっ?」
受ける側は、普通にメールで送って来るから気づかないが、
送る側は、専用のメールソフトで、専用のアドレスで送っている。
しかも一回送ると運営側から再度アドレスを教えてもらうまで、
メールを送れない。
リベンジメールはPCエネミーに、
開始をゆだねているイベントのような物なので、
乱用されないように、こういう仕様になっているとの事。
「ですから、鳳介君のメールアドレスを知っても、
リベンジメールは送れないんですよ」
更に、この事は、結構知られている事だが、
実際にやっているネメシスこと蒼穹は知らなかったようで
「そうなの!?」
と素っ頓狂な声を上げた。
ここで、ユウトが、追い打ちをかけるように、
「鳳介君はやりたいことは、やったみたいだから、
もう二度とこのゲームはしないと思うよ。
だから、リベンジメールを送ったとしても再戦は、無いと思うよ」
と言うと、ネメシスは悔しそうに
「そんなぁ~~~~~」
と声を上げるのだった。
こんなゲーム内での一幕があった翌日、学校の昼休みに相変わらず屋上で、
修一と秋人、鳳介の三人が昼食を食べていた。
この場で不意に鳳介が、
「なあ将来的に、ファンタテーラに行くことは出来ないか……?」
と言い出した。修一は、
「もしかして、達也さんに……」
「ああ、聞いた話じゃ、こっちの世界じゃ、50年以上前だが、
ファンタテーラの方は、時間は経ってないから……」
達也が、健在であっても、おかしくないのである。
「まあ、来訪者から伝わってくる達也師の話は、魔機神大戦以降は聞かない……
けど、死んだって話も聞こえてこない……」
達也の現状は分からないが、希望あると言う事だ。
ここで秋人が、
「ゲート研究の最終目標は、ゲートを完全なコントロールして、
異世界とを自由に行き来する事らしいよ。いつか、そんな日が来るかもね」
すると鳳介は、
「そうか……」
と言って遠くの方を見つめるのだった。
一方、修一がこの日までの出来事を思い返す。
(仮想現実はともかく、一緒に、ネトゲーで遊ぶっていうのは、
ごく普通な事なんだけどな……)
気づくと、結局普通じゃない事に巻き込まれている。
まあ今回は、魔法少女の一件とかの様に実害はないし、
(まあ鳳介は、満足していたし、まあ良しとするか)
そんな事を思う修一であった。
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