17「鳳介対達也」

 転移ゲートを抜けると、荒野のような場所に出た。


(確かに決闘に適した場所だな)


と修一は思っていたが、これまでの再現クエストと同じく、

途中、彼だけ見えない壁の様なものに、ぶつかった。


(ここで見てろって事か……)


 そして、対峙する鳳介と達也。


「俺のつかう煌月流の技は、自分の体質の所為で、歪んでいます。

あまり人様に、見せられたものではありません。

貴方にとっても不快かもしれませんが、それでも、この技で戦いたいんです」


すると達也も自虐的に、


「僕こそ、君に不快な思い、いやガッカリさせるかもしれないね。

僕の技には、心がこもってないだろうから」

「心?」

「君に僕の事がどう伝わっているかは、知らないけど、

僕は道楽、遊び半分で武術を学んでいたからね。

技はいっぱい習得したけど、心がこもっているかどうか」


すると、鳳介は


「そうだとしても、貴方がファンタテーラで活躍していたのは事実です」

「それだって、カオスセイバーの……」


ここで、鳳介は、達也を真っ直ぐな目で見ながら、


「カオスセイバーの力は、貴方の力です。それより、始めましょう」

「そうだね」


と達也は同意するように言い、そして二人は、構えた。

そして鳳介の拳は異形なものに変わるが、達也は特に気にしてない様である。


 その様子を見ている修一は、


(いよいよ始まるな。それにしても……)


二人の構えを比べる修一、


(同門だから、構えは同じだな、それにしても……)


達也本人は、遊び半分で武術を覚えたとは言っていたが、

その割には、修一は達也から強い覇気のようなもの感じた。


(なんだか、熟練の戦士に挑む若き戦士と言うところだな)


実際、そんな感じだが、ともかく二人の戦いが始まる。


 鳳介と達也の戦い。


「「セイッ!ヤアッ!トリャ!テアッ!ウォリャ!」」


と同じ流派故なのか、合わせたように同じ掛け声を上げながら、

互いの拳、又は蹴りが交差し合う。

時に互いに攻撃を避け合い、時には拳や蹴りがぶつかり合う。

その戦いは、一見互角に見える。


(なんか、達也さんは手を抜いているような)


修一は、そんな感じを覚えた。

実際、達也は鳳介に対し手加減はしていた。

ただ、修一には気づかれたが、多くの人には、手加減しているようには見えない。


 そして、修一は達也が手加減してると感じたものの、

鳳介の方は、本気であるし達也の方も攻撃が激しくなっていくので

見ているだけで、暑さのような物を感じだ。


(もしかして、あの二人からも出ている。

闘争本能的な物だろうか……俺はそれに当てられているのか)


そんな事を思う。







 一方、達也は


(相手が相手だから、加減はしてるけど、どうも体が温かくなって来たな)


自分の闘争本能の高まりを感じる達也。


(このままじゃ、加減が効かないかも、

それに鳳介君の方も暖かくなってるみたいだし)


攻撃が交差し、時にぶつかり合う中で、相手の闘争本能の高まりを感じる達也。

それを感じることで、達也自身も闘争本能を高めていく。


 道楽だ、遊びだと言いつつも、達也には、武術家としての本能が備わっている。

すなわち強者を求める思いである。それに溺れる事は無いにせよ。

自然とこの戦いを楽しんでいた。


 そして、闘争本能の高まりにより、


「「剛煌弾!」」


お互い奥義を使い始め、放たれた気弾は、ぶつかり合い打ち消し合う。

更に、鳳介の異形の手は奥義を発射する際に、

僅かに変化し、掌に銃口の様なものが出現していた。

既に異形化している手の事もあって、達也は戦いの中、一旦、間合いを取りつつも、


「君の言う技が歪んでいるというのは、その変化する腕の事かい?」


鳳介は、戦いの興奮故か息は荒いものの静かな口調で、


「はい……でも、まだ序の口です……」


と言った後、


「巨人拳!」


との掛け声とともに、正拳突きをすると、異形の腕は巨大化した。


「!」


達也は、僅かに驚いたような表情を浮かべる。巨人拳と言うのは、煌月流の奥義で、気の力で攻撃力だけでなく、攻撃範囲を変更できるというもの。

その際に、見た目的には、変化はない。そう修一のイーブンに似ている。

ともかく、腕が実際に大きくなるわけじゃない。


 そして腕を引くと、異形のままではあるが大きさは元に戻った。


「巨人脚を使えば、足が大きくなりますし、鉄壁の型を使えば、

全身が鎧のようになり、瓦烈斬を使えば、手はナイフのようになります」


と説明する。すると達也は、諭すように


「大事なのは、見た目じゃないよ。確かに、見た目は異質だ。

でも君が繰り出す技には、ちゃんと心がこもっている。

君は武術に、本気で取り組み、身に着けたんだろ。

君の技からは、それが滲み出ている」


と言った後、


「見た目はどうあれ、君の技は立派だ。誇るべきだと思うよ」


と断言した。すると鳳介は嬉しそうに


「ありがとうございます……」


と言った。


 そして達也は


「それじゃあ、続きをしようか」

「はい!」


二人の闘いは、再開される。拳や蹴りのぶつかり合いが、

より激しくなっていくのであるが、もちろん奥義もぶつかり合う。


「「風刃剛煌弾!」」


互いに風を纏った気弾が放たれ、ぶつかり合い打ち消し合う。


「「爆電蹴!」」


雷を纏いし蹴りがぶつかり合う、鳳介の場合は、発動の際、

足が異形に変化するが、先の腕の事もあってか達也は驚くことは無い。


「「爆炎拳!」」


炎を纏いし、拳が衝突し合う。もちろん鳳介の腕は僅かに変化する。


 なおここまで、同じ技がぶつかり合っているが、

それは偶然であり、この後は再び鳳介が、爆電蹴を使ったかと思うと

達也は、それを回避し、


「豪風脚!」


風を纏って蹴りを叩きこむ。


「くっ!」


胴体に攻撃を受けつつも、耐える鳳介。そして


「風刃拳!」


風を纏いし拳によるカウンターを食らわせる。


「!」


達也は、攻撃を受けつつ間合いを取り、


「剛煌弾!」


と気弾による攻撃。鳳介も今回は、迎撃と言う形なので、


「剛煌弾!」


とワンテンポ遅れる形で放ち、お互いの気弾がぶつかり合った。








 この様子を見ている修一は、


(ますます激しくなってきたな……)


そう気弾を打ち消し合った後、二人は、再度接近し、

拳、又は蹴りが、激しくぶつかり合う。

先ほどから感じている暑さは、さらに強くなっているように思えた。


(正に、熱い戦いだな。こっちまで興奮してくるな……

それにしても達也さん、加減が効かなくなってるな)


戦いが激化していくに連れて、徐々に鳳介が押されていった。

最初こそ、達也は相手に合わせて、手加減していたのだろうが、

闘争本能の高まり故に、出来なくなってきているようだった。


 そして達也は、


「剛煌連拳!」


気力で威力と素早さを強化された拳でパンチラッシュを繰り出す。

一方の鳳介は


「剛煌大乱舞!」


同じく、気力で威力と素早さを強化し、こっちは拳に、

蹴りも加わっていて、技としては、剛煌連拳よりも上の技である。


 達也のパンチラッシュと、鳳介のパンチだけでなく、

キックも加えた乱舞がぶつかり合う。そして拳と拳、又は拳と蹴りがぶつかる度に、轟音がして、更に周囲に衝撃波をまき散らし、


「くっ……」


思わず修一も、両腕を交差させる体勢で防御態勢を取る。


「ホント……激しいな……」


なお先も述べたとおり、鳳介の使う技の方が一つ上の、

強力な奥義であるのだが、一方の達也は一つ下の、

不利な奥義を使っているにもかかわらず、

最初は渡り合い、やがては、追い詰めていった。

弱い奥義が、強い奥義を凌駕していく、それだけ達也の方が強いと言う事である。


 そして、パンチラッシュと乱舞のぶつかり合いの後、

照らし合わせたわけではないのに


「「雷撃拳!」」


同じ技が発動、雷を纏いし拳、それがぶつかり合って、

「バツバチバチ……」という大きな音を立て、

周囲に電撃をまき散らす。


「危ね!」


と思わず声を上げ、後ずさる修一。なお衝撃波は通したが、

雷は、見えない壁が阻み修一には届かないのだが、

彼はその事にすぐには気づかなかった。


 更に、


「爆炎拳!」

「極冷拳!」


鳳介の炎をまとった拳と達也の冷気を纏った拳がぶつかり合い

周囲に、炎と冷気をまき散らす。この時は、攻撃は見えない壁に阻まれて、

自分に影響がない事を修一は気づいていたから、

さっきとは違って、特にリアクションはしなかった。


 ただ熱さと寒さは、伝わってくるので、修一は熱いんだか寒いんだか、

訳が分からない感じを味わったが、

達也と鳳介の戦いに見とれていたので特に気にならない様子である。

とにかく、二人の激しい戦いに、見とれているようだった。


 そして、


「「爆発掌底!」」


二人の掌底突きが、ぶつかり合うと爆発が起きて、

互いに吹っ飛ぶも、お互い空中で体勢を立て直し、


「烈火剛煌弾!」

「極冷剛煌弾!」


鳳介が撃つ炎の気弾に、達也が冷気の気弾で迎撃し、

爆発とともに、地面はえぐれ、またしても周囲に炎と冷気がまき散らされる。


「雷撃剛煌弾!」

「豪裂剛煌弾!」


鳳介の雷の気弾に対し、達也は強力なだけの気弾で応戦。

二つの気弾は、ぶつかり合い、雷を伴う爆発を起こしながら消滅する。


 そしてこの後は、様々な気弾の撃ち合いを行い、

すべてぶつかり合い、打ち消し合った後、

再び、接近し、しばしの間、拳と蹴りが交差し合い、

そして、


「豪風脚!」

「爆電蹴!」


達也による、風の足技の奥義と、鳳介による雷の足技の奥義がぶつかり合い、

風と雷をまき散らす、雷は見えない壁が阻むものの、

風は、通してくるので、砂埃が上がり、修一は手で顔を覆い、それを防いだ。


 そして風が収まり、手をどけると、二人は間合い取っていた。


「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」」


二人とも、息が上がってたが、達也よりも、

鳳介が、明らかに疲弊しているようで、

状況は不利のようだったが、しかし鳳介は、悔しそうではなく、

口元には笑みを浮かべ、


「さすが、達也師……思った通り御強いですね……」


と嬉しそうである。

そして達也も、息が上がりつつも、笑みを浮かべながら


「鳳介君だって、十分強いよ。僕の技なんかより、

心のこもった立派な煌月の技だよ」


嬉しそうに言った。


 達也の言葉に、鳳介もまた嬉しそうに、


「ありがとうございます」


と言った後、


「達也師、撃滅剛煌破、使えますよね?」


すると、達也は険しい表情を浮かべて、


「まさか、鳳介君……」

「俺も使えます。そして今、撃てます。達也師は?」


すると、困ったような顔で、


「撃てるけど、でも、あれは……」


鳳介は、達也を真っ直ぐと見たまま


「ここは、仮想空間です。遠慮は必要ありません」


キッパリと言う。


 ここで、二人のにやり取りが気になった修一が、


「おい、なんだその『撃滅剛煌破』って、

名前からして、なんかやばそうなんだが……」


すると、達也が


「自身の気力を収束させ、前方に向かって、放出するっていう技だけど、

威力が強くて、煌月流、『真の奥義』の中でも、禁じ手とされてるんだよ」


と言うので、修一は血相を変えて


「おい、そんな技使ってもいいのかよ!」


と声を上げるが、


「ここは、仮想空間だ。問題はないはずだ……」


といわれ、


「確かにそうだけどな……」


修一は不安気な顔をした。今、達也の事といい、

本来は持ち込めないものが、持ち込まれているといい、

普通じゃない状況が、重なった状況である。

ここで変に無茶な事をして、余計に変な事を誘発させないか、不安を感じていた。


 だが、それと同時に、修一の病気である好奇心が出てきて、


(でも、禁じ手と言うだけだから、すごい技なんだろうな。見てみたい……)


という思いも抱いた。それ以前に見えない壁があるから、

まあ、イーブンを使えば、壊せなくもないが、

直ぐに壊せそうに無いので、今すぐに止めることができないのであるが。


 そして鳳介は


「禁じ手とは言え、俺の全力を撃ち出せる技、最後はこれで決めたいんです」


彼は、真っ直ぐな目で訴えるように言う。それに対し達也は、


「まあ、仮想空間だし」


と言いつつも、


「君の全力を僕も、受け止めよう。

だけど、君も僕の全力、受け止めてくれるよね」

「はい……」


そして二人は、決意に満ちた表情を浮かべると、更に間合いを取る。


 二人は、互いに向かい合うと、お互いに両手を向けた。

そして双方、両手の間に光が収束始める。

なお鳳介の方は、光が収束し始める前に、

既に変化していた手が、より異形にと言うか、

大きく、よりグロテスクなものに変化するが、

ただ、この場にいる者は、もう慣れているので、

その事に反応を示す者はいない。


 そして光は、徐々に強くなっていき、「バチバチ」

という音と共に電撃のようなものが走ったり、

周囲に風のような物を起こしつつ、周囲の地面に振動が起き

更には地割れが起きる。それを見ている修一は、


(見るからにすごそうな技が出そうだ……)


とそんな事を思った。

なお余談であるが、これらは、完全な状況で技を使う時に起きることで、

不完全な場合は、光の収束だけにとどまる。

そして、時間が経つにつれ、この現象は激しさを増す。


 やがて、輝きが最高潮に達し、周囲に電撃が散らばり、

風は、強風へと変わり、地割れは陥没になるころ、二人は同時に


「「撃滅剛煌破!」」


と声を上げる。二人の両手から、強烈な光が放出される。


(こいつは、光の濁流だ!)


と思う修一。


 二人の放った光の濁流は、轟音と共に、周囲に閃光と電撃、

衝撃波を放ちながら、激しくぶつかり合い、地面も激しく揺れる。

見えない壁のお陰で、修一は、安全ではあるが、

まばゆい光で、前は見えないし、轟音で耳は痛く、

衝撃波は強風として伝わり、更に足元は揺れる。

完全に無事とは言えず、何は起きているか分からない状況になる。


 やがて、ひときわ眩い閃光と、轟音に、

強力な突風と、揺れが襲ってきて、


「うわっ!」


思わず、修一は転んでしまうが、揺れの所為でうまく立ち上げれない。

やがて揺れが収まり、立ち上がれるようになった時には、閃光も消え、

轟音、風も収まっていた。ただ砂ぼこりで、前が見えない状態。

やがて、それも収まると地面に鳳介が倒れていた。


「煌月!」


思わず駆けつける修一、鳳介の方に意識が行って気づいていないが、

見えない壁はなくなっていた。それはイベントの完了を意味していて、

結局、状況を確認できた時には、すべてが終わっていたのであった。

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