16「準備完了」

 ゲームの中で、ユウトこと修一が、達也と出会って

少し経った頃、鳳介は再現クエストをこなし、

ついには、達也との対戦イベントできる条件を満たした。

クエストから戻ってきた際にユウトは、


「後は、達也さんと会って、勝負を申し込めばいいよ。

でもイベントは一回きり、勝っても負けても、そこまでだからね」


とユウトは説明する。これは間違いではなく確かな話だ。

普通の状況ならと言う注意書きが付くが、難色は示していたようだが、

まあ手合わせをしてくれるようではあった。


 ただ、あの日以降、達也とは会っていないし、

鳳介も、条件を満たしたにもかかわらず、その日以来、

ゲームにログインすることは無かった。ある日の昼休み、

修一は、鳳介、秋人と一緒に屋上で、昼食を食べていて。

今日の昼食であるお手製の爆弾おにぎりを齧りながら、


「なあ、いつになったら達也さんと戦うんだ?」


と訪ねた。なお鳳介が達也と戦う時は、その様子を見守りたいので、

その時は、誘ってくれるように頼んでいた。


「いざ、その時が来るとちょっと、それに挑戦は後にも先にも、

一回だけなんだろ。だから準備がいるというか」


確かに、準備を万全にする必要はあるのは確かであるが。


「いや正直、迷ってる。相手が本物の達也師ならば、

やっぱり煌月流で勝負がしたい」


ここで、秋人が。


「でも、それは出来ないことだよ。NVRLIMIは超技能を、

ゲーム内に持ち込めなんだから」

「それは判ってる……それに俺の技で、達也師と戦うのは失礼だとも、

それでも……」


ここで修一は、鳳介の言葉か気になって、


「ちょっと待て、何で失礼なんだ?」


と尋ねた。


 すると、暗い顔をする鳳介。すると秋人は、事情を分かっているようで、


「その事は、聞いてあげないで」


と修一に言う。当の修一も、鳳介の様子から聞いてはいけないという事は、

分かった。しかし鳳介は、修一の顔をじっと見て、


「桜井には、色々世話になったからな。話すよ」


と言って、事情を話し始めた。


「俺の能力は、木之瀬蘭子と同じミューティーションなのは、以前話したよな」


確かに会って間もない頃に、修一は、そんな話を聞いていた。


「実は、俺は能力不安定障害なんだ」


修一は、初めて聞いた言葉だが、名前から見て、どんなものが想像はついた。


「初耳だけど、超能力が暴走する的な事か」


ここで秋人が、


「その通りだよ。原因は不明だけど、超能力者に時折、見られる障害」


根本的な治療は不可能だが、薬や特殊な装置等で改善することはできる。


「その改善に、俺は煌月流を利用してるんだ」


 そう能力不安定障害には、スポーツをするというのがあり、

運動を通して能力をコントロールするやり方で、

それに超技能である煌月流で行っているのである


「その所為で、俺の技は、能力と連動していて、おかしいんだ」

「おかしい?」

「まあ、ゲームで使ってるアーツに似てるが、煌月流としては、

醜いというか邪道と言うか、とにかく煌月流の名を汚しかねない」

「あれが醜いねぇ……」


修一は実物を見たわけじゃないが、何とも言えなかったが、

似ているとされるゲーム中のアーツは見たことがある。


「俺は、そうは思わないけどな」


と修一が言うと、


「あくまでも、煌月流として見たら話しだ……」


と険しい顔で言う鳳介。ここで、秋人が


「僕は、気にしすぎだと思うな。綾香さんも、他の門下生の人たちだって、

気にしてないと思うし……」

「俺は気になるんだ!」


ムキになったように言い。


「とにかく、俺の技は達也師に、見せられたものじゃない。

でも、俺の技で戦いたいんだよな」


と悩ましげにする鳳介。


 彼の技の事は、置いておくとして、

そもそも、ゲーム内に超技能を持ち込めないので、

悩むだけ無駄なわけであるが、それよりも、


「じっくり悩んで答えを出すのも、良い事だけど、

時間がないかもしれない」

「どういうことだ?」


ここで、修一は手にしていたおにぎりを平らげると、


「達也さんが、過去からこの世界に来ているというこの状況は、

いつまでも続くとは思えない。突然、現れたように、

突如として、二度と現れなくなるかもしれない」

「!」


その言葉に、大きく目を見開く鳳介。秋人も


「それは、言えてるね。この状況は奇跡みたいなものだから、長くは続かないよ」


と修一に同意するように言った。


「とにかく千載一遇なんだろ。とにかく早く決めた方がいい」


と修一は、急かすように言い、鳳介は


「分かった」


とだけ言って、その後は、黙り込んでしまって、食事を食べ終わると、

どこかに行ってしまった。


 ちょうど、その日、家に帰るとCTWの運営から、

全ユーザー宛のメールが来ていた。


「メンテナンスのお知らせか……」


一週間後、大規模なメンテナンスを行うので、

当日は、朝の8時から夕方5時まで、ログインできなくなるとと言う。

これ自体は、年に1、2回はある事。普段の修一なら、

さほど気にする事ではなかったが、今回は、少し違っていた。


(もしかしたら、達也さんと会えなくなるんじゃ)


メンテナンスの後、システムの大規模アップデートがあって、

仕様変更されることは良くある話。

もしかしたら、その影響で達也が、来られなくなるかもしれない。


 修一は、別に達也と会えなくなっても、なんてことはないが、

鳳介の事を考えると、どうも気になってしまった。

思わず携帯電話を手にし、鳳介に連絡を取ろうとして、ハッとなった。


(アイツの事を、追い詰めることにならないか)


学校で十分急かしている状況ではあるが、

ここに来て、追い詰めすぎて、おかしな事にならないか、不安になった。

そんな事を考えてると


「修一?」

「うわっ!」


突然、声を掛けられて驚く修一、


「母さん……」


振り返ると部屋の入り口に功美の姿があった。昨日から彼女は家にいるのである。


「そんなに驚かなくても」


笑いながら言う彼女に、


「急に声をかけてくるから……」


と言う修一。


「それより、夕食出来てるわよ」

「わかったよ」


そしてリビングに向かう修一。


 功美と修一は、二人きりで、向かい合って、食事をする、

その日は、春奈たちのお泊り以来で、珍しく功美が夕飯を作っていた。

献立は、煮込みハンバーグで、チェダーチーズのせ。

味は、美味しかった。


「なんだか、母さんと二人きりで食事って、久々だね」


この街に来てから、功美と一緒に食事と言うのはあるが、

必ず他にも誰かいた。特に蒼穹とかであるが。


「今日も蒼穹ちゃんたちを誘おうとしたんだけど

先約があったみたいなの」


なお蒼穹は、外食で今は出かけているとの事。


 そして食事をしながら、


「最近、どうNVRLIMIの方は?楽しんでる?」


彼女は、修一がNVRLIMIを購入したことも、

それで、CTWを遊んでいることも、知っている。


「まあ、楽しんではいるけど……」


達也の事は、内緒にしつつも、鳳介の事を話した。


「鳳介君は、踏ん切りがつかないわけか」

「まあ、俺がどうこういう事じゃないと思うんだけど、

これまで手伝ってきた事もあるし」


それに、願ってもない状況を逃して、

後々がっかりしている姿を見るのも忍びないという事もある。


 話を聞いた功美は、


「実は私ね、NVRLIMIのPR活動に関わっているのよ」

「そうなんだ」


功美の仕事は、メディアプランナーであるから、

おかしい事じゃない。


「具体的な内容は言えないけど、ただ、PRに関わる関係上、

開発者に会う機会があってね。その時、聞いたんだけど、

スキャニング装置はオミットしてるのに、稀に力を持ち込むことができるそうなの」

「なんで?」

「原因は不明よ。あと力だけじゃなくて見た目も反映されるみたいね」


と言ったのち、


「超能力者や魔法使い、超技能使いじゃないと

関係ない事だし、稀にしか発生しないから、この事は伏せとくみたいね」

「いいのかな、後々変なトラブルなったりは」


すると功美は、笑いながら、


「大丈夫、大丈夫」


と言うだけであったが、


「まあ、鳳介君が、その稀なケースに当たったら、

すぐ行動に移すんじゃないかな」

「まあ、そうかもしれないけど……」


NVRLIMIは、ここまでであったか、その瞬間は、三日後に訪れるのであった。


 その日、修一のもとに、鳳介から、ショートメールが送られて来た。

これから達也と手合わせをするという。

メールが来たとき、修一は、録画していた深夜アニメを見ていた。


(随分急な話だな)


そう思いつつも、NVRLIMIを用意して、ログインした。

そして、ドラゴス商会の事務所に行った。

着くと、鳳介と達也の姿があったが、鳳介の方は違和感がした。


 更に達也から、


「君は、ユウト君なのか?気配は一緒だけど……」


と怪訝な顔で、妙な事を言われた。更に鳳介、


「なんでお前、現実と同じ姿をしてるんだ」

「えっ!」


この時、ユウトの姿ではなく、本来の修一の姿をしていた。


 鳳介も、普段から現実と変わらない姿だから、

直ぐには気づかなかったが、彼は普段、ゲーム内では、異形の四肢以外は、

未だ簡単な装備で、村人Aと言う感じのモブのような格好をしているが。

この時は、異形の四肢は、身に着けてなくて、

半袖シャツとジーンズと言う格好で、明らかに普段の私服のような格好だった。


「もしかして、お前もゲーム内に、現実の力を持ち込めてるのか?」


鳳介は今日、ソロで、軽くレベル上げをするつもりでログインしたら、

現実と同じ服装で、ログインできており、その上、体の感触が普段と違っていて、

より現実世界に近い感じがしたので、軽く奥義を使って、

自分が、ゲーム内に煌月流を持ち込めていることに気づいたという。

そして事務所に達也がいる事を知り、声をかけて、

更に修一からの頼みもあって、彼に連絡を取った。


 話を聞いた達也は、状況を理解し、


「なるほど、ユウト君の現実世界の姿なんだね。

ところで、君の本当の名前は?」


と聞かれ


「桜井修一です」


思わず答えていた。


 そして、功美の話を思い出し、


(まさか、母さんの言っていたまれなケースって奴か)


話を聞いたばかりで、しかも鳳介だけでなく、

修一自身にも起きているという事だった。


(なんだか出来すぎだな)


と修一は思う。


 妙な状況が起きているが、お構いなしと言う感じで鳳介は、


「達也師、煌月流の使い手なんです」


と言うと、


「知ってるよ」


と答え、何故か修一から聞いたという事は、話さなかったたし

鳳介も聞くことはなく、


「手合わせ願いします」


と目を輝かせながら、勝負を申し込む。その様子に、困ったような顔をしつつも、


「わかったよ……」


と申し込みを受け入れる達也。すると転移ゲートが出現した。

おそらく戦いの場へと繋がっていると思われる。

ともかく、鳳介の念願である。達也との対戦が始まろうとしていた。


 








 修一が功美と話した翌日、修一と鳳介が、それぞれの家で、

ちょうど二人が学校に行っている間、二人のNVRLIMIを何者かが持っていき、

帰ってくる前に元の場所に戻していた。

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