15「達也と会う」

 あれから、再現クエストが続いた。次にやったのは「達也暗殺計画」、

クエストは前後編となっていて、前編はファスティリアで、

次々と襲ってくる暗殺者を倒していくという内容。

実際、煌月達也が、敵対商会から狙われていた時の再現である。

後編は舞台を洞窟に移し、獣人の考古学者を守って、盗賊や刺客と戦う。

他のクエストとは違い、前編終了後、即後編を始めることができる。

そして前後編両方をクリアしないと、クリア扱いにならない。


 これ自体は、強くないNPCを相手にするので、一見簡単なクエストであるが、

初見で完全攻略した人間は、少ないクエストだった。特に前編は攻略できても、

後編で失敗する。しかも敵に倒された訳じゃない。初見殺しな所がある。


 ユウトこと修一は、このクエスト自体は、先のダゴンのクエストに比べれば、

楽なので、


(こっちを先にした方が、良かったんじゃないか)


と思いつつも、前編をつつがなく終えた鳳介に、

ドラゴス商会の事務所にて、後編開始前に攻略方法を告げる。


「後編の攻略は、変則的だから、まず盗賊たちは、

適当に倒しちゃってもいいけど、

次に刺客として現れる5人の少年少女たちには、手を出しちゃだめだよ」

「じゃあ、どうすれば?」

「洞窟内の谷に飛び降りるように言ってくるから、

その言葉に従って、飛び降りて、無事着地するんだ」


初見では大抵のプレイヤーは、ここで5人を倒してしまい、失敗となる。

ここは谷に飛び降りるのが正解。だが無事着地する術を用意しないと、

転落死となりクエストは、失敗に終わる。


「魔法やマジックアイテム、魔機神の使用はだめらしいよ。

武器に付与されているスキルとかなら問題ないけどね」


ただ、ここを乗り切れば、もう後は簡単との事。


 話を聞いた鳳介は、


「分かった……」


とだけ言って、そのまま挑戦しに行ってしまった。ユウトも立ち会う。

そして、考古学者を守りつつ、盗賊たちを倒した後、

刺客として、5人の少年少女、ダンテス一家が現れる。

そして促されるままに鳳介は、飛び降りた。


 このクエストの参加者じゃないので、様子を見る事しかできないユウトは、


(うまく着地できたか?)


ゲームとは言え、仮想現実故の生々しさ、

おかしなことが起きておる現状からの不安もある。


(様子を見に行くか……)


魔機神キュウビを取り出し、飛行形態、戦闘機のような形態に変形させる。

ちなみにこの形態は、ホバリング飛行ができる。

これを使って、谷底へと向かっていく。

ユウトはクエストの参加者じゃなく、見学者なので、手助けはできないが、

魔機神で谷底に降りても問題はない。


 谷底に降りて、キュウビから出ると、機体を、再びアイテムボックスにしまう

なおゲームゆえに谷底は照明がないのに、薄暗くはあるが明かりはあった。

そしてユウトが進んでいくと、無事な鳳介とその横には黒いスーツを着て、

ブロンドでストレートの長髪の美人がいた。


(彼女が、魔機神アトラナートことアトラナだな)


魔機神が人間、正確にはガイノイドに変身している姿で、

本来の魔機神アトラナートは、

アラクネ型のつまり上半身は女性型、下半身は蜘蛛型のロボである。


 鳳介の姿を確認したユウトは


「大丈夫みたいだね……」


と安堵しつつも、


「でも、どうやって?」


どういう手を使うかは、聞いていなかった。


「そういや言ってなかったな……」


「異形の四肢」で両手両足をクッションのようなものにして、

全身を覆い、落下時の衝撃を和らげたと言う。

しかし、完全に無事ではなく、少々ダメージはあったが、

死には至らなかった。


 話を聞いたユウトは


「とにかく無事でよかった」


と安堵した様子で言った後、鳳介は


「後は、どうするんだ?彼女が付いてくると言ってるんだが」

「この後はね、彼女と上を目指すんだ。ここから先に上へと向かえる

通路があるよ。途中魔獣の巣を通ることになるけど

アトラナートがいるし、そんなに難しくはないらしいよ」


とユウトは説明した。


 実際、この後は、途中、巨大魔獣と戦う事はあったが、

アトラナートがいるという事もあるからか、

特に苦戦することはなく、敵を倒しながら、進んでいき、

地上へと上がり、クエストは完了した。魔機神アトラナートも入手した。


 このように、鳳介は、再現クエストは順調にこなしていった。

そんなある日の事、この日はユウトこと修一は、

一人でゲームにログインしていた。なお鳳介は用事があって遅れてくる。

そして、ファスティリアをうろついて時間をつぶしていたが、


「やあ、ユウト君、今日は一人かい?」

「達也さん……」


街中で達也とばったり、会ったのである。


「今日は、鳳介君?」

「後から、来ますよ」


と答える。


 さて達也と会ったユウトこと修一は、病気である好奇心が出てきて、

ウズウズしてきたのと、同時に、ある懸念もあって尋ねた


「貴方は、ここを夢の世界だと思っていますよね?」

「!」


ユウトの一言に、表情に変化が現れた。返答を待つまでもなく、

図星の様な気がした。


「ここは貴方がいた時代よりも、未来のゲームの世界なんです」


ユウトは、魔機神チックタックの事を説明しつつ、仮説としながらも、

その力によって、達也が寝ている間に意識が、

このゲームの世界に飛ばされている事を説明する。

もちろん、ここがファンタテーラではなく、

達也がかつて暮らしていた世界のゲームの世界であることも話す。


「ゲームとは言うけど、どんなゲームなんだい?」


と聞いてきたので、ゲームのタイトルや、詳細、

更には再現クエストの事も話した。


「『カオスティック・ザ・ ワールド』か、僕も知ってるよ。

あのネトゲー、まだ続いてるんだね」


と言いつつも、


「それにしても、荒唐無稽な話だけど、どこかしっくりくる部分もあるよ」

「そうなんですか……」

「ここでは、僕の見知った人たちが、みんな魂がないと言うか、

まるで人形みたいなんだ」


ゲーム内では、煌月達也だけでなく、

ドラゴス商会の主人である女性、レナ・リリクスを含め、

達也の周辺の人間もNPCとして再現されている。

この事も、ゲームの詳細を説明する際に、達也に話していて、


「確かにNPCなら、納得がいく、そして君たちの事も……」


達也は、ユウトや鳳介を含め、見知らぬ人間たちの方が

血の通った人間の様に感じるのだと言う。


「君たちがPCと言うなら、納得がいくよ」


更に、魔機神チックタックの事はわからないとしつつも


「夢はちょうど、露店で、金時計を手に入れたから、見るようになった。

あれが、そのチックタックのリモコンだとしたら」


既に達也とチックタックとの繋がりが、できているようだった。


「でも、何で、チックタックっていう、魔機神がこんな事を」

「それに関しては、分かりません。単なる気まぐれで

理由なんてないのかもしてません」


釈然としない部分はあるものの、

達也は、寝ている間、自分の意識が未来のゲームの世界に飛ばされていることを、

信じたようだった。


 そして達也は、


「しかし仮想現実でゲームとは、未来はすごい事になってるんだね」


と感心したように言いつつも、


「でも、未来の事は聞いちゃいけないよね。僕の所為で

歴史が変わって、君たちに迷惑を掛けちゃいけないから……」


と達也は、どこか残念そう言う。


 そんな彼に、ユウトは、ある意味本題となることを話す。


「この先、鳳介君から、勝負の申し入れがあるかもしれませんが

その時は、受けてあげてくれませんか?」

「そう言えば、前も手合わせしてほしいって言ってたね」

「実はですね……」


ユウトは達也に、ゲーム上のイベントである達也との対戦の事を話しつつ、


「今のあなたは、恐らくゲームシステムから、外れた存在です。

だから、イベントの条件を満たしたとしても、拒むことができる気がして」

「確かに、この世界にいる間、何かに縛られてるって、感じはないね」

「彼は、貴方との対戦を楽しみに、頑張ってるんです。だからお願いします」

「まあ、手合わせくらい別にいいけど、でもどうして僕と戦いたいんだい?」


と尋ねられたユウトは


「憧れだからじゃないでしょうか。同じ煌月流の使い手として……」


すると達也は、驚いたように、


「えっ、彼、煌月流の使い手なの?」


と言ったので、ユウトは思わず口を押えた。

リアルの話は、しちゃいけないと思っていたが、つい口が滑ってしまった。


「確かに構えとかは、基本の動きは一緒だったけど、

でもコンボアスの戦いで見た技は全く違ってた」


と疑問を呈するが、ユウトは、


「もちろん現実での話で、ゲーム中では違うんです」


と言い、現実世界から体術はゲーム中に持ち込めるが、

奥義の類は、持ち込め無いことは話した。


 すると達也は、


「じゃあ普段の彼は、『真の奥義』が使えるんだ」


感心しているようなので、事を大げさに捉えられては、いけないと思い。


「昔とは違って、今は山奥に行かなくとも、習得できるらしいですよ。

だから彼以外にも、使い手は多くいるんです」

「そうなんだ。それはそれですごい事になってるね」


とやはり感心しているようだった。同時に何処か納得したように


「実はさあ、夢の中、と言うかゲームの中なんだっけ、

そこで初めて会って人間が、君たちだからという事もあるんだけど

特に鳳介君が気になってたんだ。多分同じ流派だったからだね。

その妙に引き合うところがあるというか」

「そういう物なんですか……」


ユウトは半信半疑な様に言う。


 そして達也は、気まずそうにしながら、


「でも同じ流派だと、気まずいかな……」

「えっ!」

「もちろん、手合わせはするよ。ただ僕がやりづらいだけさ」


と言った後、


「未来じゃ、僕の事がどう伝わっているかは分からないけど、

僕は道楽と言うか、遊びの延長で武術をやってからね。

鳳介君は、まじめに取り組んでいるんだろうから、

そう言う人間と勝負するのは、気が引けるというかね」

「はぁ……」

「もちろん、頼まれたら勝負を受け入れるつもりだよ」


と達也は言うものの、見るからに気まずそうにしていた。


 そうこうしていると、達也の体が薄れ始めた。


「目覚めの時間だね」

「では、良い一日を」


とユウトは言い。文字盤が現れ、達也は消えた。


 鳳介が、現れたのは、ちょうどいなくなった直後である

この後は、再現クエストへと向かった。ユウトこと修一は、

達也と会った事と、勝負について、受けると言いつつも、

難色を示していたことは黙っていた。

会った事は言ってもいいとは思ったが、言ったら後者の事が、

隠しきれないような気がしたからだ。

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