13「時を超えて?」

 鳳介の家から、帰って来た修一は、

綾香の言っていた、浮かび上がった時計の様なものが気になっていた。

そこで、NVRLIMIとUMPCをUSBで接続する。


 NVRLIMIには、一定期間であるがゲーム内で見聞きしたものを、

映像として記録されている。それはパソコンやスマホで見ることが出来る他、

パソコンを介し、ハードディスクなどの記憶媒体に残しておくことができる。

これらの映像はプレイ動画配信に使ってもいいらしい。


 修一は、映像記録の達也が消える瞬間の場面をUMPCに移した。

運営の調査では、分からないという事だったが、


(もしかしたら、雨宮さんだったら……)


一応、大魔導士と言う雨宮ショウに聞いたかどうかは、分からないので、

映像データを見せて、聞いて見ようと思ったのである。

もちろん、口止めされているわけだから詳しい話はせず、

この時計の様なものが、何かわかるかを聞くことにしていた。


(この時計は、俺たちが実際に見たもので、あの人が話したことじゃないから

第三者に話してもいいよな……)


修一は、思っていた。ただし既に聞いた後だったり、それ以前に、

聞いたところで分からないかもしれないわけであるが。


 しかし、雨宮ショウ話を聞くまでもなかった。翌日、学校に行って、


「昨日どうだった?」


と聞かれた。もちろん口止めされていたわけだから、


「詳しい話はちょっとな」


と言いつつも、達也が消える瞬間の映像を、普段から持ち歩いているUMPCを

カバンから出して、秋人に見せた。



「これは、俺が見たゲーム中の映像なんだけど」


時計のようなものを指さしながら、


「これが関わってるかもしれないんだ」


ちょっとした話の種のつもりだった。だが秋人は目を大きく見開いて、


「もしかしてこれは……」

「何か知っているのか?」

「うん……でも確認の必要があるから、学校に終わってから

図書館に行こう」


そして放課後、鳳介も誘って図書館に行くことになった。


 鳳介は、部活をしていないのと、修一は部活の日だったが、

秋人が、大会が近いから、遅くまで部活なので、

帰る時間は異なるが、二人はいったん家に帰って、

その後、部活が終わり下校する秋人と合流して、図書館へと向かった。


 S市の図書館は、大きいうえに夜の9時まで開いている。

図書館に入ると、修一たちは秋人の案内の元、異世界関係の本の棚へと向かう。


「確か、この辺に……あったよ……」


図書館では、静かにしなければいけないので、小声で言い、

見つけてきたのは古そうな本で、タイトルは「魔機神大全」とあった。


「同じ、名前の本を見たことがあるな」


と修一が言うと、


「それとは、別物。この本は、自費出版であまり出回っていない」


内容は、魔機神について書かれた本で、ゲート事件から、

あまり経っていない頃に、出版されていた。


 三人は閲覧席に移動し、秋人は本をめくりながら、


「電子化もしてないし、あと僕の知る限りこの本が現存するのは、

国立国会図書館と、ここと……」


少しの間言葉を詰まらせた後


「……マギウス学園だけだと思う」


と低めの声で言ったのち、お目当てのページを見つけたようで、

そして元の声に戻りながらも


「あった、あった」


と言って、二人に、そのページを見せた。


 そこにはとある魔機神の事が書かれていた。


「魔機神チックタック?」


ページには絵も載っていて、人型で、細身な体系のロボット、

節々に歯車の様なものがあり、ブリキのような装甲をしていて、

スチームパンク的なものもある。そして頭部が時計の文字盤になっていて、

胸にも大きな文字盤、手足にも時計のような物が付いている。


「全身、時計だらけだな」


本によると、チックタックは、完全自立起動型で、

一応リモコンを持つ者に、仕えるものの、

神出鬼没で普段はどこにいるか分からないとの事。


「野良魔機神の様に、暴走してる訳じゃないんだよね。

あと他の魔機神との連動機能もあって、魔機神の武器になったり

時には合体したりもするらしいよ」


と言う秋人。あとリモコンの絵も描かれているが


「リモコンっていうより懐中時計だな」


と言う感想を抱く修一。


 ただ、秋人が本当に見せたかったのは、


「ここを見て」


指し示したところには、時計の文字盤の絵が描かれていた。

チックタックの最大の特徴は、時を操る事。

時を止めたり、巻き戻したり、早めたり、

そもそも神出鬼没なのも、時を超えているからだと言われている。

そして時を操るときに、この文字盤の様なものが浮かび上がると言う。


「これは……」


と修一は声を上げ、鳳介は無言で、驚いているような表情を見せる。

その文字盤は達也が消えるときに、浮かび上がったものによく似ていた。


 更に秋人は、


「似てるでしょ、それとここ見て」


そこに掛かれている記載では、

チックタックの確認できる最後の主人は、達也だと言う。


「それじゃあ、今回の事は、このチックタックの所為だった事か」


と修一が言うと、


「あくまで、可能性だけどね」


秋人は言うが、文字盤といい、達也が主人と言う事もあって、

それはかなり濃厚なものであった。


 ここで、鳳介が


「そのチックタックが、関わっているとして、何が起きてるんだ?」


と聞くと秋人は悩まし気に


「その辺はちょっとね。僕は関連性があるんじゃないかって、

思うだけで、何が起きてるかまでは、ちょっと……」


言うが、修一は、達也の言動から、


「達也さんは、自分が夢を見ていると思ってるみたいだから、

そのチックタックが寝ている間の意識を、

時を超えてゲームの中に飛ばしてるんじゃないか」


その意識は、NPCの達也に宿っている。つまりゲーム内の達也は、

本物の達也と言っても過言ではない。


「時どころか、世界も超えちゃってるけどね。

まあ、僕には何とも言えないけど、

そもそも、チックタック自体、謎の多い魔機神だし……」


ここで鳳介は、


「だとして、なぜこんな事を?」


と疑問を呈す。すると修一が、


「神出鬼没で、普段、何やってるか分からないような奴だから、

案外理由なんて、無いのかもしれない」


と言った。


 そして、今度は修一が、


「それにしても、専門家が見ても分からなかったってのが、

どうも気になるな」


秋人に


「えっ、そうなの?」


と言われ、言ってはいけないことを言ったと思い、

思わず手で口をふさぐ修一だったが、言ってしまったものは仕方なかったので、


「詳しくは言えんが、運営側も似たようなものを見てるんだ。

それで、魔法やら超科学の専門家にも、聞いたらしい」


すると秋人は


「超科学の専門家は専門外だし、魔法の専門家でも知らなかったと思うよ。

魔機神の書物をいくつか読んだことがあるけど、

チックタックに付いて書かれていたのは、この本だけだから、

それに、この本を初めて読んだのも偶然だしね」


図書館でも、この本は目立たない場所に置かれているので、

読んでいる人間も少なく、専門家でも知る人ぞ知る話だと言う事。


 ここで修一が、


「じゃあ、雨宮さんに聞いても分からなかったか」


と思わずつぶやくと秋人が、


「雨宮さんに聞くつもりだったの?」

「ああ」

「だったら、知ってると思うよ。あの人は、実在の煌月達也さんと、

親交があったから」


すると、鳳介が、


「そんな話も、聞いたことがある」


と思い出したかのように言うのだった。


 とりあえず目的の物は見たので本を戻し、図書館を出て、帰路につく三人。

道中、CTWの事を含め雑談していたのだが、途中話の種として秋人が、


「図書館には、大十字久美が寄贈した本が何冊かあるって噂があるんだ。

その中に、魔機神の本もあるって言われてて……」


と言い出したので、修一が、


「まさか、あの本が、それっていうじゃ……」

「もちろん可能性だよ。噂が本当か分からないし、

本当だとしても、魔機神の本は、あれだけじゃないしね」


ここで、どこかうんざりした顔で、


「あのさ、この街にとって、大十字久美って何なんだ。

ネットじゃ、各国の政府、反社会的勢力に至るまで、牛耳る

世界を陰で支配する女って事だけど」


この街に来るまで、修一にとっては都市伝説の陰謀論的なものと思っている。

そして修一の言葉に、表情が凍る二人。


「前にも言ったけど、大十字久美はこの街の裏の支配者。

この街の外から来た修一君には、実感はないだろうけど

街に生まれたものにとっては、大きな存在なんだ。

滅多なことは口にしない方がいいよ。もしかしたら消されるかも」


鳳介も、真剣な表情で頷く。


「恐ろしい話だな。でも、この街の出身の母さんは、

笑いながら、ただの都市伝説で、真に受けない方がいいって、

言ってたけどな」


 すると、二人とも驚いたような顔で


「あの人が、珍しいね……」


黙ってうなずく鳳介。二人の様子に


「そういうものなのか……」

 

釈然としないものを感じつつも、大十字久美の話題はここまでとした。


 そして、修一は鳳介に、


「これから、CTWどうする? 今のところは、問題はないけど、

まずい事が起きるかもしれないぞ」

「まずい事?」

「例えば、ゲームからログアウトできなくなったりとか」


秋人は、


「それって、ゲームと連動していた昔のアニメじゃない。

そういやラノベにも、そんな話があったような」

「そのラノベもアニメ化してるよ」


と修一は言いつつも、


「とにかく、何が起こるか分からない。しばらく控えておいた方がいいと思うが」


と鳳介に言い、秋人も


「確かに修一君の言う通り、しばらくゲームをやめておいた方がいいと思うよ」


と同調するが、鳳介の返事は


「いや、続ける。それにあの人が、本物の達也師なら、願ったりかなったりだ……」


と嬉しそうに言う。


 その返事に、


(まあ、そうだよな)


こうなるんじゃないかと、修一は思っていた。

そして、修一もまた病気である好奇心が出てきていたから、

鳳介に、控えるように言ったものの、自分はゲームを続ける気でいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る