12「達也の謎」
達也が消えた後、二人とも、しばらく立ち尽くしていたが、
「取り合えず、今日は帰る」
そう言って鳳介はログアウトした。ユウトこと修一も、
釈然としない気持ちを抱えながら、ログアウトした。
その後、修一はベッドから起き上がるとNVRLIMI外し、
そのまま机の前に座り、パソコンでネット掲示板、各種SNSを確認したところ、
やはり話題になっていた。鳳介たちと同じように、
ゲーム内で、ドラゴス商会に所属しているプレイヤー達からの、
「煌月達也の様子がおかしい」
と言う書き込みが、見られた。みんな修一と同じように、
達也がNPCとしては、おかしいと見ているらしい。
加えてこんな書き込みも、
「煌月達也は、まるで自分が夢の世界にいると、思い込んでいるみたいだ」
というもの。この書き込みを見て、修一も、そんな感じがした。
達也は夢がどうこう言っていたし、別れの時も「目覚め」と言っていた。
厄介事の気配を感じつつも、修一は病気の好奇心が出てきて、
探りを入れてみたいと言う気になった。
しかし、調べようにもネットでは限界がある。
開発元であるゲーム会社は、このS市にあると言う事だが、
乗り込むわけにもいかない。
(だったら……)
ここで当てがある事を、思い出す。
(あの人が、教えてくれるかは分からないけど)
そう思いつつも、行動を起こすことにした。
翌日、修一は昼休みの屋上にて、
秋人、鳳介と一緒に昼食を食べていて、
ここで修一はお手製の卵サンドを食べながら、鳳介に、
「あのさあ、お前の母さんって、いつ家に帰ってくる?」
と尋ねた。すると鳳介が答える前に、秋人は、
「なんで、そんな事を聞くの?」
どこか、驚いている様子で聞いてくる。
妙な誤解をしているような感じだが、
「今日の朝、話したろCTWの事」
「達也さんの……」
秋人には、教室で雑談をしていて達也の事を話していた。
ネットで話題になっているが故か、ゲームをしていない彼の耳にも、
話は入っていた。
「だけど、それと鳳介君のお母さんと何の関係が?」
「この前、下校中に煌月の母さんと会ったんだ」
そこで会った話の一部始終を話す。
因みに綾香と会ったことは、鳳介には、すでに話している。
話を聞いた秋人は、
「なるほど、でも教えてくれるものかな。
そういうのって口止めされてるんじゃないかな」
そう修一は、CTWの開発関係者と繋がっている綾香に、
探りを入れようとしたのである。
彼女の話から、この件についてプロデューサーから、
連絡を受けている可能性があるからだ。
しかし、修一は、ゲーム開発において情報漏洩は、
ご法度なのは分かっているので、
秋人の言う様に、話が聞けない可能性の方が高い。
はっきり言って、ダメもとなのだ。
ここで、昼食のおにぎりを食べていた鳳介は、一旦食事を中断し、
「母さんは、いつも家にいる……」
「在宅ワーカーだったのか」
と修一は言う。
鳳介には父親がいなくて、母親である綾香が働きに出ていて、
事務仕事をしていると言う事までは聞いていた。
「いや家に事務所が併設してる」
すると修一は、恥ずかしそうに、
「そういや、煌月の家は道場だったな」
なお、道場自体は伯母に当たる人が継いでいて、
綾香は、道場や煌月流の係わる様々な事務仕事をしていた。
ゲームの監修もその一環である。
この後、鳳介は残りのおにぎりを喰らい胃の腑に納めると、
「なあ、今日、部活は?」
「今日は、ない日だな」
鳳介は特に表情を変えることなく、
「学校が終わって、真っ直ぐに俺の家に来たら、
丁度、母さんが休憩時間のはずだ」
予定外の仕事かなければと言う注釈が付く。
その事を聞いた修一は、
「じゃあ学校終わりに、お前の家に言ってもいいのか?」
「ああ……」
そういう訳で、放課後の予定が決まった。
そして放課後、学校から直接、鳳介の家へと向かった。
もちろん、鳳介も一緒である。
なお昼休みに事情を聴いていた秋人は気にならないわけでもなかったが、
剣道部の試合が近いので、部活に行っていた。
鳳介の家は、道場が併設した大きく立派な日本家屋であった。
修一が、ここを訪れるのは初めてである。
煌月流は大勢の門下生を抱える超技能の流派としては最大で、
更に道場は、ここだけじゃなく、山の中にもあって、
そこではさらに本格的な修業を行う事ができる。
そしてこの山の中の道場でないと超技能は身につかない。
「あと山奥に道場があって、昔は、そこでの修行しないと、
今でいう超技能、『真の奥義』は身につかなかった。
達也師も、そこで修業して奥義を身に着けた」
そこは行くだけでも大変だったが、今は近くまで
道路が通っていて、昔ほど大変じゃない。
ゲート事件以降、『真の奥義』を身につけるのに、
ここに行く必要はなくなったが、ただ門下生の一部が、
今でも修行に使うので、道場自体は維持されている。
鳳介宅に向かうと、二人は年配の人たちの集団と鉢会った、
「こんにちは……」
と挨拶する鳳介。修一もつられて挨拶する。
向こうも人のよさそうな感じで、声をかけてくる。
「こんにちは、鳳介君。そっちはお友達かい?」
「はい」
その後、その人たちは、道場施設の一部に入って行った。
「今の人は?」
と修一が尋ねると
「社交ダンスサークルの人、ここ施設を借りてる」
ここには複数の道場があるが、一部は多目的施設として貸し出している。
これは、かつて門下生が減って道場経営が苦しくなった時に、
施設の一部を貸し出して、その賃貸料で凌いだ事が切っ掛けだが、
門下生が多くなった今でもそれが続いていて、煌月家の重要な収入でもある。
こうした賃貸経営のやりくりも、綾香の仕事である。
住居に着くと、鳳介は、
「ただいま」
修一は、
「こんにちは、お邪魔します」
と言って、中に入る。そして鳳介に案内されて、
彼の自宅と直結している事務所へと向かう。そして事務所では、鳳介の言う通り、
綾香がコーヒーを飲みながら、一休みしていた。
この時、事務所には彼女以外誰もいない。
修一たちが来たことに気づくと、綾香は、
「お帰り鳳介、こんにちは桜井君。どうしたの二人そろって」
と言った後、
「そう言えば桜井君は、ここに来るのは初めてよね」
と言われ、修一は思わず、
「はい」
と答える。
鳳介は、
「桜井が、母さんに話があるって」
「桜井君が?」
と言ったかと思うと意地悪そうな表情で、
「まさか、私に愛の告白とか。ダメよ、私は独身だけど、
息子の同級生との恋愛はさすがにねぇ、先生に怒られちゃうだろうし」
すると鳳介が顔を赤くしつつも、静かな口調で、
「母さん、おふざけも大概に、桜井が困っているだろ」
「わかってる。冗談よ。こんな年増女じゃ、眼中にないでしょ」
と笑いながら言うが、修一は
「俺は、守備範囲は広いですよ」
と言いつつ
「でも、恋愛には希望を持てないんです」
と真顔で言った。
修一の言葉に、綾香は、
「それは、残念ね」
と言いつつも、
「それで、私に話って何なの?」
ここで修一は本題に入った。
「貴女は、CTWの開発に係わってるんですよね」
「あくまでも、監修だけどね」
「でも繋がりはあるんですよね」
すると、綾香は再び意地悪そうな表情で、
「ひょっとして、修一君の聞きたい事って煌月達也の事でしょ」
「!」
彼女の一言に、少し表情が固まったので、
「その様子だと、図星のようね。あと鳳介も気になってる」
と言いつつ
「実はプロデューサーから、連絡があってね。問い合わせが多いそうよ」
どれも、苦情とは言えないが、
それでもゲーム内のNPCである達也の行動を疑問視しての物だった。
そして綾香は、考え込むような仕草をして、
「本当は、部外者に話しちゃいけないんだけど……」
と言いつつも、
「NPCの煌月達也が、おかしな動きをしているのは事実よ」
言うまでもないがNPCは、事前にどういう事をするかは
プログラムで決められていて、それに沿って動いている。
達也だって同じことなのだが、
明らかに、そこから逸脱した行動をとっているという。
例えば、鳳介たちが誘われたお茶会。イベントとしては設定しているが、
それは商会に入った後の、イベントの一つで、
本来なら、商会の入っていないばかりか、初めて会ったばかりで、
あのようなイベントは、本来は発生しない。
「その上、おかしくなってる時は、運営側のコントロールを受け付けないらしいし」
達也の動きは、運営側でも、制御不能らしい。
そして、その原因については
「正直分からないそうよ」
「分からない?」
「そうプロデューサーの話じゃ、プログラムのチェックもしたけど
全く異常は無くて、念のため魔法や超科学による確認もしたそうだけど、
全然分からないらしいわ」
運営側も、この状況がどういうことなのか全く分からないという
そして綾香は
「あと、関係あるかどうか分からないけど」
なおプロデューサーから、同じ前置きの元に聞いたことで
「調査の過程で、サーバーコンピューターに、
直接何かされたんじゃないかって、防犯カメラの確認をしたらしいの」
なお、怪しい人間が触れた様子はなかったが
「ある日の深夜、コンピューターの前に、時計の様なものが浮かび上がっている
映像があったの」
「時計……」
ここで鳳介が
「そう言えば、達也師が消える時も、
時計の様なものが浮かび上がっていた様な」
と言った
「そうなんだ……じゃあ関係あるのね……」
しかし運営側も調べ、魔法や超科学の専門家に話を聞いたそうだが、
それが何なのかは、分からないし、
コンピューターも調査したが異常はなく、運営側もお手上げ状態との事。
そして綾香は、何処か、すまなそうに、
「ごめんね。大した話が出来なくて」
「いえ、そんな事は……」
と修一が言うと、
「そろそろ、仕事に戻らないと」
と言ったので、今度は修一が申し訳なさげに、
「すいません、折角の休み時間を……」
「別にいいのよ。でも私が話したことは極秘事項だから、誰にも言わないでね」
と口止めされ、
「分かりました」
更に鳳介の方を向き
「もちろん、鳳介もよ」
と言うと、鳳介も
「分かった」
と言った。
その後、修一は帰り、鳳介も鍛錬の為、道場の方に向かう。
事務所で一人きりになった綾香は、何処かに電話か掛ける。
「今、さっき来てました。言われた通り、私の知ってる事は
全部話しましたよ。先生……」
と受話器に向かって言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます