10「ドラゴス商会に入る」
ゲーム中で、ミズキこと蒼穹と遭遇した翌日、功美が家に帰って来た。
そして二階にいる二人を誘っての夕食、献立は焼肉。
しかし昨日の一件が尾を引いているのか、修一の顔を見るなり、
不機嫌そうな表情を浮かべる。
彼も事情が分かっているから、気まずい思いをしつつも、
「「………」」
目を合わすことなく、黙々と肉を食べていた。
その様子を見た功美は、意地の悪そうな笑みを浮かべながら、
「修一、蒼穹ちゃん、あなた達、何かあった?」
この言葉に、血相を変えて
「何かあったんですか!」
と喰いつく里美。
「何にもないわよ!」
とキッパリと言う蒼穹。
「でも昨日から変ですよ」
と言う里美に、
「仕事で、ちょっとトチっただけよ!」
と言って、ヤケ食いと言うと大げさだが、
彼女の食事のペースが上がった。ちなみに里美は昨日の件は知らないが、
アルバイトでPCエネミーをしている事は知っている。
そして里美の矛先は修一に向く。
「本当に、何もありませんよね」
修一は、キッパリと、
「ねぇよ」
と答えつつ、肉を食すが、
(まったく、母さんも余計な事を……)
と思いつつ、この日の焼き肉の味は、何とも微妙なものであった。
その後も修一は蒼穹とは何もなく、日々は過ぎて、次にCTWにログインした時、
「いよいよだね」
鳳介とユウトは再びファスティリアに、今回は一度向かっているから
メニュー画面から移動し、ドラゴス商会に向かう。
そして商会に入るわけだが、一応面接みたいなものがあるが、
受け答えとかは関係なく、一定レベル以上なら入ることはできる。
鳳介は条件を見たしていたので、すんなりと入れた。
なおユウトも商会入りした。鳳介を手伝うのと、
事を最後まで見守るためである。なおユウトは商会入りできるだけの、
レベルである。ちなみにこの日以降、予定が付かないとの事で、
ベルは関わってこなくなった。
そして商会入りの手続きを終えた後、ファスティリアの広場で、
「とりあえず商会に入ったが、後はどうするんだ?」
「ドラゴス商会でクエストを受け続けて、そうすれば専用のクエスト、
再現クエストが受けれるようになるから、それを5つ受注するんだ」
それは、煌月達也の実際の活躍を再現したクエストで、
ユウトは受けるまでは手伝うが、それ以降は手を貸さない。
なぜなら、どれもソロでクリアしなければならないからだ。
ただし、普通にやったら、かなり難しいクエストでもある。
「どのクエストも魔機神がないとクリアが難しいけど
まあ鳳介君は、ストゥムがあるから大丈夫だよ」
とユウトがストゥムの名前を出すと、鳳介は難しい顔をして、
「あれは、使いたくない……」
と言った。
「何で?」
と言うとは聞くも、
「使いたくない」
の一点張りであった。
鳳介とユウト、商会でクエストを受け続けた。
どれも、初心者向けでない。少々難しい物であったが、
だいぶ、ゲームに慣れてきたからか、
鳳介は、ユウトの手伝いを借りることなくクリアしていった。
なおユウトは手伝うと言うよりも、事を最後まで見守る事が目的なので、
手伝う必要がなくとも、鳳介に付き合う。
そして再現クエストができるまで、そんなに時間は掛からなかった。
「どれがいいと思う?」
商会の事務所にて相談を受けるユウト。
「そうだね……」
と言いつつ、宙に浮かぶ形で表示されている選択画面を見る。
再現クエスト、正確には達也の再現クエスト。
前述のとおり、実在する煌月達也が体験してきたとされる出来事を、
再現したものだが、再現されるのは敵側と状況だけで、
当時の達也の状況、例えば装備等は考慮されない。だから状況によっては、
実際の達也以上に不利な状況で、戦いに挑む必要があったりする。
その逆もあり得るが、例えばユウトは強力な魔機神を保有しているので、
いくつかのクエストは楽にクリアできるはずである。
さて鳳介から相談を受けたユウトは、
(どれにするかだな、ストゥムを使いたくないみたいだから、
史実でも、魔機神を使わなかった奴は……)
一応、難易度低めとされるクエストがあった。
「これなんかどうかな?クエスト名『車両手配』」
「なんだそりゃ?」
「コンボアスって言うカーマキシ……トラックだね」
選択画面にクエストの詳細と言う項目があり、
そこから、コンボアスの画像を見ることができた。
「本当にトラックだな……」
「侮ってはいけないよ。こいつはコンテナから、
いろんな銃火器が出てきて、攻撃をしてくるからね」
このクエストは、この単純にコンボアスを倒す事である。
「そう言えば、達也師はトラックに生身で挑み破壊したと言う話があるが
もしや……」
「これの事だよ、さっきも言ったけど重火器を使ってくるから、
戦車と戦うに等しいよ」
しかし、戦車相手と等しいとは言うが、これでも比較的簡単なクエストでもある。
すると、ここで、
「君たち、また会ったね」
「達也師……」
そこには、達也の姿があった。そして鳳介の言い方に、
「『師』って……何だか、重たいね。普通に名前呼びでもいいんだよ」
「いいえ、そうはいきません」
二度目だからか、この前とは違い、あまりテンパってはいない。
「ところで、ここに君たちがいると言う事は……」
「この商会に入ったんです……」
と鳳介が言うと、達也は笑みを浮かべながら
「そうかい、歓迎するよ」
手を差し伸べてきたので、そのまま握手をする鳳介。
そして、ユウトの方にも手を差し伸べてきたので、同じく握手をするユウト。
ここで、宙に浮かんでいる再現クエストの選択画面を見て、
「なんだい、これ?」
ユウトは
「再現クエストの選択画面ですが」
「選択画面?」
達也は、それを食い入るように見て、
「まるでねRPGみたいだ……」
「えっ?」
とユウトが声を出すと、達也がハッとなったように、
「いや、こっちの事だから、気にしないで」
誤魔化すようなそぶりを見せた。
「はぁ~」
ユウトこと修一は、ジト目になり
(なんで、誤魔化したんだ。おかしなことは言っていないのに……)
加えて、
(やっぱり、NPCには思えないよな)
そうなると、人が動かしてると言う事になるが、
(煌月達也は、シリーズ通してのNPCだ。それが何で急にPCなってるんだ?)
そもそも、煌月達也を含め、CTWシリーズのNPCが、
PCになったなんて話は聞いたことがない。
加えて、綾香の言っていた事もある。
(やはり、何か只ならぬことが起きているのか)
と不安を感じる中、鳳介が、
「とにかく、行ってきます」
と達也に向かって言い、クエスト「車両手配」を選択した。
すると、転移ゲートが出現したが、驚いたような顔で、
「なんで、こんな所に転移ゲートが……」
と言う達也。そんな達也を尻目に、さっさとゲートに入っていく鳳介、
「ちょっと待って!」
と言い後を追うユウト、更に、
「僕も行くよ」
と言って付いてくる達也。
そして、転移ゲートの先は、森の中の荒野だった。
達也は、驚いたように
「ここは、前に、僕がコンボアスと戦った場所………」
そして鳳介は、荒野の真ん中に向かう。
二人も後を追うが、途中見えない壁のようなもので阻まれる。
(ここで見てろって事だな)
このクエストは、ソロ専用である。従って戦えるのは鳳介一人だけ、
他は転移ゲートで、この場所には来れるが、
戦う事は出来ず見ている事しかできない。
一方、達也は、状況がわかっていないように、
「何だ、この壁?」
と言って見えない壁を思いっきり叩き始める。
その様子を見たユウトは、
「無駄ですよ。僕たちは見てる事しかできません」
「何で?」
と言われたので、
「このクエストは、ソロ専用ですから、戦えるのは、
鳳介君だけなんです」
と説明した。
「戦うって、そう言えば、さっきの選択画面に、
コンボアスの画像があったけど……」
達也は、画像は見ているが、きちんと内容は確認してないようだった。
「まさか、コンボアスと戦うっていうんじゃ」
「そうですよ」
とユウトは言った後、鳳介にコンボアスと戦うにあたっての、
傾向と対策を話していなかったので、
「鳳介君!」
と呼びかけ、ネットで知った情報であるが、それを話した。
すると、達也が
「どうして、その事を!」
と驚愕の声を上げるが、直ぐに
「おかしい事じゃないよね。これは夢なんだから」
と妙な事を言った。
ユウトこと修一は、
(何言ってるんだこの人)
と思いつつも、コンボアスが姿を見せたので、
今は鳳介の戦いに注目することにした。
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