9「蒼穹との遭遇」
あまり会いたくないと思うときに限って、ばったりと言うのは
多い話だが、綾香と会った後、修一は、一旦家に帰り、
買い物の為、出かけて、その帰り、ばったり蒼穹と会ってしまった。
あんな話を聞いたばかりだから、あまり会いたくなくて、
(ゲッ!)
「なによ……」
声には出さなかったが表情には出ていたようで、蒼穹は不快そうな顔をした。
「なんでもないよ」
「そう、まあ、私も別に聞きたくないし……」
蒼穹は、下校途中というようだが、今日は里美はいなくて一人だった。
このまま別れて帰りたかったが、出入りしてる場所が違うとは言え、
同じ家に住んでいるわけだから、帰る方向は途中までだが一緒になるわけで、
「「………」」
お互い無言のまま、距離を取りつつ歩く二人。
しかし、軽くであるが、好奇心と言う病気が出てきて、
修一は、蒼穹と距離を縮めると、
「あのさ、天海のお母さんと、俺の母さんとどういう関係なんだ?」
すると彼女は歩きながら、
「なんなの?急に?」
不快そうな表情を浮かべる。
「いや、知り合いってだけで、それ以上の事は教えてくれないからさあ」
これは事実である。実際、過去に功美にふと思い立って聞いたことがあった。
「知り合いよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
と言うだけで、教えてくれなかったが、
その時は特に気にならなかったので、それ以上は聞かなかった。
しかし今は、あんな話を聞いてしまった以上、
気になって仕方なかった。あの二人、特に陽香の話が本当なら、
自分の恋敵の元に娘を預けた事になる
そして、蒼穹の答えはと言うと、
「私も、詳しくは知らないのよ。ただ相当な恩があるみたい。
でも話してはくれないし、それに桜井さんの事を聞いた時、
『恩がある』とはいうけど、何か複雑な顔をしているのよね」
「そうなのか……」
「悪かったわね。お役に立てなくて」
皮肉めいたように言う蒼穹。
「別にそんな事は……」
と返す修一、話は聞けなかったが、さほど気にはならなかった。
(好きな人は取られたけど、それ以上の恩があると言う感じか)
そんな事を思った。
ここで天海は、思い出したように、
「そうだ、私からも聞いていい?」
と聞いてきたので、
「いいけど?」
答えると、なんてことないような口調で、
「アンタのお父さんってどんな人だったの?」
「えっ!」
「どうしたのよ。そんなに驚いて……」
キョトンしている蒼穹、修一は
(知らないとか言って、本当は知ってるんじゃないだろうな)
そんな事を思いつつ、
「夫婦仲がよかったってこと以外は知らないな、
なんせ俺が生まれる前に亡くなってるから」
「じゃあ、私と一緒か……」
と言うと複雑そうな表情を見せる蒼穹。
修一と同じというのが、何とも言えないらしい
「どうして、父さんの事を?」
すると蒼穹は、
「お母さんは、よくアンタのお父さんの墓参りに行ってたのよ。
ただの幼なじみって言ってけど……」
只ならぬ雰囲気だったらしい。詳しい話はしなかったと言う。
「………」
修一は、既に話を聞いていたので、何とも言えない気持ちを抱える。
一方蒼穹は、特に何も聞けなかったからか、
話も続かず分かれ道に来るまで、二人の間に会話はなかった。
因みに蒼穹は恵美の事は、すっかり忘れているようである。
その後、分かれ道に来て修一は裏玄関に、蒼穹は表玄関に行く形で別れた。
その後、家に帰った修一は洋の話を思い出し、
(龍宮って人が、父さんの事を色々知ってるんだよな)
住所は聞いていたが、今日まで会う機会はなかった。
(一回話を聞きに行った方がいいか……)
そんな事を思いつつ、親たちに関する事は、
一旦考えるのをやめ、その後は宿題をしたり、NVRLIMIに興じたりした。
さてCTWの方はどうなったかと言うと、
鳳介は、着実レベルを上げていて、修一ことユウトは、
(もういいころだね)
と思っていたし、引き続き付き合っていたベルからも、
「次のクエストを終えたくらいで、
次の段階に、行けるのではないでしょうか?」
次のクエスト後の状況次第で、煌月達也と戦うための下準備に入れると思った。
そうして、クエストであるドラゴン退治に向かった。
道中のザコモンスターの殆どを鳳介が単独で倒し、ついにはドラゴンも一人で戦い、
「セイヤッ!」
と言う掛け声で、巨大な剣の様なものに変化させた右手で切り裂きとどめを刺す。
「強くなったね。もう僕たちの力を必要ないね」
しかし鳳介は、
「確かに強くなったみたいだが、この先をどうすればいいか分からない」
達也との戦闘イベントまでの、具体的な手順はまだ知らない。
ネットを見れば、分かることだが、彼は調べていない様子で、
ユウトもまた、その事を指摘していない。
この時は、ネットで調べろと言うのが無粋な気がしたからだ。
なおユウトは、鳳介に最後まで付き合うつもりにしている。
さてドラゴンは倒したが、転移ゲートが発生しない。
「またイベントか?」
「多分ね」
そして
「うわっ!」
という声と共に、黒いローブを身に纏った魔法使いらしき女性が現れた。
その女性は、黒髪で長髪の日本人らしき顔立ちの女性で、
(どこかで見たことあるなこの人……)
とユウトは思った。さらに女性は尻もちを付いていて、
「なんて場所に転移するのよ」
と文句を言っていたが、鳳介たちの姿を見て、
「!」
慌てて立ち上がり、素早く身繕いをして、どこかテンパってるように、
「私は暗黒神官ミズキ・ラジエル、いざ勝負!」
するとベルが
「暗黒神官が、『いざ勝負』というのはどうでしょうか?
せめて『暗黒神様の贄となりなさい』と言った方がよろしいのでは」
「そうなんですか、私、暗黒神官ってどんなのか、いまいち分からなくて」
と言うミズキ。
一方、鳳介は訳の分からないと言う様子で、
「何なんだあの人は?」
「あれは、PCエネミーだ。コンピューターじゃなくて、
人間が直接コントロールしている敵だよ」
主に運営会社の職員か、アルバイトである。
エディットではなく専用のキャラクターを与えられ、
敵として立ちふさがる。公認プレイヤーキラー、PKである。
「主に追加イベントで登場する。ただ専用のキャラが、
普通だったらBANされるくらいのチート能力を使ってくるから、
気を付けた方がいいよ」
相手が人間な分、予測できない攻撃をしてくる場合があるという。
「わかった」
と答える鳳介。
一方ミズキというPCエネミーは、
「とにかく、勝負です!」
と身構える。そして鳳介は、ミズキをじっと見つめながら
「お前……」
と言って近づいていく、
「何ですか、攻撃しますよ」
鳳介に、じっと見つめられて困惑してる様子。
「天海蒼穹か?」
「!」
その一言に、あからさまに動揺する。
「ななな、難攻不落じゃなくて、何言ってるんですか!」
「天海蒼穹じゃないのか?」
「何を、こここ根限り、じゃなくて根拠に、そんな事を」
ここでユウトもミズキの狼狽ぶりに、思わず素が出て
「そのテンパり方、お前やっぱり天海か?」
するとミズキは鳳介を見て
「そう言えばアンタ、桜井修一の知り合いに似てる」
そしてユウトの方を見ると
「つーか、その口調!もしかしてアンタ桜井修一ね!」
口調に特徴があるわけじゃないが、そう思ったようだった。
もちろん正解だが、同時にミズキが天海蒼穹だと確定した。
「それより何やってるんだ?お前?」
「アルバイトよ。悪い」
と不機嫌な顔で言うミズキこと蒼穹。
「別に悪くは無いけどさ」
と答えるユウト。
ここで、ベルが
「みなさ~ん、リアルの話は厳禁ですよ」
と声を上げ、ユウト、ミズキ共に口を防いで、
「「そうだった」」
タイミングぴったりに言ったので、それに気づいた二人は、
気まずそうにしつつも、ミズキが
「とにかく、勝負よ!」
これまでのやり取りの所為で、何とも妙な雰囲気が漂っていて、
ユウトこと修一は、
「勝負って雰囲気じゃないな。やめにできるか?
確か、そういう権限がそっちにはあると聞いたことがあるが」
確かにPCエネミーにはイベント中断の権限がある。
ただしそれをやった場合、不戦勝扱いとなる。
「だめよ!勝負ったら勝負なんだから」
とむきになってる様子。
ここで鳳介が、
「勝負と言うなら、受けて立つ」
とやる気満々で言う。
ユウトは、どうもやる気が出ないが、
(まあ、危なくなったら助けるか)
ここまでと同じように、危なくなったら助けることにした。
一方ベルも、同様にするつもりのようだが、
彼女は口元に笑みを浮かべており、この状況を楽しんでいる模様。
そして、鳳介が、
「行くぞ!」
と叫んで、鳳介とミズキの一対一戦いが始まる。
「ファイアカノン!」
強力な火炎魔法を撃つが、異形の掌による引っかきで打ち消した。
「ウォーティカノン、ウィンドバースト、サンダーシュート……」
その後も次々に魔法を繰り出すが、鳳介は打ち消したり回避したりと、
尽く対応していく。
この状況を見ているベルは、
「これは楽な戦いですね。鳳介君は簡単に勝てますよ」
鳳介は、ゲームの世界でキャラを演じるなんてしていない。
現実とゲームも、自分のままなのだ。リアルがバレたところで全く気にならない。
しかし、蒼穹は違う。彼女はリアルがバレたくないと思っていたので、
その為ばれた事、加えて身近な人間だったこともあり、
故に動揺がなかなか収まらず、それが戦いにも影響されていた。
「ミズキ・ラジエルは、実在するファンタテーラの人間です」
「そうなんだ」
「根源分析と言うスキルを持ち自分専用の魔法を使えたとか、
その力が、キャラクターに反映されていれば、専用魔法を使えるはずですが」
鳳介と戦うミズキが使っているのは、プレイヤーでも使える。
普通の魔法ばかりである。
「動揺して、使える魔法をド忘れしてるのかと……」
状況はあっという間に、ミズキの不利な方になっていた。
そして鳳介は、間合いを取り、刃に変化した腕で、
「雷撃剛煌斬!」
刃を一振りするが、何も起こらない。
「間違えた」
と言いつつも、その隙を狙ってのミズキの魔法攻撃を
軽く避けつつ、
「サンダースラッシュ!」
雷を纏った斬撃の様な気弾を飛ばす。
そう現実に彼が使える煌月流の奥義と、
ゲーム中の武闘家の技、アーツを間違えて時々攻撃を、
不発させることはあったものの、うまく対応し不利になる事はなかった。
ちなみにサンダースラッシュは、本来は剣士の技であるが、
「異形の四肢」のお陰で、武闘家である鳳介も使える。
その後も、ミズキの戦いは精彩を欠いたまま、状況は逆転することなく、
「烈火……じゃなくてファイアガンズ!」
ミズキは防御したが押し切られ、これが止めとなった。
「ああっ!もう、不幸だぁ!」
声を上げたかと思うと、ミズキは消えた。
勝ったものの鳳介は、
「なんか勝ったって感じしないな……」
納得できていない様子。そして
「なんか、アイテムが手に入ったぞ」
ミズキとの戦いはイベントなので、勝てば絶対にアイテムが手に入る。
「ストゥムの石板って奴だけど」
ユウトは、
「それは超レアアイテムだよ!」
と興奮したように言う。ベルは
「良かったですね。それがあれば、魔機神ストゥムを召喚できます」
「これなら、楽に煌月達也戦に行く事が出来るよ」
「そうなのか……」
鳳介はあまりうれしそうにない。
その後、鳳介のステータスを確認したユウトは、
「これなら、ドラゴス商会に入れるよ」
「よかった……」
とは言うが、あまりうれしそうにない。
その後出現した転移ゲートで、街に戻りクエスト完了の処理をした後、
鳳介は
「今日は、もう帰る」
といってログアウトした。
ここで、ベルが、
「どうやら先ほどの戦いが、水を差しているようですね」
「みたいだね」
しかし発端は鳳介が、ミズキの正体を見破ったことが原因だから、
自業自得といえるが、見破り指摘した事に悪意はない。
「では、私も帰ります」
ログアウトするベル。そして残されたユウトも、
「落ちるか」
何か微妙な気分を味わいつつもユウトこと修一もログアウトした。
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