8「下校時の出来事」
ゲーム内での達也との邂逅から数日後の放課後、
今日は部活がない日で、家に帰る途中、
(普通っていいよな)
と思いながら修一は歩いていた。実際、魔法少女の一件以降、
普通から外れた事は何一つ起きていない。
NVRLIMIによるネトゲーだって、彼にとっては普通の範疇である。
そんな中、
「ねえ、貴方、桜井修一君よね?」
と声を掛けられた。修一は足を止め、
「そうですけど、誰ですか?」
その人は、あまり整っていない長髪に顔は美人で、
どことなくだが勝気な雰囲気がして、
思わず姉御と言いたくなるような女性であった。
「私は煌月綾香」
「煌月?まさか」
「いつも息子と仲良くしてくれて、ありがとね」
彼女が鳳介の母親であった。正確には養母であるが、
「貴方の事は、鳳介だけじゃなく、先生からも聞いていたわ」
先生と言う事は、修一の母親の功美からと言う事。
修一が、
(そういや、母さんは煌月の母親とも知り合いだったな)
とそんな事を思っていると、
「丁度良かった。貴方に聞きたいことがあったのよ」
「俺にですか?」
「そう、あなた最近、一緒にCTWをやってるわよね」
「ええ、何か問題でも」
修一は、鳳介が学校では、普通だが、家では、ゲームのやりすぎで
おかしくなってるんじゃないかと、思ったのである。
「問題と言うか、ゲームにかまけて、鍛錬や勉強を、
疎かにしているとこと無いけど、ただ鍛錬に関しては、
力が入りすぎてるっているか……」
ちょうど、ゲーム内で達也と会った後くらいから、
鍛錬に、異様に力を入れるようになったと言う。
「元々、あの子は武術には一生懸命なんだけど、
今は頑張りすぎてて、私としては気になるのよね。
何か心当たりがあるかな思ったんだけど」
あると言えば、達也との事しかないので、その事を話した。
「そんな事が……確かに、あの子が、
憧れの『煌月達也』と手合わせしたくて、
NVRLIMIでCTWを始めたのは知っていたけど……」
するとここで、彼女は首をかしげながら、
「しかし、変ね。商会に入っていないのに、
そこまでの会話ができるなんて、
というか、そんなイベント聞いたことないわ」
「たぶん最近のアップデートとかで追加されて、
一般には知られてないんでしょう」
と修一は言うが、綾香は、
「私、最近のCTWには監修って形で関わってるの、
特に煌月流に関わる部分はね。」
そして現CTWの開発のプロデューサーは、ゲームの開発には柔軟だが、
関係各所への連絡や手回しは、病的なくらい、きっちりしていると言う。
「だから、報告の要らない小さなことでも連絡してくるから、
仕様変更とか、追加イベントがあったら、一言連絡があるはずなのよ」
それがないと言う事は、おかしいと言う事であった。
話を聞いた修一は、嫌な予感がした。
何というか、普通でないことに、足を突っ込んでいるような気がしたのだ。
「イベント件は、兎も角として、手合わせの為に頑張ってるのかしらね。
ゲームの世界に武術は持ち込めないのに……」
修一は、
「形はどうあれ、憧れの人に出会えた興奮を、何かにぶつけたかったとか?」
とふと思ったことを話すと、
「それが武術の鍛錬って事か、確かにそうかも……」
と納得した様子を見せつつも、
「でも所詮はプログラムの存在で、私たちが再現した偽物なのにね」
と言った。
しかし、修一は何処か納得してない様子で
「偽物ですか……それにしては、よく出来ていた様な気がしますね」
「そう思ってくれるなら、開発にかかわった者として、うれしいけどね。
まあ、私もNVRLIMIで、テストプレイしたけど、
確かによく出来ていたわ。でもやっぱり偽物って感じはするわね。
まあ、一般向けには十分なんだろうけど」
「そうですか……」
やはり修一は、納得しがたい様子だった。
そんな修一は、先の話とは、全く関係の無い事だが、
ふと思いだして尋ねた。あと母親の前なので、普段とは違い、
鳳介の事を名前の方で呼ぶ。
「あの、鳳介君って研究所的な所で、何かありましたか?」
すると綾香が変わった。真剣な表情で、怖くもあった。
そして冷たい口調で
「どうして、そんな事を聞くの?」
「実は、これもCTWでの事なんですが……」
ゲーム内の研究所の事を話した。
それを聞き終えた綾香は、
「そんな事が……」
と言った後、真剣な眼差しで修一の目を見ながら、
「悪いけど、貴方に話せることは無いわ」
と冷たい口調のまま言った。
彼女の様子から、何かあるのはバレバレであったが、
彼女の気迫に押されるように
「そうですか、分かりました……」
と修一は答えた。
「あと、研究所の話も、二度と息子にしないで」
「はい……」
とだけ答える。
すると、綾香の表情がやわらぎ、
「ごめんね。脅すようなことしちゃって」
すまなそうに言う。
「いえ、気にしてませんから、とにかく研究所の事は、
鳳介君には話しませんから」
「お願いね」
と言って彼女は、手を合わせた。
よっぽど触れられたくない事があるようだったが、
これ以上、病気である好奇心も沸いてこないという事もあるので、
この件は触れない事にした。
そして、彼女は、この件から気を逸らすためか、
どこか強引に話題を変えた。
「ところで、君ってお父さんによく似てるね」
修一は、驚いたような顔で、
「父さんの事、知ってるんですか!」
「ええ、同級生だから」
ここで、ふと気が付く
「貴方と同級生で、母さんが先生ってことは、生徒と教え子で……」
「そうだけど……」
と言った後、綾香は驚いたように、
「まさか、知らなかったの」
「ええ……母さんは、父さんの事をあまり話さないもので……」
すると、綾香も上川洋と同じように、
「先生も、相変わらず秘密主義ね。息子に話してないなんて」
とため息交じりの声で言いつつ、
「言っとくけど、本格的に付き合いだしたのは、
卒業してからよ。在学中は不適切な事は無かったからね」
「そうなんですか……」
洋の時もそうであるが、他人から自分の親の話を聞いて、
家族なのに自分は何も知らないんだなと言う思いを抱く修一。
そんな中、綾香は
「それにしても、天海さんもかわいそうに」
「えっ、天海って天海蒼穹の事ですか?」
すると彼女は、ハッとなったように、
「私なんか言ってた?」
「ええ、『天海さんが、かわいそう』って、
それってやっぱり天海蒼穹の……」
首を振って、妙にテンパってる様子で、
「違う違う、私の言ってるのは、お母さんの方よ。天海末来さん。
こっちも同級生なの!」
「そうなんですか」
しかし彼女の様子が気になり、
「ところで、かわいそうと言うのは、どういうことですか」
と聞くと、テンパった様子で、
「いや、つい口が滑っただけだし、貴方には関係ない事だから」
鳳介の事はもう気にならないが、彼女の言っていることは気になった。
彼の病気である好奇心が出てきたという事もあるが
この「かわいそう」と言うのが、
自分の両親と関わっているような気がしてきたという事もある。
するとここで、
「正直に言ったら、先生が涼一君を未来から、取っちゃったって」
「!」
「あっ、陽香さん」
綾香の背後に、零也の母親の陽香がいた。
修一の父親と同級生ならば、綾香も陽香の同級生になる。
「ちょっと陽香、人聞きの悪い事を言わないでよ。
天海さんは、涼一君の幼馴染で、別に付き合っていたわけじゃなくて」
「未来は、涼一君に気があったよ。だけど涼一君には、その気がなくて、
先生と結ばれちゃったけどね」
「つーか、何でここにいるの?」
すると陽香は笑いながら、
「いや偶然、通りかかったら、面白い話をしているみたいだから、
混ぜてもらおうかなって」
彼女の登場に綾香は、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
(見るからに、余計な奴が来たという感じだな……)
と修一は思う。
さらに、彼女は聞いてもないのに、
「しかし、その後の未来もかわいそうで……」
と言いかけたところで、綾香は陽香の口を手でふさぎ、
「んーーーーーーーーーーーー!」
「ごめんね。修一君、そういや陽香と用事があったんだ。じゃあね」
と言って陽香の口を押えたまま、その場を後にした。
一人残された修一は、このまま陽香におしゃべりをさせちゃいけないと思い、
連れ去ったというのは、わかったが、
(つーか、子供がいるのに苗字が変わってなくて、
かわいそうとなると、何があったのか目に浮かぶようだな)
最後の最後で、何とも言えない気持ちを抱える修一であった。
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