7「煌月達也」
ゲーム内では、場所の移動は、クエストの場所は、
ギルドから転移で行けるが、それ以外の場所は、
徒歩や乗り物を使うなどして、実際にその場に向かう。
一度向かってしまえば、以降は、メニュー画面にある「移動」の項目から、
選択して転移ができるようになる。
修一ことユウトは、一度行ったことがあるから、
メニュー画面から向かう事が出来るが、鳳介はそうはいかないので、
彼が、送っていくことにした。
(NVRLIMIで、これを使うのは初めてだが)
アイテムボックスから、乗り物を呼び出すユウト。
「車?」
確かに、それは車であるが、普通車と言う感じではなく、
SF的な、奇抜なデザインをしている。
「これは、魔機神キュウビのカーマキシ形態だよ」
これは魔機神と言う、ファンタテーラに実在していたロボットである。
モデルにしたプラモデルも販売しており、修一が組み立てているマキプラとは、
魔機神のプラモデルの事。
そして魔機神はCTWに、実装されているものだが、どれも入手はかなり難しい。
ちなみにキュウビは、複数の形態を持つ魔機神で、
入手にはキャラエディットの段階から、条件を満たす必要があるので、
かなり難しいが、ここでは割愛する。
とにかく、歩きだと時間がかかるので車で移動する。
パソコンでは、ゲームパッドで動かしたが、
NVRLIMIでは、AT車の様な感じで動かす。
(俺は一応、自動車免許を持ってるから問題ないけど
そうじゃない人は、どうなんだろ。車型の乗り物はほかにもあるのに)
彼は知らないが、ゲーム内の武術が、自然と使えるように運転も同様である。
そして車で走行しながら、
「ファンタジーな世界で、SF的な車って、違和感があるよね」
鳳介に言うと、
「そうか、街じゃよく見るが」
S市では、ナアザの街のように、ファンタジー色の強い場所はあり、
そこを車が、SF的な車も含め走っているので、
こういう風景は、珍しくないのだ。
「そうだったね……」
とユウトは恥ずかしそうに言いつつ、引き続き車を走らせる。
そうこうしていると、ファスティリアに到着した。
見たところ、「始まりの街」とあまり変わらない。
ファンタジー色の強い町並みであるが、
大きな違いは、この街でクエストを得るためには、
何処かの商会に所属するか、自分で商会を作るしかない。
「直接、ギルドから得ることは出来ないのか?」
「これは、ファスティリアがあったアイアディクス王国の、
冒険者制度をモチーフにしてるらしいよ」
ちなみに「煌月達也」と戦うためには、この街を拠点として、
活動しなければいけない。
「ここでのクエストは、どれも初心者向けじゃないからね。先ずは鍛えてから。
それに、ドラゴス商会に入るにだって、高レベルじゃないといけないし」
ファスティリアにあるこの商会に入る事で受注できる特別なクエストを、
クリアすることが、「煌月達也」と戦うための条件で、
その特別なクエストも、かなり高難易度だったりする。
今日は、下見なので街を見て回るだけ。
「あそこがドラゴス商会だよ」
それは、そこそこな大きさな洋館で、
敷地内には、大きな倉庫の様なものがある。
「この建物は、実在する建物で、煌月達也が実際に、働いていた場所だよ」
と説明していると、建物から人が出てきた。
その人物を見てユウトは、
「あっ……」
鳳介は、声を上げなかったが驚愕してるような表情を浮かべた。
出てきたのは、ショートカットの髪で、男性的な格好をしていて、
かわいらしい顔をしている。一見、十代の女の子にしか見えないが、
「煌月達也……」
この人物が煌月達也である。出てきた彼は、
落ち着かない様子で館から出てくると、キョロキョロしていた。
その様子に、ユウトこと修一は、
(何やってるんだろ)
妙に気になった。
やがて達也は、二人の方を見て、
「君たち、商会に何か用事かな?」
ユウトが、
「用は無いんですけど、ちょっとこの辺を見て回っていて」
一方鳳介は何も言わず、それ以前に微動だにしない。
「なんか、固まってるね……」
と困惑気に言う達也。
(何だろう、感極まってるって感じなのか)
と思うユウト。
すると達也が、
「僕は、達也って言うんだけど、君たちは?」
「ユウトです」
「鳳介……です……」
「ユウト君に、鳳介君か、ここで会ったのも何かの縁、お茶しない?」
この提案に、
「えっ?」
と声を上げるユウト、一方の鳳介は
「はい!」
とどこかテンパってるように了承したので、
ユウトも、困惑しながらも了承する。
「じゃあ、こっちに」
と言って達也は二人を道路と繋がっている館の庭の、
そこに止めてあるスーパーカーのもとに二人を案内した。
スーパーカーをユウトは
(あれがカオスセイバーか、それにしても)
こんなイベントは、聞いたことがなかった。
そもそも、ファスティリアに行って、達也とは稀に会う事はできるが、
現状ではモブNPCと同じで、軽く会話ができる程度、
本格的に、コミュニケーションを取るには、ドラゴス商会に入る必要がある。
だから、まだ商会に入っていないのに、お茶に誘われるのは普通じゃなかった。
(仕様変更でもされたのか、しかもつい最近)
ゲームは日々アップデートされている。
更新情報は、重要なものは詳しい話が公表されているが、
細かい修正や、小さな仕様変更とかは、その他扱いで、
公表されていない。だからユーザーが発見して話題することがある。
達也は有名なNPCだから、何だかの仕様変更があれば、
話題になるはずだから、なってないところを見ると最近の更新で、
まだ誰も知らない。或いは、初めて知るのがユウト達かもしれない。
達也がポケットからキーホルダーを取り出すと、
長方形の転移ゲートの様なものが出現した。
(ボックスホームへの入り口か)
ボックスホームとは、ゲーム内に登場する魔法の家。
現実には存在していて本体は小さくて三辺が30㎝ほどの四角い箱。
中に広く人が住める居住空間が存在し、出入りは転移ゲートで行う。
目の前にあるスーパーカーこと、カオスセイバーには、それが搭載されている。
ゲートから中に入ると、そこは廊下で更に進んで居住空間にたどり着く。
最終的には、リビングのような場所に案内された
「そこに座って、待ってて、今お茶を用意するから、
日本茶でいいかな?」
「はい」
と答えるユウトに対し、
「………」
黙ったままの鳳介、そして二人はリビングのテーブルの椅子に座るが、
現実的ではあるが、あくまでもゲームなので、特に緊張する事もなく、
楽にするユウトであるが、鳳介は緊張してガチガチになっている。
そして、達也がお茶を持ってくるが、
「カップは紅茶ので悪いけど」
と言うが、
「別に構いませんよ」
と言うユウトに対し、鳳介は無言で何度か頷く。
「鳳介君だっけ、そんなに緊張しないで」
と笑いながら言う達也。
この後、持ってきてもらったお茶を飲むユウト、
二人は仮想空間における飲み食いは、既に経験している。
現実とほとんど変わらない。
「おいしいですね」
達也の出したお茶は、おいしく、
更には、お茶菓子にクッキーも出してくれて、これもおいしかった。
そして達也は、
「君たちは、どこから来たんだい?」
「僕らは、『始まりの町』から来ました。」
すると達也は首を傾げて、
「『始まりの町』?聞いたことがないな」
と言いつつも、
「君たちは、やっぱり冒険者かい?」
ユウトは
「はい」
鳳介は無言で、素早く首を縦に振るだけ。
達也は、鳳介の姿に、苦笑いしつつも、
「だから、そんなに緊張しないでね」
と言う。この後は、雑談、殆どユウトと達也で、
内容は、これまでの冒険者としての活躍がメインで、
ユウトは、ゲーム内の事であるが、自分の活躍を話す。
達也も、これまでの経験を話すが、
(謙遜してるのか、控えめに話をしてるな……)
ユウトこと修一はS市に来てから、
ファンタテーラからの来訪者から、伝わった実際の煌月達也の逸話を、
聞いているので、彼の話が控えめに言っていることが分かった。
一方、鳳介は、ずっと黙ってお茶を飲んでいて、達也は穏やかな口調で、
「君は、どうなのかな?鳳介君?」
「!」
体をピクッと振るわせ、少しの間、口をもごもごさせていたが、
「言いづらいなら、別にいいんだよ」
と達也が優し気な口調で言うと、鳳介は口から絞り出すように、
「最近……始めたばかりで……まだまだ、未熟で……」
どうにか頑張って答えているという感じで、やがて限界が来て、
再び黙り込んでしまう。そんな鳳介に、達也は優しい口調で、
「がんばったね」
と労う様に言う。
その後もお茶会は続くが、鳳介は終始黙ったまま。
やがて、
「そろそろ、おいとましようか」
とユウトが言い鳳介が頷き、お茶会はお開きに。分かれ際、ユウトは達也に、
「今日はありがとうございます。初対面なのに、お茶やお菓子をご馳走してくれて」
「いやいや、僕も君たちの事が気になったものだから、
いい話も聞かせてもらったしね」
と言いつつ、
「ねえ、ここが夢の世界だとしたらどう思う?」
「夢?」
すると達也は、笑いながら、
「ごめん、おかしなこと聞いちゃったね。気にしないで」
と言い、
「はぁ?」
とユウトは答えるしかなかった。
ここで、会話の流れを無視するように鳳介が、必死に絞り出すように、
「いつか……貴方と……手合わせしてほしい……」
すると達也は、突然の事に困惑しながら、
「別にいいけど……今日は、そんな気になれないかな……」
と返事をする達也に、
「いつか……必ず……」
と言う鳳介だった。
その後、二人と見送る形で達也も一緒にボックスホームを出る。
そして二人は達也に別れを告げ、その場を後にした。
少し離れたところまで来ると
「俺、帰るわ。また学校で……」
そう言うと鳳介はログアウトした。
一人残される形になるユウトこと修一だが、彼には気になることがあった。
(本当、NPCなのか)
さっきまで会っていた達也は、実在する人間を元にしたNPCのはずである。
しかし修一は、このゲームの他のNPCに比べて、生々しさを感じた。
(高度なAIと言えば、それまでだけど、なんだかなぁ……)
とにかく、あの達也がNPCには思えなかったのだ。
(とにかく、俺も落ちるか)
色々と思うところはあるが、今日の所は、彼もログアウトした。
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