6「屋上にて」
その後も、修一は鳳介とネトゲーで、遊ぶ日々。
二人きりの事も多いが、ベルを含めたネトゲー仲間とも一緒と言う事も多い。
鳳介の望みは、NPC『煌月達也』と対戦なので、それを目指して、
まずはレベル上げだった。
鳳介が手に入れた「異形の四肢」は、装着者の体の一部を、
異形化させ強力な攻撃を繰り出すというもの。
まだ知られてないため、修一のネトゲー仲間達も、珍しがっていた。
しかも使用者のレベルアップに合わせて強くなっていくので、
ゲームの進行とともに、力不足になる事の無い武器で、
加えて、鳳介の現実での能力は、蘭子と同じミューティーションで、
「異形の四肢」による異形化は、それによく似ていた。
現実の自分に近づけるからか、この武器は彼の愛用となっていた。
しかし
「やっぱり煌月流が使えないと、どうも違和感があるな……」
屋上で修一と秋人で、昼食をとりながら、そんな話をしていた。
ここで、秋人が、
「そう言えば、煌月達也さんって煌月流の使い手だよね。
という事は、ゲーム中で出て来る達也さんも、煌月流を使ってくるんだよね」
「ああ、そう聞いてる……」
「じゃあ、プレイヤーが使えるって事はないのかな?」
すると、お手製の爆弾おにぎりを食べていた修一が、
「できるんだけど、ちょっと難しいだよな。運の要素があるから」
悩ましげな顔で言う。
鳳介の、
「運?」
と疑問そうな顔をすると、修一が説明をする。
「煌月流は、旅の武闘家、ルリ・シャリクシアと言うNPCと、何度か会って
好感度を高めて、初めて教えてもらえるんだよ」
秋人が、
「その人って、ファンタテーラに実際にいた人じゃない?」
「ああ、CTWには、実在の人物が多く出てる。特にファンタテーラの人は、
異世界の人間だから本人、関係者から苦情が来ることもないしな」
「それいいの?」
と不快そうな顔をする秋人。
「どうなんだろうな」
何とも言えない表情の修一。
ここで鳳介は、
「ルリ……」
そしてハッとなって、
「まさか、煌月瑠璃か」
「らしいな。元はこの世界の住人。それ以上は詳しくは知らないが」
そう言って修一は、おにぎりを齧る。
ここで秋人が、
「煌月瑠璃さんって、達也さんの師匠だっけ?」
と聞くと、鳳介は、
「いいや師匠になるはずだった煌月流の使い手だ。
稽古をつける前にファンタテーラに飛ばされたと聞く」
そして修一は、
「一応、ゲーム開発に煌月家の人間が関わってるから、
煌月達也と同じく、許可だけでなく、全面監修で登場してるんだと」
すると鳳介も、
「その話は聞いている。けど……」
ルリ・シャリクシアこと、煌月瑠璃が出ていることは知らなかったという。
さてここで話をゲームに戻す。
「ルリは、旅の武闘家と言う設定の様に、実際ゲーム中に、
いつどこで現れるか、予測がつかないんだ」
ネット掲示板や、SNSなどでは、目撃情報とかを掲載されているが、
実際に会うには運である。しかし何度か会わねばならない。
そうしないと好感度が上がらないからだ。
「好感度が上がれば、修行イベントが発生し、
それをクリアすれば、晴れて煌月流が使えるらしい」
ただ先も述べた通り、会うだけでも大変なので、使い手は少ない。
ここで、
「ご一緒させてもらえますか?」
「木之瀬……」
木之瀬蘭子が、声をかけてきた。
彼女は手に大き目のランチボックスを持っている。
そして修一には風も吹いてないのに、蘭子の前髪がなびいているように見えた。
「別にいいけど……」
と修一が言い、他の二人も同意する。
この時、周りには、修一たちと同じく、昼食を食べている生徒がいたが
蘭子が来たことで、その視線を浴びた。この視線は辛いが、彼女の誘いを断れば、後々問題なので、断るという選択肢はなかった。
そして彼女は、修一の方を見て、
「おや、桜井君お揃いですわね」
そう言うと、彼女はランチボックスから、大きな爆弾おにぎりを取り出し、
「では、いただきます」
と言って、食べ始めた。その姿は、あまり似合ってはいないが、
その姿に、修一は妙に上品さを感じた。
蘭子は、ある程度おにぎりを食べたところで、いったん中断し、
「先ほど、CTWの話をされていたようですが、
煌月流は、初期の頃からあったらしいですわね。
その頃は流派と言うより一部の技だけで、武術を極める事で、
使用できたそうですよ。例えばミサキ切りとか」
すると修一は、
「そうなんだ、初めて知った」
「実を言いますと、私のキャラも大叔母が、遊ばずとも、
新作が出るたびに引継ぎをしてきましたから、初期の仕様ですので、
煌月流の技が使えたりしますよ」
CTWシリーズは基本的に、前作のデータを引き継げる。
前々作以上からの直接の引継ぎは無理だが、
前作からの引継ぎを繰り返すことで、蘭子の言うように、
初期作使用のキャラが今も使えたりする。
「かなり高レベルでないと、覚えることができないので、
大変な事には違いありませんが、今ほどではないと思いますわ」
ここまでの話を聞いた秋人は、
「でも、どうして今は難しくなったんだろ?」
と疑問を呈するが蘭子は、
「さあ、その辺は、製作者側の都合としか言いようがありませんわね」
実際、煌月流が、なぜこの様な扱いになっているかは、
公式から発表がないので、何とも言えない。
そして修一は、おにぎりを食べ終えた後、
「ゲーム内で煌月流を習得すれば、煌月達也戦だけでなく、
そこに至るまでのイベントも魔機神入手ほどじゃないが、楽になるんだよな」
「そうなのか」
鳳介が言うと
「でも、さっきも言ったけど、ルリに出会えるかは運だからな。
やっぱり地道なレベル上げがいいのかもしてない」
と修一が言うと、
「そうそう、何事も地道が大事ですわよ」
と蘭子も同意した。
結局、その後もゲームでは修一ことユウトが付き合う形で、
鳳介のレベル上げに日々が続いた。そんな中、こんなアクシデントもあった。
「アカウントが凍結されたんだが」
「はぁ?」
修一が家で宿題をしていた時に、鳳介からそんな電話がかかってきた。
鳳介も宿題をしていて、その合間にメールのチェックを行っていた。
最近、通販で商品を頼んだので、発送のメールが来てないか確認したそうだが、
そこで、CTWの運営からアカウントの一時凍結を知らせるメールが、
届いたとの事。
「何でこんなことに」
「おかしな事はしてなかったが」
一緒に、ゲームをしていた修一も、思い当たる節はなかったが、
「あっ!」
と声を上げる修一、
「何か、思い当たることでもあるのか」
「『異形の四肢』だよ、あれは、まだあまり知られてないし、
肉体の異形化というのが珍しい。何よりも性能が高い。
誰かに、チートと勘違いされて通報されたのかもしれない」
「どうすればいいんだ?」
こういう事は初めてなのか、
電話からは困惑しているような雰囲気が伝わってくる。
修一は、安心させるように
「もし原因が『異形の四肢』なら凍結は一時的だ。
あれは、チート装備じゃなく公式の物なんだからな」
因みに、CTWはチートと勘違いされる程のぶっ飛んだ性能のアイテムは、
多くあるので、こういう誤通報は結構ある。
とは言え、通報されれば調査しなければい行けないので、
その間はアカウント凍結と言う事は、よくあることで、実は、修一も経験している。
修一の言う通り、翌日になって、鳳介のもとに運営から、
凍結解除の知らせとお詫びのメールが届いた。
その後、公式が、入手方法は秘密であったが、
「異形の四肢」の存在を、大々的に公表した。
修一の読んだ通り、原因は「異形の四肢」にあったようだった。
そんな事が、ありつつも、鳳介のレベル上げは続き、
加えて本人もゲームに慣れてきて、着実に、強くなっていった。
そんなある日、ゲーム内の広場で鳳介と会った時、
「いまからさあ、ファスティリアに行ってみないかい?」
「ファスティリア?」
そこは普段、活動拠点にしている「始まりの街」とは別の街で、
ファンタテーラに実在した街を再現したものだと言う。
因みに、そんな風に再現された町は、ゲーム内には多くある。
この街に行くことはユウトこと修一の思い付きだ。
「ファスティリアは、ファンタテーラで、
『煌月達也』が住んでいた街なんだ」
そして煌月達也との対戦に至るまでのイベントは、
この街を中心に行われる。だから、今後の下見の為に向かうのと
「もしかしたら、煌月達也と会えるかもしれないよ」
そう煌月達也が、モブNPCとして、この街でうろついている事があると言う。
会っても話ができるくらいで、対戦を含め、
何かイベントがあるわけではない。その話をすると
「行く……」
真剣な眼差しなので、
「会えるかどうかも分からないし、会っても特に何もないよ」
と改めて説明するも、
「それでもいい……」
との事で、二人はファスティリアに向かう事になった。
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