5「鳳介の謎」
翌日、学校にて修一は、鳳介から
「昨日は、ありがとうな……」
とお礼を言われた。修一は、
「どういたしまして」
と言いつつ、
「そういや、例の研究所の事。ネットで話題になってた。
どうもNVRLIMIユーザー専用の隠しクエストらしい」
正式な発表は無いから、推測との事が、
これまでNVRLIMIユーザーのみが、クエストの終了後、
ランダムで、あの場所に飛ばされるらしい。
「ところで、カードキーは、勝手にアイテムボックスに入って来たんだな?」
「ああ……」
なおネットの掲示板では、カードキーは、
研究所内の部屋に置かれているとの事で、場所は掲示板の報告者によって
変わっているので、ランダムと思われる。
しかし、勝手にアイテムボックスに入って来たという話は無かった。
そして異形の女について、
「それと異形の女とは、戦ってないんだな?」
「ああ……」
と答えた後、顔を赤くし恥ずかしそうに、
「ハグしただけだ……」
小さめの声で言った。
ネットの掲示板によると、異形の女はあの研究所のボスで
実際は、カプセルから出てくると、攻撃を仕掛けてくるらしい。
しかも、かなり強いらしく、掲示板には、瞬殺されたとか、
瞬殺ほどでないにせよ、手も足も出なかったとか、
勝てても、ギリギリだったとか、そんな話が書き込まれていた。
加えて、倒しても、経験値も含め。なにも貰えないとの事で、
軽く炎上状態だった。なぜ強力なボスが現れれば、レアはめったに出なくとも、
何かしらのアイテムが取得できるはずだし、
そもそも、経験値が習得できないというのは尋常じゃない。
この事を、鳳介に話すと、
「でも、俺は戦わなかったけど、経験値はもらったし、装備も貰ったぞ……」
「その装備、『異形の四肢』はネットで聞いてみたが、
知ってるやつはいなかった。もしかした実装されたばかりの、
レアアイテムかもしれないな」
と言った後、
「これは俺の推測だけどな、お前はあの研究所で、何だかの条件を満たしたんだ。
カードキーが勝手に手に入ったのもその所為かもな。」
過去の例でも、特定の条件を満たすと、
特殊なアイテムが突然に手に入る事がある。
たいていの場合、それは鍵とか、地図など、
レアアイテムへの道しるべとなるものである。
「ボスと戦わないというのもあり得る話だ。これまでは、ボスが居なくなって、
レアアイテムだけが残されてるという感じでな。でもその場合、
アイテム得る代償として、経験値はもらえなかったけどな」
そして今回は、新しいタイプのイベントではないかと、修一は推測した。
「それにしても、どういう条件だったんだろうな?
部屋から弾かれたってことは、条件を満たしたのは
お前だけだった事だし」
あの時、鳳介がして、ほかの二人がしなかった事、
これと言って、思いつかなかったが、
一時、別行動した時があったので、その際に何かしたかと言うと、
「特に何もしてないな。気持ちを落ち着させたくて、
ずっとあそこに座ってたから……」
「まさか、それが条件かな。昔、レアアイテムの取得条件に、
特定の場所で、三十分動かないってのがあったらしいな」
なお、そのレアアイテムの取得には、「三十分動かない」を含め、
かなりぶっ飛んだ条件を満たさないと手に入らなかったりする。
ここで、修一は、思い出したように
「そういえば、お前、どうして急に、敵と戦わなくなったんだ?」
すると鳳介は、暗い表情を浮かべて、黙り込んでしまった。
「煌月?」
「すまんが、言いたくない……」
その様子が、かなり深刻そうだったので、修一も、
聞きづらく、結局話題を変えざるを得なかった。
しかしながら、修一の病気である好奇心は刺激してしまい。
教室で、秋人から、
「そういえば、昨日は、鳳介君とゲームしたんだよね。楽しかった?」
と聞かれた際に
「ああ、結構楽しかった」
と言いつつも、思い立って、
「そういえば、煌月は、昔、何かあったのか?例えば研究所とかで……」
修一は、あの時、研究所に入ってから鳳介がおかしくなったから、
むかし、どこかの研究所的な場所で、何かあったのではないかと思ったのである。
「なんで、研究所?」
「ゲーム中に研究所的な場所で行くと、何か妙だったから」
「研究所って……ゲーム中にそんな場所があるんだ……」
と秋人が言いつつも、
「僕は、鳳介君の過去とかは、知らないかなぁ、
有名なのは、地底怪獣を倒したこと、あとクラーケンを倒したことかな」
「そんな事をしてたのか……」
「僕より零也君の方が詳しいんじゃないかな」
そもそも、秋人は零也の紹介で、鳳介と会っている。
そういうわけで、今度は零也と会ったときに、
話をしようと思っていたら、学校帰りに
「「あっ!」」
その零也とばったり会った。彼も学校帰りと言う感じで、
街中の雑居ビルの前で突っ立っていた。
「ちょうどよかった……」
と言いかけたとことで、
「ゲッ!」
と言う声が近くから聞こえた。真綾だった。
彼女は、今しがたやって来たという感じで、修一は、
「そういう事か……」
修一は、状況を察した。そう零也は真綾と待ち合わせをしていたのだ。
創月瞳というか、「見守る会」とやらの事があるので、
「後で、暇になったら連絡くれ、じゃあな」
「桜井……」
修一は、足早にその場から立ち去った。
その日の夜、携帯に零也からの着信があった。
「暇になったから連絡したが、なんか用か?」
「実はな、煌月の事を聞きたくてな……」
今日、秋人に聞いたのと同じ質問をすると、
「研究所って、アイツそんなところに通ってたかな?
まあ小学校の事は、どうかは知らないけど」
「知らないのか?」
「ああ、アイツと会ったのは、中学入学の頃だ。
それ以前は、知らない。アイツもそれ以前の事は言わないしな」
「そうなのか……」
「アイツの事で有名な話は、地底怪獣を倒したのと
クラーケンを倒した事くらいか」
「お前もか……」
「結構有名だから、大勢知ってる。
この街に来たばかりのお前は知らないだろうがな」
と言った後、
「もう一つ、有名な話は、俺は本人からも聞いたが、
煌月家の養子ってことだな」
「養子?」
「この街じゃ、有名な話なんだが、この街の名家の一つである煌月家は、
武術だけでなく、女系家族で有名で、
偶に男が生まれるんだが、煌月家の男は女性のような顔をしてるんだ」
「でも、煌月の顔は、イケメンだとは思うけど、女性的じゃ……」
ここで修一は、ハッとしたようになって、
「だから、養子か……」
「そう、煌月家に男らしい顔の男がいたら、
それは養子が、入り婿かって言われてるくらいだ。
お前、煌月達也は知ってるだろ」
「ああ……」
「ゲームでおなじみのあの人も、典型的な煌月家の男の顔だ」
そう、ゲームに登場する煌月達也は、煌月家の協力の元、
ほぼ、実際の本人そのものの姿をしている。
その顔は、女性的で、煌月達也はゲームのファンの間でも、
「男の娘」として人気だった。
ここで零也は思い出したように。
「確かお前、アイツの双子の妹達の事は知ってるよな」
「煌月から聞いてる。確か小百合さんと楓さんだっけ」
「あの二人も養女で、アイツとは実の兄妹だ」
これまで、知らなかった鳳介の家族について知ることになったが、
ゲームプレイ中のあの様子について、分かることはなかった。
「そういえば、中学の頃はどうだったんだ?」
「そうだな、初めて会ったときは、随分、浮世離れしてた気がする」
「浮世離れ?」
「今は、そうでもないけど、物事を知らなすぎるというかな。
それでアイツが、過去を話さないのと養子って事もあって、
実の親に監禁され虐待されてたんじゃないかって」
浮世離れは、監禁されていたから、
そして親元から救出されて、煌月家の養子になったんじゃないか。
そんな噂が、流れたのである。
彼の二人の妹も、養女になった直後は、浮世離れしていて、
噂に拍車をかけていた。
「まあ、本人達は何も言わなかったし、
あと全員、虐待の痕跡みたいなものもなかったから、
そのうち、噂は消えていったけどな」
結局、確かな事は分からなかったが、
中学以前、つまり煌月家の養子になる前に、
何かあったんじゃないか。それが研究所と何か関係がある。
修一は、そんな思いに駆られたが、
けど、明確なことがわからないまま、日々は過ぎていった。
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