3「クエスト開始」
洞窟に入ると、ゲーム故に、照明はないものの、
薄暗い程度の明るさがあった。
「なあ、ゴブリン逃げないように、結界を張ったりはしないのか?」
と鳳介が言った。なお鳳介は異界で、修行中に出会った冒険者から、
そんな話を聞いたという。ユウトは、
「必要ないけど……」
するとベルが
「ファンタテーラじゃ、必要らしいですね。その冒険者も、恐らくは
来訪者だったんでしょう」
と言った後
「でもここはゲームですから」
ユウトの言うように、必要ないのである。
やがて、小さくて、緑色をしていて、毛は生えてなくて、
不気味な顔をしている人型のモンスター、ゴブリンがそこにいた。
腰には布を巻いている。棍棒を持って数人で襲い掛かって来た。
三人は身構えて、先に鳳介が飛びだした。彼のレベル上げが重要なので、
ユウトとベルは、援護に徹することにしていたが、
「セイッ!ヤァ!タァ!」
掛け声一つに、鳳介は数体のゴブリンを倒していく、
彼のレベルは低いが、ゴブリン自身がザコと言う事に加えて、
ここは仮想現実で、低レベルでもゲーム内では最小限の戦闘力は
付与されているのだが、それは現実世界における技能に、上乗せされる形なる。
そして彼の現実世界における格闘家としての体術を
持ち込めているので、低レベルでも、鳳介は強く、
ユウトやベルの援護を必要とせずに、第一波は、思いのほかあっさりと退けた。
「ふぅ……」
と鳳介は一息つく。
「凄いですね。鳳介君」
「さすが、格闘家だけはある」
と思わずユウトが言ってしまい。ベルが、
「リアルの話は禁句ですよ」
と注意される。
「いや、つい……」
とバツの悪そうな顔をするユウト。
一方、鳳介は、妙に難しい顔をしていた。
「どうかした?」
とその様子に心配げに聞くユウト。
「いや、ちょっと違和感がな……」
そう言うと彼は、難しい顔のまま体を軽く動かす。
「やはり、戦ってみたら、余計にひどくなるな……」
と愚痴のようなことを言う。
その後も、敵が襲ってくる。途中、弓を放つゴブリンがあらわれ、
ユウトが魔法銃を撃ち、弓を落とし、鳳介が敵を倒すという事があったが、
それ以外は、第一波の時と同じく、ユウトとベルの役目は無く、
殆ど鳳介だけで、ゴブリンを倒していった。
弱くとも、ゴブリンは大勢だから、少々であるが鳳介のレベルは上がっていく。
そして敵を、あらかた倒した時、
「………」
やはり、鳳介は難しい顔をする。
「鳳介君?」
とユウトが声を掛けると、
「奥義を使えないのがちょっとな」
と言った。するとベルが、
「仕方ないですよ。それが限界ですから……」
となだめるように言う。
これは、ゲームの仕様と言うのではなく、NVRLIMIの限界である。
そもそも、NVRシステムが大型で、高価な原因は、
使用者の超能力や魔法、超技能を仮想世界に持ちこむ為の、
スキャニング装置にあった。小型で、低価格を目指すには、
その装置のオミットと言うか簡易的なものにするしかなかった。
結果として、ごく普通な人間程度の身体能力は持ち込めても、
それを超える超能力や魔法、超技能を仮想世界に反映させることが、
出来ないのである。だから鳳介の格闘家としての体術は反映されることは出来ても、
超技能である武術の奥義は使えないのである。
ただ、先も述べた通り、ごく普通の一般人には、特に不便はないし、
また能力者であっても、ゲームをする分には問題は無い。
むしろ、ゲームバランスをうまく保つことができるだろう。
しかし鳳介のように、特に、何だかの力を持つS市の住民にとっては、
遊んでいて、違和感を覚える者もいる。
なお、ユウトこと修一や、ベルこと蘭子は、特に違和感を覚えていない。
「慣れるしかないか……」
と鳳介は言いつつも、残りの敵を倒していき、
いよいよゴブリンの巣のボスとの戦いとなった。
ボスはゴブリンロード、他のゴブリンよりもかなり大柄で強い。
武器は、鬼が持つような金棒、大きいが、振るう速さは素早い。
鳳介は、持ち前の体術で、攻撃を避け、隙を見て攻撃を叩きこむが、
ボスだけあって、これまでとは違い、鳳介だけでは辛いので、
ユウトもベルも、戦闘に参加する。
ユウトは、魔法銃を撃ち、ベルは剣でゴブリンロードを攻撃するが
あくまでも鳳介のレベル上げが重要。
経験値は、戦闘に参加したもの全員に与えられるが、
トドメを刺した者が多くもらえるので、
出来る限り鳳介がトドメを刺せるように、
モンスターのHPを確認できる魔法などを使って、
状況を確認し、うまく攻撃を調整する。
そして、
「とりゃ!」
と言う掛け声とともに、放たれたパンチが、
ゴブリンロードの顔面に直撃、この攻撃で敵のHPは0になり、敵が倒される。
「ふぅ……」
と一息つく鳳介。
「よし!」
「やりましたね」
と言うユウトとベル。
そしてゴブリンロードを倒したことで、鳳介はレベルアップした上、
高額で売れるアイテムも得たようだった。
「そのアイテムは、君の物だよ。売って、そのお金で新しい装備を、
買うといいよ」
「わかった……」
ただ、彼はあまりうれしそうではない。どうやら勝利の喜びよりも、
戦っていて感じる違和感の方が気になって仕方ないようだった。
後は帰るだけである。クエストの場合はボスを倒した後、
冒険者ギルドに戻るための、転移ゲートが出現し、
それを使って帰るわけだが、ゲートが出現しない。
「これは、追加イベントですね」
とベルがどこか嬉しそうに言うと、
「追加イベント?」
ユウトが不安気に
「ボスを倒した後、稀にイベントが起きることがあるんだ」
フィールドで弱いモンスターの出る地域に、
強力なモンスターが現れるようなものだか、
滅多に起きることじゃない特に、ゴブリン退治のように、
低難易度のクエストでは、余計である。
「こういう時の追加イベントは、レアモンスターとの戦いや、
レアアイテムを手に入れられたりするんです」
とベルは相変わらず嬉しそうにしている。彼女はどんなことが起きるか、
楽しみなのだろうが、ユウトは、何が起こるかわからないから、
この時は、何時もの好奇心と言う病気も出ていないから、
逆に不安を感じていた。ただユウトもレベルが高いから、
何が起きても、大丈夫ではある。
「そうなのか……」
と鳳介は、特に感じてない様子。
そして次の瞬間、地面が揺れて床が崩れ、
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
全員、真っ逆さまに落ちていった。
その後、だいぶ下まで落ちたが、ゲームゆえに転落死はしてないし、
それ以前に怪我すらしていない。
「イテテ……」
それでも軽くであるが、打撲したような痛みを感じた。
「ここは……」
周りを見渡すユウト、ベルは、
「どうやら地下洞窟のようですか」
ゲーム故に、照明のようなものはないが、明るかった。
そして鳳介は、上の方を見ながら、
「奥義が使えれば、上まで行けるか……?」
と言っているが、ユウトは、
「これはイベントだから、ここを登ることは出来ないよ」
更にベルも、
「ここ出るには、イベントをクリアするか、
脱出用のアイテムを使うか、あるいはログアウトする以外にありませんよ」
それを聞いた鳳介は、
「先に進むしかないと言う事か」
三人がいる場所は、後ろは行き止まりで、前に進むしかない。
ここでユウトは鳳介に、
「どうする、一応脱出用のアイテムはあるけど」
と言うが鳳介はじっと、前を見た後、
「俺は、先へ進みたい……」
するとベルは、
「では決まりですね」
と言って彼女も前に進む。
さて、脱出用のアイテムを薦めたユウトこと修一であるが、
これは、鳳介に気を使っての事なので、
本音では、ここに来て、何時もの好奇心と言う病気が出ていたので、
進むの一択で、故にユウトも前に進む。
少し進むと早速モンスターが現れた。
「ゴブリンが溶けてる……?」
現れたのは、半身が溶けて液状化してるようなゴブリンだった。
なお正確には溶けているわけじゃない。ユウトは説明する。
「あれは、キメラだ。」
複数のモンスターが混ざったモンスターの事。
突然変異と言う扱いで、ゲーム中では結構レアなモンスター。
「ゴブリンとスライムですね」
とベルは言う。そして襲い掛かってくるキメラ。迎え撃つ鳳介たち。
ただレアとはいっても、ゴブリンもスライムも基本的にザコである。
中には、洒落にならないゴブリンもスライムいるが、
現れたキメラを構成する物は、ザコのゴブリンとスライム。
加えて、ここまでの戦いでレベルが上がっていたこともあり、
「ふぅ……」
援護さえ必要なく、鳳介が一人で倒してしまった。
敵を倒し終えたところで、
「ゴブリンとスライムって交配できたか……?」
と言い出した。
「はぁ?」
何言ってるのかわからず、素っ頓狂な声を上げるユウト。
するとベルは、
「それも、ファンタテーラの話ですね」
「どういう事?」
と聞くユウト。
ベルによるとファンタテーラでは、キメラは魔獣が異種交配した際に、
稀に生まれてくる魔獣の事を示すという。
「ゴブリンは、基本異種交配ですが、稀にキメラが生まれるそうですよ」
「やっぱり、ゴブリンって雄しかいないの?」
すると鳳介が、
「俺が聞いた話じゃ、雌もいるぞ。見た目はあまり変わらないらしいがな」
ファンタテーラにおいてゴブリンは、雄雌はいるが、
同じ種族で交配はできず、基本異種交配だが、キメラが生まれるのは
他の種族よりも稀である。
「たしかに、ゴブリンとスライムとの交配はありえませんけど、
まあ、そこはゲームですからね」
現実ではありえない魔物がいてもおかしくないという事。
「ただ、聞いた話では、特殊な方法で合成された人工キメラというのも、
あるそうですから、ファンタテーラには、こういうのも居るかも知れませんね」
「人工キメラ……」
ここで鳳介は、険しい顔をする。
「どうしたの?」
とユウトが聞くと、
「何でもない。先に進もう……」
と言って鳳介は、先に進んでいく。
そしてユウトやベルは、鳳介から何かを感じつつも、後を追うように進んでいった。
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