第10話「ネトゲーで遊ぼう」
1「NVRLIMI」
ある夜、とある建物に一筋の光が落ちた。
特に問題は起きなかったが、
代わりに建物内で起動しているサーバーコンピュータの一つに、
時計の様なものが浮かび上がり、すぐに消えてしまった。
その日、修一の元に一つの荷物が届いた。荷物を受け取った後、
「来た来た……」
と言いながら、自室に持っていき、ニヤニヤ笑いながら、
段ボール箱を開けた。中には商品のパッケージとなる箱があり、
そこには「NVRLIMI」と書かれていた。
通称「シミュレーター」でおなじみのNVRシステム。
学校やゲームセンターに置かれている業務用とは別に家庭用もあって、
木之瀬蘭子も持っているが、高額で普通に買えるものではないし、
その上、人一人入れるほどのカプセル型をしているので、
大きくて場所も取る。しかし最近、家庭用ゲーム機ほどの値段で、
なおかつ場所を取らない小型の物が発売された。
箱を開けると、中からHMD付きのヘルメットと、
30㎝四方の平たい機械が出てきた。
これが、「NVRLIMI」と呼ばれる。新型家庭用NVRシステムである。
本体はヘルメットの方で、平たい機械は、ハードディスクや
ソフトを読み込む他、小さなモニターが付いていて、コンソールの役目も果たす。
早速コンソールでユーザー登録を行う。
NVRLIMIはパソコンやスマホと連動もでき、修一はパソコンで、
ソフトをダウンロードし、USBを介して、NVRLIMIにインストールする。
NVRLIMIは通常のNVRシステムとは異なり、ゲーム専用機である。
もろもろの作業を終えると、修一はヘルメットを被り、ベッドに横になった。
使用上の注意として、「横になってゆったりとできる場所で」と書いている。
「さあて、ゲームの世界に出発だ」
以前、シミュレーターを使った時のように、意識が遠のき、
気づくと、中世を思わせる街並みの中にいた。
そうここはゲームの世界だった。
(なんだろ、いまいち感動がないな)
なおこのゲームはMMOだがNVRLIMIにアップデートで対応したもので
普段は、俯瞰視点のゲームで、VRにも対応しているが、
修一は、これまではパソコンにて、俯瞰視点で遊んでいた。
だからよりゲームの中に入ったという感じがするものだが、
ナアザの街と言う、異世界的な現実世界を見てしまっているからか、
感動は薄れていた。
(まあいい、とにかく楽しもう)
とりあえず、街を散策する。ここは「始まりの街」、ゲーム開始時は、
この街から始めるほか、その後も多くのプレーヤーが拠点とする街。
修一の今の姿は、地味で、頼りなさげな少年と言う感じの姿をしていて、
名前も「ユウト」。もちろん修一がエディットした姿である。
さて街を歩いていると
「ユウトくん!」
と声を掛けられた。
「ベルさん……」
声をかけてきたの赤毛のミドルショートの髪型をした
十代後半の中々の美少女。軽装の鎧を纏っている。
この少女の名はべルティーナ、通称「ベル」、ユウトと同じくPCである。
お互いゲームを始めたのが同時期で、初心者同士と言う事で、
一緒にプレイすることが多い。キャラである。
ただし、「ベル」と言うキャラは身内から引き継いだ物との事で、
プレイヤーは初心者だが、キャラは高レベルだった。
まあ見た目的に、初心者っぽいし、最近まで高レベルであることは隠していた。
「もしかして、今日はNVRLIMIですか?」
「はい」
「私もなんですよ」
さて、今見えている姿は、
NVRLIMI用に現実に近い形でコンバートされたものなので
これまではモニター越しに見ていたのとは、似て非なる感じで
(ゲーム画面で見ていたよりも美人だな。
しかし、どこかで見たことがあるような……)
そして向こうも、
「それにしても、ゲーム画面で見るよりも、ユウトさんって、
失礼かもしれませんけど、かわいいですね」
「別に失礼じゃないよ。そういうキャラを目指したんだから」
とユウトは答えつつ、何時ものように会話をしたが、
しかしゲーム画面に比べて、ずいぶんと美人になったようなので、
何時もとは違い、少しドキドキした。
「とにかく、僕はこれから早速、冒険に行くけど?君はどうする?」
「では、私もご一緒させていただきます」
そんなわけでいつものように冒険に向かう。
そんな事がありつつも、面白いゲームである上、その日は日曜日だったので、
途中で、食事休憩をはさみつつも、夕方までゲームをたっぷりと楽しんだ。
翌日、学校に行くと秋人から、
「修一君、NVRLIMIどうだった?昨日届いたんでしょ?」
と聞かれ、
「なかなか面白かった」
という、短くもあるが修一はありのままの感想を述べた。
「やっぱり、『カオスティック・ザ・ ワールド』かな?」
「まあな、つーか対応ソフトが少ないからな……」
インフェクラウンが変身したベルゼビュートが出てくるゲーム、
「カオスティック・ザ・ ワールド」略称CTWシリーズの最新作、
「カオスティック・ザ・ ワールド・ウェルカム」。
昨日、修一が遊んでいたゲームで、NVRLIMI発表まで、
伏せられていたことだが、
発売当初からNVRLIMIへの対応を目的に作られていたとの事。
そして、NVRLIMIはS市で、尚且つS市在住者のみに先行発売となっていて、
まだ専用ソフトは発売されてなくて、既存のソフトが、
アップデートで対応するという物。
その関係で、ダウンロードのソフトしか発売されていない。
「そう言えば、鳳介君も買ったらしいよ」
「だろうな」
煌月鳳介は、大会に出るほどのゲーマーであるから、おかしい事ではない。
ここで、教室にいた木之瀬蘭子が、
「桜井君も、CTWをやっているんですか?」
修一は、声を掛けられ彼女の方を向くが、その時、風が吹いてないのに、
髪がなびいたような気がした。
「『も』って事は、木之瀬もか」
「はい、大叔母からアカウントとキャラクターを受け継ぎまして、
私が始めてそれなりに、時間が経ってますが……」
キャラクターを受け継いだと言えば、思い当たる節があるが、
あえて聞かない。ゲーム内で会った人間のリアルを詮索しないというのは、
彼の仁義であった。
「そうなんだ、それじゃあ、どこかで会ってるかも」
「そうかもしれませんね」
ゲーム内の会話は、文字のほか、音声でも行えるが、
声を変えているので、声から相手が分かる事は無い。
この後も、蘭子とゲームの話をするが、取り巻き連中の目が痛く、
だからと言って、無理やり早く切り上げると。それはそれで、
睨まれるので、速くて、尚且つ不自然じゃない形で話を終わらせようと、
模索していたところ、
「桜井……」
と煌月鳳介がやって来た。
「ちょっといいか?二人きりで、話がしたいんだが?」
すると蘭子は、
「構いませんよ。ちょっとした雑談で、大事な事じゃないですから」
と言った後、
「それじゃあ、桜井君、また今度」
そう言うと、その場を離れる蘭子。
ここで渡りに船と思ったが、妙な話だったらどうしようかとも思った。
なぜなら、鳳介がどこか深刻そうな雰囲気をしていたからだ
そして、彼に導かれるまま、屋上にやって来た。
この時は、他に生徒が居なくて、鳳介は、深刻そうな様子のまま、
「桜井は、カオスティック・ザ・ ワールドのプレイヤーなんだよな?」
「ああ……」
さっきの会話を聞かずとも、修一は、鳳介に、プレイヤーである事を話している。
「俺も、最近始めた……」
と言いつつ、
「ところで、『煌月達也師』と対戦する方法って知ってるか?」
プレイヤーなら、知っている人間も多い。有名なNPCであるが、
実在の人物でもある。鳳介と同じ苗字なのは、
鳳介の親戚筋の人間で、彼の憧れの人物でもあった。
「知ってるけど、最近始めたばかりなんだよな?」
「ああ……」
「対戦するには、いくつかのイベントをクリアする必要なんだが、
どれも、高難易度だ。高いレベルに、強力な武器もいるな」
「そうなのか……」
「まあ魔機神を手に入れれば、幾分か楽だが、
魔機神を手に入れるだけでも骨だからなあ……」
鳳介は、真剣な表情で、
「一長一短では、無理ってことか……」
と言った。
そして、修一は詳しい内容を話し、
「まあ、大丈夫だろ。大会に出るだけのゲーマーなんだしな」
しかし、当の本人は暗い顔をして、
「この手のゲームは初めてだし、仮想現実を使ったとしても、
修行になるかどうか……」
ゲーマーとはいえ、専門のジャンルというのがある。
そもそも、彼は、修行の一環で特定のジャンルのゲームをしていて、
極めた結果であったのだ。
従って、修業にならないゲームは、やらないのが彼の主義であったが、
「今回は、特別なんだ。だからNVRLIMIを買った……」
ここで、しばらく考え込んで、
「俺は、修業にならないゲームに、あまり時間を取られたくないんだ。
だから、手伝ってもらえないか」
「別にいいぞ」
鳳介の申し出に、修一はどこか嬉しそうに答える。
「迷惑じゃないか?」
「いいんだよ。そういうの好きだから」
と言いつつも、
(友達と一緒にネトゲーは、すごく普通なことだしな)
とも思っていた。
ここ最近は、魔法少女の件で、普通でないことが続いていたから、
こういう修一的には普通な事が、ものすごく、うれしかったのだった。
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