21「誓約書」

 翌日、とある小学校から出てくる少女に、声をかけるスーツ姿の女性。


「おばさん。ボクに何か用?」


と少女は答える。

その少しあと、甘味処で和菓子を食べている大学生と思われる女性に、

少女に声をかけた人物と同じスーツ姿の女性が声をかける。


「何か御用でしょうか?」


と大学生は答えた。


 女性は、小学生には、


「インフェクラウンの事で話があるの」


大学生には、


「九尾狐党の事で話かあるの」


と言った。更に同じ女は、西崎絵里菜の元にも現れた。







 翌日、学校の休み時間に、修一は春奈達に会い。

最初に、


「昨日はありがとう。助けてくれて」


と言ったのち、


「恵美がお礼を言ってた」

「そうなんだ……あれで助けになったかどうかは分からないけどさ

助けに入らなくてもよかった気がするけど」


と春奈が謙遜しながら言うと、


「そうでもない。十分助けになった。ありがとう」


と言ったのち、


「そう恵美が言ってた」


付け加える様に言った。この時、春奈と麻衣は、特に麻衣は、

言いたくても言えないような、もどかしさが表情に出ていた。

メイは、いつも通り特に表情に変化はないい。


「夢沢、何かあるのか?」


麻衣の様子が気になって、尋ねると彼女は


「な……何でもないよ!」


と答えつつ、麻衣は、必死な様子で


「そ……それより、これからどうする……?

あの三人は……諦めが悪いから……またやって来るよ」


すると修一は、


「いや、やって来るのは二人だ」


ここでメイが口を開く、


「どういう事……」


修一は、


「実は、恵美がエクスマキナには話をつけてくれた。

もう俺を狙う事はないそうだ」


しかし、幾度と戦ってきた春奈は、

相手がそう簡単にあきらめる相手ではないのを分かっているから、


「信じられないな、あのエクスマキナが……」


なお諦めが悪いのは、何もエクスマキナに限った事じゃない。

ほかの連中も、同じこと。


 すると修一は、見るからに心配ないという様子で、


「なんでも、恵美はエクスマキナの弱みを握ったらしい」

「弱み?」

「それが何かは教えてくれなかったけど、

とにかく、それネタに説得したらしい」


するとメイが


「ゆすった……」


修一は、どこか気まずそうに、目線をそらしながら、


「まあ、そうなるよな、あまりいい手じゃないけど……」


その場は、どこか微妙な空気に襲われた。


 この雰囲気を吹き飛ばそうとしてか妙に明るい口調で、


「とにかく、一人減ったし、残りの恵美がどうにかしてくれるから、

もう護衛の必要はない」


と修一は言うが、


「ほかの二人が……諦めるまで……続ける……」


とメイは承服せず、ほかの二人も追従して、護衛は続くこととなった。

その日は部活がない日で、修一は速やかに下校したが、

昨日の事があった所為か、メイが、


「一緒に帰ろう……」


と言う感じで、半ば強引に修一と、一緒に下校する。

なお、下校途中にメイが、フェイブルが姿を隠して付いてきていると話した。


「別に逃げねえよ……」


と修一が言うが、容易に信用はしてもらえない様子。


 結局その日は、特に何事もなかった。そして翌日は、部活の日。

部室に着くと、既に部室にいる部長が、


「お前ら一緒か」


この日、修一は、メイたちラノベ班と一緒だった。

言うまでもないが、修一が勝手に動かないようにである。


 この後、修一は、いつも通りプラモ作りをしているが、


「どうした、桜井?身が入ってないみたいだな」

「いえちょっと……」

「ラノベ班と何かあったか?」

「!……なんで、そう思うんですか?」


修一は気まずそうに、尋ねると部長は、


「いやな、ラノベ班の奴らが、時折お前に視線を送ってるからな」


更に、副部長の愛梨も、


「ねえ~桜井君、ラノベ班の子たちとなんかあった~?」


と言われ、気まずそうな様子のまま、二人に対して、


「特なにもありませよ」


と答えるものの、愛梨が、


「ひょっとしてさぁ~あの子たちと三股しちゃったとか~?」


すると修一は、


「変な事、言わないでください!」


思わず声を荒げてしまう修一。


 すると愛梨は笑いながら、


「冗談、冗談だよ~、ムキになっちゃって、可愛いんだから~」


すると、部長が、


「愛梨、あまり意地悪してやるな。こういうのはデリケートな話なんだからな」


と一言。


「ごめん、ごめん」


愛梨は、謝りつつも、


「でも、さあ~恋愛関係で悩みがあるなら、相談乗るよ~」


と笑いながら言うと、


「そう言うことはありませんから」


と修一は、きっぱりと言った。


 あと二人は、ラノベ班にも似たようなことを聞いたようだが、

修一と同じく、何もないとの返答であった。

部長は、魔法少女の事は知っているが、

一緒にいる愛梨は知らないので、本当のことは言えない。


 下校時は昨日と同じくメイと一緒に帰る事に、

今日はメタルマギアが、魔法で姿を隠して、側にいるとの事。

そして、修一達が、先に三名から、襲撃を受けた場所の近くに来た時、

メイが、修一の腕をつかんだ。


「どうした?」

「エネルギー反応……来る!」


すると、急に回りが静まり返る。ここ最近、経験しているから、

それが結界である事はすぐに分かった。


 結界が来るとなれば、襲撃なので、メタルマギアが姿を見せた。

パトロール中の二人と今日は手が空いているとの事で、

ロストルナにも連絡を入れたとの事。やがて、現れたのは


「妲姫とインフェクラウンか……」


と修一は言う。なお話を付けたからエクスマキナの姿はない。


 しかしメイは、


「怯えてる……」

「「えっ?」」


彼女は、サーチで、敵の状況を調べている。素顔とかは判らないが、

呼吸の状況や心拍数とかは判るとの事で、

それによると、どうも相手は怖がっているとの事。


 しかし両者は近づいてきたので、身構える三人だが、

二人は、封筒のようなものを投げつけてきた。

思わず受けとる修一。封筒にはインフェクラウンの方は、鉛筆書きで、

妲姫の方は、墨で「誓約書」と書かれていた。

なおインフェクラウンの方は、漢字は書けていたが、

子供が書いたような字だった。


「何だこれ?」


妲姫が、


「文字通りだ」


インフェクラウンは、


「早く中を読んで……」


と言われたが、相手が相手だけに、読んだら何かあるんじゃないかと、

警戒してしまう。するとメイが


「何もない……」


更にメタルマギアも、


「確かに、何の反応もない。それはただの手紙よ」


そういわれ、修一は気になって、メイとメタルマギアが敵を警戒する中、

手紙に目を通す。

 

 その中身だが、妲姫の方は、中身も墨で、ずいぶん達筆な文字で

インフェクラウンの方は、ボールペンであったが汚い文字で、

内容はともに、


「今後、桜井修一には、手を出しません」


と言うものだった。

 

 妲姫は、冷静な口調で、


「そういうことだ」


インフェクラウンは震えてるような口調で


「約束する……というかもう君には関わりたくないよ~」


 突然のことで、


「はぁ~?」


と素っ頓狂な声を上げてあっけにとられる修一だった。


 次の瞬間、妲姫が煙幕が張り、結界は消えて、二人は姿を消した。

連中がいなくなったので、メタルマギアは、春奈に戻る。

そしてメイが、


「肉体的状況から……連中は……嘘はついていない……」


との事。なお後日、修一の下駄箱に手紙と言う形で、

エクスマキナからも、パソコンで作成し、プリントアウトされた形で

誓約書が届いた。以後、偶発的に出くわすことはあっても、

誓約書通りに、連中が襲ってくることはなく、

その為、修一の護衛は解かれる事となり、

魔法少女達との日々は一旦終わりを迎える。

とは言え、彼女たちとの関わりは今後も続くこととなる。


 そしてある日、修一は自室で、漫画を読みながら、

ふと魔法少女たちの事を思う。最初は成り行きでも、

今は日々、人々のために戦う彼女たち。

それは、魔法少女達だけじゃない。ふと棚にかがっている

メカニサルヴァに目が行く。


(この街には、他にも正義の味方達がいた)


人のために、戦う彼女たちを素晴らしいとは思う。同時に、


(俺には出来ない事だな。だって普通とはかけ離れているんだから)


彼女たちの事を理解できても、彼女たちのようにはなれない。

そう彼はあくまでも普通を望んでいるからだ。

修一にとっては、彼女たちのような日々は普通とは言えないからだ。

しかしながら修一もまた、正義感と言う病気が、

正義の味方に繋がる部分があるから、出来ないとは思っても、

どこかで、正義の味方のようなことをしてしまう事があるのだった。






 どこかの部屋で、机を前に依頼人である女が悔しそうにしていた。

三人から教えていなかった住所に依頼を断る旨の手紙が送られてきて

同じく知るはずのない、銀行口座に前金まで返却された。


「大十字久美め、ここに来て、手をまわしてくるとはな!」


なお手紙には、住所も口座の事も、大十字久美から聞いたと書かれていた。


「この場所も、奴に知られたと言う事か」


とにかく、引っ越しをせねばならない。


「アレも使ってしまったし、当面は、桜井修一には手を出せないか……」


女は机を、強くたたき、


「だが、諦めはしない。前世での屈辱、現世での屈辱。

その報いは受けてもらうぞ!」


と大声を張り上げる女であった。





 さて、妲姫とインフェクラウンから誓約書をもらった日、

修一が家に帰った後、春奈たちは、メイと別れ、

代わりに千代子、更には明菜とも合流した。4人は移動しながら、

春奈は連中が、ラビリンスの時と同様、誓約書を持ってきたことを伝えた。


「にわかには信じられへんな」


という千代子であるが、春奈は、


「長瀬さんによれば、嘘はついてないらしいけど」


なお4人は、メイがサイボーグである事、センサーで嘘を見破れることは

知っている。


 明菜は、


「本当なら、これで万事解決なんだけど」


と言いつつも、


「ごめんなさいね。一昨日も助けに行けなくて」


と詫びる。すると春奈が


「いいんですよ。ラビリンスの件で忙しかったんですよね」

「まあ、そうだけど……」


それでも、すまなそうにする明菜に対し、


「それに、桜井君の従姉の恵美さんもいたし……」

「従姉……」


すると明菜の表情が強張る。


「なにか……」


と言う麻衣に、


「実はね、桜井君の従姉の話をきいて気になってさ」


明菜は、夜は修一の従姉である恵美が護衛をするという話は聞いていた。

その際に、引っかかるものがあった。


「それで、母さんに聞いたのよ。母さんは、桜井さんの旦那、

桜井君のお父さんのことを知ってるんだけど、

その桜井君のお父さんは一人っ子なの」


その事は、以前親から聞いていたが、うろ覚えだったので、改めて聞き直したのだ。

ちなみに功美も一人っ子だという


 それを聞いた春奈や麻衣は、目を丸くして、


「それじゃあ……」


と言う春奈に、唐突に、


「そう、桜井修一には従姉はいない」


と言う声、


「瞳……」


突然、現れる創月瞳。


「それじゃ、従姉を名乗る彼女は誰なんだろうね~」


と言って瞳はニヤリと笑う。彼女には思い当たる節があるようであった。


 そして千代子が


「ウチの仮説が当たっとるんちゃうか」


と言って、彼女もまたニヤリと、笑うのだった。

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