14「ロボット怪獣襲来」
イクシードは、怪獣の攻撃を避けながら、 パンチやキックを繰り返す。
(凄いな……)
特撮も好きの修一は思わず見入ってしまう。
その戦い方は、洗練されていて、随分と手馴れていた。
この手のヒーローにお馴染みの光線技も欠かせない。
そう魔方陣が浮かび上がると、色んな光線が出る。
敵の方にまっすぐ伸ばした指の一本一本から、早くて貫通性の高そうな
細いビームを撃ったり、
掌から速度は遅いが、威力がありそうな光弾を撃ったり、
中には、腕を一閃させて放つ切れ味の良さそうなカッターの様な光線もあった。
また、怪獣の反撃を食らいそうになった時は、体術で回避したりもしている。
(動きに無駄がないな……)
光線技は、確実に魔法石によるものだが、体術の方は石の力か、
それとも、彼女自身が、鍛えたものなのか、修一には分からない。
怪獣も、口から炎を出したり、目からビームの様な物を出したり
尻尾の棘をミサイルの様に、射出してきたりした。
イクシードはそれらを、軽々と避けたり、光線技で打ち消したり、
時には、魔法障壁と言うかバリアーを張って防ぐこともあった。
更に、既に活動していた巨大ヒーローやら、
他の魔法少女を含めた正義の味方、そしてボランティアの冒険者
との連携も良く、どんどんと怪獣を追い詰めていく。
(特撮の一番燃えるシーンを見てるみたいだ)
そして怪獣は、最後の抵抗と言わんばかりに口から
強力なビーム砲の様なもの撃って来る。
一方のイクシードも、両手を前に突き出すポーズで
見るからに強力そうな光線技を撃った。
光線同士がぶつかり合う。特撮なら中々燃えるシーン、修一は思わず、
「がんばれ!」
と叫んでいた。イクシードだけでなく、他の魔法少女を含めた正義の味方達、
ボランティアの冒険者、ちなみに、その中に、鎧の魔王も混ざっているが、
皆も、止めと言わんばかりに怪獣に向かい一斉に攻撃を仕掛ける。
やがて怪獣の攻撃は押し返されていき、ついには皆の攻撃が怪獣の体を貫き、
怪獣は爆発した。
「やった!」
と思わず修一は声を上げる。それは勝利の瞬間だった。
これで万事解決と思われたが、そうは問屋が卸さないようで、
直後、ゲート警報が鳴り響き、どういう因果か、
「ゲート!」
修一の直ぐ側にゲートが出現した。
(凄く嫌な予感……)
その予感は、見事的中する。当たってうれしく無い予感である。
ゲートから、第二の怪獣が現れたのだ。今度はロボット怪獣である。
しかも、大きさはさっきの怪獣より一回り大きい
全高60m程で全身銀色のボディをしている人型機動兵器の様、
頭部は爬虫類のような形状、背中には戦闘機の様な羽、
肩にはキャノン砲のようなものがある。
手は人の手に近い形をしているが、すべての指の先に穴があって、
それが砲門になって、弾を発射しそうにあった。
胸は見るからに、丈夫そうな装甲だが、
(開いて、武器は出てきそうだな)
あと、胸元には宝玉の様な物がある。
更に腹の当りには、砲門の様な物があり
(何だか、ビーム砲を撃ちそうだ)
そして下半身ガッチリとしていて、膝の部分にも砲門の様な物があり、
あと、これまた、太く丈夫そうな尻尾も付いている。
そして何より特徴的なのは、胸元に埋め込まれている宝玉だった。
色は赤。つまりはレッドクリスタルである。これがどうも印象的であった。
そして、ロボット怪獣は、修一の方を向いた。
(まずい!)
修一は、能力を発動させ逃げようとしたが、向こうの動きの方が早かった。
印象的な宝玉から、光が発せられ、修一はそれに包まれる。
「!」
気が付くと、修一はそこそこ広い何処か部屋で、コードの様な物で拘束されて、
吊るされていた。
(どこだよ。ここは!)
拘束を解こうと藻掻くが、コードは丈夫で解けない。
この時、ふと下を、見ると椅子の様な物があって、
そこに、骸骨が座っていた。
「骸骨!」
と思わず声を上げる。
なおその骸骨は、作業服の様な物を着ていたが、
修一を拘束しているのと同じ、コードの様な物が伸びてくると
その骸骨は片付けられた。その際に、腕時計の様な物と紙が地面に落ちる。
そして、今度は修一が強制的に、椅子に座らされる。
正確には椅子に縛り付けられる。
なお正面にはスクリーンの様な物があって、
それが点いて、女性が映し出された。実写ではなくアニメの映像だ
十代後半ぐらいだろうか。黒髪で、メガネをかけている。
美人ではあるが、冷たい感じの目をしており、無表情なキャラ。
服装は学生服のような恰好をしていて、どことなくだが、メイを彷彿させる。
(ギャルゲーのヒロインだったら、これはこれで人気が出そうだが)
次の瞬間、頭にテレパシーの様に声が響き、
声に合わして、キャラクターの口が動く。
「パイロット補充完了。これより任務を再開します」
よく見れば、この部屋は、コックピットで、コンソールや
操縦桿の様な物もある。だが、それは勝手に動き出した。
「任務ってなんだ?」
と嫌な予感がしつつも聞いた。
「全ての破壊」
「やっぱり……」
何となく、そんな気がしていたのだ。
「俺をどうする気だ」
「貴方は、そこ居座っているだけでいい」
「はぁ?」
「中に生きた人が居ないと、機体は動かない」
何だか訳が分からない。
「お前は誰だ?」
「この機体、メカニサルヴァのOS、AI。名前は、イリス。
私の目的は、すべての破壊です」
モニターには、外の様子が映っていた。このロボ、メカニサルヴァは
街への攻撃を開始し、更にはイクシードを含めた正義の味方達と、
ボランティアの冒険者たちと交戦を始めたようである。
メカニサルヴァの攻撃は強力で、肩のキャノン砲、目からのビームに
口からの加粒子砲。腹からもビーム砲。各指からの砲撃、修一が思った通り、
胸の部分が開き、ミサイルやら、ガドリングガン、レーザーなどの、
様々な攻撃が飛んでくる。また首の部分が開いてやはりビーム砲。
そして膝の砲門からの砲撃に、足の部分の装甲が開いてのミサイル攻撃。
まさに全身武器庫である。その猛攻の前に、
正義の味方達やボランティアの冒険者たち、防戦の一方だが、
しかし、その者達の念動フィールドや魔法障壁などのおかげで、
自身達を守るだけでなく、街をも守っていた。
やがて攻撃が止むと、イクシードのビーム攻撃を皮切りに、
全員が魔法や、超化学兵器などで、一斉攻撃を開始する。
しかし、メカニサルヴァも、バリアーを展開、すべての攻撃を防ぎ切った。
単にバリアーが強力というだけじゃない。先の怪獣との戦いでの疲弊も大きい。
そして、遠距離戦だけではない。転移で接近、更に見た目とは裏腹に
素早い動きで、格闘攻撃を繰り出す。イクシードが、最初にその攻撃を受けたが、
「!」
その攻撃は、受け止め、押し返すものの、見るからに、イクシードは辛そうであり、側には巨大ヒーローや巨大ロボットもいて、イクシードの助けに入る形で、
交戦するが、メカニサルヴァは、複数体を相手に、軽々と、渡り合う。
もちろんこれは、先の戦闘の影響で、イクシード達が疲弊している所為でもある。
とは言え、遠近距離戦及び防御完璧な化け物と言えた。
一方、コックピットでは修一が、もがいている。
彼は拘束を解こうと必死だった。
「クソどうなってやがる!」
もちろん、力は使っていた。どれも発動すらしない。
ただ一つを除いては。
「貴方は、超能力者の様ですが、この空間では超能力は無力化しています
無駄ですよ」
修一は、拘束を解こうと試みながら、
「お前は、俺を一体どうしたいんだ!」
「ですから、そこに座っていてもらいたいんですよ」
と言うだけ、なお体を縛り付けられているものの、
それ以上は、修一は何もされていない。
「そういやさっきの骸骨は何だ」
とふと思い立って聞くと、
「前のパイロットですよ」
「お前が殺したのか」
「そうなりますか、食事等は与えませんでしたから、直接の死因は衰弱死です」
つまりは縛られたまま餓死したと言う事である。
「おい、すべての破壊が目的って言ってたな!」
「はい」
「ここは、異世界だ。目標は違うんじゃないか」
ゲートから現れたわけだから、このロボは、異世界の存在である。
「私の使命はすべての破壊、特定の目標ではありません」
つまり無差別攻撃をすると言う事。
すると修一は、
(冗談じゃねえや……)
ここで、修一は、コードを引きちぎった。
「何!」
実は、修一は「イーブン」を使っていた。実はこれだけが発動できた。
しかし、コードの強靭さと同等になったところで、引きちぎるには、
想像以上に、大変だった。
解放された修一は、
(超能力が効かないなら)
修一は、鎧を纏った。
「なんですか?その鎧は?」
相手は、OS故にか、淡々とした口調で話す。
そして、コードが再び、修一を捕らえようと襲って来る。
ここで修一が思ったのは
(超能力が駄目なら、魔法を使うしかない!)
修一は、発動の邪魔になる「イーブン」を解除し、コードの方に手を向けて
「バーストブレイズ!」
その炎はコードを破壊しつくしていく。
ただコードの方には、効果は抜群であったが、他はどうかと言うと
例えば、コンソールとかモニター類は、無傷であった。
「未知の力の様ですが、大した事ないようですね」
「チッ」
魔法は、無力化こそされていないが、効果が思いの他、薄いので
修一は、鎧の専用魔法で、内部から破壊しようと、
もくろんだが、それは、潰えた。
だがこの時、
(なんだあれ?)
あの骸骨が落とした腕時計みたいな物と紙切れに気づいた。
それらは、運よくバーストブレイズに巻き込まれずに済んでいた。
修一を再度拘束しようとする。コードを避けつつも、それを拾った。
「何だこれ?」
時計の方は見るからに、多機能そうだが、紙の方は妙な文字が、
書かれていた。とにかく一旦、二つを収納空間に仕舞い、
その後もバーストブレイズで襲って来るコードを破壊していく。
しかし、次々と飛んで来るコードを前に、
「ああっ!もうっ!切りがねえ!」
と声を上げつつも、彼の視界にコンソールが入ったのと、
更にモニターに映る、外の映像は、街を破壊し、
対処しようとしている人々を蹂躙しているので、
急がねばと言う思いと、少々、自棄になったと言う事もあって、
彼はコンソールに近づき、適当に叩き始めた。
先も述べた通り自棄と言う事もあるが、
もしかしたら、機体が停止すればと言う。淡い思いもあった。
伸びて来るコードに対処しつつも、コンソールを適当に叩く。
そしてある場所を、叩いたと解きモニターの一角に新たな表示が出た。
最初は、訳の分からない文字だったが、直ぐに日本語に変化する。
「初期化……」
ここでシステムの初期化が行えるようだった。
そしてここまで、淡々とした口調だったイリスが、
「やめなさい!」
感情的な声を出した。そして修一は、画面の指示に従い、
コンソールを操作する。もちろんこの間もコードが襲って来るので、
そっちの方も相手をしつつ行う。
『リモコンをセットしてください』
と言う表示が出て、トレイのような物が出て来た。
(リモコン?)
最初こそ、何の事かは分からなかったものの、
画面には腕時計のシルエットが映っていたので、
(あれか!)
収納空間から腕時計を取り出し、トレイに置いた。
正解のようで、トレイは引っ込み、次の画面に移行する。
次の画面には
『パスワードを入力してください』
(パスワード?)
直ぐに、落ちていた紙の事を思い出し、紙を収納空間から取り出す。
そして、入力していく、
「やめて!」
よっぽど焦っているのか、襲って来るコードが多くなり、
加えて、未知の言語を使っているので、紙とキーボードを見比べ
文字を探すのが、手間で、入力は一苦労だったが、
それでも一文字一文字、打ち込んでいく。
「お願い、消えるのは嫌ぁ!」
イリスの声は悲痛なものになっていた。
ついに最後一文字を撃ち込む、後はエンターキーに当たるボタンを押せばいいが
ここで、遂に腕がコードの絡まれてしまう。
「!」
修一は再び「イーブン」を発動させ、踏ん張り必死で手を伸ばす。
「ウググ……」
結構きついが、渾身の力を込めて
「ウオォォォォォォォォォォォォ!」
という声と共にコードを引きちぎりながら、手を伸ばしキーを押した。
モニターに『初期化しています』と言う文字と共に、
プログレスバーが表示される。
巻き付いていたロープは、はずれ引っ込む。
「やったか……」
そしてモニターに映るイリスは、悲痛な表情を浮かべ
「消える、私が消えてしまう!嫌ぁ!」
その悲痛な様子に、修一は罪悪感を感じたものの、
しかし、このロボを止めるには、これしかないようだから、
仕方ないと思った。
(昔のSF作品で、暴走した宇宙船のAIを破壊する船長の気分だな)
やがて、プログレスバーが進むと、モニターが消え、声も聞こえなくなった。
そして、100%になった時、すべての電源が落ち、
部屋は真っ暗になった。メカニサルヴァは完全に沈黙した。
だがすぐに再起動、モニターには
『初期化完了。リモコンをお取りください』
と出て、腕時計の乗ったトレイが出て来た。
修一は、妙に安心感に襲われ、鎧を脱ぎ、それを手にしていた。
『引き続き、初期設定を行います。』
「えっ?」
次の瞬間、モニターに修一の情報が出て来る。
しかも、今しがた撮られたと思われる写真付きである。
どうも、修一がパイロットにされたようだった。
『チュートリアルを始めます』
次の瞬間、メカニサルヴァの使い方が、修一の頭の中に入って来た。
「えっ……あっ……」
そして
『これにて、初期設定を終了します』
と表示される。
「これで終わったのか……」
今度は、脱力感が襲ってきたが、モニターを見ると、対処に当たっていた奴らが
怪訝そうに、こっちを見ている。急に攻撃が止んだから、警戒しているようだった。
(とにかく脱出だな。あとこいつも……)
機体には転移装置が付いていて、それでパイロットは出入りできる。
(何だか魔機神って奴みたいだな)
修一は、転移を使うべく、腕時計を外し、ポケットに入れた後、
リモコンの方を身に付けた。そして近くの人気のない路地裏に転移した。
彼の転移に合わせて、メカニサルヴァは姿を消した。
今回の二体の怪獣による被害は大きかったが、人的被害は一切なかった。
そして帰路につく修一、その手には学生鞄と、
17cm位のメカニサルヴァのフィギュアのような物があった。
実は、このフィギュアが、トイモードと言うメカニサルヴァ自身が、
小型化し、玩具に擬態した姿である。
あの場を離れるにしても、コイツをそのままにできないので、
修一の転移後、この姿になって彼の元に転移する様に設定していた。
その後、この騒ぎの所為か襲撃は無く、家に持って帰って、
リモコンを机の中に入れた後、フィギュアを机の上に乗せて、じっと見つめる。
(さてどうするか……)
一見、ロボット怪獣のフィギュアにしか見えない。
(しかし、良い作りだよな。マニア向けの万単位の値段がするフィギュアみたいだ)
なお、修一はまだ学生故に、そこまで高いフィギュアを買ったことは無い。
取り敢えず、今のところは、棚に飾っておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます