13「ラビリンスの襲来と怪獣出現」
先の九尾狐党は、いきなりリーダーがやって来たが、
ラビリンスは、比べ物にならないくらい大きな組織である。
その首領が自ら出向いてきたのは、驚きである。
ガラスを思いっきり叩くような音がする中、
明菜は、ベルトのバックルに右手を当て、
「マジカルジュエル……」
首領は、手を開き前に突き出しながら、
「待って!今日は事を構えるつもりは無いわ」
「えっ?」
「さっきから言ってるでしょ、身構えなくてもいいって」
首領は、懐から封筒を取り出した。
次の瞬間、彼女は修一の目の前にいた。
「!」
「受け取りなさい」
そう言うと封筒を差し出し、修一は思わず、それを受け取っていた。
そして、再び一瞬のうちに、間合いを取った。
なお、封筒は封をしてはいなかった。
思わず封筒の中を確認すると、
それはラビリンスが修一に、反撃以外で攻撃をしない事を約束する
誓約書だった。横からそれを見た明菜は、
「信用できないわね」
と言って、首領を睨みつけた。
「貴女に信用はない事は分かっているけど、とにかく基本的に
私たちは、桜井修一に攻撃を仕掛けのない事を約束するわ。」
と首領は言うものの、直ぐには信用できなかった。
「どうして、俺を狙わないんですか?」
と聞く修一。
すると首領は、
「大十字久美が関わっているとだけ言っておくわ」
「はい?」
「とにかく、貴方には手が出しづらいの」
更に彼女は、
「数日前、我々の元に、貴方の抹殺依頼が来たわ。
依頼人は我々の力を持っても分からなかった」
正体不明の依頼人から依頼を受ける事はしょっちゅうで、
金さえ払ってくれれば、基本的に受けると言う。
ただし、今回の様に、依頼に問題が無ければの話である。
「ただ我々以外にも、依頼をしているが、殆どに断られている。
受けたのは、君がやり合ったエクスマキナ、インフェクラウン、
九尾狐党だけ。我々から見れば素人ばかりよ」
「素人?」
「この業界の仁義で、どこの誰とは言えないけど、
連中は、この業界じゃ素人なのよ」
「業界って……」
大方、悪の組織の事なのだが、業界という言い方に、滑稽さを感じた。
「とにかく、君を狙って来るのは、この三人だけだ」
ここで明菜は、
「何故その事を、話す?」
「敵対意思ないことの証明かな」
そう言うと、腕時計を確認すると、
「これ以上の足止めした悪いわね」
次の瞬間、結界が崩壊し、メタルマギア、フェイブル、鬼姫が飛び込んで来た。
そうガラスを思いっきり叩くような音は、外にいる三人が、結界を壊す音だった。
「ご苦労な事で」
首領は言い、
「それじゃあ、また会いましょう明菜、そして桜井修一、
貴方とは、二度と会わない事を願って……」
そう言うと、筒状の物を地面に落とす、するとそれから
煙が発生、即ち煙幕を張り、煙が消えると、首領も戦闘員も居なくなっていた。
その後、学校にて、休み時間に、春奈たちとラビリンスの事で話をした。
今回も、メイも一緒である。
「誓約書って言っても信用できないわね」
「私も……」
と言う感じだが、しかしメイは、
「私は……信用していい……と思う」
彼女が、例の組織にいた頃に知った事であるが、
ラビリンスと言うか、その首領は、悪の組織のボスの割には、
結構律義な所があるらしい。
「誓約書を書くと……必ず守るって話……」
ただし、誓約書を書く事自体、稀だと言う。
「本当かな」
春奈は信頼できない様子であったが、実際の所、その後、
エクスマキナ、インフェクラウン、九尾狐党は襲って来る事はあっても
ラビリンスは一切手出ししてこなかった。
さて、休み時間の話から、メイも修一が狙われていると知り、
護衛を買って出たというか、半ば強引についてきた。
ちなみに、メイは襲撃してくる連中たちとの交戦経験があるという。
敵の襲撃は、基本放課後で、ほぼ毎日であるので、
修一と魔法少女達とメイとの共闘は、日常になりつつあった。
「夜は恵美が護衛してくれるから」
その為、この前のように家に泊まり込むことはなかった。
そんな中でふと思ったのは、
(エクスマキナだけでなく、他の奴らも、学生じゃないか?)
ラビリンスは、それが仕事だから、朝でも襲ってくる可能性があった。
実際接触してきたのは、通学前である。
残りの連中は、学生だから、攻撃が放課後に集中するのではないかと思ったのだ。
(インフェクラウンに至っては、小学生じゃないだろうな。
特殊な力で一時的に大人になってるとか)
妙に子供みたいだったので、そう思ったのである。
まあ、子供みたいな大人もいなくもないだろうが、
なお西崎絵里菜がエクスマキナである事を確かめる事に関しては
間違っていた不味いから、一人でやりたかったので、
護衛の付いている間は、お休み状態であった。
(正体を暴いたところで、何をすべきか)
正直、修一の好奇心を満たすだけである。
その上、正体を知られたことで、余計に付け狙ってくる可能性があった。
(実際、学生であると知られただけで、あの態度だからな)
それに、春奈に伝えた場合、どう思うかという事もある。
(お世話になってる先輩が、実は自分の敵対している存在だったって
知ったらショックだろうな)
もし、西崎絵里菜だとして、彼女も、春奈がメタルマギアとは、
知らないと思われる。だから世話を焼いていると思われる。
そしてある日の、午前の授業。
(今日は、誰が来るんだか、いつまでこの状態が続くんだ)
向こうが諦めるまでだろうが、ああいう連中はしつこい。
相当痛い目をして貰わなければいけない。
(やはり、赤い怪人に頼るか、でもなあ……)
そんな事を考えていた。
そんな中、ゲート警報のサイレンが鳴った。
それ自体は、いつもの事である。しかし、その日はいつもと違った。
「グォォォォォォォォォォォォン!」
という咆哮のようなものが聞こえてきて、
教室が、静まり返った。修一は隣の席にいる秋人に、
「今の、魔獣か?」
「さっきゲート警報が出てたから、
もしかしたら、ゲートから魔獣が現れたんじゃ」
そして窓際の生徒が、
「あ~!」
と声を上げた。更に他の窓際の席の生徒も、
「ちょっと大変よ!」
と窓を指さしながら声を上げた。生徒たちの視線が、
窓の方に、向き、そして何人かの生徒は、
授業中ではあったが、席を離れ窓際に向かう。
「ホント大変!」
「なによ、あれ!」
と口々に声を上げた。
修一も好奇心が出てきて、窓際へと向かう。秋人も付いて来る。
「あれは!」
窓からは、街の様子が見えるのであるが、
遠くの方に巨大な影があった。しかも煙が上がっている。
「大型の魔獣か?」
と修一が言うと、秋人が、
「遠くだから、わかりにくいけど、見たことのない魔獣だよ」
と言った後、
「いや魔獣じゃないかもしれない……」
「えっ?」
「もしかしたら、怪獣かもしれない」
ここで、教師が
「皆さん、落ち着いて、一旦席について」
と声を上げるが、直後に校内放送が流れた。
「市より緊急連絡です。現在、ゲートより、未知の巨大生物が出現しました。
生徒の皆さんは、ただちに下校し、各自避難してください」
この時、秋人を含め、生徒たちがスマホを確認し始める。
「何やってるんだ?」
「冒険者ギルドからの、メールを確認しているんだ」
修一は、冒険者登録しかしていないが、秋人は、登録の後、
ギルドにも登録している。
「街に何かあった時、ギルドが、所属している冒険者を招集して対処するんだよ」
と言ってもお金がもらえるわけではなく、ボランティアであるが。
他の生徒たちも、同じようであった。
その後、下校している途中にメールが入った。現在の怪獣の状況と、
対処の為の来られる人は来て欲しいと言う内容だった。
「僕、言って来るよ」
「そうか、気を付けてな。勇者様」
「勇者様はやめてよ」
と恥ずかしそうにしながらも、その場を離れる秋人。
この少し前、まだ学校に居て、下校しようとしていた時、
春奈たちが、申し訳なさげに
「修一君……」
と声を掛けてきた。怪獣が現れたから、
護衛が出来ないと言っているように感じたので、
「俺は大丈夫だ」
と答えると、二人は去って行った。
(がんばれよ、魔法少女)
と心の中で二人に、エールを送った。
そして、秋人が言ってしまった後
(俺がすべき事は……)
怪獣への好奇心と、どうにかしなければと言う正義感から、
修一も怪獣の方へと向かっていた。
下校の時からそうであったが、皆こういう事に慣れているのか、
パニックなっている様子もなく、生徒を含めた住民達は冷静に、行動している。
とは言え、騒がしくはあるのだが。
ある程度接近すると怪獣の全体が見えて来た。
それは全長50mほどの見た所、恐竜の様で、尻尾には、
無数の棘の様な物があり、背には翼、手足の爪も鋭かった。
(まさに怪獣って感じだな……)
ちなみに怪獣と魔獣の違いは、ファンタテーラの由来である事と、
例え、ファンタテーラの由来でなくとも、ファンタジーの魔物なら魔獣。
それ以外の何だか分類できないものは怪獣となると言う。
ここで、
「チミは逃げないのかい?」
声を掛けて来たのは創月瞳だった。
「そうだ、良い物を見せてあげる。こっちに来てよ」
癪に障る言い方をしているが、どうも気になった修一は、
彼女の後を追い、たどり着いたのはビルの屋上だった。
なおビルの中は避難したのか、誰もいない。
「どう?ここ特等席でしょ」
確かに怪獣の姿が良く見えた。今、怪獣たちとボランティアの冒険者や
春奈たちの様な正義の味方達が戦っている。
中には巨大ヒーローもいるが苦戦気味である。
しかし、この場所は、攻撃が飛んでくる可能性もあり、危険そうな場所でもあった。
そして瞳は、修一の方を向き、
「前の怪獣ほどじゃないし、今は苦戦してるけど、直ぐに盛り返すね。
まあ私の出番は無さそうだけど、今日は特別」
と言い、ニヤリと笑うとスティック状の物を取り出した。
宝石の様な装飾が施されたそれは、魔法少女の杖と言うより、
ヒーローの変身アイテムのようだった。
「見せてあげるよ」
そう言うと、それを右胸に当て、
「マジカルジュエル……」
上に掲げて、
「……メタモルフォーゼ!」
と叫んだ。すると彼女は、眩い光となり怪獣の方へ飛んでいった。
そして飛んでいった光は、金属のアーマーを身に纏った女性型の巨人へと
姿を変え、降着した。
「『巨人の魔法少女イクシード』……」
そして今、巨人と怪獣の戦いが始まろうとしていた。
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