11「修一の新たな秘密」
さて、現場を離れた四人であるが、ちょうど人気のない場所に
来たところで、急に拍手の音と
「いやあ~なかなかすごい戦いだったねぇ~」
「「「!」」」
声のする方には、創月瞳の姿、彼女はニヤニヤとしながら双眼鏡を手にしていた。
「瞳……」
と言う春奈。
「またお前か」
と彼女の事を、良くは思っていないようで、不機嫌そうな千代子。
一方、修一は彼女の双眼鏡に着目し、
「何だその双眼鏡は?まさか天童達のストーキングか?」
彼女はニヤニヤとした表情を変える事無く
「人聞きの悪い事言わないでよ~、私達は温かい目で見守ってるんだから」
「でも、その双眼鏡で覗いてたんだろ」
と修一が、その双眼鏡を指し示しながら言うと
「そうだよ。だって私たちが近くにいるんじゃ、邪魔になるからね」
「でも、四六時中、監視してるんだろ」
修一の指摘に
「だから、見守りだよ。いつ邪魔者が現れるかわからないからね。
私たちは、守らなきゃいけないもの、あの二人の恋路を邪魔するものからね。
だから、あの二人が朝起きて、夜寝るまで、ずっと見てなきゃいけないの」
そう言って、笑う
ここで、千代子は、初耳だったのか、ドン引きしながら、
「朝起きて、夜寝るまでって、完全にストーカーやん。
お前、そんなことやってるんか?」
と声を上げた。更に
「正義の味方が、そんな事しててええんか?」
と疑問を呈すると、
「だから、そんなんじゃないよ。さっきから言ってるでしょ、見守りだよ。
私たちは、零也君と真綾さんが、恋路を邪魔したいんじゃないよ。
応援してるんだよ。そして、邪魔するものは徹底的に排除するんだから」
瞳の顔は笑っているが、どこか凶器的な雰囲気を醸し出していた。
一方の春奈と麻衣は共に、気まずそうにしている。ここで、修一が、
「お前ら、もしかして知ってたのか?」
更に、千代子も
「どうなん?」
と聞くと、麻衣は黙ったままだが、春奈は
「私たちは、瞳を止められないから……」
とだけ言った。
そして瞳は、あっけらかんとした様子で、
「今日は、私とした事が二人を見失っちゃってね。
それで街の様子を見てたら、結界に気づいて、中を覗いたんだよ」
彼女は、と言うか魔法少女たちは、変身はしなくても、
力の一部は使え、結界の中を覗くという事が出来る。
「覗いたって、どこから見てた?」
「君が、鎧を着て、力を使うところからだよ。
いやあ驚きだね。君がスーパーサイキッカーの上に忍法まで使うなんてね」
すると春奈は、
「麻衣の話から、スーパーサイキッカーだって聞いてたけど、
忍法も使えるってのは驚きね。しかも妲姫と同じくらいの使い手だなんて」
ここで千代子が、
「『今、使えるようになった』とか言うとったな。どういうことや?」
と尋ねたら、
「そのままの意味だ」
と修一が言った後、
「じゃあ、夕飯の準備をしなきゃいけないから、俺もう帰るわ」
その場を、立ち去る。
帰路につく修一であるが、春奈たちも後を付いて来る。
「何で付いて来るんだ?もう護衛は必要ないだろ」
すると春奈は
「念のためよ。それに、忍術が使えるってのが気になるし……」
千代子は、
「確かに『今、使えるようになった』は気になるな」
麻衣が
「それ以前にさあ……桜井君は、この街に来たのは、最近なの……」
「最近?それは変やな」
超技能は、この街以外で身に着けるのは容易ではない。
加えて、妲姫の使っていて、撃ち返した忍術は
この街でも、最低限でも、一年くらいの修行を必要とするものばかり。
「それが、どうして使えるのか、気になるのよ。話を聞かせてくれる?」
と春奈は、修一をじっと見ながら言う。更には、瞳も右手を上げながら
「私も知りた~い」
と言い出した。
修一はと言うと、あまり話したくはなかったが、特に瞳には、
しかしいつもの病気で、彼女たちの秘密を知った事への、
後ろめたさもあって、
「分かったよ。俺の家で話をしよう」
と何処か観念したような言い方をした。
裏玄関から、家に入る五人。
「なかなか、ええ家に住んでるな」
と言う千代子。すると瞳は、
「一人暮らしには、随分と広いよね」
「正確には、母さん二人暮らしだけどな」
「でも、確かお母さんが、留守にしがちだから、実質、一人暮らしでしょう」
修一は、「何で知ってる」と言おうとしたが、彼女が
零也を、四六時中監視しているなら、修一と零也の会話を聞いたことがあるはずで、
実質一人暮らしという事は、話したことがあるから、
知っていてもおかしい事じゃないので、その事は指摘しなかった。
そして瞳は、
「二階には下宿人がいて……」
と言いかけたところで、表玄関につながる扉を叩く音と、
「桜井修一、帰ってきてるわね。従姉の事で、話があるわ!」
と言う蒼穹の声がした。すると千代子が、驚いたように
「この声って、天海蒼穹って奴じゃ」
と言い出した。そして修一は、
「はぁ……」
とため息をついた後、扉に近づき、
「今、客が来てるんだが……」
と言うと、
「えっ!」
と声を上げる蒼穹。
ここで、横から瞳が、出て来て、勝手に鍵を開け、扉も開けた。
「やあ、天海さん」
「げっ!創月瞳!」
蒼穹とは同じ学校で、クラスも一緒であるが、その反応から見て、
あまり好かれてはいなさそうである。
「何で、アンタがいるワケ!」
「いやあ~桜井君とね……」
と言った後、ニヤリと笑って、
「今からねえ、桜井君が面白い話をしてくれるらしいよ」
「面白い話?」
修一は、蒼穹にまで話すのはどうかと思ったが、
流れ的には、ここで彼女だけ追い返すのもできそうにないので、
観念したように、
「面白いかどうかは、分からないけどな」
と言う。
リビングで蒼穹を加え、女性が五人になった。蒼穹の登場に、
千代子は、驚いていたが、瞳は、特に反応は無いんで、
「まさか、私がここに住んでる事、知ってた?」
「いつの日曜日だったか、この家のベランダに出て来るのを
偶然見てね」
修一は、里美と対決したあの日曜日だと思った。
(天童が俺の家に入ったから、外から様子を見てたんだろう)
さて瞳は、女子五人に男子一人と言う状況に、
「なんだかさあ~五股してて、修羅場になったみたいだねぇ」
といじわる気な口調で言うので、
「そう言う笑えない冗談はやめろ」
と言う修一、ここで蒼穹が、
「ところで、この集まりは何なの?」
春奈と麻衣を指し示しながら、
「そこ二人は、あんたと同じ部活だけど、
残りは、一人はどうかわかないけど、少なくとも
創月瞳はウチの生徒だから違うし……」
すると瞳が、
「私達は、魔法少女だよ~」
と言い出したので、春奈と麻衣、そして千代子が焦りだして、
「ちょ、ちょ、ちょ、瞳!何言ってるの!」
「そうだよ……何を言って」
「おかしな冗談、言わんとってや!」
すると蒼穹が、
「桜井修一、アンタ確か、魔法少女の正体、知ってるのよね」
と言ったので、
「何!」
と言って、千代子は修一に突っかかった。
「アンタ、喋ったんか!ウチらの事!」
「言ってねえよ!」
と言いつつも目線を逸らしながら
「うっかり魔法少女の正体は知ってるとは、言ったけど、
何処の誰が、魔法少女かは言ってない」
と言いつつ、目線を戻し、
「つーか、お前、墓穴掘ったぞ」
「あっ!」
自分の言った言葉に気付き、声を上げる。そして春奈が
「千代子~」
と情けない声を出す。麻衣は何も言わないが涙目。
更に、瞳が、
「相変わらず、穴掘りチヨちゃんだねぇ~」
バカにしたように言ったので、
「変なあだ名付けんなや!」
怒号を上げる千代子、この状況を何とも言えない表情で見る蒼穹。
そして、
「これで、私も、アンタと同じく五人、全員の正体を知ったわけだ」
とため息交じりの声で言った。
この後、少しして、状況が落ち着いたので修一は、
事情を説明し始めた。ただ最初に、
「信じられないと思うが」
と前置きをしつつ、
「俺は、自分の受けた攻撃、いや力に触れるだけで、自分のものにできるんだ。」
すると蒼穹は、
「それって『コレクト』って事?」
「何だそれ?」
「超能力をコピーして、自分の能力に変える力よ。希少能力だけど」
と言った後、
「そう言えば、あの時、アンタが急にソウルウェポンを使いだしたのって」
「アキラの武器に触れたからだ」
ここで、春奈が
「『コレクト』なら、スーパーサイキッカーじゃないよね」
系統の異なる複数の主体能力を持ち合わせる者をスーパーサイキッカーと呼ぶが、
ただし、コレクトの様に、一つの主体能力によって、
結果として複数の主体能力を得ている者は、スーパーサイキッカーとは呼ばない。
「『コレクト』ってのは、それって超技能もコピーできたりするのか」
「いいえ、そう言うことは無いけど」
と蒼穹が言うと、千代子が
「そういや、さっき攻撃を受けて撃ち返すように、忍法を使っとったのって……」
「忍法を受けて使えるようになったんだよ。
言っただろ、『今、使えるようになった』って」
ここで瞳が、
「天海さんが言ってたけど、『コレクト』は超能力だけ、
あり得るとすればスキル『習得』だけ」
と言ったのち、
「チミは、家系にファンタテーラの人はいるかい?」
「居ないと思うけど……」
「じゃあ、『帰還者』とかは?」
「居ないと思う」
すると瞳は首を傾げ、
「じゃあ、変だね」
「どう言う事だ」
「この世界で『スキル』を得るには、
ファンタテーラからの来訪者の血筋か、過去にファンタテーラに
行った事のある人間の血筋だけだからね」
したがって修一の力は、不可解と言う事になるらしい。
更に、修一
「でも、何でもって訳じゃないんだよな、『ミューティーション』とかは
『解放』されなかったし」
「『解放』?」
「力を手に入れるたびに声が聞こえるんだよ。今日だったら
『火遁の術、解放』って」
ここで瞳が
「『解放』って事は、手に入れたと言うより、既に持っていたものが
解き放たれたて事なのかな~」
「さあ、俺にだって分からねえんだ」
春奈は
「何だか、信じ硬いわね」
「そうだろうな。俺だって信じられない。ただ……」
修一は特に、千代子の方を見ながら
「俺の忍法は、修行とかじゃなくて、訳の分からない力で
今日、会得したものって事。それだけは分かってほしい」
と言った。厳しい修行を経て、力を得た人達に、
申し訳ない気がしたから、そう言ったのである。
すると、千代子は暗い顔で
「分かった……」
とだけ言った。
そして修一は、
「ここまで話した事は、秘密にしてほしい。変に目立ちたくないからな」
すると春奈は
「わかったわ。それと、これからも、私達の事は秘密で」
と言った後
「天海さんも……」
「わかってるわよ」
と蒼穹は不機嫌そうに言う。彼女はまた他人の秘密を背負ってしまったからだ
ちなみに、ここまでの話の所為で、
恵美の事はすっかり聞き忘れているのだった。
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