9「道化師は地獄を見る」

 いきなり現れた道化師。しかも修一を殺すと言い放った。


(持って来ててよかった)


修一は黒騎士の鎧を身に纏った。昨日の事があったから護身用に持って来ていたのだ


「魔法の鎧かぁ~。君は冒険者なのかい」

「お前、何者だ」

「だから僕は、インフェクラウン、君を……」


もとよりイラついていたので、


「それは、聞いた!もっと詳しい自己紹介をしやがれ!」

「そう言う事ね。じゃあ冥途の土産に、話してあげるよ」


と言い楽しげに、踊りながら、


「僕はねぇ~恐怖と絶望の物語の力を使えるんだよ~」


物語の力と聞いて、


「お前、フェイブルの関係者か?」

「宿敵だよ~」


との事。


 まあそれはさておいて、


(ああもうホント、イラつくなぁ、アイツを思い出す)


昔の思い出に加え、その喋り方、その動きが、余計に修一の癪に障った。


「僕は、人々に恐怖と絶望を……」


と言いかけた所で


「バーストブレイズ……」


専用魔法をいきなりぶっ放した。


「わわわわわ!」


と慌てふためくインフェクラウン。

どうやら、攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったらしい。


「君、卑怯だよ!」


と叫ぶが、修一は、


「卑怯結構、テメエに払える敬意はねぇ!」


これは、修一が功美からの、


「正々堂々と言うのは、敬意を払える相手にするものなの。

見るからに敬意を払えない相手に、正々堂々なんて、バカらしいのよ」


と言う教えからである。

なおスポーツの試合とかは、敬意を払う事自体がルールだから、

どんな相手にも、正々堂々としなければならないとも、教えられている。


 しかし、今はスポーツとかの試合じゃないし、

敬意の払えない襲撃者との戦い。だから修一は、手段を選ばない。

しかも、結界の中なので周りに迷惑をかけないから、余計に気兼ねが無いのだ。


「フェイブルは、もっと正々堂々とした戦い方をするよぉ~」


と泣き声をあげた。


「他のヒーロー達だって~」


と言う道化師に、修一は、能力名は「ヒーロー」であるが、


「俺は、ヒーローじゃないつーの」


更に攻撃を続ける。道化師も様々な魔獣を召喚したり、

時に魔物、ホラー映画に出て来るような化け物に変身することもあるが、

すべてバーストブレイズの前に沈んだ。


(バーストブレイズ……これだけあれば、十分って感じだな……)


あの異界での冒険以来、蒼穹は使っているが、

修一は一度も使ってなかったので、今、その強さを実感した。


 一方、インフェクラウンは、これまで、正々堂々と戦うヒーローだけとしか、

戦ってないのか、修一のように、何でもありな戦い方、

悪い言い方なら、卑怯な戦い方をする奴とは戦ったことがないのか、

この状況に狼狽し、泣き声で、


「ひぃいい、こんなの聞いてないよ~」


と言った。その言葉を聞いた修一は、一旦攻撃を止め、


「聞いてないって、お前、誰かから頼まれたのか」


相手は答えない。だが少しして、泣き声交じりであるが


「……油断したね……」

「!」


次の瞬間、街がゆがみ、ぐちゃぐちゃになって、

足元は、地割れが出来て、足場がなくなっていく。

周囲の建物が、まるでモンスターになったように迫ってくる。


「行っただろ、ここは僕の世界。自由自在にできるんだよ!」


地面はくずれ、下は奈落のようになっていく、足場がなくなって来たので

とっさに修一は、「ヒーロー」を発動させ、飛翔した。


 その姿に相変わらず、泣き声で


「空飛べるなんて、聞いてない~」


と声を上げるが、


「だけど、落としてやる~!」


街が、無数の巨大な手のようになって、

襲い掛かってくる。修一はバーストブレイズと気弾で応戦。

と言っても、バーストブレイズに比べ、気弾はあまり役に立たない。

しかし、バーストブレイズも、さっきまでとは違い巨大な無数の手の前では、

高い攻撃力は持つものの、分が悪かった。


(そうだ、さっき使えるようになった奴を使ってみるか)


 街が襲ってくる直前、頭の中に、情報が流れ込むような感じがした。

異界の時とは違って、頭痛はない。


(またしても、鎧の専用魔法か、こいつも強力そうだな。

でも使用場所と回数に、制限ありか)


だからバーストブレイズとは違って、直ぐには使わなかった。


 今、修一は、その魔法を使おうと思った。右手を空に向けて伸ばし、


「レインボミング!」


次の瞬間、雲が発生し、雨が降り始めた。それが修一以外に当たると、

爆発が起きて、やがてあちこちで、爆発が起き始めた。


「何だこの雨、当たったら爆発して、

ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


インフェクラウンにも爆発が起きる。

この魔法は、触れると爆発する液体の雨を一定時間、降らせるという、

鎧専用魔法。水属性で炎は伴わないものの、強い熱と衝撃波が起きる。

その効果は使用者が選んだ対象にのみ、それ以外にはただの雨。

そして、使用可能なのは屋外で、一日一回しか使えない。

この空間は、結界の中であるが、屋外のようなものなので使用できた。


 爆発によって、襲ってきていた巨大な手は次々と破壊されていって、

奈落の底に落ちていった。そして雨は止んで、周りは、巨大な穴の上に、

所々に足場が浮いているというような感じだった。

そして残っていた足場の一つと言うか、残していた足場に、

道化師は倒れていた。


そこに向かおうとすると、


「桜井君……」

「フェイブル……」


そこにはフェイブルがいた。他の二人はいない。


「奴の結界の気配を察知して、ここに来たの、今日は一人だから

中に入るのに手間取って、時間がかかったけど昨日と同じで、助け入らない様ね」


なお彼女は結界に侵入する際に、彼女は、結界の中の状況が見えていた。

そして彼女を見ながら修一は、


(いつもの夢沢と雰囲気違うな。彼女も部長と同じタイプか、

俺みたいに、アレを使ってるときと同じなのか)


なおフェイブルは


「桜井君は『ヒーロー』も使えるって事は、スーパーサイキッカなのね。

魔法はその鎧の専用魔法かしら」


と言いつつ、道化師の方に向かっていく、修一も後を追うように向かっていき、

そして、一緒に倒れている道化師の元に到着すると、

ちょうど、道化師が目を覚ましていたころで、修一の方を見て


「ひぃ!」


と声を上げ、更には、


「フェイブルまで……」


と声を上げ、怯えだす。


 

 一方修一と、フェイブルは


「「えっ?」」


道化師の服は、先の魔法で、焼けてしまったのかボロボロで、

肌がむき出しになっていた。


「「女の子……」」


と口をそろえて言う二人。更にその姿に、


(何だろう。ものすごく悪い事をしている気がする)


と思う修一。そして道化師は、


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


と泣き出し、背中から蝙蝠のような羽が生えたかと思うと、

逃げるように飛んで行った。

次の瞬間、周りが光に包まれたかと思うと、元の場所に戻っていた。


 この時、修一以外周りに人がいなかったので、変身を解く麻衣。

そして変身時とは打って変わって、

オドオドしているような感じで、


「あの……何で、インフェクラウンと桜井君がその……戦ってたの?」


修一も鎧を脱いでいて、


「向こうから、急にやって来たんだ。昨日のエクスマキナと同じだ」


ここからは口が滑り


「ただ、俺を名指しで、殺すって言ってた」

「どういうこと?」


余計な事を言ったかと思ったが、言ってしまったからには仕方ない。


「分からないけど、どうも誰かから、俺を殺すように頼まれたみたいなんだよな。

『聞いてない』とか言ってたしな」


そして、麻衣は、小さな声で、


「桜井君が、狙われてる……」


と不安げに言ったので、余計に心配をかけていると思うと、

心苦しさを感じたので、ワザとらしく明るい口調で、


「大丈夫だ。次、来たら、誰に頼まれたか聞きだしてやるから」


と言った後、話題を変えて、


「ところであの道化師は何者なんだ?」

「アイツは、初代魔法少女の頃からいた。魔法少女の敵……」


正体は不明だが、長年にわたって魔法少女と戦って来たと言う。


「私達と同じで……代替わりしてるんだと思う」


正体は不明だったが、以前のインフェクラウンは男だったと言う。

しかし今日の事で、女だと分かったから、そう思ったらしい。

なお当初は、魔法少女全員と戦っていたが、

今ではフェイブルを目の敵にしているとの事。話を聞き終えた後、


「本当に大丈夫なの?桜井君……」

「大丈夫だよ。じゃあな」


と言ってその場を後にした。

なおインフェクラウンとやり合っていた所為で、

西崎絵里菜は見失っていたので、修一は、そのまま家に帰った。


 しかし、家に戻ったところで、落ち着かなかった。

自身が狙われているのだから、


(もしかして、エクスマキナも、同じ、誰かに依頼されてだったりするのか)


この街に来てからはあまりないが、

以前は、彼の病気である正義感と負けず嫌いの所為で、

メイの件も含め、厄介事を抱える事が多かった。

だから思い当たる節は、多いのである。


(また明日に成ったら変な奴が来ないだろうな)


とそんな事を思った。


 翌日、家や学校に居る内は、何も無かったが、下校時刻になって、

奇しくも、下校時刻。部活帰りで、西崎絵里菜は早くに下校したとの事で、

昨日の様に彼女の追跡は出来ず、今日はまっすぐ家に帰ろうとすると、

急に人気が無くなって、


(まさか……)


次の瞬間、周囲を時代劇とかで出て来る忍者のような奴らに囲まれた。


「………」


不機嫌そうな顔になり、黙り込む修一。


 忍者のリーダー格は口元が見えている狐面をかぶった女性、即ちくノ一で


「我等は、九尾狐党」


忍者たちは、忍者刀を装備した。


「桜井修一、お命頂戴!」


修一は、大声で、


「渡すかよ!」


と叫んでいた。結局彼の予測は当たっていたのである。

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