5「孤高の事情」
とりあえず、明菜と言う女性を家に運んだ後、
居間に功美が布団を引いて、彼女を寝かせた。
「なあ天海、この人、『近所に住んでた、お姉さん』との事だけど誰だ?」
と言うと功美が
「この子は、蒼崎明菜、私の知り合いの娘さんよ」
「母さんも知ってる人なんだ……」
母親の顔の広さは、この街に来てから、嫌でも見てきたので、
そんなに驚きはない。
「ところで、修一は蒼崎志保って子、知ってる」
そんな事を言われて、
「何か聞き覚えが……」
腕を組み、頭を傾げながら記憶を辿る修一。
脳裏にスーパーの入り口、街の掲示板、交番と浮かんできて、
「思い出した。確か行方不明になってる女の子だ」
浮かんできた場所は、情報提供を求める張り紙が張ってある場所だった。
その少女は、十年前に行方不明になっていて、
もし生きているなら、修一達と同じ歳になっている。
「その少女のお姉さんがこの人よ」
「そうなんだ……」
と修一は言うが、そんな事よりも、ロストルナの正体を知ってしまった事、
春奈や麻衣、そして瞳のように、知っている人間ではないから、
千代子も同じだが、そんなに強い驚きはないものの、
それでも、気になってしまう事でもある。
一方、蒼穹は、
「まさか、明菜さんがロストルナだなんて……」
彼女の場合は、知っている人間だからか、驚きを隠せない。
その反面、功美は妙に涼しげな中をしている。
修一は、その事に気づき、
「母さん、あんまり驚いてないみたいだけど、もしかして……」
すると功美は、さり気ない口調で、
「知ってたわ」
と答えつつも、
「何でかは、言えないけどね」
とも言った。ふと修一は思い立って、
「まさか、母さんも他の四人の事も……」
するといじわる気な口調で
「どうかしらね……」
と言いつつも、
「修一は、どうなの?」
「えっ?」
「今、『母さんも』って言ったわよね?」
この一言に、しまったと言う顔をする修一。
功美が、
「もしかして、あなたも……」
と言いかけた時、明菜が目を覚ました。
「ここは……」
目覚めに気づいた功美が
「気が付いた?」
と声を掛けた。
「桜井さん……」
と言いながら、起き上がって来る明菜であるが、
ここでハッとなったように、
「あのもしかして、桜井さんの家にぶつかったんじゃ……」
「大丈夫よ。ギリギリのところで、貴女が止まったから、
被害は全くないわ」
「それは良かった……」
修一は、功美が嘘をついた事に気づいていたが、
相手の為を想って事だと感じ、その事を指摘しなかった。
蒼穹も同じなのか、特に何も言わない。
明菜は修一達に気づき、
「えっ、蒼穹ちゃんに、もしかして桜井修一君?」
功美から話を聞いていたのだろか、明菜は修一の事を知っているようだった。
「でもどうして、蒼穹ちゃんが、桜井さんの家に?」
「今、蒼穹ちゃんを私の家で、預かってるの」
すると暗い顔をする明菜。修一は、怪獣が出た時、
彼女たちが倒したものの、苦戦した事は聞いている。
(多分、天海の住んでいたアパートを守れなかったことに、責任を感じてるんだな)
と思った。
ここで、明菜は、再びハッとなったように、
「あの……蒼穹さん」
と言った瞬間、蒼穹はあからさまに動揺して、
「えっ、あの、しっ、死海文書じゃなくて、知りません。何も知りませんから、
わっ、和洋折衷じゃなくて私は、何も、みっ、三日天下じゃなくて
見てませんから……」
すると、微笑ましい表情を浮かべて、
「動揺すると、言葉がおかしくなるのは、相変わらずね」
と言う明菜。更に修一が、
「それだと、自白したも同じだぞ」
と言うと顔を赤くして、黙り込む蒼穹。
そして、明菜は修一の方を見ると
「もしかして、貴方も……」
この状況だと、誤魔化しはいけない気がしたので、
「はい……」
と答えるが、ここで功美が、
「これで、魔法少女全員の素性を知ったわけね」
と言い、
「ああ……」
と修一は、うっかり答えてしまう。
彼は、ハッとなって手で口をふせぐが、もう手遅れである。
「貴方、あの子たち事を……」
と明菜が言い、功美はニヤニヤしている。蒼穹も驚いた顔で、
「そういや、さっき妙なこと言ってたけど、
アンタ、魔法少女の正体を知ってるの!」
修一は観念したように
「どういう因果か知りませんが、今日知りました」
と言い、魔法少女がどこの誰かは言わず、
部長の事も知り合いと言って話さず、今日の出来事を話した。しかし功美が、
「修一、確か菊乃さんと一緒にいたでしょう」
と言った。功美は、部長の本名を含め知っているらしい。
加えて彼女は修一と部長が一緒にいたのを見ていて
「知り合いって、菊乃さんの事ね」
と部長のことがバレてしまった。
「じゃあ、菊乃先輩が」
更に明菜は、部長の事を知っているようだった。
「じゃあ君は、もしかして現視研の部員?」
「ええ……」
と修一が答えると、
「私、不津校のOGなの、それで現視研の入ってたの。
まあ幽霊部員だったけど……」
先代の部長の頃に、部員が足りなかった時期があって、
その時に、知り合いに頼まれて、席を置いていたらしい。
「あの頃は、まあ今もだけど、やる事があって、
部活どころじゃなかったから、ほとんど行かなかったけど」
「それは、魔法少女の?」
と蒼穹が聞くと、
「まあそんなところ、けど罪悪感はあったわね。
不良って言われる菊乃先輩が、真面目に部活をしてるのに、
私は、何してるんだって」
と明菜は自虐的に言う。
ここまで、話を聞いた修一が
(5人の魔法少女の内、一人は元で幽霊部員とは言え、
3人が現視研の関係者とはな……)
その上、正体を知っているのが、修一に部長と、
現視研のメンバーと来ている。
まあ、部長は知っていると言っても三人だけだが。
とにかく、これは偶然なのだろうが、
修一は因縁めいたものを感じずにはいられなかった。
ここで蒼穹が、
「あの……その……どうして、明菜さんは、魔法少女を……」
「………」
明菜は口ごもったので、
「言えなかったら、別にいいんですよ。ちょっと気になっただけですから」
このやり取りに、修一は、今日の自分と春奈たちのやり取りを思い出す。
そして明菜は、
「妹を探すためかな……」
十年前に行方不明になった彼女の妹の、蒼崎志保。
彼女は、学校帰りに姿を消したのだが、
その失踪は、ある日突然に、何の前触れもなく起きた。
この手の失踪に多い話である。警察や、時に冒険者たちも協力して、
行方を捜したが見つからず、現在まで来ていた。
「妹の失踪には何処かの犯罪組織が、関わってるって噂があったの
だから、魔法少女の力を渡された時、そういう輩と戦っていれば、
いずれ妹にたどり着くんじゃないかって思って……」
話を聞いていた修一は、口には出さなかったが、
(なんか、姉妹対決の悲劇の予感しかしないけど)
とそんな事を思っていた。
ここから明菜は自虐的に、
「街を守ってる正義の味方の一人が、個人的な理由で活動してるって知って
ガッカリしたかな……」
「いや別に、そんな事はありませんけど」
ここで修一は、春奈たちの時と同様に
「俺のオタク的視点で、申し訳ないですけど、そう言う特撮ヒーローっていますよ
家族の仇討ちとか、守る為とか。家族と言うのは、ヒーローの動機として、
よくある事ですから……」
と言うような、またしてもフォローになっているかどうかは不明であるが、
彼なりのフォローを入れる。ここで功美も
「理由はどうあれ、貴女は立派に活躍している。私はそれで十分だと思うわ」
「そう言っていただけると恐縮です……」
と言う明菜だが、まだ何処か申し訳なさげである。彼女の様子に、
(孤高の魔法少女と言われるだけ会って、単独行動が多いけど、
まさか、個人的な理由で魔法少女をやってる事を気にしてなのかな)
と修一は思う。
更に
「でも、あの子達はどう思うか……」
とも言った。春奈たちが、明菜がどう思うか気にしていたように、
春奈たちの事を、気にしてるようだった。
(なんだか似た者同士だな)
と思いつつも、成り行きと家族の事となると、家族の方が重い気がするので、
余計に、春奈たちを恐縮させちゃ悪いので、
(事情は話さない方が良いな……)
と思う修一だった。
その後、調子を取り戻した後、
「お世話になりました」
と深々と頭を下げながら言い、明菜は去って行った。
彼女が、帰った後、修一も蒼穹も、それぞれの部屋に戻った。
なお明菜の事があった所為で、蒼穹は恵美の事を聞くのをすっかり忘れている。
そして部屋に戻った修一は、ベッドに横になって、
(何なんだよ。今日は……全くできすぎだな)
確かに今日起きた事は、出来過ぎている。
(まさか、大十字久美って奴の仕業だったりするのか)
出来過ぎてはいるが、だが今日起きた出来事には、
誰の関与もない。はっきり言って偶然である。
(厄介事が起きなきゃいいんだが……)
修一は、不安を感じていた。
その頃、何処かの部屋で、一人の女がタブレット端末を見ていた。
「遂に、桜井修一が『5人の魔法少女』と関わってしまったとはね。
このままでは、桜井勢力は、強靭なものになる。
まさしく大十字久美の望みどうり……」
その女は
「だがそうはさせない。大十字久美、雨宮ショウ、そして……」
その先は、何も言わない。口に出すだけで腹立たしいのだろう。
「とにかく、お前たちの望み通りにはさせない」
タブレットには修一の姿が映っている。
「桜井修一、貴方には消えてもらうよ。奴らの望みを潰すために」
今、修一の不安は現実の物になろうとしていた。
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