4「残りの魔法少女」

 部長宅から、一人帰路につく修一は、ばったり、その少女に会った。


「やあ、桜井君」

「創月瞳……」


先ほど、部長宅で、修一が名前を上げた少女である。

春奈たちの様子から、彼女が「巨人の魔法少女イクシード」らしいが、

そんな事は、今はどうでもいい事。


 彼女の容姿は、ショートカット髪型で、眼鏡を着用し、結構な美少女である。

それと巨乳。光弓学園の生徒で、天海蒼穹や天童零也の同級生。

あと知識豊富で、成績も良い優等生。

才色兼備や才貌両全と言う言葉が似合いそう女子であるが、

周りがドン引きする事を平気で口にしたり、行動したりと、

何を考えているか分からない少女で、良くも悪くも、裏表がなさ過ぎて、

クラスの人気者に成りうる要素を持ちつつも、クラスでは浮いた存在。

所謂、ボッチである。


 瞳と鉢合わせた修一は、あからさまに嫌そうな顔をした。

そんな彼女との初対面は最悪であった。

それは、長瀬メイと学校をサボった翌日の下校時の事である。


「桜井修一君だよね?」

「そうだけど君は?」


初めて見た時、中々の美少女だと思ったが、同時に不穏な感じがした。

昔、はやったアニメの悪役ヒロインに、どことなく似てたからだ。

そのヒロインのコスプレをさせれば、もうピッタリだと思った。


「初めまして、私は、創月瞳……」


彼女は、両手を胸にあてながら自己紹介をして、


「『零也君と真綾さんの恋を応援する会』の会長だよ」

「お前、天童のファンか?」


零也には、本人が良くは思わないファンがいる事を知っている。

そう言う類だと思った。


「あんな、オタクや中二病連中と一緒にしないで欲しいなあ。

私達は、純粋に二人の応援をしているんだよ」


と笑顔で言いつつも、


「昨日の校外学習の自由時間。二人の折角のデートをチミは邪魔したね」

「邪魔って」

「チミが、学校をサボって、あそこに居なければ、二人はデートを、

楽しめたんだよ」


別に修一は、二人の邪魔をしたくて、あそこにいた訳じゃない。

しかも、デートと言うのは今知った。確かに、学校に連絡をし忘れるなど、

詰めが甘かったのは事実だし、そもそも学校をサボったと言う、非がある。


(だからって、デートの邪魔をしたって言われるのはどうなんだろうか)


それに、もう一つ気になる事がある。


「いくら自由時間って言っても、校外学習だぞ。デートをする時か?」

「別にいいと思うよ。自由時間なんだから」


と言いつつ


「まあチミに、悪気が無いのは分かってる。

でもチミらの軽率な行動が、周りに迷惑をかけてるんだよ」


修一は気まずそうに、


「それは反省してるけど……」

「それに、チミは、かつて真綾さんと敵対関係だったからね」


それを聞いて、修一はハッとなったように、


「お前、真綾の過去を知ってるのか?」

「もちろんさ、恋を応援するには、すべてを受け入れないとね」


彼女は、笑顔で、それでいてドヤ顔をしているように思えた。

まるで、彼女の言葉通り、自分はすべてを受けいれていると、言わんばかりである。


 そして瞳は余裕ぶった表情で、


「今回は、注意で留めておくけど、

今後、もし二人の恋路を邪魔したら、ただじゃ置かないからね」


瞳は、笑顔だったが、かなりの威圧感がした。

その彼女の様子が妙に癪に障ったので、


「俺は、人の恋路を邪魔する趣味はねぇよ」


吐き捨てるように言った。


「なら良いけど」


と言って、彼女は笑顔を崩さず、去ろうとする彼女に思わず。


「お前、まるで怪獣を作って暴れさせてそうだな」


と言うと、彼女は笑みを浮かべたまま、


「失礼だね。チミは、私は怪獣を倒す側の存在だよ」


と言って去っていった。


「何なんだ、あの女」


何となくであるが、やばい女と言う感じがした。


 後日、零也に話を聞くと、


「アイツら、桜井の所にまで来ていたのか……」


と言った後、修一に向かい手を合わせ


「すまん、迷惑かけたな」

「まあ、注意されたくらいだけど、何なんだ彼女は?」


零也によると、「応援する会」と言うのは、一種のストーカー集団との事。

会長を名乗る創月瞳は、元は零也のストーカーだったらしい。

元恋人とかじゃなくて、同級生と言う以外にほとんど関係はなく、

零也も最近までその事実を知らなかった。


 普通、ストーカーなら付き合い初めた女性、真綾に敵対心を抱き、

危害を加えそうなもの、ところが彼女は、真綾の事も気に入ってしまい、

恋を応援する方に移ったと言う。

とは言え、元はストーカーなだけあって、二人を四六時中監視し、

周囲や本人たちに色々と干渉しているので、零也も真綾も困っているのと事。


「しかも『会』って名乗るだけあって、仲間がいるみたいなんだ」


どんな奴らかは分からないと言う。でも確かにいるらしい。


「お前、相手は一応生徒なんだから、学校に相談したら、

もしかして、光弓学園って、そういう事に耳を貸さない薄情な学校なのか?」

「いや、そういう事は無いけど……」


と言って口ごもったかと思うと


「……実は、俺も真綾も弱みを握らてるんだ」


それが、何であるかは不明だが、

とにかく、「応援する会」をどうにかできないらしい。


「まあ色々と手助けしてくれるから、ありがたくはあるんだが……」


色々やり過ぎたところあるから、ありがた迷惑との事。

とにかく、修一の思った通り、ヤバい奴だったわけである。


 そして現在、修一は創月瞳とばったり会ってしまった。

会った時と同じ様に笑顔で、


「あれから二人の邪魔はしてないよね?」

「だから俺は、人の恋路を邪魔することはない」

「ならいいけど……」


と言って、ニヤニヤしている。


 その様子に、イラっとした修一は、彼女に揺さぶりを掛けようとした。


「なあ、お前言ってたよな。『自分は怪獣を倒す側だ』って」

「うん、そうだよ」

「怪獣を倒すって事は、もしかして巨大ヒーローか」

「………」


怪獣を倒す=巨大ヒーローと言うのは連想としては、おかしい事ではない。

そして修一の言葉を聞いて彼女の表情は固まって黙り込んだ。


 彼女の姿に、意地悪な気持ちが湧いてきた修一は、


「この街には、巨大ヒーローが二人いるな。一人は名前忘れたけど」


ちなみに、実際に名前を忘れている。ただ男性的な体格をしている。


「もう一人は、『巨人の魔法少女イクシード』だったな」


魔法少女には思えない姿をしているが、「少女」と言われるだけあって、

女性的な体格をしていて、金属のアーマーを身にまとっているような、

外観をしている。ただ少女と言う感じではないが。


「もしかして、君がイクシードだったりするのか?」


と少し意地悪したい程度の事なので、軽い口調で言った。


 すると瞳は、笑顔を崩さず


「そうだよ。私が、『巨人の魔法少女イクシード』」


とあっさりと答えた。


「えっ?」


あまりにあっさりしているので、拍子抜けする修一。


「それでどうする?みんなに言いふらす?」

「別に、そういうつもりは……」


と言うと、瞳は近づいてきて、


「もしみんなに話したらね……」


彼女は顔を、すぐ目の前まで近づけると、突然真顔になって低い声で


「自殺したくなるまで、追いつめてやるから……」

「ひっ!」


と思わず修一は軽く悲鳴が上げる。恐怖で鼓動が高鳴る。

すると彼女は、顔を離し笑顔に戻って、軽い口調で、


「おしゃべりは嫌われちゃうよ~」


と言った後、


「じゃあ、またね」


と言って瞳は去っていったが、修一の鼓動は収まらない。


(怖かった……)


「またね」とは言っていたが、零也の話を聞いてから、

元より、あまり会いたくないような奴だったが、

もう二度と会いたくないという思いを抱いた。


 その後、


(もう余計な事が起こらんでくれよ)


と思いながらも、家に向かっていたが。


「桜井修一……」


今度は、天海蒼穹と、ばったりと会った。

今日は黒神里美の姿は無く、一人であったが、


「ちょうどよかった。アンタに聞きたい事があったのよ」


と修一に用事がある様子、正直面倒ではあったが、

ただここまで起きていた事よりは、マシだという気持ちを抱いた。


「聞きたい事ってなんだ?」


あからさまに、面倒そうに返事をすると、


「アンタの従姉の、確か恵美さんだっけ、連絡先を聞きたいの」

「えっ!」

「知ってるわよね。教えて」


その言葉を聞いて、困った顔をする修一。


「どうして、連絡先を知りたいんだ?」

「彼女に話があるの」

「………」


少し黙り込む修一、


「悪いけど、それは出来ない」

「なんでよ」

「とにかくできないんだ。用があるなら、俺が伝えておく。

俺に話せない事なら、お前の元に行かせる。それでいいだろ」


蒼穹は、恵美と話ができるなら、それで良かったのだろうが、

修一の態度が、どうも癪に障ったのか、


「どうして、教えてくれないの!」


声を荒げて、修一を睨みつけた。だが修一は、


「とにかく、俺からは、教えられない」


と言って、その場を後にするが、


「どうしてよ!」


と言って付いてくる蒼穹。


 以降も、移動しながら、修一は「言えない」、

蒼穹は「教えて」のやり取りが続き、


「言えないものは、言えないんだ!」

「どうして……あっ、やっぱりやましい事あるのね!」

「そうじゃない!」


修一も苛立ってきて、一段と声を荒げる。


「じゃあ、なんでよ……」

「俺の口からは言えない。そう連絡先が知りたきゃ、母さんに聞けよ!」

「桜井さんに?」

「母さんなら教えてくれる」


ここまで話をして、修一の家の表玄関の前まで来た。


「じゃあ、俺は裏から入るから」


と言って、その場を去ろうとする。


 蒼穹が


「ちょっと待ちなさいよ」


と呼び止めた時、物凄い音がこっちに近づいて来た。


「何だ……」


ここで、


「何かが近づいてるわね」

「「!」」


いつの間にか、修一の母、功美がいた。


「居たんですか!」


と蒼穹が面食らったか顔で言い、修一も


「びっくりした……」


と言う。


 そんな二人を尻目に功美は、


「下がって!」


と叫びながら二人の肩を掴んで、後ろへと引き込み、

次の瞬間、バリアーの様な物が展開した。


「母さん……」


これは、功美の能力のようで、この街の出身者である以上、

彼女が何だかの力を持っていても、おかしくないのだが、

修一は初めて見るものだった。


 この直後、何かが衝突する音がした。


「何が起きて……」


バリアーが消えると、二人は様子を見に行く。

すると功美の前に、バイクが倒れていた。

どうやらバイクが突っ込んできたようだったが、


「「えっ!」」


問題は、そのバイクの運転手だった。

何かの昆虫を模った様な灰色のフルフェイスヘルメットに

黒いライダースーツの上から、灰色のプロテクターを身に着けたような、

格好をしている


「ロストルナ!」


5人の魔法少女の一人、「孤高の魔法少女ロストルナ」だった。

次の瞬間、光に包まれると、バイクは消え、その姿も

黒い服シャツと、赤いブルゾン、ジーンズ姿、

そして長い髪で、どことなくクールな雰囲気のある女性に変わった。


「明菜さん!」


と声を上げる蒼穹、


「知り合いか?」


と聞くと、


「前に住んでた所の近所のお姉さん……」


そして功美が


「取り敢えず家に運びましょう」


と言い、三人で女性を家へと運び込んだ。


 修一は、


(これで全員か……)


まだ女性の素性は、完全には分からないが、取り敢えず、

この日、修一は、魔法少女全員の正体を知る事となった。

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