13「魔獣軍団との戦い(2)」

 天海蒼穹と木之瀬蘭子が、疑似空間に突入した経緯であるが、

赤い怪人の突入後、蒼穹たちは、蘭子の連絡を受けてやって来た秋人と、

合流した。彼のサーチにより、疑似空間内の状況が分かり、


「中に入る事は出来ますか?」


と蘭子が聞くと秋人は、


「出来るよ。魔法を使えば」

「では、お願いできますか、中にいる友人たちを助けに行きたいのです」


ここで里美が、


「私たちも、お願いできますか?」


と言うと、蒼穹が面食らったような顔で、


「私たちって、もしかして私も?」


と声を上げる。里美は、


「当然でしょう。この状況で見て見ぬふりをするほど、貴女は薄情でしたか?」

「そういうんじゃ無いけど……」


なお蒼穹は、薄情な人間ではない。しかし、今回は少々気になるところがあった。

そもそも、蒼穹たちが、ここにいるのも、偶然ではない。

授業が終わり、下校しようとすると里美に、


「ちょっと、付き合ってくれませんか?」


と言われて、ここ来て大通りが騒然とする現場に遭遇し、

そして、恵美と蘭子を見かけて、後を追って、今に至るわけであるが、

そもそも、何で里美が自分をここに連れてきたのか、蒼穹には、分かっていない。

その上に、疑似空間への突入を彼女が言い出したことには、面食らった。

どちらかと言えば、里美はこういう事をたしなめる方なのだ。


(何かあるわね。もしかしたら、蘭子が今日護衛の当番であるのと、

関係があるのかも?)


里美に対し、色々思うことがあるが、この状況は、確かに捨て置けないので、

疑似空間に入るつもりではある。


 さて疑似空間への突入を頼まれた秋人であるが、


「一度には、無理だよ。先ずは二人、いや一人の方がいいね。

無理すると、おかしなところに飛ばしちゃうから」

「それでは、私が、」


再び名乗りを上げる蘭子。


「そうだね。僕もその方がいいと思う」


これは、蘭子が強いのと、一応友達と言っていいのか、

取り巻き連中がいるから、その配慮であるが、それを聞いて、

里美は不機嫌な表情を浮かべたが、その事には気づかず、秋人は準備を始めた。


 すでに用意していた戦闘用の杖を構え、呪文を唱える。

そして、魔法陣が浮かびあがってきて、ここで、少しだけ待つ必要がある。


「本当に、二人は、無理なんですか?」

「出来なくもないけど、おかしなところに、

例えば大型魔獣の口の中にでも飛んじゃったら、危ないからね」


説明をしても納得のいかなそうにする里美に対し、秋人は


「次は、三人くらいで行けるから、その時まで待ってください」


となだめるように言う。


 一方の蒼穹は、順番とかは、気にならなくて、

いつでも行けるように準備をしていた。


(持ってきていてよかった)


彼女は、何かあった時のために、思い立って例の鎧をペンダント形態にして

制服の下に身に着けていた。ちなみに光弓学園は、

多少のアクセサリーを身に着けていても校則違反ではない。

そして、さっそく鎧を身に着ける。

中は魔獣がいるとのことなので、用心のためである。


 やがて、魔法陣が強く輝き始める。


「行けますよ。このまま、魔法陣にまっすぐ向かってください」

「分かりましたわ」


そう言って、魔法陣へと向かう蘭子、そして蒼穹も、直ぐに行けるように

魔法陣に近づく、そして魔法陣に接触すると、蘭子の姿は消えた。

すると、魔法陣の輝きは薄くなっていく。

もちろん消えていくわけではない。この後に再度、輝きだせば、

次に蒼穹、里美、秋人が、突入することになるはずが、突然、


「うわっ!」


蒼穹は、背中を押され、魔法陣に突っ込み、彼女は消えた。

魔法陣にぶつかる直前、


「何やってるの!黒神さん!」


と秋人の怒号にも近い声が聞こえた。

どうやら、背中を押したのは、里美の様だった。


 こうして蒼穹と蘭子が、疑似空間へと入る事になり、一応成功はしたが、

場所は高い位置で、尚且つ蒼穹は、背中を押されたせいで、

おかしな格好で、飛び込んでしまったので、結果として、

綺麗に着地した蘭子とは対照的に、酷い形で落ちて、

醜態をさらすことになった。





 現れた蒼穹に対して、赤い怪人は


「何やってんだ。ネメシス?」

「こっちだって、訳が分からないんだから、つーか何で、その名を?」

「修一から聞いた。アンタは冒険者のネメシスでアイツの護衛役してたんだろ」


さて突然の事に、操っているブローカー連中は、あぜんとしている所為か、

攻撃が止んでいた。その間に、蘭子が、場を仕切りだす。


「貴女達は、下級魔獣は頼みます」


少女たちの一人が


「分かりました。蘭子様」


「上級魔獣は、私と、こちらの冒険者のネメシスさんと……」


なお蘭子は、蒼穹が、ネメシスと名乗って冒険者をしている事は知っている。


「そして、赤い怪人さんで、どうにかします」


と言った後、


「出来ますよね?更屋敷凛子率いる不良共を倒したのですから」

「その事も知ってるのか?」

「『その事も』?私はその事しか知りませんよ」


蘭子は、イノは赤い怪人の事を話してなかったようである。


(でも、赤い怪人の事を知ってるのは、真一と、多分部長だけだけど、

あり得るとすれば……)


しかしこの状況に集中するために、それ以上、考える事を止め、


「ああ、やってやる……」


と答える。


更に注意として


「操っている奴らをたおしてはいけませんよ。

一時的に、動きを封じることができますが

直ぐに暴走しますからね」


魔法陣が浮かんでいる関係上、魔獣を操っている連中はわかる。

ただ、どの魔獣を操っているかは、わからない。

しかし、奴らのコントロール下にある方が良い事もある。


 そしてブローカー連中が正気に戻ったのか、攻撃が再開される。


「頼みましたわよ」


と蘭子は言い、


「ご武運を」


と言う少女達。


「任せてください」


と言うイノ。


 三人は、下級魔獣の群れを、蹴散らしながら進む。

そして進みながら、分担を決めた。ロボは引き続き、グリフォン、サイクロプスを

赤い怪人は、メデューサとギイザアイを、担当は適当に決めた。

蒼穹は、フォグタートルとキマイラを、なお蒼穹が、戦い方を知っていたから

フォグタートルを担当。ちなみにキマイラは適当。

蘭子はガシャドクロとクイーンアラクネを担当する。

残りの、レックスドラゴン、レッドドラゴン、デモスゴードは、

三人一緒に、戦う予定。


 赤い怪人は、メデューサを前にする。

その名の由来は、ファンタテーラにこの世界から

伝えられたギリシャ神話を基に名前が付けられた魔獣。

かなりの巨体で蛇の様な下半身に、人間のような上半身、

髪の毛が蛇のようになっている。ただのその顔は人間と言うよりも

蛇の様な顔をしている。なお雌雄同体。

神話のメデューサの様に顔を見ただけで、石化することはないが、


「メデューサは、目から、当たると石になる光線を撃ってきますので、

お気をつけて」


と蘭子から言われていた。

実際に接近すると、目から光線の様なものを撃ってきた。


「!」


赤い怪人は、アクロバティックな動きで避け、

下半身を高周波ブレードと大剣で、切り裂いていく。


「キャシャァァァァァァァァァァ!」


と甲高い悲鳴のような咆哮をあげる。

基本的な戦い方は先の三体と同じ、防御スキルで守り切れていない部分を、

集中攻撃し、スキル自体を弱らせていき、最終的に急所を狙う。

なおスキルで守り切れてないとはいえ、

防御力はそれなりにあるが、高周波ブレードの威力は強く。

大きな傷をつけることができた。


 ここで追撃とはいかず、今度はギイザアイの相手をする。

ギイザアイは、茶色で丸い体に、閉じた大きな目と、

複数の小さな目で構成されている。

ちなみに大きな目の下には口らしきものもある。

この大きな目が急所であるが、防御スキルで守られているので、

小さな目玉を先につぶしていく、しかしこれらの目玉は、

火、氷、岩、真空刃、雷、メデューサと同じ石化光線、毒液など

様々な攻撃を仕掛けてくる。同時に、メデューサも頭の蛇から

同じような攻撃を仕掛けてくる。勿論、目からの石化光線もだ。

赤い怪人は、これらの攻撃を軽く避けつつ、

メタモルガンを本来の銃形態にして光弾、

そして右手からは細いレーザービームの様なものを発射し、つぶしていく。


 ある程度つぶすと、今度はメデューサの相手をする。

これを交互に繰り返すのだ。メデューサは遠距離攻撃は、

ギイザアイに似ているが、石化光線以外は、弱めである。

代わりに人間的な上半身による格闘戦と、蛇の様な下半身による締め付けがある

とはいえ巨体なので、どちらも喰らったら、

蚊のように潰されることは間違いない。

赤い怪人は、締め付けられそうになると、跳躍して避け、

蛇の下半身を、高周波ブレードと大剣で切り裂いていく。


 更に、ギイザアイからの援護射撃の様なものもある。

先のワイバーン達と同様、人が操っている分、魔獣達の連携は取れているのだ。

しかし、赤い怪人は、それさえも軽々とよけ、

メデューサに攻撃を仕掛けていき、ある程度ダメージを与えると

ギイザアイを攻撃する。こうして二体の魔獣相手にわたり合うのだ。


 一方蒼穹は、フォグタートルとキマイラと戦っていた。

キマイラは、ライオンの顔に足、胴体はヤギになっていて、

背中の部分にはヤギの頭もあって、尻尾は蛇のようになっている魔獣である。

キマイラは、蒼穹に向けて、口から炎を放ってくる。

彼女はそれを紙一重で回避しつつ、接近し、防御スキルの効きが悪い

尻尾の蛇を狙って、攻撃を仕掛ける。


「このぉ!」


蛇には、炎が有効と言うのは知っていたので、

蒼穹は火炎弾を使う。命中すると


「シャァァァァァァァァァァァァ」


と咆哮を上げ苦しそうにするので効果は抜群のようだった。

ただ蛇は、毒液を飛ばしてくる。これは直接、当たると鎧の上からも、

効果があるので気を付けなければいけない。


 蒼穹は、毒液を避けつつ、再び、火炎弾を使おうとするも、

そこに、電撃の様な物が襲って来る。


「!」


回避する蒼穹、それは山羊の頭が放ったものであった。

そうヤギは電撃を放つのだ。しかし、山羊を攻撃するにはまだ早い。

加えて、氷塊が降って来る。それはフォグタートルからの攻撃だった。

赤い怪人と同様、こちらも、別の魔獣から攻撃がある。


 それらも、回避しつつ、攻撃を仕掛け、蛇が弱って来ていた。


「これで、止めよ」


蒼穹の手に炎が宿る。だがその時


「プオォォォォォォォォォォォォ」


とフォグタートルが咆哮をあげたので、そっちに向かった。

そのフォグタートルは、甲羅はゴツゴツしていないものの、

全体的に巨大なワニガメを思わせる姿をした魔獣で、

様々な属性の攻撃を使って来るが、

その最大の特徴は強靭な防御力、甲羅はもちろん、

出ている手足、頭も固い。故に防御スキルは持っていないが

外からの攻撃は容易ではない。


 さてフォグタートルは、大きく口を開けている。


「この!」


蛇に撃つはずだった火炎弾を口に向けて撃った。

弾は口の中へと入る。そうフォグタートルは口を開けた瞬間に、

攻撃を仕掛け、身体の中に直接ダメージを与える事、

それ以外に方法は無い。

とにかく、口が開いている間に集中攻撃をする。


 そして口を閉じている間は、キマイラの相手をするしかないのだが、

口を開けるタイミングは、はっきりしないので、

咆哮が聞こえたら、即、フォグタートルの方に行かなければならず、

何というか、せわしなくて仕方なかった。


 一方、蘭子は、ジャイアントスケルトンと戦う。

スケルトンは骨にとりつき、形を成す寄生型魔獣である。

人の形をしているが、これは取りついた骨を変形させたもの。

ただし上位のスケルトンは、大型魔獣に憑りつくことができ、

そうなれば、元の骨の大きさから巨人のスケルトンになる。

それがジャイアントスケルトン。

なお、この世界では、その見た目からガシャドクロと呼ばれることが多い。


 そしてこのガシャドクロは、大きな腕を振り回して攻撃し

鬼火の様な炎を吐く。なお一見炎に見えるが無属性攻撃である。

しかも、大きさの割には結構、動きが素早く、

弾速も早いが、蘭子は、軽々と加えて、どこか華麗に避けていく。

攻撃は、ガシャドクロだけでなく、クイーンアラクネの分もあるが

それも、華麗に避け、右腕を大剣のような物に変形させ、


「セイ!」


右足の関節の付け根を狙って切り付ける。

そこか防御スキルが弱い場所。


「ギィィィィィ」


と言う何かが軋んでいるような音を上げるガシャドクロ

やがて、関節が外れ、バランスを崩し倒れる。


 その隙に、今度はクイーンアラクネに攻撃を仕掛ける。

見た目的には、先に、赤い怪人が倒した個体より大きいだけだか、

当然ながら、攻撃力は強く、独自の攻撃も使う。


 蘭子は針による攻撃をかわしながら、間合いに入る。

すると、アラクネは、口から針ではなく、青い炎を出して来た。


「!」


触れていれば、火傷どこじゃすまないになる強力な炎スキル。

蘭子はこれを、斬撃で打ち消しつつ、そのままの勢いで、

左足の一本を切り裂く。


「クキャァァァァァァァァァ!」


そして何度も切りつけ、完全に切り落とす。

更に、アラクネの攻撃を避けながら、他の足も、切り付け、

そのまま切り落としていく。


 更に、左手を異形の手に変化させると、掌を胴体の方に向け

光弾を撃つ。命中すると、


「クキャア!」


と言う声を上げる。


「当たりの様ですわね」


と言う蘭子。防御スキルの状況に関して、赤い怪人は、はっきりと判っているが、

蒼穹と蘭子は、ぼんやりとわかる程度で、これまでの経験から当りを付けて

攻撃しているのである。

しかし鍛錬目的とは言え冒険者をしている蒼穹はともなく、

蘭子も魔獣との戦闘経験が豊富なのか、的確に防御スキルの穴を

攻撃できている。


 突如、蘭子の元にビームの様なものが飛んで来て、


「!」


彼女は、華麗な動きで避ける。それはガシャドクロの攻撃だった。

それはちょうど、目の部分から発射されている。

なおガシャドクロは、外れた間接が治っていた。

蘭子は、クイーンアラクネへの攻撃はやめ、

ガシャドクロの方に攻撃対象を切り替えた。


 さて、魔獣達はブローカー連中が操っている関係上、

連携が取れているが、親玉が、半ば自棄を起こして呼び出した事もあって、

下級魔獣はともかく、自分の手に余る上級魔獣達を、操る羽目になっており、

その為、魔獣本来の力を上手く出し切れない状態で、

蘭子が、操っている奴を倒すなと言ったのも、この事を見越してである。

なおガシャドクロのビームの様なものを出せたのも、

蘭子の攻撃で、弱ったおかげで、コントロールし易くなったためである。


 またレックスドラゴンやレッドドラゴン、デモスゴードは

現在、何もしてこないが、これもほかの魔獣を操るので手いっぱいで

とりあえず、暴れないように抑えておく事しかできない状態なのである。


 うまく操れないとはいっても、やはり上級魔獣、たいていの相手は

これでも十分なのであるが、赤い怪人に、蒼穹に、蘭子の三人では、

相手が悪かった。そしてブローカー連中は、

この後ますます追いつめられることになる。

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