12「魔獣軍団との戦い(1)」
魔獣の大群を相手に、イノは、
「ファイアカノン!」
炎系の魔法で、掌に、魔法陣が出現したかと思うと
巨大な火球が出現し、魔獣たちにむけて射出される。
更に使い魔であるトヨが炎を吐く事で、効果は倍となる。
魔獣たちを火だるまにしていく。もちろん炎だけではない。
「ウォーティシュート、サンダーフォリン!」
水や雷系の魔法など、冒険者としての経験から、
各種魔獣たちに対し、的確な魔法攻撃を繰り出す。
更にトヨとの連携もあって、魔獣たちと渡り合う。
一方で、護衛役の三人の少女は、逆に魔獣に押されていた。
「キャア!」
「なんて強さ!」
「数が多すぎます!」
三人の装備は決して悪くは無い。
大剣も、特殊装甲服も、武装としてはいい。
特に特殊装甲服の光学兵器は強力。
パワードスーツに至っては、そのパワーや重火器など、
圧倒的な力がある。その上、武装もうまく扱えてはいる。
特に、大剣を使っている少女の太刀筋は悪くない。
しかし、イノが懸念した通り戦い慣れしてないのだ。
三人そろって、攻撃は避けきれないし、攻撃をうまく当てられない。
当てたとしても、有効じゃない攻撃、食らわせる。
例えば物理攻撃に耐性のある魔獣に、小型ミサイル撃ったりと
光系を反射する魔獣にレーザービームを撃って、跳ね返って、
こっちに不利になる事もあり、イノの護衛役を買った割には、
逆にイノに助けられる。場合によったら、彼女の足を引っ張る有様であった。
故に、魔獣たちと渡り合っていたイノでさえ、押されていくことになった。
ここで一旦、魔獣の動きが止まった。そしてブローカーの親玉が、
余裕の笑みを浮かべながら、
「取引だ、そのバジリクスを渡すなら、お前らの命は助けてやる。約束するぞ」
相手が、約束を守るとは思えないし、そもそも、渡すつもりは無い。
トヨは、父親の形見であり、分身である。
どんなに追い詰められても、渡せるものでもないし
渡すくらいなら、死ぬ位の覚悟があった。自分が死ねばトヨも死ぬだから。
もし渡すことはあったとしても、
自分の後継者に対してであって、コイツらじゃない。
そう思って、コイツらとやり合って来た。
しかし、今迷いが生じている。一緒にいる同級生の存在だ。
出会って間もないとはいえ、
自分だけでなく第三者の命が掛かっているという状況だ。
「………」
考え込んでしまうイノ、ただでさえ巻き込んでしまっているのに、
自分と運命を共にするわけには行かない。
だからと言って素直に、トヨを渡していいモノか、悩みどころであった。
ここで、少女の一人が
「渡しちゃだめです。ソイツは約束なんて守らない。証拠だってある」
親玉が
「証拠だと………」
少女は続ける
「アンタ達は、私たちに、魔獣を嗾けた。それが何よりの証拠。
自分で誠意が無いと見せつけておいて約束?貴方はバカですか?」
すると、他の少女が、
「それ蘭子様のマネでしょ?」
「分かります?」
少女は恥ずかしそうにした。
一方、親玉は、少女の言葉に対し一旦は不機嫌そうにするものの、
「バカはともかくとして、お前たちに選択肢は無いぞ。
お前たちはこのままだと、嬲り殺しだ。
それにこの空間の中じゃ、助けも来ないしなぁ」
と言って笑う。
確かに、その通りだった。周囲には魔獣、しかも上級が多くいる。
トヨも強いが、これだけの相手は難しいし、
その上、三人を守りながらだから、余計に大変である。
「さあどうする?」
と最後通告を突きつけるかのように言った。
イノは、悔しそうにしつつ、答えを出せずにいた。
丁度、その時であった。壁に何かが当たるような
大きな音が響く。
「何の音だ!」
と声を上げる親玉。奴らにとっても予想外の事が起きているようだった。
そして、空間の一角にヒビのような物が入る。
やがて、そこが割れて、中に飛び込んできたのは
「赤い怪人だと!」
そして少女の一人が、
「何なのアレ!」
と声を上げた。そしてイノは
「大丈夫よ、あの人は味方だから」
そして着地する赤い怪人。同時に空間に開いた穴は塞がる。
「魔法を使わずに、空間に強引に入り込んで来たのか」
魔法を使えば、この空間に入り込むことは出来なくもない。
その際は、魔法陣が現れる。しかしそれが無いので
魔法は使っていない。
「まあいい、あの時の落とし前を付けてやる」
親玉は、魔獣たちの一部に、赤い怪人への攻撃命令を下し、
魔獣は、赤い怪人に襲い掛かる。赤い怪人も応戦するのだった。
恵美が、イノの元に向かったのは、虫の知らせと言うか、
ふとした不安感があったからである。
これまでの護衛で、下校ルートは判っていたので、
彼女の居場所には、直ぐにたどり着けた。
だがその時は、イノがブローカー連中に、遭遇したころで、
(変身できる場所を……)
と思っていたら、イノたちとブローカー連中が消えてしまった。
「なっ!」
突然の事に驚いた恵美は、彼女たちがいた場所に駆け付ける。
大人数が突然消えるという事は、
この街でも、珍しいのか、現場は騒然としていた。
そして恵美は現場にやって来たものの、どうすればいいかわからず
とりあえず、周りを見渡していると、
「貴女が桜井恵美さんですね?」
と同じく現場にいた蘭子に声を掛けられた。
「ああ、そっちは木之瀬蘭子だな」
「はい……」
と返事をした後、彼女は、恵美に顔を近づけてきて
「なんだよ……」
蘭子は笑みを浮かべ
「そういう事ですか」
「えっ?」
「今度からは従姉と言うより、双子の姉と名乗った方がよろしくてよ」
「!」
驚愕の表情を見せる恵美。だがすぐに、
「それより、イノさんたちは?まさか転移」
すると蘭子は、落ち着いた様子で
「彼女達は、ここにいますわ」
「どういうことだ?」
「この辺一帯に力場を感じますの、
おそらく、これは魔法による疑似空間でしょう」
その事を聞いて
(魔法街の魔獣の時と同じか……)
と思う恵美。そして蘭子は
「これは、私には、どうしようもないので、
有間君に連絡を入れておきました」
彼女が護衛に加わる際に、何かあった時のために
修一と秋人は連絡先を交換していた。
なお恵美には、連絡は修一経由という事になっている。
「有間君は、すぐに来てくれるそうですよ」
と蘭子は言った。
そうは言われても、落ち着かない恵美は、ふと
(赤い怪人の力なら……)
もしかしたら、どうにかできるかもしれない。
疑似空間の破壊。それが出来なくても、
中に突入できるかもしれないと思った恵美は、
変身の為、その場を離れようとした。
「どちらへ?」
と蘭子に呼び止められる。
「いや、ちょっと……」
すると蘭子は、建物の一角を指さして、
「お着替えなら、あのあたりがよろしくてよ」
「何の事?」
蘭子は側に来て耳元で
「赤い怪人……」
と囁いた。
「何で!」
すると蘭子は
「やっぱり……」
「へっ?」
「とにかく、着替えた方がよろしいので?」
「そうだった」
と言って恵美は、蘭子が指さした方へ向かう。
そこは人気のない場所であるが、蘭子も付いて来る。
「ちょっと!」
「別にいいでしょう。どうせあそこに居ても、
私は役立たずですから……」
蘭子の前であるが、一刻を争う気がしたので、
そのまま変身する事に。
変身した直後
「あーーーーーーーー!」
という声、その主は蒼穹であった。更に里美の姿もあって、
「何ですか、その鎧は!」
と驚愕の声を上げつつ、側にやって来る。
「どうしたのですか、あなた達?」
と言う蘭子に、
「貴女たちが、ここに入って行くのを見て、気になって来たんです」
と言う里美。そして蒼穹は、
「それより、その鎧、一体何なの!リュックが割れて出てきたけど!
説明してよ!」
と妙に興奮したように、食いつく蒼穹、
「こいつが何なのかは、私も知らない。
つーかゆっくり話をする暇もない」
すると蘭子も、
「確かに、今は、一刻を争うのです」
「そう言えば通りが、騒がしかったようですが」
二人はイノたちが、消えた後に、ここに来たようだった。
そして、蘭子が事情を説明する中、
赤い怪人は、サーチを使う。すると疑似空間の存在と、
中で何が起きているかが、分かった。
(中に入れないのか?)
と思った瞬間、脳裏に、中に入る方法が浮かんでくる。
それはこの場でもできる事、サーチで空間の位置を把握し、左拳に力を込めて、
数発殴る。傍目には、何もないところを、殴っているようにしか見えない。
「何してるんですか?」
里美に言われたが、無視する。
やがて空間にヒビが入る。
「疑似空間を破壊していたの?」
と言う蒼穹。そして本能的に行けると思った赤い怪人は
ヒビに向かって突っ込む。そのまま、疑似空間に突入で来た。
突入の際にできた穴はすぐに修復されたので、後に続く者はいない。
(こんなところに出たのか……)
疑似空間は現実空間と、同じなので、自分がいた場所と
同じ場所に、出るかと思ったが、実際は大通りの
丁度、戦いが行われている場に出たのである。
さっそく戦いが始まる。敵がけしかけてきたのは、
ワイバーン、ミノタウロス、アラクネの三体。
しかもどれも通常個体よりもずっと強い、
上級個体と呼ばれるものである。
(一匹除いて、見た事ある奴ばっかりだな……)
トヨと戦った影響なのか、自然と防御スキルの事、
更に守り切れていない部分を狙ってダメージを与え、
スキル自体の効果を弱らせると言う戦い方が、頭に入って来た。
襲い掛かって来る魔獣に、赤い怪人は、高周波ブレードと
メタモルガンの大剣形態の二刀流で挑む。
ワイバーンは口からの火炎放射、
アラクネも同じく口からの針、
ミノタウロスは拳による見るから重たいパンチ。
しかも、人間が魔法で操っているだけあって、連携もとれていた。
だが、赤い怪人は、物ともせず、その攻撃を軽々と避け、
各魔獣に攻撃を仕掛けていく、ワイバーンの胴体を
高周波ブレードで切りつけると、次はミノタウロスの
足を、大剣で切り裂き、直後、アラクネの雷攻撃が来るが、
大きく跳躍し、避けつつも、蜘蛛の下半身に着地し、
大剣を付き刺す。
「キシャアアアアアアアアアア!」
と咆哮を上げるアラクネ。直後、ワイバーンの火炎弾が飛んでくるが、
赤い怪人は、避けつつも、大剣を引き抜き、槍に変化させつつ
投げつけた。槍は、ワイバーンの胴体に突き刺さり、
そのダメージで、防御スキルは失われ、
更に、左の掌から放たれるエネルギー弾による追い打ちで
「グギャアアアアアアアアアアアア!」
と言う咆哮と共に、飛んでいたワイバーンは落下し、絶命。
同時に槍は消えて、そして、赤い怪人の左手に大剣として出現。
直後、大剣でアラクネの胴体を切りつけ、
防御スキルを無力化し、そのまま高周波ブレードで首をはねた。
ここで、ミノタウロスが突進してくる。
メタモルガンをガントレットに変化させ、左手に装着。
そして赤い怪人も負けじと、向かって行き、思いっきり、ぶん殴る。
「グォォォォォォォ!」
と言う咆哮を上げながら、ひっくり返るミノタウロス。
赤い怪人の左手から繰り出されるパンチは強力な上、
ガントレットを装着した事で、さらに強くなっていた。
更に、起き上がる前にガントレットをハンマーに変化させ、
頭部に叩き込んだ。これまでの攻撃で防御スキルは失われていて、
そのまま、頭部がつぶれ、絶命した。
こうして、最初の三体を倒す赤い怪人。
一方、ブローカーの親玉は、相変わらずイノに降伏を勧めていた。
なお彼は、けしかけた魔獣は、一応、上級の魔獣なので、
赤い怪人を倒せるであろうと、高を括っていた。
「大変です親分!」
「どうした?」
「けしかけた魔獣が怪人に倒されました」
「なに!」
と親玉が声を上げた瞬間、その横を素早く通りに抜けて、
赤い怪人はイノの元に来ていた。しかも、その途中、弱い個体だったが
何体か魔獣を倒している。
「大丈夫か?」
と声を掛ける
「はい……」
と答えるイノ。一方、親玉は、
「!」
この状況に驚愕の表情を見せつつも、
「やっちまえ!」
号令をかけ、魔獣たちは総攻撃を仕掛けて来る。
グリフォン、サイクロプス、サラマンダー、オーク、リザードマン、
ワーウルフ、スケルトン、スライム、リムアラクネ、
しかも、グリフォン、サラマンダー、サイクロプス以外は、
複数個体なうえ、全て上級個体であった。
一方、赤い怪人は、イノに
「三人の守りを頼む」
「分かりました」
とイノが返事をすると、左手を地面に当て、例のロボを召喚し
サイクロプスなどの大型の敵の相手をさせつつも、
引き続き、基本、二刀流、状況に応じてメタモルガンを他の形態に変形させ、
他にも、高周波ブレードだけでなく、光弾や、衝撃波、
更には、背中から先に刃が付いた無数の触手が飛びだし、
魔獣を串刺しにするなど、多彩な攻撃で臨機応変に、対応していき、
敵を倒していく。その様子は一騎当千と言うより、もはや蹂躙である。
「ああ、折角の商品が……」
とブローカーの下っ端連中、悲鳴のような声が聞こえる。
この魔獣達は、連中の商品、今でこそ魔法で操っているが、
顧客と使い魔として契約させるための魔獣だ。
アコギな連中であるが、一応顧客にいいものを届けたいという気持ちはあるようで
故に、魔獣達は上級個体なのだ。
しかし、赤い怪人は、そんな心意気など知る由もないし、
たとえ知っていたとしても、連中がクズには変わりないから、
状況は変わらないだろう。
そして、イノも三人を守りながらも、魔獣達を倒していくも、
赤い怪人の方が圧倒的で、魔獣の数は、みるみる減っていき、
魔獣は。各個体が一体ずつで、どれもボロボロ
さらにロボの方は、サラマンダーを倒し、
グリフォン、サイクロプスも、ボロボロだった。
ますます悔しそうな親玉は、
「クソ……こうなったら……」
懐から、更なるカプセルを取り出す。子分らしき奴が
「それ下級魔獣ですよね」
「ああ……数だけならあるぜ。それに……」
別のカプセルを複数取り出す親玉。すると子分は、血相を変えて、
「やめてください。それだけは!」
「うるせぇ、総力戦だ」
と親玉は再び、カプセルをばら撒いた。すると現れたのは、
ゴブリン、コカトリス、キラッドと言う様に、個体としては上級かもしれないが
種としては、下級の魔獣たち、数で言えばさっきの魔獣の何倍もある。
同時に、正反対の上位種の魔獣、メデューサ、アラクネの上位種
クイーンアラクネに、亀型魔獣フォグタートル、
一つ目の魔獣、ギイザアイ、キマイラ、ジャイアントスケルトン通称、
ガシャドクロ、そしてレックスドラゴンに、
レッドドラゴンと上位のドラゴン種二体に、
ヤギの頭部を持った巨大人型魔獣、デモスゴート。
下級魔獣は数で、上級魔獣は、その巨体で、イノ達を圧倒するが
赤い怪人は、そうじゃなかった。むしろ闘志が湧いて来た。
(やってやる。とことんな……)
イノ達を助けに来たはずが、目的がズレて来ている感じがある。
ここで、バチバチと言う音がする
「何の音だ?」
次の瞬間、空中に魔法陣が浮かび上がり、二人の人間が現れ
一人は無言、もう一人は
「うわああああああああああああああ!」
という声と共に、地面に落下した。
無言で、降りてきた人物、綺麗に着地した。
「蘭子さま……」
それは、木之瀬蘭子だった。そしてもう一人は、対照的に、
顔を地面にぶつける様な、とにかくギャグみたいな酷い形で、
地面に叩きつけられる
「誰?」
と少女たちは言う。そして起き上がって来るその人物は、
白い全身鎧姿だった。
(天海……)
鎧姿故に少女たちは気づかないが、それは天海蒼穹であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます