11「終わりに向かって」

 翌日、自体が大きく動いていた。昨日の襲撃をきっかけに、イノは、

蘭子から事情を聞かれ、狙われている事を話してしまったという。

この事を休み時間、屋上で修一、秋人、イノの三人だけの時に、

修一は、聞いたのである。


「それで、皆で護衛してくれる事になっちゃって……」


と困惑気味に言う。ちなみに浮島の事や、修一達の護衛の事は話していない。

蒼穹の事を隠さなければいけない関係上、修一達の事も話せなかったのである。


「大丈夫とは言ったんですけど、みんな聞いてくれないというか、

妙に燃えてると言うか」


襲撃の状況を聞いていた秋人は、


「原因は、多分、連中が木之瀬さんことを知らなかった事かな、

その上に、天海さんの事を知ってたのが、余計にね」


修一はどこか呆れ顔で、


「護衛にかこつけた。制裁って所か」


イノは、


「皆さん、お強いのは、分かるんですが、相手は戦い慣れした奴らですから、

ちょっと……」


と不安そうにする。


「エミさんや、アリマ君やアマミさんの様に、強い上に実戦慣れしてるなら、

いいんですけど……」


と言いつつも


「サクライ君やクロカミさんが、お強いのは知ってますよ。

キノセさんが太鼓判を押すくらいですから……」


と聞いて修一は、驚いたように、


「木之瀬、俺の事、話したの?」

「はい、私と二人きりの時でしたけど……」

「何て言ってた?」


イノはキョトンとした顔で、


「サクライ君が、物凄くお強いとだけで、詳しくは……」


シミュレーター上とはいえ、彼女を倒した事は話していないようである。


 ここで秋人は、


「どうして、僕が実戦慣れしてるって、分かるの?」

「トヨの中から、アリマ君の戦いをみてそう感じました」

「そうかなあ、そんなに強くなかったでしょ、

しかも、途中からは、恵美さんの後方支援だし……」


と自虐的に言うが、


「いえ、私には実戦慣れしてるように思えました……」


実際、秋人は、実戦慣れしている。


 ここで、修一が思い立ったように、


「そういや昨日は、木之瀬らと一緒に居て所を、襲われたんだよな。

これまで、そういうのは無かったんじゃないのか、その誰かと一緒にいる時

襲われるってのは」


と言った後、


「恵美から聞いた話だけどな……」


と付け加える。するとイノが


「そういえば、そうですよね……」


すると、秋人が


「それって、連中が、なりふり構わなくなって来たって事じゃ」


この一言で、三人とも、状況が危なくなっていると、感じるようになっていた。


「まあ、俺は、いや恵美は、今後も護衛を続ける。

まあ連中が捕まるまでは、イノさんが断っても続けると思うよ」


すると、秋人も


「僕も、護衛は続けたいと思う。

彼女たちを信頼してない訳じゃないけど、やっぱり心配だからね」


そしてイノは


「ありがとうございます」


頭を深々と下げる。


 ここで、


「貴方達もかかわっていたとは」

「「「!」」」


声のする方、ちょうど屋上の出入り口に蘭子の姿があった。

修一には風が吹いていないのに、彼女の髪がなびいてるように見えた。


「昨日の事もありましたから、イノさんの事が気になって、

失礼ながら、付けさせていただきました」


なお取り巻き連中の姿はない。そして三人の話は、すべて聞かれていた。


「昨日の天海さんも偶然ではなかったのですね」


すると、イノは申し訳なさげに、


「すいません!」


と蘭子に頭を下げた。


「頭を御上げなさい。別に悪い事をしている訳ではないのですから、

謝る必要はないのですよ」


と言いつつも、


「ただ事情は、お聞かせ願いますか?」


この後、ここに至るまでの事情を、

しかも蘭子に隠し事をしていた負い目もあるから、

浮島の件も含めすべてを、話した。


「なるほど、その様な事が……」

「隠していて、すいません!」

「別にいいんですよ。それに浮島の件は人に話せることでは、ありませんしね」


と言った後、


「知ってしまった以上、私も、一枚かませて頂きます」


そんな訳で蘭子も護衛に加わる事に


「ただ、彼女たちの名誉もありますから、私たちの護衛は、秘かにという事で……」


なお取り巻き連中による護衛は、学校から下校しつつという感じなので、

イノの側で行われる。蘭子の提案は、昨日の蒼穹の様に、

離れた位置から、彼女たちを見守り、何かあった時は偶然を装って、

助けに入るというもの。

ただ、修一達も彼女たちに気を使って、元よりそのつもりだった。


 さて蘭子が護衛に加わったことで、


「キノセさんにまで、迷惑をかけてしまってすいません」


と再び頭を下げるイノであったが蘭子は穏やかな表情で、


「友達の為なのですから、このくらい当然です。それに、水臭いですよ。

もっと早く相談してくれても、良かったのではありませんか」

「キノセさん……」


この様子を見ている修一。


(ますます、木之瀬に傾倒しているような感じだな)


別に、何か問題があるわけではない。

ただ修一達は知らなかったが、里美の目論見は潰えようとしていた。






 さて数日後、interwineにて、お茶をしている蒼穹と里美、

里美は終始不機嫌そうにしている。と言うよりも、

先日にイノ達が襲撃された日以来、こんな感じ。

あの日、家に帰ると、先に里美が帰っていて、


「お茶会は楽しかったですか?」


と言ってきたので、


「何で、その事を!」


知っているはずがないと思っていた蒼穹は、驚くが


「用事を早く切り上げて、貴女の元に向かったんです。

そうしたら、あのケーキ屋に貴女が木之瀬蘭子達と入って行く姿を見たんです」

「あれは……」


事情を説明する蒼穹、


「……それで、断りづらかったの。言っとくけど、楽しくはなかったわよ。

針の筵だったんだから」


と蒼穹は釈明するも、自分の思い通りに、ならなかった事もあって、

ますます里美は不機嫌になり、更に蘭子が護衛に加わった事。

その上、蘭子の当番の日に限って、再度、襲撃があって、


「私としたことが、下手を打ってしまいましたわ」


と撃退には成功したものの、捕縛には失敗した。

しかし撃退に成功したという事実によって、イノは、ますます蘭子に惹かれていき、

里美の目論見である「引き込み」は遠のいた形となり、

結果して、彼女の機嫌を余計に損ねる事となった。


 そして現在、里美が不機嫌そうにする中、蒼穹は言った。


「もう諦めたら?」


しかし里美からの返事はない。でも蒼穹は話を続ける。


「大体、邪な事を考えるから、いけないのよ」


事の発端からしても、修一の弱みを握ろうとしたのだから、

邪な事から始まっている。


「これは天罰だわ。きっと神様は見ているのよ」


すると店に客の一人が、


「へっくしょん!」


と大きなくしゃみをした。蒼穹は思わず、そっちを見てしまう。

その客は女性で、


「失礼」


と言った。そして連れの女性から、


「大丈夫ですか?」


と声を掛けられていた。


(あの人、よく見る客よね)


と思う蒼穹。


 その後、注意を里美の方に戻すと、里美は怖い目つきで、

蒼穹の方を睨みつけていて、蒼穹は、少々、たじろぎつつも


「何よ……」


と言うと里美は、


「私は、あきらめませんから……」


とだけ言った。

それを聞いた蒼穹は、これからも思いやられる気がした。




 そうこうしている内に、一週間が過ぎ、

イノもトヨも力を取り戻していた。


「力は取り戻しました。もう大丈夫ですよ」


とイノは言うが、心配なので、連中が捕まるまでは、修一達が護衛を続けるのは、

すでに決めていた事であるが、イノの友人、即ち蘭子の取り巻き達も、

護衛を続けるという。ただし、彼女たちは、イノが心配というよりも、

ブローカー連中を、ぶちのめしたいという気持ちが優先であるが。

いずれにせよブローカー連中をどうにかしない限り、

「浮島」の大蛇騒動に端を発したこの状況は終わりそうになかった。


 そんな中、イノの護衛の当番じゃない日。

修一は買い物の帰り、「浮島」の前を通ると、まだ立ち入り禁止ではあったが、

来週からそれ解除する旨が書かれていた。

イノがトヨを回収したから、言うまでもないが、大蛇の目撃が無くなったので、

安全と判断されたようだった。


(大蛇騒動も終結か……あとはブローカー連中だけだな)


と修一は思ったが、その時は、直ぐにやって来たのだった。






 二日後の放課後、授業を終えると、本日は部活が無いので、

イノは、そのまま護衛役を買ってくれた友人たちの内、

今日担当の三人と、一緒に帰る訳で、使い魔預かり所にトヨを取りにいき、

ケージに入れたまま、移動を始めたら、友人たちの、


「ちょっと部室に寄って行っていいかな」


と言われた。ちなみに護衛してくれる三人とも、茶道部の生徒でもある。


「いいですけど、今日、部活はありませんよね?」


とイノが聞くと、


「部室に置かせてもらってる物があるのよ」


そして部室に行くと、三つのトランクがあった。

大きさが丁度、大中小である。三人の少女たちが、それぞれのトランクを手にする


「何ですかそれ?」


とイノが聞くと少女たちの一人が


「秘密兵器よ。木之瀬さんの手を煩わせないようにね」


と言い、他の女子も頷く。そして、謎のトランクを持つ少女たちと学校を出て、

家に向かっていると、早速、秘密兵器を、使う時が来た。


 そう下校途中の、今度は路地裏ではなく、人通りの多い大通りにて


「よう小娘」


と声を掛けられた。


「!」


声の方を向くと、そこいたのはブローカー親玉だった。

緊張した面持ちになるイノ、一緒にいる少女達の一人が、


「誰です?」


と言われイノは


「奴らの親玉ですよ」


と言うと三人の少女たちの険しいものになるが、直後、数人の人間に囲まれる。

そこに、最近、襲ってきていた奴らもいた。


 少女たちに緊張が走る。もしもに為、イノはトヨをケージから出す。だが直後、


「貴方たち、何をしてますの?」


少女たちの一人が、


「蘭子さま……」


やって来たのは木之瀬蘭子。

だが直後、親玉が野球のボール位の大きさの球体を取り出し、地面に落とした。

すると球体は弾けた。


「えっ!」


次の瞬間、蘭子が消えた。彼女だけではない。

周囲には、大勢の人々も消え、連中とイノと友人三人だけになっていた。

そして、親玉言った。


「疑似空間だ。逃げ場はないぞ」


そう、親玉が落とした球体は、この空間を作り出すマジックアイテムだった。

どちらかと言えば、自分たちが消えたようなもの。


「巻き添えにして悪いな。そこの三人の嬢ちゃんよう」


この空間に入れる相手は、決めることはできるが

決めた相手の近くにいる者も巻き込まれることがある。

なお、このマジックアイテムは、かなり高価なので、

おいそれと使えるものではない。


 ここでイノは、袖をめくり、ヘビを模ったブレスレットを

露わにさせ、呪文を唱えると、トヨは、本来のバジリクスの姿に戻る。

そうイノのブレスレットは、魔法の補助道具、魔法の杖の様なもの。

そして、本来の姿の戻ったトヨは胴体に、

使い魔である事を示す看板をぶら下げている。


「これが、イノさんの使い魔の本当の姿……」


と少女たちは驚くも、


「私たちも……」


少女たちの持つトランクも変形しだす。小さいトランクは、

大剣のようなものに変わり、持っていた少女は、それを装備する。

中ぐらいのトランクは、特殊装甲服に変化し、

持っていた少女は、それを纏う。そして、大きなトランクは、変形、巨大化し、

大型のパワードアーマーになり、持っていた少女は、それに乗り込む。

ただ人間相手には大げさな武装である。


 なお少女達が何処からこんなものを、手に入れてきたのかは、

ここでは記さない。ただこの街では、冒険者登録さえしておけば、

この様なものが未成年でも手に入れる術があるとだけ記しておく。


 親玉は、特にパワードアーマーを見ながら、


「凄いな、だがこっちも負けちゃいられねえな!」


そう言うと、懐から複数のカプセルの様なものを取り出し、

周囲にばら撒いた。地面に落ちたカプセルがはじけたかと思うと

ワイバーンが姿を現す。少女の一人が言う。


「魔獣カプセル……」


それは、魔獣を封じ込め持ち運べる道具で、

手に平に入るほどの大きさだが。

その割には、巨大な魔獣も封じ込められる。

これは、超科学によって、この世界で作られたので

魔獣のいるファンタテーラには存在しない。なお使い魔は、基本的に封印できない。

ただ隷属型は別である。現れた魔獣は連中が魔法で操ってるようだった。


 そして他のカプセルも同様に魔獣へと変わっていき、

あっという間に、周囲は魔獣だらけとなった。

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