7「助言」
イノの住む家を出て、帰路についていた修一と秋人。
しばらく歩いたところで、
「なあ、秋人。お前って上川さんと親しいんだよな?」
「まあ、父さんと母さんが知り合いだから、その関係でね」
と聞いて、修一は話を切り出す。
「上川さんって、お子さんとか?」
「幼い息子さんがいたらしいけど、神隠しあったらしくて」
「神隠しって事は、ファンタテーラに?」
「その可能性は、あるらしいよ。
あの夫婦が長年、ホストファミリーをやってるって話は?」
「知ってる」
上川夫妻が、強力な超能力者と聞いた際に、そんな話を聞いていた。
「あの夫婦は、特にファンタテーラ系の人々のお世話をしているんだけど、
それは、息子さんとの繋がりを求めての事らしいよ」
息子がいるかもしれない世界から、やって来た人々の世話をする事で、
その存在を強く感じることができると言う。
あと、息子の消息を知れるかもと言う思いもある。
「まあ、息子さんの消息は、未だに分からないんだけどね。
ファンタテーラとの時間の流れの差から考えても、
まだ生きてるんじゃないかって思いがあるらしいけど」
「そうか……」
暗い顔をする修一、その事に直ぐに気づかす話を続ける秋人。
「もう歳だから、もうホストファミリーを止めるみたいで、イノさんが最後で……」
と言った所で、修一の様子に気づく、
「どうしたの修一君?」
「いや、ほらイノさん、お父さんが亡くなってるって話だろ」
「確か、お母さんもで、天涯孤独だったけど、それが?」
「イノさんのお父さんは、異界人だろ。もしかしたら……」
すると秋人は、反論するように
「神隠しに会って戻って来てない男の人は結構いるから、
ほら鳳介君の憧れの煌月達也さんの様に……」
「カオスセイバーのパイロットの……」
「だから必ずしもそうとは言い切れないよ」
と言われたが、修一の表情は晴れない。
更に秋人から、
「何か根拠でも?」
すると修一は、
「そんなものは無いよ。お前がイノさんと『おいの伝説』を関連付けた、
いわば、気にしすぎかもしれないけど」
「そう思ったって事は、何かあったんだよね?」
と秋人に言われ、修一は答える。
「彼女の部屋にあった上川夫妻と一緒に移った写真があっただろ?」
「うん」
「あの写真を見た時、感じたんだ。本当の祖父母と孫みたいだって、
まあ、彼女が日本人的な顔立ちをしていたから、そう思っただけかもな」
「………」
まあ根拠のない戯言の様な物なので、この話は、ここまでだった。
二日後、先方とこちら側の都合が合ったと言う事もあり、
イノは雨宮ショウと会う事となった。同じく部活の活動日じゃない修一と
まだ部活がお休み中の秋人が付き添いとなった。さて、イノは初めてだが、
修一はinterwineの常連で、良く出入りしているが、今日は、何だか知らないが、
店がいつもと違って見えた。何がと言われても、上手く答えることは出来ない。
違っているような感じがした。
店に入ると、店長の雨宮ショウがいた。髪はショートカットで
飾り気は無いもののイケメンな男である。初めて会う相手ではないが、
修一は妙に緊張した。修一達をみるなり、
「君がイノさんだね。上川さんから話は聞いてるよ。初めまして」
「は……初めまして……イノ・ウィンゲートです!
あ……あのお会いできて光栄です!クロニクル卿!」
ショウは、穏やかな笑み浮かべながら、
「そんなに緊張しないで」
と言う。そして秋人が
「こんにちは、雨宮さん」
と挨拶する。
「この前は、お母さんが手伝ってくれて助かったよ」
そして、
「こんにちは」
と挨拶する修一
「君は、修一君だったね。真一が色々と世話になったみたいで、ありがとう」
「いえ、興味本位もありましたから、お礼を言われる事でも……」
と謙遜する修一。
この後、奥のスタッフルームのような場所に通され、話をする事となった。
そしてイノは自分の使い魔が大型な上、
擬態が出来なくて、困っていると言う事を話した。
「それは大変だね。上川さんは、使い魔に理解はあるけど、
大型の使い魔となると、さすがにちょっとね」
使い魔が父親の分身型のもので、自分が受け継いだことも話すが、
浮島のある沼に隠している事は伏せていた。話を聞き終えたショウは、
「過去に似たような事例がある。その場合は……」
そして二つの魔法を紙にメモをする形で教えた。
「対処できる魔法があったんですね」
と言う秋人。
「分身型で、こういう事が起きる場合があるんだ。
ただかなり希少だから、対処法もあるけど知られていない」
と言ったあと、
「この二つの、どちらかが効果があるはずだが、ただ試す時は、
紙に書いた順番で、試してほしい。一つ目は、何も無いんだが、
二つ目の魔法には副作用があるんだ」
「副作用ですか?」
とイノが聞くと
「そう最初に一回目だけなんだが、一週間ほど、使い魔を元に戻せなくなる。
その上、厄介な事に、使い魔からの恩恵も半減する」
つまり一週間ほど、イノの力が半減すると言う事らしい。
「立ち入った事を聞くけど、君、もしかして、タチの悪い使い魔のブローカーに、
狙われてはいないか?」
「!」
実際そうである為、イノの顔が険しくなるも、
「さすが、クロニクル卿、全てお見通しですか……」
と言う。しかし修一は、
「どうしてそう思ったんですか?」
「分身型は特異な性質を持つからね、それを狙う連中も多い。
だからもしかしてって思ったんだ」
と言った後、
「とにかく、ああいう連中はしつこいから、警察に相談した方が良いよ。
君も対処できるから大丈夫って、思ってないよね?」
図星だったのか、気まずそうな顔になるイノ。
「まあかく言う俺もなんだけどね。まあ警察に言った所で
パトロール強化って所だけど、それでも何もしないよりましだからね」
というアドバイスを受けた。更に念押しするように、
「一つ目の魔法で、上手く行った時も、相談した方が良いけど、
二つ目の時は、絶対警察に行った方が良いよ。一週間、丸腰同然、なんだからね」
「分かりました」
と返事をする。
これで、トヨの件は、解決したも同然だった。
擬態化させることができれば、家に入れる事が出来るのだから。
ここで、ショウは
「ところで、君の使い魔は、何処に隠してるんだい?」
「「「!」」」
全員、気まずそうな顔をする三人。
「まあ、言いたくないなら別にいいけど……」
と言いつつも、
「ところで、君の使い魔って、蛇かい?」
と言ったので、三人は、ますます気まずそうにする。
その様子から、何かを察したように、
「まあどこに隠したかは知らないけど、早く連れ出した方が良いと思うよ」
と言ったのでイノは
「わかりました……」
と答える。更に
「関係ないけど、『浮島』の大蛇騒ぎ、久美が興味を示してる」
イノは何の事だが分からないようで、キョトンとしてるが、
修一と秋人、その意味が分かるので顔色が悪くなるが、
「まさか大十字久美が……」
特に事情がよくわかっている秋人は青い顔をしている。
「近いうちに文化庁に掛け合うだろうな。そうなったら長官は、
あっさり許可を出すだろうし、許可が出れば、本格的な調査なるだろうな。
この前の調査とは比べ物にならないくらいのな」
この後、そのまま帰るのは悪いがしたので、
全員で適当な飲み物を、注文し、それを飲み終えると、料金を支払って
三人は店を出た。
店を出た三人、そして秋人は、真剣な様子で
「イノさん、今晩にでも、動いた方が良いかもしれない」
「そのつもりです」
と言うイノ、
「それじゃあ、今晩集まろう」
と言った後、
「修一君はどうする?」
といわれ、
「俺はパス、でも恵美が行くかもしれない」
「恵美さんが、来てくれるのですか」
何処か嬉しそうなイノ。
「アイツ、この件を気にしてるからな。
集合場所と時間を教えてくれ、伝えておくから」
そういう訳で、修一は来ないが、恵美が来る事になった。
そして夜に集まる三人。イノと秋人、そして恵美。彼女は
「修一から色々話を聞いてる」
との事。そして人が居ないのを確認し、トヨを沼から出てこさせた。
一つ目の魔法を使うが、失敗。
「それじゃ……」
二つ目の魔法を使った。すると、トヨはどんどん小さくなっていき、
白い小さな蛇に姿を変えた。
「成功だね……」
副作用のある二つ目の魔法ゆえに、複雑な表情を浮かべる三人。
それと実は、この場には更に二人の人間が居る。秋人は、二人に向かって言った。
「ところで、どうして、貴女達はいたんです?天海さんに、黒神さん」
そう、どういう訳か、この現場には天海蒼穹と黒神里美の姿もあった。
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