6「懸案事項」

 翌日、この日も朝一で教室に来る修一、いつも通り

ロッカーにリュックサックを入れると、秋人が登校して来た。


「おはよう……」


と挨拶する秋人。


「おはよう」


と返す修一、更にもう一人


「おはようごさいます。桜井君」

「おはよう。委員長」


学級委員のレイナこと、レイナ・クロスフィールド、

一年前に、この世界に来た「来訪者」で、

アクアブルーでショートカットの髪に、青い瞳を持つエルフ。

ちなみに、彼女の事を「委員長」と呼ぶのは、修一だけでなく、

クラスの大半である。ちなみに、学校に来るときは秋人と一緒の事が多い。

それは、彼女が秋人の家に住んでいる来訪者だからだ。


 さて登校して来た秋人だが、今日はレイナがいるからか、

教室で、会話とは行かず、


「修一君、ちょっといいかな?」


と言って、彼を学校の屋上へと誘う。

屋上は、高いフェンスが貼ってあって、ベンチが置いてあり、

生徒の出入り自由であるが、朝早いので、まだ誰もいない。


 さて、屋上に来たところで秋人は修一に


「恵美さんからどこまで聞いてる?」


と聞かれ、


「全部、大蛇の正体は、イノさんの使い魔で、あの沼に隠している」


と話す。


「まあ、鎧の事もあるし、修一君なら問題ないとは、思っていたけど

それより、恵美さんは君に隠し事は出来ないって聞いたけど……」


それは、昨夜の別れ際に恵美から聞いた話である。

イノも、その事を知っていて、秋人が、半ば説得する形で了承している


「修一君、どんな手使ってるわけ?まさか……」


この後の秋人の話を聞いて、修一はドン引きしながら


「お前……その手の漫画やゲームのやり過ぎじゃねえか、

つーか、お前、そういうの見るのか?」


すると秋人は、顔を赤くしながら


「そんな訳ないでしょう!そういう事件が実際にあるんだよ」


と言いつつ、


「ちょっと待って、修一君こそ、その手の作品の事を知ってるの?未成年でしょ」

「………」


そこの事に関しては、一旦置いておくとして、


「とにかく、知ったからには、修一君にも、手を貸してもらうからね」

「手をかすって」

「大蛇の事だよ。あのままにして置くわけには行かないからね」


こうして、修一も、イノの使い魔、トヨをどうするか、考える事となった。


 放課後、今日は現視研は、活動日ではなく、活動日が同じ茶道部も同様である。

そして秋人が所属する剣道部も、トラブル発生で部室が使えず、暫しお休み。

そんな訳で、本日は、三人集まって、一回目の作戦会議とした。


「今日は、カミカワさん達が留守にしてるんで、私の家で行いましょう」


そんな訳で、学校から直接、イノが暮らす家に向かったのであるが、


「お帰り、イノちゃん」


浮島の近くにある家に着くと人の良さそうな老婦人が迎えてくれた。


「お友達も一緒……って秋人君じゃない」

「どうも、絹枝さん、ご無沙汰してます」


上川絹枝、イノのホストファミリーで、秋人とも面識があり、更には


「君は……もしかして、桜井さんの、桜井功美さんの息子さんかい?」

「そうですけど、母さんの知り合いですか?」


修一が聞くと、


「あの人には、色々と世話になっててねえ……」

「そうなんですか?」

「前に写真を見せてもらって、あの時は、まだ子供だったけど、大きくなったねえ」


と感慨深く言われて、


(相変わらず、母さんの顔は広いな)


と思う修一であった。


 さてイノは


「今日は、お出かけじゃあ無かったんですか?お友達と」


と聞くと、


「その友達の都合が悪くなって、また後日って、なってね」

「そうなんですか……」


その後、三人は、イノの部屋に向かった。

彼女の部屋は、ベッドと勉強机に、テーブル、クローゼット。

本棚があったが、本は置いていない。全体的には、小奇麗な部屋である。

彼女自身、整理整頓が、きちんとできる人間であるが、

同時にこの世界に来たばかりと言う事もある。あと部屋には、写真が飾ってあった。

そこには、イノと絹枝、そして人の良さそう老人が映っている。


「この人が絹枝さんの旦那さん?」


と修一が聞くと秋人が


「そうだよ、旦那の洋さんだよ」


この写真は、イノが、初めて、この家に来た時に記念に撮ったと言う。


(それにしても)


写真を見て修一には、感じるものがあった。



 さて家に人が居たからと言って、中断し帰るとなると、

既に顔を合わせた手前、妙な感じになるので、作戦会議は、続行。

まあ絹枝に聞こえない様に、話す必要がある。

さて、イノの使い魔であるトヨをどこに移動させるか、

場所のあてとしては、近くには、通称サイレン山と言う山があったが、

そんなに大きな山では無いので、ここに隠しておくことは出来ない。


「そうなるとあの山しかないな」


浮島から、少し離れた場所、と言っても歩きでも十分行ける場所で

そこに、巨大な山があった。トヨを隠しておくには十分すぎる場所である。

それにS市の市街地なら、何処に居ても、イノには問題が無いとの事。


 しかし、その場所にも問題点があった。


「たしか、あの山って世界遺産にも指定されてる霊山じゃなかったか?

山の頂上に神社があって、俺達、一緒に行ったよな。

それに山中には、ハイキングコースもあって、人の出入りもあるって」

「そうなんですか……あの大丈夫なんでしょうか?」


と心配そうにするイノ。


すると秋人は、笑いながら


「あの山は広いから、人が立ち寄らない場所を選べばいいんだよ」


と言うが、実際は山全体が世界遺産に指定されているので、

かなり問題がある事なのだが、まずイノは、この世界に来たばかりなので、

分かっていない。修一も世界遺産の話は知っているが、詳しくない。

そして秋人は、知識はあるが、神社の周辺じゃなければ、

大丈夫だと思っていて、この場にいる誰も、問題だとは持っていない。


 問題点がまだあった。


「場所は良いとしても、連れて行くのはどうなんだ?」


秋人は、


「そこなんだよね。移動中は目立つ場所に、

使い魔だって示すものをつけておけば、普通に移動できるんだけど」


修一が、以前見たドラゴンの使い魔は、首に看板のような物をぶら下げていた。

こうする事で、野生の魔獣と区別でき、

間違って討伐されることを防ぐことができる。


「ただ連れ出す時がちょっとね」


そうトヨがいるのは、天然記念物の周辺の沼。

この街では巨大な使い魔は珍しくないだろうが、

場所が場所だから、そこから、出て来るだけで、

ちょっとした騒ぎになりかねない。


「それじゃ、人気がなくなる夜じゃないといけませんね」


 そして一番の問題点は、移動ルートである。

一般的に参拝客やハイキング客が入山する場所までは、

トヨが問題なく通れるような広い道が続くが、そこから入山は出来ない。

そこは頂上にある神社の一部で、鳥居や、手水舎や、

他にも案内の看板などが有るので、トヨの巨体で、

それら壊しかねないからである。そうなると別の場所から入山するしかない。

幸い入山可能な場所は他にもあるのだが、


「どこも道がねぇ」


何処も、そこに至る道が狭く、通れるかどうか不安な場所ばかりなのである。

とにかくルート選択が難しいのである。


 目下の課題は、移動ルートの事であった。トヨの大きさ故に、

魔法による飛行は難しいので陸路を通るしかない。

そして秋人が持ってきたタブレット端末で最新の地図を見て、

色々考えるのだが、これが難航した。


「何だよこれ、まるで迷路じゃねえか」


と修一は思わず声を上げてしまう。

山はゲートの影響を受けていないが、周辺は影響を大きく受けていて、

修一の言う通り迷路の形相で、その上、道も狭い。

ルートを色々模索する中、イノが、あるルートを見つける。


「トヨは、短距離なら転移が使えますから、

この道と、この道は乗り越えることができます」


そのルートで、通り抜けが難しい道は、そこだけだった。


「そこね。転移が使えないんだよ」

「公道なのにですか?」

「聞いた話だけど、周囲の住宅で使っている転移除けが強力で、

その影響を受けてるって」


ここで修一は


「あれ、この道、広くないか、ちょっと遠回りだけど、

ここを通れば、山の入り口まで行けるぞ」


しかし、秋人は、


「ダメダメ、そこ私道」

「夜中だし、コッソリ通ればバレないだろう」


と言う修一であるが、もちろん問題である。


「いやその私道は特別で、昼間は持ち主の好意で、

自由に行き来できるんだけど、夜は徹底的に封鎖してるんだ」

「封鎖って……」

「フェンスによる物理的な封鎖に加えて、魔法による結界。無理に通ろうとすれば、

レーザーとか、超小型ミサイルとか超化学兵器の嵐だよ」

「ちょい待て、やり過ぎだろ!どんな奴だよ持ち主ってのは?」

「相当な変わり者みたいだよ。とにかく、その道は駄目だよ」


その後も、良いルートが見つからず、三人は、頭を悩ませる。


 ここで、絹枝がジュースを持ってきてくれた。


「「「ありがとうございます」」」


お礼がハモる三人。


「悩み事かい?」

「いやその……」


と言うイノに対し、


「分かるよ。これ前いろんな人を見てきたからねぇ。よかったら相談に乗るよ」

「いえ……」


事が事だけに、相談しづらい。しかし彼女の次の一言が光明となるのだった。


「でも魔法系なら、からっきしだから、雨宮さんを紹介するけどね」


すると秋人は


「そうか、雨宮さんなら」

「アマミヤさん?」

「interwineの店長さんか」


と修一が言うとイノは、すこし驚いたように


「えっ……」


と声を上げる。


「あの人は、異世界でクロ何とかって呼ばれる凄い魔法使いだったらしいよ」


そして秋人が言う。


「クロニクル卿ですよ」


と言うとイノが、


「えぇ!」


と声を上げる。


「クロニクル卿って、まさかあの」

「そう大魔導士のショウ・クロニクルです」

「元の世界に、戻られたと聞いてましたが、

まさか、カミカワさんのお知り合いだったとは」

「私らも、あの人には色々と世話になっていてねぇ」


そして秋人は


「あの人なら解決してくれるかのしれない」

「確かに、クロニクル卿なら」


と言うイノ。


「その様子だと、悩みごとも解決しそうだね。連絡しておくよ」


と言って部屋を出ていく絹枝。


 ここで一人置いてきぼりなる修一


(あの人が異世界帰りで、魔法使いとは聞いていたけど、

凄い人だったんだな。もしかして異世界転移系のラノベの主人公みたいな感じか)


そして秋人は


「一度、雨宮さんに会って話を聞いてから、今後の事を考えよう」


と言う事で、実際に会ってみなければ、分からないだろうが、

兎にも角にも、トヨの件はどうにかなりそうであった。


 さて今後の方針が決まったところで、今日はお開きかと思われたが、

ここで秋人は、


「ところで、君は恵美さんの、その……」


と言い出したので、修一は、


「赤い怪人の事か?」

「「!」」


驚いたような顔をする二人


「知ってたんだね」

「ああ」

「あれは何なんですか?私はトヨの中から見ていましたけど」

「妙な鎧だね。リュックサックが割れて出てきたけど」


すると修一は、


「あれは、リュックを背負ってたから、そうなっただけで、

普段は背中が割れて現れる」


と言った後


「俺は、アレの事は、知らないし恵美本人だって同じだ。

ある日、気付くと、アレが使えるようになった。

しかも、自然と使い方が分かって来る」


ここで秋人が


「『教え要らず』か……」


と言う


「とにかく正体不明、あの鎧がなんていうのかも分からないから、

本人も含めて赤い怪人って呼んでいる。

色々とシャレにならない武装を持ってるみたいだが」


修一は、イノの方を見て、


「そっちの使い魔の方が一枚上手だったようだな」

「いえ、そんな事は……」


と謙遜するイノ


「まあ、恵美にとってはマスクみたいなものだ。

自分の正体を隠すと言うのが主な目的だから」

「何で正体を隠す必要が?」


とイノが言うと


「英雄になりたくないためさ、あいつの人助けは衝動だから、

通り魔が人を刺すのと同じ感覚なんだよ。誇れるものじゃない」


どこか自虐的に言う


「それでも、良い事をしているには違いないですよ」


何処か納得しがたい様子で言った。


そして秋人は、


「でもあのロボットは?」

「あれは、『捕食』したものらしい」

「捕食?もしかしてスキルの?」


と言うイノに対し


「それは、俺にも分からない。何だかの力みたいなんだが、

とにかく取り込んで、その力を使ったり、召喚できたりする」


すると、秋人が


「それは、やっぱり『捕食』ってスキルだよ」

「そうなのか……」

「しかし、あんなロボット、どこで」


すると修一は、目線を逸らしながら


「さあな」


と言った。


 あの鎧について謎だらけだし、本人もいないから、話は先に進まず。

この件はいったん終了。そして先も述べたように、

トヨの件は、雨宮ショウに会ってからと言う事なので、

今度こそ、集まりは解散し、修一達はイノの住居を後にした。

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