3「赤い怪人再び」

 部活中の修一は、部長から借りた3Dプリンターを使い、フルとは行かないが、

セミスクラッチくらいのプラモづくりをしていた部長から


「どうした?悩み事か」

「なんでそう思うんですか?」

「いや、プラモづくりに、なんか身が入ってないみたいだから」


あの日以来、修一も、『浮島』の事が気になっていた。

いつもの好奇心と言う病気が出てきたのだ。


「悩み事があるなら、相談に乗るぞ。お前には返しきれない借りがあるしな」


超科学の力を受け付けないとは聞いたものの、

部長の力を使えばどうにかなるんじゃないかと思った。しかし、


(天然記念物が関わってるし、下手したら犯罪になりかねないから、

他人は巻き込めないな)


要は文化財保護法違反である。とにかくそういう思いもあって、


「大丈夫ですよ。御心配なさらずに」


と答える。


「なら良いだけどな……」


と部長は答える。


 そして修一は思う。


(何で俺まで気にしなきゃいけないんだろう)


と思いつつも、気になるものは仕方ない。

そして部室で、ノートパソコンで文章を作成している長瀬メイを、


(軍用もダメとの事だったから、長瀬のサーチもダメなんだよな。

でもアキラのモノクルなら)


こうは思っているが、上記の理由から、二人を巻き込むつもりはない。


(一回だけとはいえ、俺のサーチで、感じることができた。

恵美のサーチなら、いや赤い怪人の力なら……)


そんな事を思っていた。


 そしてある日の、放課後、『浮島』の近くに桜井恵美の姿があった。


(早速、サーチを……)


と思っていたらイノの姿を見かけた。学生服姿で、


(今、帰って来たのかな……ん?)


魔法使い風で怪しげな男たちが、彼女をつけているようだった。


(なんだ?)


浮島の事よりも、そっちの方が気になり、サーチはせずに、

イノの方へと向かった。そして、彼女が路地の方に入り、

男たちも入って行き、恵美も後を追う。






 そして路地裏では、イノが男たちに囲まれていた。

彼女は袖をめくり、ヘビを模ったブレスレットを露わにするが、リーダー格の男が、


「無駄だぜ。結界を張ってるからな、ここには力が及ばないぜ」


それが分かったのか、悔しそうにするイノ。

次の瞬間、拘束魔法で動きを封じられる。


「わかったら、使い魔の居所を教えろ。じゃなきゃ痛い目見るぞ」


次の瞬間、


「お前らがな」


全員、声の方を向くと、


「うわぁぁぁ!」


と言う声が上がる。そこにいたのは赤い怪人だったのだ。


 リーダー格の男が


「な……何だテメエは?」

「通りすがりのお節介野郎だ!その子を解放して、さっさと立ち去れ。

さもないと痛い目見るぞ!」


とさっきのリーダー格が言った事と同じような事を言う。

最初こそビビっていた連中であったが、リーダー格が、


「やっちまえ!」


との言葉で、全員魔法で攻撃を仕掛けてきた。

この攻撃を避ける事無く、赤い怪人は受け止めた。


「何!」


ものともしていない。避ける必要が無いと思ったからよけなかったのだ。

そして


「ギャアアアアア!」


全員、怪人の敵ではなく、あっという間にダウンして、

リーダー格を残すだけとなった。


「何て奴だ……」


すると、男は、ナイフを取り出すと、拘束しているイノに突きつけ


「この娘が……」


と彼女を人質にするつもりだったが、


「!」


直ぐに怪人が目の前に迫っていて、男は高周波ブレードを

首元に突きつけられ、


「首が惜しけりゃ。その子を解放しろ。ちょっとでも

その子に傷を付けたら、テメエの首を渇切るからな」


男はこの状況に震え出し、少しして、ナイフを落とし、

イノを解放した。解放された彼女は男から離れる。


「懸命だな。」


怪人は、ブレードを引っ込め、男を解放した。


 そして男は、へたりこみ、失禁までするが、すぐに立ち上がり


「おぼえてろ!」


と何ともベタな感じで、逃げて行った。ダウンしていた奴らも


「親分、待って!」


とこれまたベタな感じで逃げて行った。

そして、残されたイノと赤い怪人。イノは怪人に


「どなたか存じませんが、ありがとうございました!」


と言って頭を下げる。


「気を付けて帰れよ」


と言うと、赤い怪人は姿を消した。






 少し離れた人気のない場所に、赤い怪人が姿を見せた。

これは、光学迷彩である。これは、なかなか強力で

見破る事は容易ではないが、代償として使用中、

使用後しばらくは、攻撃力を失うので、基本、逃走用である。

そして、赤い怪人は変身を解き、恵美に戻ると


(ああもう、何やってるんだよな俺……)


人助けをしたわけだから、良い事をしたわけだが、やってしまった感の

大きかった。

その日、恵美は浮島で「サーチ」を使うのをやめて、さっさと家に帰った。


 翌日学校にて、ホームルーム前の時間、修一は、秋人に


「昨日、従姉から聞いたんだけど」

「修一君って、従姉いるの?」

「ああ恵美って言って、この街にいる。それより、昨日タチの悪い奴らに、

絡まれてたウチの学校の女子生徒を助けたらしいだけど」


絡んでた奴らが、使い魔の居所を聞いていた事を話すと、


「それ使い魔のブローカーだよ。しかも相当たちが悪そうな奴らだね」


と答えた。


 使い魔は譲渡が可能なので、家族や弟子を、除く第三者への、

譲渡の仲介をやっている者たちがいると言う。


「ただブローカーの中には、魔法使い達を脅したり、暴行したりして、

強引に使い魔を奪って売る奴らがいるんだよ。

場合のよったら、殺人さえも厭わない」

「でも奪われるのは、滅多に無いんじゃ」

「それは、魔法で直接奪う場合。奴らは、

魔法使い本人に無理やり、使い魔を手放させてるんだ。

それに魔法使いが死ねば、使い魔との契約も切れるし」

「だから殺人か、イノさんが危ないな……」


すると秋人が、驚いたように


「どうしてイノさんが?」


と聞いてきた。修一は、しまったと言う顔をした。

気になる事があるから、秋人に話はしたが、

イノの事は言うつもりは無かったのに、うっかり口にしてしまったからだ。

ただでさえ大蛇の件が、あるのに、余計な、心配をしかねないと思ったからであるが

ともかく、言ってしまったものは、仕方ないので、


「恵美のいう、女子生徒の容貌が、どうもイノさんみたいなんだ」


すると秋人は、


「違うんじゃないかな。確か、イノさんには使い魔が居ないはずだから」

「いない?」

「確か、レイナさんと話をしていた時、使い魔の話題になって、

その時に、そんな事を言ってたから」


なお、レイナと言うのは、修一達のクラスメイトの来訪者で、

学級委員である。


「まあ本人が言ってるだけで、確認した訳じゃないんだけど」


使い魔がいるかどうかは、その使い魔と一緒にいる。

あるいは、使い魔自身を調べないと分からない。


「こっちも恵美が助けたのが、実際の所イノさんかどうか、分かんないんだよな

それっぽいってだけで」


うまく誤魔化せた気がして、どこかホッとしたような顔をする修一であった。


「まあでも、うちの学校の生徒が襲われたのには違いないから

先生に言った方が良いと思うよ。それにああいう連中はしつこいし」

「いや恵美が学校に連絡したみたい」


 その後の、ホームルームで、恵美の連絡があったからかは不明だが

先生から、不審者がいるので気を付ける様にと、注意があった。


 さて、その日は部活があるので、

修一は、第二部室棟へ向かっていると、イノと一緒になった。


(確か茶道部に入ったんだったな)


茶道部は部室として専用の建物が用意されていて、校舎と第二部室棟の

中間にあり、第二部室棟に行くには、茶道部の前を通る必要がある。

従って部室に行く途中で茶道部の部員と一緒になってもおかしい事じゃない。


 お互いの部室に向かっていると、突然、


「サクライ君……」

「何!」


急だから、驚いた様子を見せる修一。その様子に、


「そんなに驚かなくても……」


と言いつつ、


「私たちって、同じクラスなのに話した事ないよね」


ファンタテーラにも学校はあり、彼女は通ってはいなかったが

どういう場所かは知っていた。基本は、この世界と変わらないと言う。


「話題とかないし、俺も、この街に来たばかりだから、

君の役には立たないだろうし」


するとイノは、


「でも、昨日助けてくれましたよね?」

「えっ?」

「あの赤い怪人は、貴方でしょう?」

「はぁ?」


と素っ頓狂な声を上げる修一。


「えっ、違うんですか」

「だって、体つきとか、女性的だっただろ?」

「ええ、でも雰囲気がサクライ君に似てる気がしましたから」


と言った後、ハッとなったように、


「でも、赤い怪人の事は御存じなんですね」


修一も、ハッとなったように、


「……俺の従姉なんだ」

「だから雰囲気が似てるんですね」


と言った後


「あの連絡先とか教えてくれませんか、お礼がしたくて……」

「いや、そう言うのは良いよ。アイツも衝動的だったから、

人助けしたと言うよりもやっちまった感の方が強いみたいだからさあ

お礼されても心苦しいみたいだから」

「でも……」


話題を変える。


「それより、連中の事。奴ら使い魔のブローカーだよな」

「!」


険しい表情になるイノ。


「従姉が聞いてたんだよ。連中が、使い魔がどうこう言ってたの」

「………」

「君って使い魔は居ないって聞いたけど……」


少しの間の後、笑いながら。


「多分、あの連中、勘違いしてるんですよ……」


と彼女は言うが、先の表情や、間からどうも何かを隠している様に思えた。


「でも気を付けた方が良いよ。知り合いから聞いた話だけど

そういう連中って殺人もいとわないって言うから、

それにしつこそうな連中だったみたいだし、そういや警察に相談とかは?」

「いえ、まだですけど」

「しておいた方が良いよ」


とアドバイスすると彼女は、


「分かりました。でも大丈夫ですよ。もう下手を打つことはありませんから」


と言った後、


「そろそろ時間なんで」


そう言うと、逃げるように立ち去って行った。


 その様子を見ながら、修一は


(イノさんって鋭いな……)


と思いつつも、


(当分、恵美の出番だな)


とも思っていた。

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