4「恵美と秋人」

 さて、桜井恵美は


(何やってるんだろ。俺……)


彼女は、学校帰りのイノを付けていた。この時彼女は私服で

オレンジ色のリュックサックを背負っている

例の連中から彼女を守るためである。


(下手は撃たないって、言ってたけど)


心配なものは仕方ない。しかし、彼女の言う通りで、その後も彼女は襲われたが、

その度に、恵美が助けに入るまでもなく、返り討ちにしていた。


(木之瀬の言う通り、魔法の腕は確かな様だけど……)


 なお彼女は、ホストファミリーの元で暮らしているが、

聞くところによれば、そのホストファミリーは、

老夫婦であるが、強力な超能力者との事なので、

恐らく、家にいる時は、手は出せないと思われる。

実際、その後も襲われたのは、下校途中や、一人で出かけている時だけであった。

あと下校途中でも、誰かと一緒の時は襲ってこない。

なお登校時は、生徒たちが大勢来る時間帯にやって来るので、

心配はなさそうだった。


 しかし、助けがいらない状況が、続くと、

自分がストーカーになった様な気分になり、再び、


(何やってるんだろ……)


と思い自己嫌悪に陥るのだった。

しかし、気になるものは仕方ない。しかし、その事自体が


(やっぱり、ストーカーっぽいなあ)


と思い、やはり自己嫌悪に陥るのだった。


 そしてこんな事も思った


(何で警察に行かないんだろう)


彼女は、何度も襲撃されているのに、警察に行く気配が無かった。

まあ相談したとして、パトロールを強化するのが関の山で、

心もとないととは思うが、


(ファンタテーラにも、警察みたいなものがあるらしいけど

相談をしに行くって感覚は無いのかな。

やっぱり自分の身は、自分でと言う事なんだろうか)


と思いつつも、そう思ってしまった事に対し、


(偏見だな……)


そう感じた恵美は、更なる自己嫌悪に陥った。


 そんなある日の事、その日、イノは一人だったが、特に問題なく下校した。


(今日の所は問題なさげだな)


と思っていたら、後ろから、


「何やってるの君?」

「!」


そこにいたのは秋人だった。


「秋人……」

「君誰?」


そう言われて


(しまった!)


と思う恵美。すると秋人は、恵美の顔をじっと見つめた後、


「もしかして、貴女が恵美さんですか?修一君の従姉の」

「ええ……貴方の事は修一から聞いてる」


と言う恵美に対し、


「もしかしてイノさんの事が気になって?」

「ええ、ああ言う連中は、しつこそうだから……」

「じゃあ、絡まれてたのは、やっぱりイノさんだったんだ」


それを聞いて、しまったと言う顔をする恵美。

 

 そして、秋人は、


「僕も、修一君から話を聞いて、気になって来ちゃって

今日、様子見に来たんだ」

「そうなんだ……」


その後は、二人で夜遅くまで、家を見張っていた。

夜にイノが出かける可能性が有るからである。


「ところで、こんなに遅くまで出かけていて、家族心配しないか?」


すると秋人は、


「今日は、家に誰もいないから、君はどうなの?」

「お……アタシは、一人暮らしだから……」


そして、暫く見張った後、家の明かりが消えたのを確認すると、


「多分、イノさんは寝たと思うから、今日の所は、帰ろうか」


と秋人は言い、二人は帰路についた。


 その後、途中まで、一緒に歩いていると、


「じゃあ僕は、ここで……」


と言って恵美と別の方に向かうが、恵美は思わず、


「お前の家、そっちじゃねぇだろ」


と言ってしまう。すると秋人は、足を止め、


「えっ!まさか修一君、僕の家の事も、君に話してるわけ」


少し引いてるようだった。恵美は、再びしまったと言う顔をする。


「まあ別にいいけどさ……」


ここで恵美は、


「どこに行くつもりだったんだ?」


と聞くと、


「いや……ちょっと用事があって……」


話しを聞かれたくないのか、困ったような仕草をしたかと思うと、


「ごめん!」


と言って、逃げるように駆けだす。思わず恵美は、


「ちょっと逃げるなよ!」


と言って追いかけるが見失う。


 翌朝、修一は、朝一番に教室に来ていた。

彼は、学校指定の鞄の他に、オレンジ色のリュックサックを持ってきている。

そして教室には、彼しかおらず、彼はそれを、ロッカーに仕舞った。

すると、教室に秋人が登校してくる


「修一君、最近朝早いね」

「あれ、委員長は?」


秋人も朝一で登校する事があると学級委員であるレイナも一緒である。

なお修一は、レイナの事を委員長と呼んでいる。


「今日は用事で、遅れて来るよ」


と言う秋人。


 さて、朝の教室に二人きりの修一と秋人。

修一は、いつもの病気が出てしまい秋人に,


「恵美から、話を聞いたんだが、昨日の夜、何してたんだ?」


すると秋人も


「そっちこそ、何で従姉さんに僕の家の事、教えてるの、プライバシーの侵害だよ。分かってる?」


すると修一は気まずそうに、


「いやあ、恵美と一緒に歩いていて、お前の家の前を通ってな。

それで、つい友人の家って言っちゃたんだよ。すまん」


秋人は、細目でじっと見つめた後、


「まあ、いいけどね」


と言う秋人。


 修一は


「ところで、お前の方は、どうなんだ?

昨日の晩、何してたんだ?まあ言いたくなきゃ別にいいさ。俺の悪い病気だから」


すると秋人は、暗い顔で


「大蛇の事がどうしても気になってね。

魔王の鎧の『サーチ』なら分かるんじゃないかなって」


それは魔王の鎧の専用魔法としての物なので、

普通サーチより段違いのものである。


「実際、サーチ除けが通用しなかったという話も行くし、

もしかしたら軍用以上、僕の正体を見破ったアキラ君の

モノクル並みに強力かもと思ったんだ」


恵美に追いかけられて、結局昨日は使えず帰ったと言う。


「でも、恵美さんには感謝すべきかもしれない。

こんな事に、魔王の力を使わずに済んだんだから」


更に話を続ける。


「気にし過ぎなのは、分かってるよ。

それに僕は、イノさんに気がある訳でも無いしね。

でも抑えられないんだよ」


修一は


(もしかして、俺の病気が移ったのだろうか)


と思いつつも、


「まあ気になるのは、俺も同じだ。でも、いくら規格外だって言ったって、

今度の事では、俺は無力だ。だから恵美に頼んだ。

その流れで、イノさんが絡まれてる所に出くわして、

今は、イノさんの事が気になるみたいで、大蛇の件は、置き去りだけどな」

「頼むって事は、凄い人って事だよね」

「彼女は、俺より上の能力者だからな。魔王の鎧ほどじゃないだろうけど」


ここで秋人はハッとなったように


「もしかして、恵美さんも『規格外』じゃ」

「それは知らない。まあ俺から見たら、十分規格外な奴だけどな」


と修一は言いつつ、


「とにかく、このままじゃ、落ち着かんだろうから、

彼女に頼んで、今日中に調べてもらう。だから待っていてくれ」


この直後、


「有間君、桜井君おはよう」


クラスメイトが登校してきたので、


「とにかく、朗報を期待しといてくれ」


ここで、この話題は一旦、ここまでとした。


 その日の夜、イノの見張りを終えた後、『浮島』の方に向かう恵美。


(朗報か、期待させちゃってよかったのか)


実際の所、自分のサーチと言うか、

赤い怪人の力でも上手く行くか、正直分からなかったのだ。


(さっさと終わらせしまおう)


変身しようと人気のない場所、

まあ夜も遅いから、何処も人気はあまりないのだが、とにかく探していると、


「恵美さん……」


突然、声を掛けられて、


「うわっ!って秋人……君か」

「そんなに驚かなくても」


声の方には、困惑している秋人がいた。


「修一から、朗報を待つように言われなかった?」

「そうだけど、やっぱり気になっちゃって」


今日は家をこっそり抜け出して来たとの事。


 そんな秋人に対し、恵美は


「悪いけどさ、アタシ、あんまり人に力見せたくないの。

分かった事は、修一を通して伝えるから」

「でも……」

「秋人君にだって、力を見せたくないから、逃げたんじゃないの」

「まさか修一君……」


と言いかけた所で


「アタシの勘、修一からは逃げた理由までは聞いてない」


と言う。


「そうなんだ……」


何処か安堵したように言う。


 そして恵美は


「とにかく今日の所は、帰って……」


と言いかけた所で、


「あれ、イノさん?」


と秋人は言ったので、彼の視線の先を見る。誰もいない


「誰もいない」

「今居たんだ」


話しによると街灯の光に照らされて、一瞬だけ姿が見えたと言う。


「こっちの方だ」


と言って走ってく秋人。


「ちょっと!」


心配になって追う恵美。そして、二人は『浮島』が、

浮いている沼の周囲にある垣根の前にいるイノを見つけた。

月明かりの元であったが、どうにか彼女の姿を確認できた。

しかし何だか様子がおかしい。


 そして秋人が声を掛けようとした時、沼の中から

巨大な何かが上がって来た。


「大蛇!」


と声を上げる恵美だったが、


「あれはバジリクスだ!」

(上級のバジリクスって訳か)


そしてバジリクスは、フェンスを越え、イノを襲おうとしているように見えた。

秋人は、素早く杖を取り出し、


「ウィンドカッター!」


と風の魔法を使う。一方恵美は、左手に拳銃のような物が出現し

それを構えて撃つ。杖からは真空刃、銃からは光弾が発射され、

バジリクスに命中した。


 だがバジリクスは物ともせず、素早く、側に居たイノを丸吞みしてしまった。


「そんな!」

「イノさん!」


この地に伝わる「おいの伝説」の如く少女を丸呑みにした大蛇こと、

バジリクスは、井戸に引っ込むことなく、敵意を剥き出しにして、

恵美たちの方へと向かってきた。

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