第8話「浮島と使い魔」

1「使い魔と転校生」

 修一や秋人は、登校は徒歩である。登校途中、修一は部長に会って


「おはようございます」

「おう、おはよう」


と返す。ちなみに現視研の部長は、スーツで空は飛べるが、

彼女も基本的に徒歩である。だが登校する生徒は、徒歩だけでじゃない。

自転車、バイク、中には車で登校する生徒も、

もちろん、きちんと申請を出していて、校則違反ではない。


 中には


「虎!」


初めて見た時、修一は思わず声を上げてしまった。

一人の男子生徒が、虎に乗ってやって来たのである。

正確には虎型の魔獣であるが、その次に、更に驚くべきものを見た。


「ドラゴン!」


校庭に、巨大なドラゴンが降りたったのだ。

首には、これまた巨大な「使い魔」と書かれた看板を、ぶら下げている。

そして背中から、女子生徒が降りて来る


 この後、修一が見たものは、


「えっ?」


虎は、みるみる小さくなり、猫みたいになってしまった。

男子生徒は、ケージに、猫となった虎を入れ、校舎に入っていく。

一方、ドラゴンは、ゴシックロリータ風の衣装を着た少女に姿を変え、

女子高生に寄り添って、校舎に入っていく。


 この様子を呆然と見ている修一に、秋人は、


「あれは使い魔だよ」


と教えた。そう魔法使いには、使い魔を持つものがいる。

そして教室にて、修一は使い魔について話を聞く。


「使い魔にも色々あって、先ずは完全隷属型、魔法で、魔獣を直接、

操っている感じかな、それ専門に使う奴は魔獣使いって言われるよ」


凄腕なら、上級の魔獣を操れるらしいが、

魔獣使いが操る魔獣を、使い魔と呼ぶかには議論がある。


「もう一つが契約型、今日見たドラゴンや、虎が該当するかな

こっちは、持ちつ持たれつって、感じかな」


契約型は、契約魔法と呼ばれる魔法で、魔獣と契約したもので、

魔法使いから魔力を貰う事で、強い力を得ているが、

同時に魔法使いに力を与えている存在。

使い魔と言えば、一般的には、こちらを差す事が多い。


「いわゆる相棒みたいな存在。又は一蓮托生。

とにかく、使い魔がいないとやっていけないって感じかな」


ただし、強力な使い魔を養っていくのは、

強力な魔力を必要とするから、それなりに魔法の才能がないといけない。

しかし、使い魔が出来てしまうと、さらなる力を得る事かできる反面。

使い魔なしでは、やっていけない。


「そういう使い魔って、やっぱり魔獣を倒してって感じか?」

「そうだね。でも譲渡って事もあるよ。親から子、師匠から弟子って感じでね。

中には、奪うと言う事もあるけど、これは滅多にないね」


なお、修一が見たドラゴンや、虎は譲渡らしい。


「あと滅多に無いと言えば、分身型使い魔と言うのもあるよ。

これは魔法使い自身が生んだ使い魔なんだ」


生むと言うのは、魔法によって作り出すとか言うのではなく。

本人の意思とは関係なく、突然、体から飛び出すように出現する事を言う。


「まあこれに関しては、原理に関しては、分かってないんだよね。

ただ自身の魔力によって生まれている事と、

生み出した魔法使いと運命を共にするから分身って呼ばれている」


なお生まれて来る使い魔は、強力な物、特異なものが多いと言う。


「でも譲渡は出来るよ。その場合は元の魔法使いが死んでも生き続ける。

まあ、譲渡された魔法使いが、死ぬと一緒に死んじゃうけどね。

でも奪われることは決してないらしいよ」

「そうなのか」


と興味深そうに聞く修一。


 さてこの学校には、使い魔を保有している魔法使いの生徒も、

在籍しており、そんな生徒たち向けの、

使い魔預かり所と言う場所がある。秋人曰く、


「昔、使い魔の持ち込みを禁止して、問題が起きた事があってね。

以来、こういう場所が、色んな所にあるんだよ。

なんせ使い魔がいないと、やっていけないからね」


そして修一は、虎に乗って来た男子生徒が、


「お願いします」


と言って、使い魔を預けている姿を見た。

ここなら、校内にいる限りは、使い魔の恩恵を受けられると言う。

預ける際は、使い魔は、魔法で、小型犬サイズの動物に擬態化させている。


 さて修一は、その後、隣の部屋の事に気づく、


「使い魔待機所?」


すると秋人は


「そこは、サーヴァントタイプ用だよ」

「サーヴァントタイプ?」

「人の姿をした、あるいは人に擬態できる使い魔の事だよ」


女子高生のドラゴンが、該当する。

なお部屋の扉には、ガラス窓が付いていて中を覗き込めるので

好奇心で覗き込むと、中には、椅子とテーブルがあって、

数人の人間が居て、その中にはあのゴスロリ衣装の少女がいた。

そして修一が気になったのは、


「何このメイドと執事の多さは?」

「そう言えば、サーヴァントタイプって、

メイドと執事が多いんだよね。なんでだろ?」


使い魔の擬態化は、必ずできるが、専用の魔法を習得する必要がある。

ただ人間への擬態化は、出来る使い魔は、限られているものの、

魔法を使わずとも自然とできると言う。


「ドラゴン系の使い魔は、高確率で人間に擬態化できるね」


従って、部屋にいたのは殆どがドラゴン。


「あと、契約魔法は人間にも使えるけど、主従関係を構築できても

使い魔とはならないね。だけど分身型使い魔には、

稀にサーヴァントタイプがいるんだよ」


部屋には、一見しただけでは、分からないが、

そういう使い魔もいると言う事。


 そんな使い魔と共にやって来る生徒を見て驚いたのも

過去の事、今では、その風景に修一はすっかり慣れていた。

そして修一は、使い魔を巡る出来事に、巻き込まれることとなった。


 始まりは、一人の転入生。

修一達のクラス担任である古文担当の外国人教師、マチルダ・カールセン。

ブルネットのロングヘヤーでブラウンの瞳を持ち、

学校で一、二を争う美人教師である。

なお両親は外国人であるが、彼女は日本生まれの日本育ち。

ちなみに、現視研の顧問でもある。


 そんな彼女がホームルームにて


「今日は転入生を紹介します」


と言い、一人の生徒が入って来た。

その生徒は、黒髪ミディアムでストレートの和風美人。

このクラスで和風美人と言えば、木之瀬蘭子であるが、彼女は美しい系だが

この生徒は、可愛い系であった。転校生の名は、イノ・ウィンゲート、

来訪者だと言う。彼女は、緊張した面持ちで


「イノ・ウィンゲートです。亡くなった父さんが異界人で……

私は、この世界に来る前は冒険者をしていて……その……あの……

宜しくお願いします」


とたどたどしい自己紹介をしたが、

修一のクラスの数人の来訪者たちを中心としたクラスメイトを、

助けもあって、あっという間に、クラスに馴染んでいった。


「父親が異界人だから、顔立ちが日本人的なのかな」

「そうだろうけどね。まあファンタテーラにも東洋の国の人は、

日本人的な顔をしているそうだよ」


ちなみに、彼女の父親が、異界人である事実が、

既にある出来事に繋がっているのだが、それは後の話。


 さて彼女は、クラスメイトから「おいの」と呼ばれるようになっていた。

それは、彼女の名前であるイノから来ているわけだが、木之瀬蘭子が、


「おいのさんか、良い名前ね」


と太鼓判を押した事も、大きい。ちなみにイノは、

多くのクラスメイトがそうであるように、蘭子に惹かれて

いつの間にか、彼女の取り巻きの一人になっていた。


 さて、修一は、この街にまだ慣れていないと言う事もあってか、

彼女の助けにはなれず、距離があったが

秋人は、クラスメイト達と共に、彼女の世話を焼いており、

イノとは、親しくしていた。そんな秋人は、

彼女の事を「おいの」とは呼ばなかった。

何故か、呼ぶ事自体に抵抗があるようで「イノさん」と呼んでいる。

なお修一も、秋人が不機嫌そうにするので、

彼も「おいの」と呼ぶこともない。


 丁度、「おいの」というニックネームに太鼓判を押したころである。

修一は、普段あまり話すところを見た事のない秋人と蘭子が

話しているところを見た。


「木之瀬さんは、この街の伝説とかに詳しいですよね?」

「ええ」

「だったら、『浮島』の伝説もご存じですよね?」

「知ってますわよ」

「でしたら、どうしてイノさんの……」

「別にいいではありませんか、イノさんだから『おいの』

それに、あの子は、お父様が、日本人なだけあって、

中々の和風美人では、ありませんか『お』を付けたくもなりますよ」

「ですけど……」

「有間君は、気にし過ぎですよ。それにあの子の魔法の腕は確かなようですから、

大蛇だって返り討ちですよ」


しかし秋人は、納得できていない様子であった。


 ある日、修一は、その事が気になって、下校途中に秋人に尋ねた。


「なあ秋人、『おいの』って、名前に何かあるのか、

妙に気にしているみたいだけど……」


すると、秋人は


「気にし過ぎなのは、分かってるんだけど」


と言いつつも、


「そうだ修一君は、『浮島』に行った事ある?」

「よく近くは通るな。俺がよく行くショッピングセンターの近くだから」


なお、そのショッピングセンターは以前、長瀬メイがコスプレをして

屋上にいた場所である。


「じゃあ、入った事は?」

「それは無いな」


すると、秋人は、


「じゃあ、さあ今度一緒に行こうよ」


と誘われ、後日、二人で、その「浮島」に行く事になった。

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