3「学校サボって、観光中」

 翌日、学校に登校途中で、修一は、メイを見かけたのだが、


(変だな……)


彼女の家の場所の関係上、修一が見かけた場所に来るには、

学校を通り過ぎる必要がある。

しかも、彼女は明らかに、学校とは違う方向に向かっているようだった。


(どこへ行く気だ)


昨日までの事もあってか、彼女の事が気になっていたと言う事もあるが


(会ったばかりの頃のようだ……)


昔、色々とあった頃の彼女の姿と重なり、


(まさか、奴らの残党が関わってるんじゃ……)


好奇心に、心配のような物も重なり

自然と彼女の後を追いかけていた。

そして、たどり着いた場所はと言うと駅であった。


(まさか、電車に乗る気か)


 その通りで、駅に入ると、そのまま改札に向かって行き、

スマホ決済で、通り抜け、修一は、電子マネーとしても使えるICカード乗車券を、持っていたので、それを使って、通り抜けた。そしてホームに出ると、

もう電車が止まっていて、彼女のは、乗り込んだので、

修一も離れた扉から、同じ電車に乗った。


 電車の中は、時間帯と方角もあって、あまり混んではおらず、

座席に座ることが出来たので、メイも席に座り、

修一は、彼女から離れた位置で尚且つ、彼女の様子が分かる場所に座った。


(おいおい、学校があるのに、電車でどこに行く気なんだ?)


そんな彼女を追っている修一も、人の事は言えない。


 扉が閉まり、電車が動き出した。そのまま、なん駅か進み。

その度に乗客が減っていったが、彼女は降りる気配はなく、

そしてある駅で停まった時も、降りることは無く、電車の扉は閉まる。

なお、乗客はだいぶ減っていた。


(ここで、降りないのか……)


腕時計を確認すると、もう授業が始まっている時間だった。


(学校に、欠席の電話を入れとこうかな。でも電車の中だから、電話は出来ないな)


当然ながら、電車の中なので、修一は、携帯電話をマナーモードにしている。


(欠席理由は、どうするか)


そんな事を思いながら、腕時計から目を離し、メイの方を見ると


「なっ!」


さっきまで、メイの座っていた場所には、彼女の姿は無かった。


 思わず立ち上がり、周りを見渡す修一、そして突如、後ろの方から


「次の駅で……降りる……」

「!」


振り返ると、メイの姿があった。


(いつの間に、もしかして、光学迷彩を使った上で、背後に移動したのか……)


そんな彼女は、


「気づいてた……」

「何時から……いや愚問だな。最初から、気づいていたんだな?」


メイは頷いた。そう彼女にはレーダーが搭載されているから、

彼女に、尾行など無意味であり、修一は、その事を、この瞬間まで忘れていた。


「俺が付いて来てるのが分かっていて、どうして?」

「むしろ…好都合」

「はぁ」

「……それより、桜井君……学校は……?」

「お互い様だろ。お前こそどうして」

「………答えを探してる」


そう言うと彼女は、黙り込んでしまい。側の席に座ったので、修一も席に座り、


「長瀬、最近様子が変だけど、その答えとやらと関係があるのか?」


と聞くも、引き続き彼女は黙ったままで、


「まさか、奴らとは」


それに関しては、首を横に振って、否定の仕草をし、そのまま次の駅まで移動した。


 電車を降りると、そこは海水浴場で、今は、シーズンオフなので、

あまり人はいない。メイは、駅を出ると、近くのバス停に移動した。

修一も後を追う。そして直ぐに、バスがやって来て、ふたりは乗り込む。

なお運賃は、メイは電車と同じくスマホ決済。修一は、ICカード乗車券が、

バスにも使えるので、それを使った。なおさっき電車に使ったが、

残高は、まだ残っていた。


(このバスに乗るって事は、世界遺産の神社に行くのか?)


そのバスは山間にある世界遺産の神社方面に行きのもの。

ちなみに魔法街の近くにある神社と、同じくくりで世界遺産に登録されている。


 バスに乗って移動するが、神社から離れたバス停で、メイは降りたので

修一も、後を追って降りる。さて、ここには、神社に続く、昔ながらの道、

即ち古道があった。石畳と石段で構成された、1kmほどの道である。

観光客の多くは、バスで神社の側まで行くが、

中には、あえてこの道を通ると言う、観光客も少なからずいる。


 修一は、メイについていく形であるが、二人は黙々と進んでいた。

歴史ある古道、この辺には、ゲートが出現したことが無いので、

その影響を受ける事が無く、その歴史が守られ続けている。

途中にある貸衣装屋で、古き時代の服を借りれば、

より雰囲気が出て、よりこの道の歴史を感じることが出来るであろう。

しかし修一は、歴史を感じていたものの、最初の内は、


(随分と長いな)


と何とも無粋な事を思っていた。


 さて、メイは、時折足を止めては、周りを見渡すと言う事を繰り返した。


「どうした?」


と修一が聞いても、答えてはくれない。


(この道の、歴史を感じているのか、それとも……)


古道は、山の中にあるので道の両脇は、木々が茂っている。

先も述べたが、この辺一帯は、ゲートの影響を受けていないので

周りの自然も、昔ながらもの。先ほどまで無粋な事を思っていた修一も

メイにつられて、足を止め、周りを見渡すと、木々が、と言うか自然が、

語りかけてくるような、何とも言えないものを、強く感じた。


(長瀬も自然を感じているのだろうか……)


しかし、相変わらず彼女は黙ったままで、問いかけにも応じなかった。


 古道を抜けると、神社の直ぐ側に、出るわけであるが、

そこは観光地になっていて、大型バス用の駐車場や、

お土産屋が立ち並んでいて、先の自然あふれた古道とは打って変って、

町のようになっていた。もちろんこの場所も、

ゲートの影響を、全く受けていないので、それなりに歴史があるのだが、

この様子に、修一は、古道からの変わりように、


(他人事言えないけどさ。何だが無粋だな)


と思いつつも


(でも、悪くないか……)


とも感じていた。


 なおこの古道は、神社に着いて終わりではなく、更に続きがあるのだが、

今回はそこに、行くことは無く、それ以前にメイは、神社の方にも行かず

近くの、同じく名所である巨大な滝の方に向かった。


 メイを追う形で、滝の方へ向かう修一、長めの石段を下り、

滝の袂へ着くと、そこには、滝自体をご神体とする神社があり、

観光客らしき人々と、それに混じって冒険者と思われる剣士、魔法使い、

拳闘士など、ファンタジー世界から抜け出てきたような人々がいた

皆、仕事の成功の祈願に来たのが、滝に祈りを捧げていた。

 

 そして滝の方を見た修一は


(圧巻だな……)


この滝は、全国的にも有名で、その巨大さゆえに、

かなり遠方からでも見る事が出来る。この滝は以前から知ってはいたものの、

実際に見るのは初めてである。

修一の横にいるメイは、黙ったまま、滝を見つめていたが、


「桜井君……」


と声を掛けてきた


「!……何?」


突然の事で、驚きつつも返事をすると、彼女は上の方を指さしながら


「あの上の方には……原生林がある」


そこは普段は立ち入り禁止で、決まった時期に、きちんとした手続きを

踏まないと、中に入ることは出来ない。


「昔……有名な学者が……標本採集に来た」


もちろん、この辺一帯は、ゲートの影響を受けていないので、

昔ながらの自然は、今も守られている。


 魔法街近くの神社もそうであるが、ゲートの影響を受けることなく、

尚且つ、そこが神社ならば、変わらないと言う事が、

神秘性を、より強く感じさせる事となる。

修一も、それを感じていたし、それが人を引き付けるのか、

観光客は今も多いし、先の人々の様に祈願に来る冒険者も多い。


 さて、暫く滝を見ていた修一であるが、


「行こう……」


メイが移動を始めたので、それに合わせて付いていき、

この場を後にすることになった。

彼女が向かったのは、再びバス停で、やって来たバスに乗り込んだ。

その後、バスは、最初に降りた駅の前に着いたが、メイは降りなかった。


(まだ帰るつもりはないのかな)


バスの終点は、近隣にある海沿いの温泉街で、メイは、そこで降りたので、

修一も降りる。


 ここは、ゲート事件の影響で、元から温泉街であったが、

それが引き寄せたのか、様々な世界の、温泉地が混ざり合い。

ゴチャゴチャした場所になってしまったとの事で、

さっきの神社とは対照的であるが、それはそれで、観光客の誘致に、

一役買っていて、町は賑やかであった。


 温泉街には、無料の足湯があり、メイはそこに向かうと、

靴と靴下を脱ぎ、ベンチに腰掛け、足を入れた。

修一も、靴と靴下を脱ぎ、制服の長ズボンをまくって足を入れる。


「なかなか、心地いいな……」


先の古道の歩いた事での、疲れもあって足湯が、余計に心地良く、

思わずほっこりする修一。


 なお、メイのような、レプリカントタイプと呼ばれるサイボーグは

一般的な食事から、エネルギーを得るだけでなく、

オンオフが出来るが、人間と同じ感覚を持っている。

疲れの有無は、ともかく心地良さは感じるはずであるが、

彼女の表情に変化はない。思わず修一は、


「お前、感覚を切っているのか?」


と聞くと、横に首を振る。表情に変化はないものの、

足湯の暖かさは感じているようだった。


 ふとここで、リタの事を思い出し、


「なあ長瀬、お前、お姉さんの事、どう思ってる?」


と聞いたが、


「………」


返答は、無く表情も変えないので、彼女の思いを読み取ることは出来なかった。


 少しして、メイが足湯から出たので、修一も出て、

事前に買っていた足湯用のタオルで、足をふき、靴下と靴を履く。

そしてタオルは、学生鞄に仕舞ったが、その時に


「あれ?何でこんな所に」


鞄にブレスレットが入っている事に気づく。


 なおメイは、学生鞄から、タオルを取り出し足をふいた。

彼女は、サッサと靴下と靴を身に付け、移動を始めたので、


「ちょっと待ってくれ」


と言いながら、修一は、鞄を閉じて彼女を追った。


 突然、足を止めるメイ、そこは、食堂の前であった。


「お昼ごはん……」

「もうそんな時間か……」


言われてみると、空腹感を感じた。


「ここ、いい店……」


と食堂を指さす


「でも、この格好じゃ……」


二人は学生服である。平日の、この時間帯では、補導される可能性があった。

もちろん、街中を歩いていても同じだが、


「大丈夫……もう昼だし……学校が昼まで……下校中って言えば……

誤魔化せる……」


そう言うと、彼女は、さっさ店に入って行ってしまったので、

修一も後を追っては入る羽目になった。


 そして、店では店員に、声はかけられたが、彼女の言う通り、

今日は学校が昼までで、下校中と言うと、特に何も言われなかったが、

店員は微笑まし気な笑顔を見せた。


「多分……カップルと勘違いしている……」

「いや、それはそれでちょっと……」


なお店員が何も言わないのは、

修一達の学生服が近隣の高校に似ていると言う事もある。


 メイは海鮮丼を頼み、修一は鰹のタタキ丼を頼んだ。

出てきた料理を食べると


「うまいな……」


確かに、メイの言う通りいい店である。

そして、黙々と、海鮮丼食べる彼女を見ながら、


(それにしても、長瀬の求める答えって何だろう。

奴らの関与は、無いようだけど、それに、俺がいるのが好都合と言うのも……)


修一は、彼女の目的をはかりかねていた。


(あれ、何か忘れてる様な?)


 この修一が、忘れている事が、ちょっとした騒動を起こしている事を、

彼は知らない。

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