2「メイの奇行と彼女の家族」

 長瀬メイの奇行は、コスプレで部室の突入した日を境に、酷くなった。

最初は、廊下を普通に往復するだけで、人や物があれば普通に避けていたが、

それが、パルクールの様に、飛び上がったり、壁を蹴ったりして、

避けるようになり、時には、廊下を壁蹴りだけで、進もうとしたり、

階段を上がる時も、わざわざ前方倒立回転跳びで、上がったりと、

降りる時はと言うと、今度は、有名なオカルト映画の如く

ブリッジをしながら降りてきたり

ちょっとした移動に、サイボーグとしての身体能力を、無駄に、

フル活用するのである。もちろんこれまでこんな事は一度も無かった。


 教室では、普通に動き回るだけで、基本的に派手な動きはしないが

それでも、チャイムが鳴ると、飛び上がったり、時にはバク転をしたりして

席まで移動、状況によっては、そのまま着席する事も

その姿を見た修一は


(ダイナミック着席かよ)


と思った。なおこのクラスでは、一部の女子が、おふざけの一環で

似たようなことをよくやるが、メイが普段こういう事はしないし、

教室をウロウロしだして以降も、これまでは普通に席まで移動していた。


 他にも、昼休みに、先の部室での一件の様に、屋上から

ワイヤーで降りて来て窓から教室に入ろうとすることもあった。

なお部室とは違い、校舎は五階建てで、修一達の教室は、三階である。

この時、修一は窓際の席だったので、彼が窓を開けて、彼女は中に入って来たが、


「部室の時もそうだけど、お前は鬼裂か?」


鬼裂と言うのは、隣のクラスの窓から教室に入って来るで有名な女子である。

ただメイとは違って、彼女は屋上からではなく、下からジャンプで入って来る。


「……部長も窓から出ていく」

「でも戻ってくるときは、部室の扉から来るぞ」

「五十歩百歩……」


確か、出入りの違いはあれど、窓を使う事には違いはない。

この様な事が、昼休みに毎回ではないものの、何度かあった。


 そして、ここまでの廊下での事、教室での事は、校則違反ではないので、

危険だと多少の注意を受ける事はあっても、強く指導されることはなった。

あとメイは普段、そういう事をしないから、奇行と見られるが。

先のダイナミック着席の様に、おふざけの一環で、似たような事をする生徒は、

多いので、全体的にみると、そこまでおかしな事でもなかったりする。

なお、理由を聞いても、


「したかったから……」


と言うだけである。



 部活においては、あの日以降は、特におかしな事はしなかった。

ただ例のコスプレ衣装を含め、絶対に持ち出されちゃ困る衣装は、

フレアによって、魔法で封印が施されたので、

問題のあるコスプレを着て何かすると言う事は、出来なくなったと言う事も、

あるのかもしれないが、一見、部活中の彼女は、いつも通りの様に見えた。

ところがある日、教室で、修一はクラスメイトで、

現視研ラノベ班の御神春奈から話しかけられた。


「あのさあ、長瀬さんて、最近悩み事でもあるのかな?」

「さあな、何で俺に聞く?」

「桜井君って、長瀬さんと親しいって、聞いたから……」


と前置きした後、


「最近、これまでしなかったことを急に始めたり、コスプレの事も、

あと部活にも身が入ってないっていうか」


ラノベ班は、ラノベの書評の他、自作小説を書いているのだが、

メイの作業の進みが悪いとの事。


「長瀬さんって、感情を面に出さないから、分かりにくいけど、

もしかしたら、何か悩みでもあるのかなって……」

「悪いけど、俺は何も知らない」

「そう……」


春奈は、残念そうな表情を浮かべた。

 

 さて、メイの奇行は、修一の好奇心を刺激したが、それとは関係なく

その日の夕方は彼女の家である焼鳥屋に向かった。

無性に焼き鳥が食べたくなったからである。


「まいど~桜井君!」


店に着き、修一を見るなり威勢のいい声を掛けてきたのは、メイの母親にして

この店の女将さんである長瀬千恵子である。彼女は功美の知り合いでもある。

長くもなく短くもない長さの髪に赤い髪留めを付け、服装はシャツと長ズボン。

元気そうな笑顔と、明るい性格。昔ながらの人情味の溢れる人である。


「持ち帰りで、モモと皮とハラミと、ぼんじり、つくねに、あとホルモン、

全部タレでください」

「あいよ~」


この後、修一は料金を支払い、千恵子は頼んだ焼き鳥を準備しながら、


「メイはまだ帰って来てへんよ」

「いえ、俺は、彼女に会いに来たわけじゃありませんから、

ここの焼き鳥が食べたくて来たんです」


すると彼女は笑いつつも


「なんか、複雑やね」


と言う。そして


「最近、メイ、学校で、なんかあった?」

「特に何もありませんけど……」

「そうなん?なんか、最近、様子がおかしゅうて……」


具体的な話はしなかったが、家でも、メイの様子はおかしいらしい。


「話聞いても、何も答えてくれへん。まあ、昔も、あんなんやったけど

奴らの所為で、余計に磨きがかかったんやろな」


出来上がった焼き鳥をフードパックに詰めながら


「正直、ウチの手で、奴らをいてこまして、メイを取り返したかった。

もっとはようにな」


何処か、悔し気に言う。


 空気が重たくなったのを感じた修一は、話題を変えようと


「ところで、壁のカレンダーのマークは何ですか?」


店の壁には、今月のカレンダーが張り出されているが、

一週間後のとある日に印がつけられていた。


「リタの誕生日だよ」

「お姉さんの……」


ここで、焼き鳥が詰め終わり、フードパックをゴムでとめて、


「出来たで、ぬくいうちに食べてや」


と言って、渡して来たので、修一は受け取り、


「また来てな」

「はい」

「あと、メイの事もよろしゅう」


焼き鳥の入ったフードパックを手に、修一は店を出た。


 その後、少し歩くと偶然、相手は、店の方に向かっているのだから、

ある意味必然ともいえるが、先ほど、名前の挙がったリタと、ばったり会った。


「あっ、桜井君」


ブロンドのお下げ髪で、日本人離れした顔立ちで、美人ではあるが控えめ

服装も、あまり派手ではなく控えめである。そして、修一とは面識がある


「こんにちは」


と挨拶する修一。そして彼の手にしているフードパックを見て


「もしかして、ウチの店に?」

「ええ……」


と返事をした。


 長瀬メイの姉に当たる長瀬リタは、養女で、メイとは血のつながりはない。

あとファンタテーラから来訪者で、この世界に来て、困っているところ、

WTWよりも先に、千恵子に出会い、彼女の好意で、養女になったと言う。

なお今は、大学生で、自宅から地元の大学に通いつつ、家の手伝いもしている。


 そして彼女からも、


「あの、メイちゃん最近学校で何かありました?」


と聞かれ、千恵子の時と同様に


「特に何も……」


と答えると、暗い表情で


「そう……」


と言った後、


「頼みがあるんですけど」

「えっ?」


急な事で緊張する修一であるが、


「それとなくでいいんですけど、メイちゃんに、私の事をどう思ってるか、

聞いて欲しいんです」

「それはどうして?」

「あの子、最近様子が変で、もしかしたら私の所為かもしれないんです」


メイが、家でも様子がおかしいのは、前述した事であるが、

加えて、家で会うたびに、リタの事をじっとと見るようになったと言う。

その上、無表情なので、何を考えてるか分からない。


「やっぱり私の事、姉とは認めてくれてないのかな。

それもそうよね。長年、離れ離れで、ようやく戻ってきたら、

知らない人が、姉としているんだから」


彼女の表情は、ますます暗くなるし、何と言っていいか分からず

何とも言えない表情を浮かべる修一。


「私が聞いても、何も話してくれないし、桜井君なら、

私よりも、メイちゃんと親しいから」

「親しいと言っても、ご期待に沿えるかどうか……」


その事に関しては、修一にも自信は無かった。

親しいとは言っても、元々口数が少ないから、あまり話をすることは無いし

それ以前に、腹を割って、色んな事を話せる仲ではないのだから。


 その後、リタとは別れ、家に帰り、夕食として、

買ってきた焼き鳥を食した。


「うまいな」


いつものことながら、焼き鳥の味は絶品だったが、


(なんだかなあ)


あんな事を聞いたせいか、気になって、食事が楽しめない。


 食後は、宿題として出された課題のプリントをやって、鞄にそれを詰めた。

その際に、あの日以来、机の上に置きっぱなしのブレスレットが、

鞄の中に入ったが、修一は気づくことなく、鞄を閉じた。


 そして、


(無駄とは思うけど、明日、学校で話を聞いてみよう)


何時もの、好奇心と言う病気とは、少し違うが、気になって仕方ないので、

そんな事を思ったのだが、翌日、予想外の状況が待ち受けていた。

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