第7話「サイボーグの悩み」

1「長瀬メイとコスプレ」

 修一が、現視研コスプレ班のフレアから声を掛けられたのは、

放課後で、これから帰ろうかと言うところであった。


「どうしました。フレア先輩」


彼女は、二年生で、修一の先輩になる。名前呼びなのは彼女の所望である。

そして彼女も又、名前の方で人を呼ぶ


「修一君、メイさんと親しいんだよね?」

「ええ、まあ」

「彼女がよく行く場所知ってる?」

「それはちょっと、親しいと言っても、この街に来る以前の話ですし

この街で、どう過ごしているまでは、知らないんです」

「そう……」


ここで修一は、思い出して。


「確か、家の手伝いをしてるって、聞いた事がありますから、

家にいるんじゃないですか?」

「家の方に、連絡入れたんだけど、帰ってきてすぐ出かけたって、

本人の携帯は繋がらないし」


フレアは困ったような素振りを見せる。


 修一は、そんなフレアが気になり


「長瀬が、何かしたんですか?」

「実は、コスプレ衣装を貸してほしいって、私の所に来たの」


彼女は、作品名と、主人公のコスプレ衣装を所望した

ちなみにその作品は、アニメ化されている漫画で、映画版は世界的に評価が高い。

内容はSFでサイボーグが活躍する刑事もの。


「最初は、この前のコスプレイベントで、使った衣装だと思って、

許可したんだけど」


少し前に、イベントに、コスプレ班だけでなく、

修一やメイも含めた、他の部員も参加していて、

全員、コスプレ班が作った衣装を着たのだが、

その際メイが着ていたのが、今回、所望のしたキャラの衣装だった。


「実際に持っていったのは、それも、彼女が所望したキャラの衣装だけど、

テレビアニメ版一期の物で、どんなのか知ってる?」

「確か、レオタード見たいな衣装ですよね」


その衣装は、卒業した先輩が自作した衣装で、しかも着た人間に合わせて、

サイズが調整される特殊なもので、市販品だったらかなり高価な服。

フレアは、ファンタジー作品の衣装の修繕を、家で行うために、

部室に取りに行って、その際にメイが、フレアが思っていた衣装でなく、

その衣装を持って行った事を知ったと言う。


「あの衣装は、学校から使用を禁止されてる服なのよ」


 コスプレイベントは、学校の許可で参加しているが、

クレームがあったのか去年から、露出度が高い衣装での参加を、

禁止するように、各校に教育委員会からの通達があり、

この学校からも禁止令が出た。

なお、実際に肌を見せるのはもちろんの事、肌色のタイツもダメだと言う。


「その事は、彼女も知ってるはずなのに、

もしあの格好で街をうろつかれたりしたら……」

「うろつくって、どういう事です」

「あの子、時々コスプレを着て、街をうろついてるの」


これは修一も、初耳であった。なお理由を聞いても


「したかったから……」


の一点張り。ただ修一は、


(彼女らしいな)


と思った。メイが、時々、何を考えているか分からない所があるのを

修一は知っていた。


 なお街中を、どんなコスプレ衣装でうろついても、街ゆく人達の服装も相まって

特に違和感はなく、目立つことは無いから、理由を聞く事はあっても、

誰も咎めることは無く、今回も、それだと思ったが許可を出した。

まさか使用禁止の衣装を持ち出すとは思わなかったが。


「でも、ああいう格好の人も、結構見ますから、特に騒ぎになるようなことは、

ないのでは」

「そうだけど、もし学校関係者、特に生徒会や風紀委員に見られたら、問題なのよ。

部長やマチルダ先生に迷惑かけるかもしれないし」


なお修一のクラスの担任教師が、現視研の顧問でもある。


「私の方でも探すけど、もし彼女を見かけたら連絡くれない?」

「はい」


と連絡先の交換をした。


「それじゃあ、お願いね」


と言って、フレアは去っていった。


 修一は、彼女の事を気にしつつも下校し、一旦家に帰った後、

私服に着替え、食料品の買い物の為、出かけ、

とあるショッピングセンター、火曜日に寿司を買うところとは別の場所であるが

そこにやって来た。今日は、この店が特売日なのだ。


 その店は、建物に入ると、すぐ側に、エレベーターがある。


(ここのエレベーターは、屋上に通じてるんだよな)


この店のエレベーターは、二か所、各二基ずつ存在する。一つがこの入り口近く

なお側には、ラジオ局のサテライトスタジオがある。

もう一か所は、建物の中央であるが、

屋上に繋がっているのは、入り口近くのエレベーターである。


「まさかな……」


思い立った修一は、エレベーターの乗り込み、屋上に向かった。


 屋上は、イベント広場で、普段は何もないが、立ち入り禁止でもない。

エレベーターを降りて、屋上に出ると、


「いた……!」


屋上にただ一人、長瀬メイが、コスプレ姿、レオタードの上から革ジャンを着て

更に目にはバイザーと言う格好で、フェンスに近づき、

そこから見える階下の眺めを、じっと見ているようであった。

修一は、フレアに、連絡を取り、状況を説明する。


「すぐ行くから、足止めしといて」


と言って、電話を切った。


(足止めって……)


と思いつつも、


「そこで何してるんだ少佐殿」


とメイに声を掛けた。


 彼女は黙ったまま、一旦、修一の方を見るも、

直ぐに目線をフェンスの向こう側に向けた。


(あの時と同じだな……)


修一が、メイが屋上にいると思ったのは、

彼女と初めて会った時の事を、思い出し、もしかしたらと思ったからである

二人の出会いは、修一が前に住んでいた町で、同じくショッピングセンターの屋上。

ただ、そこは、ここの様に殺風景ではなく、そこにはフードコートと、

子供が遊べる広場があり、多くの客で賑わっていた。

修一は、買い物の後、食事目的でここに来て、今日と同じ様に、

フェンスに近づき、階下の風景をじっと見ていたメイを見かけたのである。

そんな彼女の様子が、気になって修一は、声を掛けた。

そう彼の病気である好奇心である。

反応は、今回と同じ。ただ、彼がトラブルに巻き込まれるきっかけとなった。


 更に修一は、彼女に話しかけた。


「フレア先輩が、探してたぞ。その衣装は、使用禁止だそうじゃないか、

どうしてそんな衣装を……」


彼女は、修一の方を見る事無く


「公安ごっこ……」


と言うだけ、


「いや、公安ごっこにしても他にも衣装があっただろ。

この前のイベントのとか、どうしてそれを?」

「着たかったから……」


と答えるだけであった。


 長瀬メイが、何を考えてるか分からないのは、今に始まった事でないものの

ここ最近は、


(何か、長瀬の様子が変だ)


と思うような出来事が多くなってきた。

例えば、授業中の態度、学校では、タブレット端末支給され、

黒板に書かれた内容はおろか、教師の言葉さえも、記録されるので

ノートをとる必要が無く、メイの場合は、

身体にコンピューターが入っているので、タブレットさえ必要ないのだが

彼女は、普段からノートを取っていた。

理由はいつもの様に「やりたいから」であるが、

最近、急にノートを、速記文字や、ヒエログリフで書くようになったのである。


 この事を知った教師が、気になって解読した所、

一応、黒板の内容や授業の要点をまとめたものであるから

内容は、真面目なものであった。書かれている文字を除けば。

理由を聞いても。やはりやりたいからとしか言わない。


 休み時間も、これまでは、大人しく席に座って、読書をしていたりするが

最近になって、急に教室内を、落ち着きなくうろうろし始めたり、

廊下を、意味もなく行ったり来たりするなど、落ち着きがない。

まあ、奇行と呼ぶほどおかしな事ではないのだが、

急な事である為、おかしいなと感じるようになった。


 そして今日も、使ってはいけない物を使ったりする。

そんなメイは、ずっと風景を見ているので、足止めの必要はなく、

少しして、フレアが着替えらしきもの入れていると思える紙袋持って、やって来た。


「ありがとね、修一君」


と修一に礼を言いつつも、メイの元に近づき、


「これに着替えて!」


と言って、彼女を物陰へと連れていく。


 フレアも来たこともあるし、あと女性が着替えをするので、


「それじゃ俺、もう行きますね」


と言うと、フレアは再度、


「ホント、ありがとね。修一君」


とお礼を言い。修一は、その場を去った。その為メイが、どんな服に着替えたかは

彼が知ることは無かった。


 その日は、買い物を済ませて家に帰ったが、そして翌日の事、

部活の日ではあったが、所用で遅れ気味に部室に行った、

なお開始の時間には、間に合っている。

部室に入ると、部員はそろっていたが、部屋の中は、すこしざわついていた。


「どうかしたんですか?」


と修一が聞くと、御神春奈が、


「ちょっとあれが……」


彼女は、部屋の一角を指し示す。

するとそこには綺麗に畳んだ女子制服が置いてあった。

あと、下着や靴下、上靴まで置いてある。ここで、部長が


「今さっき、夢沢が見つけたんだ。アタシがここに時点から

あったんだろうが気づかなかった」


そして、制服ではあるが不審物なので、

どうしようか、これから話し合うところだと言う。

服を確認すれば、もしかしたら、学生証が入っていて、

誰のものがすぐにわかるかもしれないが、

しかし、勝手に触っていい物かと言う事もある。


 部長は


「サーチを使ったんだが、ただの制服みたいだ」


と言い、窓際にいる愛梨は、


「服は、一通りそろってるからさあ~、持ち主、

ここで服脱いで、すっぽんぽんで、うろつてるのかな~」


と言って笑う。


「だったら、とんだ変態だな」


と言う部長。修一は、


「ここは、マチルダ先生に……」


と顧問の先生の名を出した所で、ふと気が付いた事があった。


「そう言えば、長瀬は……」


最初、部員が全員揃っていると思っていた修一であるが、

ここで、長瀬メイがいない事に気づく。そして、春奈が、


「そう言えばいない、私よりも先に部室に行ったはずなのに」


すると、フレアの顔が、真っ青になって、


「まさか!」


そう言って、コスプレ衣装を仕舞ってあるロッカーを開け、中を確認すると


「やっぱりない!」


と声を上げる。


「どうした?」


と部長が言うと


「弐千五百壱番の衣装が無いんです」

「弐千五百壱番?」


と修一が聞くと、


「昨日、メイさんが持ち出した衣装の事よ」

「まさか、この服の持ち主って……」

 

そう長瀬メイの可能性がある。


 フレアは、顔を真っ青にしたまま


「まさか、あの衣装で校内をうろついてるんじゃ……」


修一は


「俺、探してきましょうか?」


と名乗りを上げた直後、部長が窓の方を向き、


「窓の外だ!」


と声を上げ、


「愛梨、窓を開けろ!」

「OK~」


と言って、愛梨が窓を開けた直後、

窓から何かが飛び込んで来た。最初は見えなかったが、

やがて姿が浮かび上がる。


「光学迷彩……長瀬……」


と修一が呟く。


 そう現れたのは、例のコスプレ姿の長瀬メイであった。

なお彼女は、その格好で第二部室棟の屋上、この部室の上にいて、

ワイヤーを使って窓際まで降りてきたと言う。

何故か光学迷彩を使って、なお部長のパワードスーツのセンサーは

彼女の光学迷彩を見破った。


「間に合った……セーフ……」


確かに、部活開始時間には間に合っているが、


「アウトよ!」


顔を真っ赤にして声を上げるフレイであった。

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