11「異界からの帰還」

 この後は、低レベルの魔獣の襲撃を受けたものの、五人は蹴散らせつつ、

門のところまでやって来た。それを前に、修一は


(やっと帰ってきた)


大げさかもしれないが、長い間、彷徨い、ようやく帰って来たような気分だった。

そして修一達が、門を取りぬけると


「帰りはこっちから入るんだ」


行きの時は気づかなかったが、少し離れた場所にもう一つ扉があり

出口との案内の看板まである。なお大きさは異なり、

扉は小さく、その前に立つ五人、すると扉が開き、五人は中に入る。


 中は、大広間であったが、中は人でごった返していた。

人々は、疲れているのか、黙って床に座り込む者、

怪我をして治療を受けている者、異界で手に入れた物を見せ合う者、

これまでの冒険を振り返り談笑する者もいる


「区画崩壊が起きたから、みんな一斉に帰って来たんだね」


それと、長い列ができていた。


「みんな受付待ちだね。とりあえず並ぼう。」


 この後は、異界から帰還の手続きを行うのであるが、

内容としては、広間の奥にある通路、すなわち帰還ゲートを通り、

帰還受付に行き、そこで手続きを行う。ここでエスケープペンダントの返却を行う。

その際に、修一は、


(そう言えば、帰りはペンダントを使えばよかったな)


と思った。ちなみに他の皆も、


「そう言えば、ペンダントの事、すっかり忘れてましたね」


と恥ずかしそうに言う、シルフィに、


「僕も、忘れてた」


同じく、恥ずかしそうにする秋人。


「そういや、忘れてた」


と言う蒼穹に、


「俺も……」


と言うアキラと、全員わすれていた。


 さて帰還受付では、持ち込むものがあれば、そこで提出。

加えて持ち物検査も行う。


「検査と言っても、特殊スキャナーを、通るだけだから」


行列の先には空港の金属探知機の様な形をしたものがある

そこをくぐるだけで、よっぽどのことがない限りすぐに終わり、

その際に証明書の返却をしてもらう。


 しかし今日は帰りの冒険者が多い。


「これは少し時間がかかりそうですね」


とシルフィが言った。確かに、彼女の言う通りであった。

さて修一は、検査自体は直ぐに終わり、

ブラックスライムは食用であることを担当職員に伝え、ケージごと渡す。

職員は


「食肉処理を行いますので、少し時間をいただきます」


と言って証明書の返却と同時に番号「37」が書かれた引換券をもらい、

帰還ゲートを出て、しばらく待合室で待つこととなった。


「あれ?」


 ここで待合室の時計を見て修一は気づいた。


「まだ一時間もたっていない……」


修一は出かける前に、何の気なしに時間を確認していた。

そして今、再び時間を確認したのだが、

思っていた以上に時間が過ぎていないのである。

ここに戻ってくるまで、時間は確認しておらず、本人の感覚的なものであるが、

異界では、2、3時間過ごしていた気がするし、帰還の手続きでも、

30分くらいは待たされていたような気がしていた。


 ここで秋人が


「土日は、異界の時間の流れが速いんだ。程度は日によって違うんだけどね。

今日は、どれくらいか確認していないから、わからないけど、

多分、僕らは外の時間で10分くらいしか異界にいなかったことになるよ」


なお、日によっては一日で、異界の中は一週間たっていることも。

あと時間の流れが速い時は、外の状況とは関係なく、昼夜が来る。

なぜそうなっているかは現在も不明であるが週末冒険者の中には、

この時間な流れを利用し、短い期間で長く冒険を重ねている者もいる。


「ダンジョンみたいなもんだよな。俺がシズさんと一緒に行った。

刑務所の地下ダンジョンなんか、中の一日が、外じゃ一時間だったんだよ」

「刑務所?ダンジョン?」


するとシルフィが


「ラビュリントス刑務所の一般開放ですよね。私も行きましたよ」

「そうなのか」


と言って、談笑を始める二人、置いてきぼりなる修一。


(何の話してるんだ?)


 ちょうどその時


「37番の方、受付にどうぞ」


とアナウンスが流れ、


「俺の番号だ、行ってくる」


そう言って修一は、総合受付へと行き、券と引き換えに、ケージと、

食肉処理を終えて袋詰めにされたブラックスライムを受け取った。


 功美から電話がかかって来たのは、その時だった。


「どう、手に入った?」

「ああ」

「そう、じゃあ今晩は楽しみね」

「それなんだけど……」


修一は功美にある事を話した。


「決まったら、電話して、準備するから」


電話を切ると、秋人達の元に戻り


「あのさ、みんな、今晩、予定無いんだよな」

「そうだけど、そういや、さっきも同じこと聞いてたよね」

「今晩さあ、俺の家に来ないか。打ち上げも兼ねて、

みんなで、すき焼き食おうぜ」

「いいの?」

「ああ、母さんには許可は取った」


ブラックスライムを捕まえてる時に、ふと思いついた事であった。


 修一の誘いを、全員承諾、蒼穹は、


「私は、既に誘われてけどね」

「そうなの?」


と言う秋人に対し、


「桜井修一じゃなくて、お母さんの、桜井さんにだけどね」


と言った。


 さて、晩に修一の家に集まるとして


「この後、どうする?今日は、俺、一旦帰るけど、皆は?」


蒼穹は


「一応アンタの護衛だから、アンタが帰るなら、私も帰る」


シルフィは


「今日の所は、一旦帰ります。また夜に会いましょう」


アキラは、


「俺は、そのまま、修一の所に行きたいな。一旦、俺の家に寄ってくれるか?」

「分かった。」


そして、秋人は


「僕も、一旦帰るよ、だから一緒帰ろう」


五人は一緒に帰路に就いた。建物を出た所で、修一は鎧をブレスレット形体にする。

そして帰りのバスの中で秋人は、修一に


「初めての異界はどうだった?」


今日の冒険の感想を聞いた。修一の答えはと言うと


「なんだかんだで、腹いっぱい。」

「大変だったね。僕の場合は、最後の最後で、大きな一撃を受けたってところだけど」


そして修一は、疲れ切った表情と声で


「個人的には、もう二度と行きたくない。異界には……」


すると、アキラが


「もったいないな、お前、良い冒険者になれそうなのによぉ」


と残念そうな顔で言う。


「そうですよね。あれだけの腕前で、良い装備も持っている……」


とシルフィも、同意するように言う。


「そう言ってくれると嬉しいけど、俺的には、向いてない気がするな」


と修一が言うと


「そうかなあ、僕も、修一君は良い冒険者になれると思うんだけど」


と秋人もまた残念そうな様子である。


「………」


一方、蒼穹は、鎧姿のまま、黙っている。


 この後、エディフェル商会の最寄りのバス停で降り、

その後、アキラの家に寄って、そして身支度を整えたアキラと共に

駅に向かう。途中、修一は功美に今晩皆来る事を電話で伝え、

駅に着くと、ちょうど汽車が来ていたので、それに乗り込み市街地に戻った。


「それじゃあ、また後でね。修一君」


駅を出た所で、秋人とシルフィと別れた。まあ後で、会う事になるのだが。


 その後は、三人で修一の家を目指していたのだが、修一は、蒼穹に


「ところで、いつまで鎧姿なんだ」


と聞く。なお、彼女とは、出かけ際、母親から連絡を受けて、

家の外で落ち合ったのだが、その時から鎧姿だった。

魔法街の件が無ければ気付かなかった。


「アンタと別れるまでよ、それまでは一応お仕事だから」


その後、修一の家の近く十字路に来て、


「それじゃあ、私こっちだから、また後でね」


と言って、修一たちと別れ、桜井家の表玄関の方へつながる道を歩いていく。

一方、修一とアキラは、裏玄関に繋がる道を歩いていく。


 そして家に到着すると


「おかえり」


家に帰ると、功美の姿があった。更に彼女は、


「いらっしゃい、アキラ君」


とアキラに挨拶する。


「すき焼きの材料は、買って来たけど、修一の方は?」


修一はブラックスライムの入った袋を見せつけながら


「大変だったよ」

「それは、ご愁傷様。でもいい経験だったじゃない」


この功美の言葉に対し、修一は


「どこがだよ」


と返答するも、改めて思い返すと、大変であったし、驚くべきこともあったが、

言われてみれば、そう思える部分もあった。

でも修一はあえて否定の言葉を述べた。肯定すれば、

状況に飲み込まれてしまうような気がしたからだ。


 この後、夕食の時間まで、アキラとゲームをしたり、

功美と夕食の支度をしたりした。





 修一達と一旦別れた後の、秋人とシルフィ、


「私も、みんなに全てを話すべきだったでしょうか?」


と彼女は、ペンダントの指輪に触れながら、申し訳なさそうな顔で言う。

秋人は面食らった顔で、


「どうしてそう思うの?」


と聞くと


「アキト君は、全てを話したのに、私だけ黙ったままと言うのは

心苦しくて」

「別に、気にしなくていいよ。僕は、バレちゃったから、話したのであって

バレなかったら、ずっと黙っていたよ」

「でも……」

「シルフィさんは、まだバレてないんだから、黙っていた方が良い」


と真剣なまなざしで言った。


 あと、二人は一旦、互いの家に戻り、夕方、家を出て再度合流し、

一緒に修一の家に向かった。二人が一緒なのは、シルフィが修一の家の場所を

知らないからである。







 蒼穹は修一と別れた後、人気のない場所で、鎧をペンダント形態にした後、

家に戻った。二階の居間に来ると、里美がいて


「おかえりなさい。どうでした?異界の方は」

「色々大変だったわ。取り敢えず、夕方まで休むから」

「ごゆっくり」


そして蒼穹は自室に戻った。


 ペンダントを机の引き出しに閉まった後、ベッドに横になり


(今度は、有間君まで、なんで他人の秘密を……)


そんなこと思っていると、ふと桜井修一と出会った時の事を思い出した。


 あの時、人に見せたくない姿を見せてしまった彼女は、

パニックになって、修一に能力による攻撃を仕掛けてしまった。

そして煙が上がって、それが晴れた時、修一は無傷で、

左手をかざしていて、その左手を中心に、巨大な魔法陣が浮かび上がっていた

そう防御魔法で、攻撃から身を守ったのだ。


「防御魔法……アンタ魔法使いなの?」


その直後


「あれ、なんで勝手に」


修一の右目が、ぼんやり青白く光りだす。


「……エレメンタルマスター?」


とつぶやく修一、蒼穹には、それが分析眼の自動発動であると分かった。


 分析眼を先天的に持つ人間が、分析眼を使っていない時に、

他人能力に接触した際に、力が自動的に発動する事。

接触と言っても触れなくとも、極力接近した時も発動する。

その際に、目が両目、片目が、ぼんやり青白く輝くと言う。


「アンタ、それ『分析眼』よね?どうして魔法使いなのに」


分析眼は、超能力者しか持てない。

そこから修一が規格外だと、分かった、


(あの後、桜井さんがやって来て、口止めされたのよね)


 あれ以降、アキラや今日の秋人など、他人に秘密を抱える事が増えた。

もちろんこれまでも、そういう事は多々あったが、

ここ最近は、立て続けである。心苦しさを感じた彼女は

昔話の「王様の耳はロバの耳」の如く


(地面に穴を掘って、そこにすべてをぶちまけてしまおうか)


とそんな事を考えていた。







 夕食時間、テーブルには、修一と蒼穹、秋人、アキラ、シルフィと

冒険者パーティと、功美、そして元々から夕食に誘われていた里美の姿があった。

一方、テーブルの上には、人数が増えたので卓上コンロを二つ置かれ、

それぞれ上にはすき焼き鍋があり、肉がいい感じに煮えていた。

そしてスライスした、一見、コンニャクにも見えるブラックスライム、入っている。


 そして、皆で談笑しながら、食事を始める。


「やっぱり、すき焼きには、これがないとね」


そう言いながら、功美はスライムを食べていた。

他の皆も、美味しそうに食べているし、アキラに至っては


「コイツは、うめえな!」


と妙にテンションが高い。ファンタテーラでも、このスライムは食されているが

この様な、食べ方をしたことは無いとの事


 修一も、初めてなので、恐る恐るであるが、箸をつけた。


「うまいな」


食感は、コンニャクに近かったが、味はコンニャクよりも、

ずっとうまく、肉によく合う味だった。


 この状況下で、里美は、今日の事を知り、肉とスライムを食べつつも

何処か棘のある言い方で


「天海さん、今日は桜井修一と異界に行ったんですね」

「里美……」

「別にいいんですよ。他にも、有間君やアキラ君、

あとシルフィさんまでいたのですから」


蒼穹は、ここで知ったのであるが、里美とシルフィには面識があった。


「気にしてませんから」


そうは言われたが、心苦しさを感じる蒼穹だった。


 一方、


「この味は、天然物じゃないとね」


と言う功美、一方、修一は、また頼まれはしないかと不安を感じたが、

楽しそうに食事をする仲間たちを見ていると


(もし、コイツらと一緒に冒険が出来たなら、それもいいかな)


そんな思いにも駆られたが、だが直ぐに


(だめだ、だめだ、こんな普通じゃない事は……)


と打ち消しつつも、今は、皆で食事を楽しむこととした。






数日前


 ブレスレットとペンダントに処置を施した人物は、

持ち込んだ人物に、それらを渡した後で、


「なあ、これで良かったのか?」

「何が?」

「専用魔法、超能力者でも使えるようにしておく事も、出来たんだが」

「それだと、面倒でしょ。それに、あの二人なら、これでも問題ないんだから」


そう言うと、持ち込んだ人物は去っていった。

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