10「規格外の事と魔王の事」

 修一の告白を聞いた秋人は


「『規格外』は大十字久美だけかと、思っていたけど、まさか修一君まで」

「この事は、秘密にしてほしい」

「分かってる。誰にも言わないよ」


と秋人が言い、シルフィも、


「確かに知られたら大変でしょう。誰にも言いませんよ。」


と言う。


 なお、この世界に来たばかりで状況を理解できていないアキラは、


「シュウイチの頼みなら秘密にしておくけどさあ……」


と言った後


「シュウイチが、魔法を使ったらおかしいのか?」


と疑問を呈した。ここでシルフィが、


「シュウイチ君は、ソウルウェポンを使ってるでしょう。

あれは超能力によるものです。本来、超能力者は、魔法は使えないのですよ」


しかしアキラは


「ちょっと待て、超能力って、スキルみたいなもんだろ。

スキルと魔法を両方使える奴は結構いたぞ」

「超能力とスキルは、似て非なる物です。この世界に来て知った事ですが、

魔法と超能力なるものは、相容れない存在。魔法を覚えてしまうと、

超能力は身に付かない。身に付いていた場合は、自然と使えなくなる」

「じゃあ修一は?」


ここで蒼穹が、


「超能力と魔法の二つを使える人間の事を、『規格外』と呼ぶの。

この世で、一人だけだと思っていたけど、もう一人いたとはね」


そして秋人が、蒼穹の方をみて、


「そう言えば、天海さんは、あまり驚いてない様ですけど、もしかして……」


蒼穹は何処か腹立たし気に


「知ってたわ。何でかは、言いたくないけど……」


修一も


「俺も、その事に関しては、ちょっとな……」


と口を噤む。余談であるが、修一が、規格外の事を知ったのは、

この街に来てからであるが、その前から、ラノベ等の影響で、

超能力と魔法を両方使えるのが、普通じゃないのではと思っていた。


 さて規格外の話題の中、突然、アキラが


「あっ、ブラックスライム」

「えっ!」


と声を上げる修一に


「あそこ」


と指さす、そこにはブラックスライムの姿。


「いた!」


スーパーでパック詰めにされている物と、ほとんど同じなので直ぐに分かった。

そして、これまでの出来事が何だったのかと言わんばかりに、

何の苦労もなく、手であっさりと捕まえた。

その時、鎧越しではあった物の、その感触は、気持ち悪く、

すぐに収納空間からゲージをとりだし、それに入れた。


 なおブラックスライムは、数匹いた。一匹でいいとの事だったが、

ふと思い立った修一は、


「なあ、秋人、アキラ、シルフィ、今日の晩、何か予定あるか?」


と聞いた。なお、蒼穹の予定に関しては知っている。


「僕は、特に何も」

「私も、」

「俺も特になんもない」


と三人の返答を、聞いた修一は、


「そうか」


と言って、ブラックスライムをもう一匹捕まえた。

ケージは最小の物であったが、それでも二匹まで捕まえることが出来る。


「?」


修一の行動に 怪訝そうにする秋人とシルフィと蒼穹、

アキラはキョトンとしている。


「そういや、サイレンの音、聞こえないな」

「そう言えば」


ここで五人は区画崩壊が収まった事を知った。


 取り敢えず、目的は達したので、帰路につく事に、

区画崩壊でみんな逃げてしまって、周囲に他の冒険者たちはいない。

そして、歩きながら、


「俺が何で規格外になったかは、俺にもわからない。

小学校の頃だ。ある朝起きたら、超能力や魔法が使えるようになっていた。」


ここで、思い出したように、


「あと、体術とかも」


と付け加え、


「マンガとかじゃ、よくあるシチュだけど、嘘くさいだろ」


修一の話を聞いた秋人は静かな口調で、


「超能力は兎も角、体術は判らないけど、魔法は、ちょっとね……」

「だろうな。自分の事じゃなきゃ、俺だって疑う」


と修一が軽い口調で言った後、真剣な口調で、


「でも事実だ。」


と言い、さらに話を続ける。


「何でかは分からないが、思い当たる節はある。

俺には、その前日の記憶が全くないんだ」

「記憶がない?」

「ああ、丸一日、全く覚えていない。『空白の一日』ってやつだ。

たぶんその日に何かがあったんだ。そうとしか考えらえない。

これが俺の知ってる全てだ」


そして、


「変な勘繰りされたくないから、全部話すことにした」


と話をした理由を述べ、更に自虐的に、


「まあ、納得は出来ないだろうがな。」


ここから恥ずかしそうな表情を見せて、


「母さんは、なんか知ってるみたいだけど、どうも聞きづらくて、

俺もまだまだ子供だな」


と言う。


 すると、ここで秋人が


「僕と同じだ」

「えっ?」

「僕も、あの鎧と剣、何で持っているかわからないんだ。

多分、父さんと母さんが何か知ってそうなんだけど、

なかなか聞き出せなくてさ、やっぱり、僕もまだまだ子供さ」


と自虐的に答え、


「修一君だけ、話してもらって、不公平だから、僕も話すね」

「アキト君……」


シルフィが言い


「別に気にしなくても」


と修一は遠慮するが、秋人は、


「そうはいかないよ」


と言って、あの鎧について話し出した。


「あれは『魔王の鎧』、かつて、鎧の魔王が身に着けていた

闇の力を宿す魔法の鎧さ。僕の危機を察知して、姿を見せる。

鎧の事を知ったのは、事故に遭いそうになって鎧に助けられたのがきっかけ」


付け加えるように


「まあ僕の意志でも現れるけど……」


と言った後、話を続ける。


「出現した鎧は、遠隔操作で、思った通りに動くし、装着することもできる。

僕の危機に対しては、勝手に動いて助けてくれたり、勝手に装着されることもある。

そして危機が去るまで鎧は消えないし、装着の場合は、脱ぐことができないんだ」


秋人の話を聞いた修一は、


(装着と言うより、一体化って感じだな)


とそんな事を思った。


 秋人は更に話を続けた。


「そして、あの鎧を着ると、あと遠隔操作してる時もだけど、

特殊な暗黒魔法が使えるんだ。あの鎧を介してしか使えない専用魔法さ」


そして、今度は、剣について話し出した。


「あの剣は、アキラ君の言う通り『勇者の聖剣』。鎧を初めて着た時、

存在を知ったんだ。

頭の中に情報が入ってくる一般的には『教え要らず』っていって、

高位の魔法武器には、よくある性質なんだけど知ってるかな」

「確か触れただけで使い方がわかるってやつだよな」

「そう、ただ基本的な部分だけで全てじゃないんだけど」


更に詳しい説明に移る。


「あの剣は、光属性の魔力を宿した魔法剣。僕の意志で、自由に呼び出せて専用の

特別な光魔法が使える。」


魔王の鎧とは、相反する存在ではあるが、引き合う存在でもある。


「ただ鎧と違って僕の危機を察して、出現するって事はないけどね。

手放してしまった時に、僕の手元に戻ってくる事はあるけど、

そして二つとも僕以外には使えない」


ここから、少し暗い表情を見せながら、


「捨てる方法はあるみたいだけど、

鎧と剣は教えてくれないから、捨てたくても捨てられない……」


と言った後、


「ただ……」


今度は笑み浮かべながら、


「あの姿を見て勇者なんて言ったのは、修一君が初めてだよ。

みんな鎧姿を見たら、僕自身だって魔王だって思ったのに……」


修一は、答える。


「最初はその鎧や強さは確かに魔王って感じがしたけど、あの聖剣を振るう姿がな。

俺にはあの姿は、勇者にしか見えなかった。魔王が聖剣を持ってるって噂だけど。

俺には勇者が魔王の鎧を着てるとしか思えなかった」


すると、アキラは


「それは俺も、同感。俺、実際に勇者様を、見た事があるんだ。

聖剣を振るって戦っている時の姿は、お前と一緒だったぜ。

違うのは、鎧が魔王の鎧ってだけだ」


と笑顔で言う。


 二人の反応に、何処か恥ずかしそうに


「まあ、聖剣は、あまり使わないからね。そもそも鎧だって僕は、

自分の意志で鎧を使ったことは、ほとんどないからね。

僕が危ない目に会って、鎧が現れるってのほとんどだから」

「それじゃあ、週末に異界に魔王が現れるのは、お前が週末に異界に行って、

さっきみたいに危ない目に会うからか、」


異界は、危険な魔獣の巣窟、今日のように危険な目に会うのか日常的である。


「それじゃ、土砂崩れの時は、もしかして巻き込まれたのか」

「うん、唐突だったから防御魔法が間に合わなくて、

同じように異界以外の場所でも何回かあるよ。守るためとはいえ、

僕の意志は関係ないからね……」


 ここで、修一は


「でも、魔法街の時は、どうだったんだ?」

「あれは僕の意思だよ。事情は話せないんだけど、

あの時、サーチを使っていて、修一君達が結界に閉じ込められてる事を知って……」


あの結界は、時間が経ては消滅するものの

秋人はおろか、高位の魔法使いでも破壊するのは困難だったので

魔王の鎧に頼るしかなかった。


「そういや、あの時、修一君達と一緒にいたのは、天海さんだったんだね。

どうして、修一君達と一緒に?」


すると蒼穹は、面倒くさそうに


「偶然出くわしただけ」


と答えた。


 そして修一は、


「あの時はありがとう。結界から助けてくれて」


蒼穹も


「あの一日閉じ込められていたかと思うと……本当にありがとうね」


アキラも


「ありがとな」


と礼を言う。


 秋人は、


「お礼なんて、むしろ遅すぎたくらいだよ。君たちに気づいた時には

戦いは終わってたんだから」


早く気づいていれば、助太刀が出来た筈だからである。


「それでも、助けになった事には違いない。ありがとうな」


と再び礼を言った。


 その後、話は、再び聖剣の事について、

鎧と違って勝手に出てくることはないから、

使う事は少ないものの、使った時に限って人に見られ、

「魔王が聖剣を持っている」と言う噂になってしまった。


「あと、今日、聖剣を使ったのは、修一君達の所為だからね」

「なんで俺達の?」

「だって逃げないから、あのまま長引くと危険だったよ。だから……」


速めの決着が必要となり、聖剣を使用した。


 修一は


「最初は、お前が鎧の男がお前だって、気づかなかったし、

それに正直、無事だと言われても信用できなかった。

シルフィは信頼できるとは言ってたけど……」


と言った後、


「もし相手の言う事が間違っていたら、現場にお前を置いてくことになるし、

言っとくが、こういう生死が関わるときに見捨てるほど、俺は薄情じゃない」

「修一君……」

「ただし、生死が関わらない。割とどうでもいい厄介ごとの時は、

基本逃げるし、見捨てるからよろしく」


この一言で、場が妙な雰囲気に、蒼穹は呆れたように、


「アンタねえ」


シルフィは、無言であるが、何処か軽蔑の眼差し

アキラは苦笑い。そして秋人も


「それはそれで、ちょっと……」


ここで、秋人は、ハッとなったように、


「あっ、でも、途中から僕だって気づいてたんだよね。

少なくともカノンアイが現れた時には」


修一は答える。


「ああ、確証は全くなかったがな、気づいてからは、その事を聞きたかった。」


この後、少しの間が開き、


「違うな。正直に言うと、途中からは、お前の闘いに見とれてたんだ。

俺の悪い病気だよ。好奇心って名の」


修一は、ため息交じりな声で、自虐的に言う。


 修一から話を聞いた秋人は


「じゃあ、他の皆は?」


蒼穹は、


「私は、一応、桜井修一の護衛だから」


シルフィは


「私は、逃げろって言いましたけど、皆さん逃げてくれなくて

だからと言って、私だけ逃げると言うのも……」


そしてアキラは


「俺は、『分析』で、お前だってわかっていたから、

逃げろって言われても、お前一人、戦わせたまま、置いてきぼりにできなくてよう」

「アキラ君……」


ここからは悔しそうに、


「攻撃が届きゃ、俺も助太刀したのによお!」


その一言に困惑しながらも


「気持ちだけでうれしいよ……」


と言う秋人。さて、ここまで、何処かずれていたアキラだったが

この時は、まともな事を言った。


 そして


「いろいろ、話をしたから、なんかスッキリしたかな」


秋人に言われてみて、修一もまた、心が軽くなっていることに気づいた。


(まだ明かせない事はあるんだけどな)


と思いつつも、お互い大きな秘密を抱える者同士として、

秋人にこれまで以上の親近感を感じ始めていた。

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