9「魔王の正体」

 魔王は、修一達の方を向き。


「あいつは、コッチで引き付ける。お前らは早く逃げろ」


そう言うと、飛翔し、カノンアイに向かって、ワイバーンに使ったのと同じ、

遠距離攻撃を使用する。魔王の周囲に黒い球体が出現する。

量は、ワイバーン戦よりも多く、それが、カノンアイに向けて射出され、

その全て着弾する。


 この攻撃を受けて、カノンアイの砲門は、全て魔王の方に向く、

一方、魔王の方は、周囲に黒い球体が再び出現。量は、さっきよりもさらに多い。

そして、カノンアイの砲弾が発射されると同時、球体も射出される

球体は、砲弾を破壊しながら、進んでいき、全て着弾する。

だが、相手は再度、砲撃してきて、魔王も、周囲に再度球体が精製し射出。


 後は、弾の打ち合いであるが、その後も、攻勢は魔王の方が優勢で、

カノンアイの攻撃は、終始、魔王の魔法攻撃に阻まれ、

例えすり抜けたとしても、


「ふん!」


と言う掛け声と共に拳や


「テヤッ!」


と言う掛け声と共に、蹴りで打ち消され、ダメージを与えることが出来ず、

逆に、魔王の攻撃は阻むことが出来ず、ダメージを受ける。


 更にカノンアイは、途中から砲弾に加えて、一部の小さな砲門からは

レーザー光線のような物も射出する。

この光線は、球体を打ち消すことは出来ないものの、貫通して魔王に迫る。


「セイッ!」


球体による攻撃をしつつも、掛け声と共に手刀で弾かれ、

これもダメージにならなかった。


 更に、突起物と突起物の間から、触手が飛び出し、それが伸びて、

魔王の攻撃を避けながら、迫ってくる。魔王は、砲撃を続けつつも

レーザーや、触手を避け、時には魔法や徒手空拳で、先と同じ様にレーザーは弾き、

触手の方は破壊する


 そんな中、触手が右腕に巻き付き、さらに左腕、両足、胴体、頭部に巻き付き

締め上げてくるが、


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


魔王は巻き付いた触手を力任せに引きちぎった。

更に絡みつく触手もあったが、それらも引きちぎっていき、更に本体へ向けて攻撃に、力を入れていく。


 一方、修一達は、


「早く、あの人の言う様に」


と退避を催促するシルフィに対し、修一は、


「いや、俺は、まだここに居たい……」


蒼穹は、


「逃げたいけど……」


修一を指さしながら


「私、一応桜井修一の護衛だから、桜井修一が動かない以上、私も動けないわ」


アキラは、モノクルは外していたが、魔王の方を見て、


「俺は、アイツを残して立ち去るつもりはない」


更に残念そうに、


「飛べればなあ、アイツの助太刀に行けるのに、あの板があれば……」


と言った。


 そして修一は、退避を進めてくるシルフィに


「逃げたければ、先に行けばいい、俺達は、

特に天海とアキラは、大丈夫だと思うから」


と言われたものの、彼女も、自分一人で、逃げると言う事は、

頭にないらしく、修一達からは、少し離れた位置であるが、その場に残り、

オロオロしている。

カノンアイの無差別攻撃の影響で、周囲の大型魔獣たちは倒されてしまったので、

この場は意外と、安全だったりする。


 さて修一は、その場に留まり、魔王の闘いを見ている。

修一は一応能力で空は飛べるが、戦いは魔王の方が優勢だからなのと、

正義感と言う病気が起きていないので、助けに行く事は無く。

だから言って、逃げるという事もせず、ただじっと、その戦いを見ていた。

そう正義感は出ていないが、好奇心と言う病気は出ているようであり、

修一は、さっきのワイバーン戦を含め魔王の戦う姿、その強さに、感心していた。


「さすが魔王だな……」


と修一は呟く。


 一方、魔王は、戦いながら時折、修一達の方を見ていた。

その様子は、修一達に、早く逃げろと訴えているように見える。

だが修一達は逃げようとしない。

なお状況は、魔王にとっては有利であるが、カノンアイは丈夫であるので、

このままだと、直ぐに決することは無い。魔王は愚痴を漏らすように


「しかたない」


男の右手が、まばゆい光に包まれた。その光の前にカノンアイが怯む。

そして光の中からそれは現れた。


「聖剣……」


 その剣は、塚の部分が、金色で、ルーン文字が彫られていて、

綺麗な水晶の装飾が施されている。更に、その刃は汚れ一つなく、

美しく輝いていた。そして全体的には穏やかで温かい光を放っているように感じる。

修一には、それが聖剣のように思えた。更に、側に居るアキラは言った。


「間違いない。ありゃ、勇者の聖剣だ」


それを聞いた修一は


(確か魔王が聖剣を持っている……)


 魔王には、引き続き、砲弾、光線、触手が迫るが

剣を一閃させると、衝撃波のような物が放たれ、

一瞬のうちに砲弾は爆発し、光線は弾かれ、触手は切り刻まれる


「凄い……」


と声を上げる蒼穹


 魔王は、そして剣を、高く掲げる。


「光と闇を今一つに!」


と宣言するかのように、声を上げる。すると帯状の光と、

同じく帯状に伸びる黒い靄、すなわち闇が剣を中心に、螺旋状に交差した。

更に魔王の周辺を、光と闇が交差し合い、力場が発生していた。

この状況に危機を察したのか、カノンアイは、これまで以上の砲撃と、光線、

触手で魔王に攻撃を仕掛ける。しかし今度は、発生していた力場が、それらを防ぐ。

そして男は、剣を横に構え、カノンアイへと向かって行く。


 カノンアイも大技でも使う気か、

攻撃を続けつつも、大きな目が異様な輝きを見せる。


「おいおい、まさか」


修一は、その様子からカノンアイが、何をしようとしているか、

容易に想像がついた。

なおカノンアイこれまで放った攻撃はすべて力場に阻まれ、

魔王の接近を止めることは出来ず。


「どりゃああああああああああああああああああ!」


魔王は、接近と同時に、掛け声とともにカノンアイを切りつけた。

それと同時に、カノンアイは目から強力なビーム砲のような物を撃つ、

だが刃が、魔獣の巨体にぶつかる瞬間、巨大化し、撃って来た強力なビーム砲を

真っ二つにし、更には、カノンアイ自体を一刀両断した。


「すげぇ!」


その様子に、修一は驚嘆の声を上げた。そして魔王が剣でカノンアイを倒す姿に


(魔王じゃない……むしろ……)


 一方、真っ二つになり、堕ちていくカノンアイ。

そして魔王の持つ「勇者の聖剣」も元の大きさに戻っている。

全員、まだ気づいていないがサイレンも止まっていた。

そう戦いは終わり、危機は去った筈だった。


「!」


 カノンアイが、一発だけ、そう、たった一発だけの砲撃を放った。

それは小さかったが、威力だけなら、これまでの中でも強力な一撃。

それは死にゆく中での、最後の悪あがき、

消えゆく命を一気に使った渾身の一撃であった。

しかしながら魔王には、当たる事はなかった。完全に狙いが外れていたが、


「えっ?」


砲弾は、修一達の方にまっすぐ飛んできた。


「まずい!」


魔王は、魔法で、どうにかしようとしたが、先ほどの大技の反動で疲弊し、

弱冠威力が落ちているのと、砲弾の渾身の一撃であるがゆえに、

強力さも相まって、止めることができず、

更に修一達の方も、魔王に気を取られていたため、回避が間に合わず。


「危ない!」


と叫びながらシルフィが、指輪のペンダントを握りしめながら、駆け寄るが、砲弾がもろに直撃した。


「みんな!」


そして、ものすごい爆音が響き、爆煙が高くまで上がる。この砲撃は先に述べた通り強力で、秋人を吹き飛ばしたのとは比べ物にならないほど、無事では済まないが、


「危なかった……」


爆煙の中から左手を宙にかざす無傷の修一が姿を見せ、ほか仲間たちも無傷で、

その理由も共に姿を見せる。


「あれは!」


それを見て、魔王は驚きの声を上げた。


 一方、男の声が聞こえたわけではないが、その瞬間、修一は兜の下で、

気まずそうな表情を見せ、手を降ろした


(やべぇ、やっちまった)


修一は、今、他人、特に知り合いに見せてたくないものを、

見せてしまっている事に気づいたのである。


「あ~あ」


と呆れている様な声を上げる蒼穹。


「それは!」


と言って目を丸くするシルフィ、彼女はこの世界に来て長いので、

それが意味する事が分かっていたが、

同じ来訪者でも、まだこの世界に来て間もないアキラは、

無邪気な様子で、


「すげぇなシュウイチ。お前こんな強力な防御魔法が使えるのか!」


と言った。そう、修一が宙にかざした左手の先には強大な魔法陣があった

それは、アキラの言うように、強力な防御魔法が展開していて、

砲撃から身を守ったのであった。


 やがて、魔王がこっちに向かって来た。

剣は何処かに仕舞ったのか、もってはいない。


(何か、言われそうだな)


思いながら、身構えるが、やって来た魔王は、


「ふぅ……」


何故か一度呼吸を整えると、相変わらず凄みのある声で、


「全員無事のようだな……」


と言いつつも、


「逃げろと言っただろ、一歩間違えたら、危なかったんだぞ」


と窘めるように言い、その後、修一をじっと見つめ、

修一には何か言いたげに見えた。


「なに?」

「別に、さっさと帰った方が良い」


そう言って、魔王は背を向けた。その態度に、妙に拍子抜けしたが

妙に苛立ちのような物も覚えて、


「言いたい事があるなら、言えよ」


声を上げる修一、すると相手は、


「お前が何であろうと、我には関係のない事だ」


と言って、去ろうとするので、修一は思わず


「ちょっと待て、勇者様」


と声を掛けた。


 魔王は振り返って


「はぁ?」


突拍子もない事を言われた時、間の抜けた声を上げた。

ただ声自体は低いままである。


「なぜ勇者、魔王じゃなくて?」


と魔王本人から言われ、更に、蒼穹からも、


「どこか、勇者よ。どう見ても魔王でしょうが」


シルフィも、


「シュウイチ君、あなた何を言って?」


とツッコミが入るがアキラだけは、


「勇者か、確かに、『勇者の聖剣』持ってるもんな!」


と納得するように言う。


 すると蒼穹が


「確かに、あの剣は、聖剣っぽいけど」

「いや、間違いなく勇者の聖剣だ。あの聖剣は、勇者の証だ」


すると魔王は


「だけど……」


と言うが、アキラは、そんな魔王に対し馴れ馴れしく、特に何の気なしにいった。


「お前もさあ、魔王なんて呼ばれるよりも、勇者の方が良いよなアキト?」

「そりゃそうだけど……」


この後、当人を含め修一、蒼穹、シルフィが


「「「「あっ!」」」」


と声を上げた。しかし、アキラは、少し天然なのか、自分の言った事の衝撃に、

全然気づいておらず


「勇者アキトか、何かいいな……」


と言っていた。


 一方蒼穹は、魔王に向かって、


「貴方、有間君なの?」


シルフィは、額に手を当て、気まずそうな顔をしていて、

どうも彼女は、事実を知っていたようだった。そして、修一は


「やっぱりお前、秋人だったんだな。」


すると魔王は


「はぁ~~~~~」


とため息をつくと、鎧から光の粒子の様なものが出てきて、

それが、一つにまとまり、秋人に姿を変えた。修一には、鎧から秋人が分離したように見えた。そして彼が出現すると、同時に、鎧は姿を消す。


「アキラ君、どうして分かったの?」


アキラは、キョトンとした顔で、


「いや分析で」

「あのモノクルか、まさか、アレで分かるなんて……」


そして秋人は、修一の方を向くと


「さっき、『やっぱり』って言ってたね。

どうして……あっ名前を呼んだから」

「まあな、あと、お前が飛んで行った方向から現れたってのもあるけどな

もちろん、有り得ないと思った。体格も違い過ぎるしさ、鎧を着てるとはいえ、

声も違い過ぎる。そもそも、雰囲気がな、だけど考えは捨てられなかった」


と答える。


 一方修一は、シルフィに


「君は、知ってたんだな、秋人の事。だから、魔王の肩を持つようなことを」

「ええ……色々ありまして、」


そして秋人、


「その……この事、秘密にしてくれないかな」


するとシルフィも


「私からもお願いします。この事は内密に」

「分かってる」


蒼穹は、何処か腹立たし気に


「秘密にするわよ……」


ただアキラに至っては、


「そういや、勇者は身分を隠すんだよな。協力するぜ」


と少しずれている。


 そして修一は、秋人に


「何か言いたい事があるんじゃないのか?」

「あの防御魔法は、鎧の専用魔法じゃないよね」


それはアキラのモノクルによる分析であるが、

修一の鎧の、専用魔法には、防御系は無い。


「それと、アキラ君が言ってたけど、あの魔法は……」

「俺の魔法だよ。あの防御魔法は」

「それじゃ、修一君は……」


見られた以上、もう覚悟を決めて


「そう、俺は規格外だ」


どこか静かなで、尚且つ重たそうな口調で言った。

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