8「区画崩壊と魔王」

 四人の戦いを見ていると、当てられたと言うが、エビルフォレストとの戦いで

火がつき、四人の戦う姿に、燃料を投下されたと言う感じ、

対抗心ではないものの、一種の、負けず嫌いなのかもしれない。

とにかく、衝動を抑えらえず、彼の思いとは裏腹に、魔獣と遭遇すると

修一も、前線にでて、魔獣たちと戦った。


 ナチュラゴーレムの、下位魔獣で、同じ様に全身が岩のような、

固い皮膚をもった人型魔獣「ゴーレムビースト」が現れた時は、

大槌に変形させたメタモルブレードで、その皮膚を砕き撃退。

空から、「ワイバーン」が襲って来た時はショットガンに変形させ、狙撃、

再び、ゴブリンの群れと遭遇した時は、刃物が付いた鞭に変形させ、

薙ぎ払うなど、武器を様々な形に変形させつつも、それらを使いこなし、

この前、手に入れたばかりとは思えないような

ほぼ無駄のない動きで、魔獣を倒していく。


「凄いですね。シュウイチ君、ホント初心者とは思えない」


と称賛されても、あまりうれしそうじゃない。

しかし、併用可能な他の能力と、組み合わせていない分

まだ、まだ自重できているようである。


(思えば、赤い怪人に頼ればよかったんじゃ)


この瞬間まで、その事を思いつかなかった。

しかし、ここまで来てしまったら、もう手遅れである。


 その後、修一も含め、五人で、さまざまな魔獣と戦いながらも、

結構な時間、森をさまよった。その間、修一は、やってしまった感を覚えつつも、

みんなと一緒に、戦う事に


(なんだか、ネトゲやってるみたい)


と思い、妙に楽しさのような物も感じていた。もちろん


(だめだ、だめだ!楽しいなんて考えるな)


と自分を窘める。


 そんな中ふと気になる事があった。


「なあ、魔獣って、群れで来ることが多いのか?」

「普段は、そんな事は、まあ偶には、こういう事もあるけど……」


ここでシルフィが


「夜行性のゴブリンが昼間、現れるのも、数匹程度ならともかく、

群れと言うのは、少し気になりますね。しかも、二度も来ると言うのも」


更に修一は


「あとブラックスライムが、全然、見つからないんだが、

見つけにくい魔獣なのか?」


と言うと、横から蒼穹が


「その辺に、ゴロゴロいる様な魔獣だから、私なんか、

異界に入るたびに、見かけるけど、こんな見かけないのも初めてね」


その言葉を聞いて、修一は


「いざ欲しい時に限って見つからないってやつか」


と言うと、秋人とシルフィは、真剣な表情で、考え込むような仕草し、


「もしかしたら……」

「確か、その可能性も……」


と話し合いを始める。


 その間、ふと思った事があって、蒼穹に話しかける


「ところで、腰の拳銃は、飾りなのか?魔獣相手に使ってないけど」

「一応、本物の銃で実戦に使えるけど、私は、体術の鍛錬に来たんだから

使う必要はないでしょ」

「でも、魔法街の時も使ってなかったような」

「私は、基本、徒手空拳だから、銃を使うって事が頭になくて、

でも鎧とセットだから、そのままにしてるけど」


そんな事を話していると、話し合いを終えた、秋人が


「ちょっといいかな?」


と声を掛けてきた。


 そして、秋人は深刻そうな表情で、


「戻って出直した方がいいかも、区画崩壊の前兆かもしれない」

「えっ!」


更に秋人は、詳細を話す。


「区画崩壊は、基本的に唐突だけど、いくつか前兆が起きるって言われてるんだ。

噂程度の事で、裏付けがあるわけじゃないんだけど、

魔獣が、普段しないようなおかしな行動を取るとか、

スライム系魔獣がいなくなるとか」


話を聞いた修一は、


(物語とかなら、こういう時は、当たる事が多いんだよな。さてどうするか)


区画崩壊については、話を聞いただけであるが、

どうなるかは想像がつく、命の危険があるだけでなく


(自重しながら切り抜けるのは、無理だ。ただでさえ自重できてないのに)


そんな事を思っていると、シルフィが


「あなた達、どうします?私はアキト君と同じ意見ですが」


と聞いてくる。アキラは


「俺は……その……」


と言いかけて、どこか名残惜しそうにするが、


「やっぱ帰るわ。これ以上いたら、飲まれそうだから」


そして、蒼穹は、


「私は、十分鍛錬になったから、良いけど、

私、一応、桜井修一の護衛だから……」


修一の方を見る。


「俺も、戻るのに賛成だ。巻き込まれるのはごめんだからな」


 そして秋人が、ペンダントを手にし


「それじゃ、エスケープペンダントで」


全員、同じ様にペンダントを手にし、ボタンを押した。だが何も起きなかった。


「あれ?」

「ここじゃ、使えないんだ。移動しよう」


五人は元いた道を戻り始めたのであるが、そんな時、恐れていたことが起きた。


 森の中に、サイレンの音が響き渡る


「おい、これって」

「区画崩壊だ、急ごう!」


五人は、走り始める


「ペンダントのボタンを押し続けて、使える場所に入ったら、すぐに転送できるはずだから」


ペンダントのボタンを押しながら走り続ける五人、

途中、高レベルの魔獣レックスドラゴンに遭遇するも、修一が撃退し今に至る。


 その後も、走り続けていたが、空からそいつらは、降り立った


「今度は、ワイバーンか!」


少し前にも、ワイバーンと戦ってはいたが、先の比べずっと大きく、強そうで

しかも、群れであり、大勢のワイバーンが修一達を囲んだ。

もちろん逃げ場はない。


「なんだか、ヤバくないか……」


と修一が言うと、秋人は、


「少し危ないかも……」


と言って、杖を構えた。アキラは、嬉々と表情で、剣を構える。

シルフィは、弓を手にする。蒼穹は、ファイティングポーズを取る。


 そして修一は


(こうなったら、自重は出来ない。場合に寄ったら『ヒーロー』を

いや切り札の『イーブン』も)


そんな事を思いながら、メタモルブレードを構えると


「!」


急に頭痛にも似た妙な感じに襲われた。思わず兜越しであるが、頭を押さえる。

一方、同じ動作を、蒼穹もしていた


「何なの、これ」


そして、修一と、蒼穹の脳裏にある情報が流れ込んでくる。


(この鎧の専用魔法……使えと言うのか……)


迫って来るワイバーンに、修一は左手、蒼穹は右手をかざし、

二人は、ほぼ同時に、その言葉を口にした。


「「バーストブレイズ……」」


 かざした手の前に、魔法陣が浮かんだと思うと、赤く小さな光弾が

数発ほど発射された。それらは、ワイバーンに着弾と共に巨大な火球となり、

その身を焼き尽くしていく、


「どうして、二人は超能力者のはずじゃ……待てよ専用魔法なら」


その言葉にシルフィは、


「私も、専用魔法だと思います。それにしても初めて見る魔法ですね」


更に秋人の見立てでは


「見た所、炎系魔法を圧縮して、着弾と共に解放しているって感じだけど

だけど、圧縮の工程が分からないな」


一方、アキラは


「コイツは、黒騎士の魔法だ」


と言う。


 修一と蒼穹が、バーストブレイズを撃ち続けた結果

あっという間にワイバーンの群れは、全滅した。


「修一君、天海さん、今の攻撃は?」

「分からない。この鎧の専用魔法みたいで、急に頭の中に入って来て」

「アンタもなの?」

「やっぱり専用魔法か」


専用魔法と、特定の道具を介してのみ発動する魔法である。

シルフィの矢も、彼女の弓による専用魔法であり

多くは、魔法使いでないと使えないが、中には魔法使いで無くとも、

更には、魔法が使えない超能力者でも使えるものもあると言う。


 ここでアキラが、


「確かに、今のは鎧の専用魔法だな」


なおアキラの右目には分析スキル付きモノクルが付いていて

それで確認した。更に鎧を分析して


「しかし、お前らの鎧、他にも専用魔法がついてるな。

さっきの以外は封印されてるみたいだけど」

「そうなのか?」

「あと全部攻撃系ばっかで、防御とか補助とかは無いな」


ここで、秋人が


「まあ専用魔法は、偏ってるのが普通だよ」


更にアキラは


「しかし、シュウイチと、ソ……じゃなくて、ネメシスだっけ、

お前らの鎧、専用魔法が、同じでまるでお揃いだな」


と言った後、モノクルが消えるが、それを聞いた蒼穹が


「えっ!」


と驚いたような声を上げたかと思うと、気まずそうにし始める。

一方、修一も、「お揃い」と聞いて、何だか気まずい気持ちを抱えつつも


「それより、早く行こうぜ」

「そうだったね」


五人は移動を再開した


 さて直ぐに移動しなかった影響かどうかは不明であるが

一難去ってまた一難と言う感じで、突如、砲撃の様なものが、

直撃ではなかったものの、付近に着弾し、


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


爆風で秋人が吹っ飛んだのだ。あまりに突然の事で、誰も対処できなかった。


「秋人!」


と修一が声を上げ、彼を含めた四人は、飛ばされた秋人を追う。

だが、立ちふさがるように


「また、ワイバーンかよ」


先ほどと同じ群れである。さっきよりも大勢で、しかも、さっきとは違い囲むようではなく

丁度、秋人が飛んでいった方に、立ちふさがるように降り立つ。

更に背後から、地響きが聞こえてきたので

レックスドラゴンも、しかも、音から群れと言う訳ではないが複数体、

接近していて、このままでは、挟み撃ちとなり、先ほどよりも、絶望的状況。


 だが修一達は、そんな事は気にならなかった。

脳裏にあるのは吹き飛ばされた秋人の事だけ。

左手を、立ちふさがっているワイバーンの群れに向け、

他の三人も、群れに、攻撃の矛先を向ける。


「そこを、どきやがれ!」


 そしてバーストブレイズを発射した直後、群れの後ろの方から爆発が起き、

挟み撃ちのような状態になった。


「秋人か?」


丁度、秋人が吹き飛ばされた方向だった。

修一達の攻撃と、背後からの攻撃でワイバーンは、

どんどん倒されていき、やがて、背後からワイバーンを攻撃していた奴が

姿を見せた。


「鎧の魔王……」


魔法街で出くわした。あの鎧の魔王である。


 無事なワイバーン達の、攻撃の矛先が、魔王に向く。

その魔王は、魔法を使ったのか宙に浮かび、迎え撃つ


「ふん!」


かなり、渋い声質の掛け声とともに、一匹目のワイバーンを殴り、それを皮切りに、

他のワイバーンにも攻撃を加えていった。基本は格闘戦、その体格、装備の割には

素早く、相手の攻撃は軽々と避け、ワイバーン達に次々と攻撃を仕掛けていき、

その攻撃は強力で当たる度にワイバーン達は苦しそうな咆哮を上げる。

更に距離をとっている相手には、闇の魔法による黒い球体を、出現させ、

射出し追撃する。


(すごいな……)


 その圧倒的な強さの前にワイバーンは、手も足も出ないようで、

戦いは、魔王の一方的なまま、残りのワイバーン達は全滅した。

そして、魔獣を倒した後、魔王は、修一達の側に降り立つ。

相手が魔王とだけあって、身構えるが、相手は何をするわけでもなく


「早く行け……レックスドラゴンが近づいている」


と一言、その見た目、その声、そのすべてに威圧感がするものの、

敵意の様なものは感じない。


(悪い人じゃない気がする)


と感じた。


「はい」


と言って、修一は、立ちはだかるものが居なくなったので、

秋人が飛ばされた方向へと向かおうとすると、


「待て、そっちはじゃない。あっちの方へ行け」。


と言って、別の場所を指さした。


「ここを、まっすぐ行けば、検問所の近くに出る」

「でも、俺の友達が、向こうに……」


すると


「お前たちの連れなら、既に安全な場所に送った。お前も早く行け……」


更にシルフィ、


「この人は、信頼できると思いますよ」


と何故か、太鼓判を押すが


「本当に?」


疑っている様子の蒼穹、アキラはモノクルを再度、装着し

黙ったまま魔王の方をじっと見ている。


 修一は、魔王が悪い人じゃないとは思ったが、信じきれない部分があったので


「安全な場所ってどこだ?そもそも、どうやって送った?」


と聞くと、こんな返答が来るとは思わなかったのか


「それは……その……」


妙に狼狽した様子で、あからさまに返答に困っているようだった。


「とにかく信頼してくれませんか」


何故か、魔王の片を持つシルフィ。


 そんな二人を後目に修一は、秋人が心配なので、

彼が飛んで行った方、走っていく。


「待って、修一君……」


その一言で、思わず立ち止まり、鎧の男の方を向く修一


「何で俺の名を?」


鎧の男は、口が滑ったというような感じで、

兜のちょうど、口元のあたりを抑えるような仕草をしていた。

あとなぜかシルフィも気まずそうな顔。


(あと口調が変わっていたような。声と全然、合っていないし、それに……)


 次の瞬間、修一は、ある考えに取りつかれた。

それは、かなり薄い根拠の上に成り立っている考え、だから


(あり得ない、絶対にありえない)


修一は、その考えを打ち消そうとしたが、出来なかった。


(魔王の正体がアイツなら……だから魔王の話題が出るたびに……)


更に、思いついた事は、


(もしシルフィが、その事を知っていたら……)


彼女の態度も、説明がつく。


(だから魔王の話題が出るたびに)


とにかくあり得ない事であったとしても、

確かめなければ、この考えを打ち消せそうになかった。


「お前……」


修一が聞こうとする前に、レックスドラゴンが複数体やって来て、一同を囲む。

逃げ場はない。


「来てしまったぞ」


と言う魔王に対し、


「そっちがちゃんと説明しないからだろ」


と言って、レックスドラゴン向き、武器を構えた。


「………」


魔王も身構える。


 直後、砲撃のような物が、襲い掛かって来る。


「これは、まさかさっきの!」


それは、先ほど秋人を吹き飛ばした砲撃と同じもの。

直後に、ワイバーンが現れたが、砲撃はワイバーンの物ではなかった。

しかも、今度は一斉射撃のごとく無数に、無差別に撃ち込まれ、

レックスドラゴンは、吹き飛ばされる。


「カノンアイ……」


魔王は、宙を見ながらそう呟く、修一は魔王の視線の先を追うと、

そこには巨大な目玉のバケモノが空に浮いていた。


 これがカノンアイと呼ばれる魔獣であり、大きな単眼と、体は灰色の球体に、

砲門を思わせる突起、無数についていて、実際に砲撃を行っている。

そして二度にわたる砲撃は、そこから発射された物のようである。

更に触手の様なものも、無数に付いている。

もちろん、上級魔獣であるが、その中でも群を抜く、超上級の魔獣である。

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