7「異界の森で」

 仲間たちと一緒に森に入った修一は思った。


(なんだか、不気味だな)


そこは、正に鬱蒼たる森といったところ、木々の所為で、光が遮られ、

普段から少々薄暗い上に、今日は曇りでますます暗く、

更に獣の鳴き声の様なものが聞こえる。実際は獣ではなく魔獣なのだろうが、

それがこの森の不気味さを、さらに煽っていた。もちろん、魔獣が出るわけだから、

不気味どころか、危険極まりない場所である事には間違いないのだが、

この状況下で、アキラが笑みを浮かべていた。


「アキラ……」


と修一が声を掛けると、彼は、ハッとなったように


「もしかして、俺笑ってた?」

「ああ……」


すると、どこか気まずそうに


「いやあ、此処に来ると、つい興奮しちまって、不気味だったよな。すまん」

「別にそんな事は」


と言いつつも


(俺も他人事言えないな……)


と思う。


 そう修一もまた、この状況に、妙に胸が高鳴りを感じていた。

彼の好奇心と言う病気が、そうさせていたのだ。

とにかく、この先、起こる事を思う楽しみで仕方ない。


(ああもう自重しろ、俺、このままじゃ普通じゃなくなっちまう)


どうにか抑え込もうとする修一、そんな時、物音がした。

「!」


 修一達は足を止めた。音がした方を見ると、蛇がいた。柄から見て、


「ハビじゃないな。ヤマカガシでもなさそうだ」


ちなみに、ハビと言うのは、この地方でのマムシの呼び名である。

修一はこの地方の生まれではないものの母親が、

この地方の出身なので良くマムシの事をハビと呼ぶので

それが修一にうつっていた。


「修一君、それバシリクス、魔獣だよ。気を付けて」


バシリクスと言えば、伝説上の蛇の魔獣である。

そのモデルはコブラから来ていると言われ、毒はもちろんの事


「見ただけで、相手を殺すっていう蛇のバケモノか」

「いや、そんな力は、ただ、火を噴く」


直後、修一は身をもって知る事に


「危な!」

「修一君!」


寸前のところで、よけたものの、その蛇、バシリクスは、

修一に向かって火を噴いた。


「クソ!」


体勢を立て直し、武器を構える修一、だが


「テヤッ!」


と言う掛け声と共に、アキラが赤い槍で突き刺し、倒していた。


 直後、側から物音がして、その方を向くと、鶏がいた。

一般的な鶏ではなく、大きく、筋肉質で屈強な体格、

いわゆる闘鶏で使われる、軍鶏の様だった。

ただし、トカゲの様な尻尾が付いていたが、


「コカトリスだ」


秋人が言うと、修一は


「睨まれたら、石にされるって言う鶏のバケモノか」

「石にはしないけど……」


修一の前に飛び出し、コカトリスに杖を向け、呪文を唱える

その直後、コカトリスが二人に向かって火を噴いた。

直後、秋人が防御魔法を展開し、火を防ぐ。


「見ての通り、火を噴く」


その炎は、バシリクスのよりもずっと強い。


 だが突如、炎が消え、コカトリスが、倒れていた。

その体には光の矢が刺さっていて、絶命してるようだった。


「すいません、あなた達を囮にしてしまって」


と申し訳なさげに言う、シルフィ。その手には弓があって

それで、コタトリスを撃ったようだった。


「あれ、その弓は?」


そうさっきまで、シルフィは弓を持っていなかった。


「これはですね」


そう言うと、弓を二つに分離させ、そして変形させる


「双剣……」


シルフィが、装備していた。二本の短剣であった。

そして、コカトリスに刺さっていた矢が、消える。


 この短剣は、魔具と呼ばれる。いわゆる魔法の杖のような物。

弓が、本来の姿で、コカトリスに刺さっていた矢は魔法で生成されたもの。


 そして秋人は、説明をする


「魔獣たちは、どんなに弱そうな奴でも、積極的に攻撃をしてくるからね。

あと憶病な魔獣は、直ぐ逃げるけど、絶対に一回は攻撃を仕掛けてくるんだ」


魔獣は、基本的に人間に敵対意識を持っている。

故に異界の魔獣を手懐けとしてはいけない。


「ただ異界の外で孵化した魔獣は人間に懐く事があるから、

敵対意識は異界が受け付けているって言われてるよ」


なお人間に懐いた魔獣を異界の中に連れて行っても、特に変化はないので

敵対意識が受け付けられるのは生まれた直後と言われている。

 

 ここで側の草むらから、修一の足元に迫るものが


「うわっ!」


突如、修一の右足に木の枝の様なものが、蔓の様に巻き付き、

修一は足を取られ、転倒、そのまま草むらの奥へと引きずり込まれる。


「またかよ!」


魔法街の事が、修一の脳裏に、浮かんだ。


「シュウイチ!」


と叫んで向かって行くアキラ


「まったく、またなの!」


と言って向かって行く蒼穹


「今助けるよ」


秋人は杖を構え、呪文を唱えようとする。

シルフィは、黙ったまま短剣を再び弓に変形させる。


 しかし、助けは必要なかった。


「この!」


修一は、メタモルブレードを変形させ、刃を伸ばし、伸びている枝を切り、

脱出し、体勢を立て直すが、この瞬間、修一の中でスイッチの様なものが入った。

彼の負けず嫌いからくるスイッチが、そして奥の方から更に無数の枝が、

修一達に迫って来た。


「!」


今度は、修一の方から。打って出た。

本能的にであるが、メタモルブレードを、死神が持つような大きな鎌に変化させ


「この、この、このぉ!」


手慣れた動作で、鎌を振り回し、枝を、片っ端から切り裂いていく、

向こうも負けじと、更に枝が襲ってくる。修一も、応戦、対応できない分は、

素早く回避、華麗な立ち回りを見せる。


「………」


その様子を茫然と見ている秋人、シルフィ、

蒼穹は魔法街の戦いで、ゴーレムと戦いながらも

修一の戦いを垣間見ていたので、特に驚きはなく、故にリアクションは無い。

なおアキラは


「やっぱ、シュウイチはすごいな」


感心している。


 その修一はと言うと


「ああ、もう切りがない!」


と腹立たし気に叫ぶと、枝は伸びてくる方、

すなわち元凶がいるであろう場所へと突っ込んでいった。

相手も阻止しようと無数の枝を伸ばしてくる。


 修一は、接近を優先している為、それらを回避しつつ、

避けきれない物を、切り裂く。その動きは、素早く、時に伸ばしてきた枝さえ、

足場として利用し、立体的な動きを見せつつも、確実に相手の元に近づく、

その動きに無駄はない。


(あれか!)


 遂に修一は敵を捕らえた。それは、ガディウッドと同じような植物型の魔獣で、

見た目は大樹。そして先ほどから修一達を襲っている枝の様なものは、

地面から伸びており、それは枝ではなく根だったのだ。


 大樹は、修一の接近に対し、咆哮を上げ、根はもちろん、

今度は文字通りの枝の部分で、さらなる攻撃を仕掛けてくる。

しかし修一を止めることはかなわず、そして修一の持つ鎌は槍に変形した


「うおおおおおおおおおおおおお!」


その槍で大樹の、ちょうど顔の中心部分を、思いっきり突き刺した。

すると大樹は、ひときわ大きな声を上げたと思うと、そのまま、動きが止まった。


「!」


そのまま、枯れかけだった大樹は急速に、枯れていく。

さっきの一撃で魔獣は、滅びたのだ


「あっけないな」


と修一は呟きなら、槍を抜いた。メタモルブレードは元々の長剣形態へと変形する。


「すごいね、修一君」


と声を掛ける秋人、そう修一を追って四人がやって来たのだ。


「そうか?コイツ弱かったぞ」


するとシルフィが


「当たり所が良かったんですよ。この魔獣、エビルフォレストの弱点は、

顔の中心ですから」


修一が、そこを差したのは偶然である。

要は運が良かったと言うことになるのだが


「そもそも、エビルフォレストは接近戦が有効。でも接近するのは難しいんだ。

だけど遠距離攻撃はあまり効かないし、

だから接近できたと言うだけですごい事なんだよ」

「そうかな……」


修一には、いまいち実感が湧かないが、内心では


(やっちまったか……)


と気まずさがこみ上げてくる。

見せてはいけないものを見せてしまった気がしたのだ。


 ここでアキラが、


「良い動きしてたぜ。まあ、ガディウッドを倒せるんだから、

エビルフォレストは、物足りねえか」


なおエビルフォレストはガディウッドの下位の魔獣でもある。

ただアキラの言葉で、


「えっ?修一君って、ガディウッドを倒した事あるの?」

「あっ……」


修一を称賛したつもりだったが、うっかり口が滑った事に気づき、手で口を押える。


 更にシルフィが、


「そう言えば、先ほど魔法街がどうとか言ってましたね。

この前、ガディウッドを含めた三匹の魔獣の死骸が

魔法街で見つかったと聞きましたが、まさか……」


と言って修一の方をじっと見てきたので


(これは隠せないな)


と思って、魔法街での出来事を話した。


 そして、


「俺が、倒したのはガディウッドだけだから、

他は、天海とアキラが倒したんだけどな」


妙に強調するが、


「あの魔獣を、違法に運んでいた連中の証言だと、あの三体の魔獣は

パーティーを組んでいて、リーダー格はそのガディウッドだから

十分凄い事だと思うけど」


魔獣は、同種族で、群れを成すことは普通だが、

偶に異なる種類の魔獣が、仲間になって行動すると言う事があるらしい

そのリーダー格は、一番強いとの事。


「そうだったのか」


話を聞いて、ますますやってしまった感を覚える修一。


 その時、何かがこっちに向かって来る音、

やがて姿を見せるのは、小型の人型魔獣ゴブリン、しかもその群れであった。


「私に任せて」


と言って、向かって行く蒼穹、先ず彼女は、瞬時にしゃがんで、

地面に手を当てた。するとゴブリンたちの、進みが止まった。

彼女は、水の力と地の力を使って、一瞬のうちに、ぬかるみ作り出し、

ゴブリンたちは足を取られたのだ。その上、彼女の力で泥は、

強い粘着力を持っていて、全員、足が抜けなくなったのである


 そして、ゴブリンたちが動かなくなったのを確認すると

立ち上がり右手を群れに向けると、そこから炎が物凄い勢いで

放出された。そう火の力による火炎放射である。


 強力な炎は、ゴブリンたちを焼き尽くしていくが、

超能力である故か、周囲の木々に、燃え移ることはおろか、焦がす事さえなく

ゴブリンだけを燃やしていた。

なおこれは、ゴブリンが動けないから出来る芸当との事。この様子に、


「すげえな」


声上げるアキラであるが、修一は、


(なんだか、消毒とか言って火炎放射器で虐殺してるみたいだな)


兜の下で、何とも言えない表情を浮かべつつも、

何処か体が熱くなっているのを感じる。


 やかて消し炭の様になり、全滅するゴブリン。


「他にも群れがいるかもしれない。この場を離れよう」


と秋人が言った。常にではないものの魔獣が群れは、

他の群れを引き寄せる事があると言う。そして移動を開始する一同。

だがすぐに、コカトリスの大群がやって来た。


 仲間の敵と言わんばかりに、シルフィを狙っているように見えた


「ここは私が」


彼女は、既に双剣を弓に変形させていて、光の矢を撃って、何体かを倒した後、


「アローレイン……」


と呟くと、光の矢を真上に撃った。すると、矢が雨のように降ってきて、

群れを全滅させた。


 次はバジリスクの群れ、さっきのよりもずっと大きく、

大蛇と言えるほどであったが、それでも、まだ低級だと言う。


「コイツらを、俺の獲物だぁ」


と叫びながら、向かって行く、アキラ、アラクネの時と同じで、

荒々しくも、きちんとした太刀筋に、状況に応じて武器を切り替えながら、

戦い、あっという間に、群れを全滅させた。


(相変わらず狂戦士みたいだな)


しかし、戦いが終わると、一気に冷めてしまったような。

スッキリしてるようで、何かを悟っている様な表情を浮かべていた。


 更に進むと、またしても群れと出くわす。今度は、アラクネの下位魔獣、

その名もリムアラクネ。人型の上半身は持たないが、

大型の獣くらいの大きな蜘蛛。もちろん肉食で、凶暴である。


 魔獣は、気配を隠すのが得意で、気づくと修一達は

囲まれていた。全員身構えるが


「ここは、僕が、」


と言って、杖を構え、英語のような呪文を唱える秋人。

そして叫ぶような大きな声で


「ファイヤー・エクスプロージョン!」


秋人を中心に、大きな魔方陣が、現れたかと思うと

何かが破裂するような音と魔獣は共に一斉に燃え上がった。


 それは強力な炎系魔法で、魔法故か蒼穹が出した炎と同じく、

周囲に燃え移ることなく、魔獣だけを燃やして、

火が消えると、焼死体だけが残される。

なおリムアラクネの弱点は炎である。


 ここまで、他の四人の戦いを見てきた修一は


(凄いな)


蒼穹の強さは、有名だし、魔法街も含め、何度かその一端を見ている。

アキラに関して、魔法街の一件で、その強さを見ているし、

秋人とシルフィは、一端を見た程度であるが、強さの片鱗を感じた。


(これなら)


 修一の思惑としては、初めての事なので、手慣れている人間がいれば、

助けてもらえて、要件も早く済むだろうし、それに一番大きな事は、

自分の活躍を第三者に、見られず済むかもしれないと言う事。


 一人だけだと、目的はスライムだけだが、異界は魔獣だらけであるから、

いやでも活躍せざるをえず、そして異界には、自分以外にも冒険者がいるわけで、

誰が見ているか分からない。

もちろん鎧で顔が分からないとはいえ、油断は出来ない。

そこで手慣れた仲間がいれば、その活躍で、自分の活躍の場を減らし、

結果的に、自分の活躍、それの伴う彼の力を第三者に、

見せずに済むのではないかと思ったのだ。


(俺の力は、普通じゃないものを呼び寄せかねないからな)


もちろん、仲間たちに見られるリスクはあるし、実際に見せてしまっている。

そもそも、エビルフォレストの様に、火の粉を払わねばならないこともあるし

更に、修一自身、自制が効かない所があり、彼の思惑は、早々に崩れ去るのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る