6「異界突入」

 バス停は、目的の建物の側であった。乗客たちはバスを降りると、

皆、その建物に向かっていく。バスを降りた修一は、建物と、その背後の壁を見た。

その上の方には靄のようなものが見えた。


(あの靄が、もしかして結界か)


すると、秋人が


「あの靄、結界だって思わなかった?」

「!」


心が読まれた気がして、驚く修一、その様子に秋人は困惑したように


「そんなに驚かないで……みんな勘違いするから、修一君もそうかなって」


シルフィも、


「私も、最初はあれが結界だと思っていました」


蒼穹も


「私も……」


と言うが、アキラは


「俺は何も感じなかったけどな」


との事。


「つまりは、アレは結界じゃないんだな」

「あの靄は魔王城が引き起こす次元のゆがみ、

周囲の空間をゆがめ異界を作っている」


 なお結界は、普段は見えない。

故に、それが不安だという市民の声で壁が設置された。

因みに見えるのは張ったばかりの時と、破れそうなときだけ、

その際にはガラスの壁の様なものが見えると言う。

なお魔法で張られているものではあるが、見えるときは魔法使い以外でも見える。


 この後、五人も、コンクリート造りの建物に向かっていく、


「ここが、異界に入るための検問所さ。」


結界には、内部に入ることを目的に、外から自由に、穴を開けられる部分がある。

そこに検問所を建て、異界に出入りする冒険者のチェックを行っている。


「と言っても、行きは殆どノーチェックよね。厳しいのは帰りだけで」


と蒼穹が言う。


「へえ、そうなのか。何時もすんなり返してくれる気がするけどな」


と言うアキラ。


 建物に近づくと、秋人が


「そろそろ、鎧を着ておいた方が良いんじゃ、」


と言われ、鎧を着る修一。


 そして中に入ると、冒険者でいっぱいであったが、

特に変わったところはなかった。

先の支所と同じと言うか、コンクリート造りの分、より役所と言う感じがする。

奥の方に明らかに受付と思われる場所があり、

その横の広い二つ通路が印象的だった。

なお通路の片方には空港の税関のような場所があった。

あの通路のどちらかが異界への通路である事は、容易に想像がついた

 

 ここで秋人が、受付のような場所を指さしながら


「あそこは総合受付、行きはあそこで手続きをするんだ」


次に。二つの一つ通路を指さしながら


「あれが、異界への出発ゲート」


そして、もう一つの、税関のような場所がある方を指さし


「あっちは、帰還ゲート」


と言った後、税関のような場所の詳細を話す。


「あそこは、帰還受付、帰ってきたら、あそこで手続きをする。

あと異界から持ち込んだもののチェックするよ。問題があれば、没収。

審査に、かなり時間がかかるものは、後日、郵送か受け取り」


どうやら、本当に空港の税関みたいな場所らしい。


「食用に魔獣を持ち込む場合は、処理が必要だけど、後日って事はないね。

多分30分もかからないかも」


検査所は魔獣の食肉処理も受け持っている。


 そして五人は、総合受付に行き、パーティーと言う形で、一緒に手続きを行う

まず全員分の証明書を渡し、目的を話す。内容は魔獣の捕獲と鍛錬。

担当者は、それぞれの証明書をカードリーダーに通し、

その後、ゴーグルのような物を付けると、


「ちょっと失礼します」


と言って、修一と、蒼穹の方を見て


「確認しました」


と言うと、ゴーグルを取り、パソコンで事務手続きを始める。


「何だ今の」


と修一が言うと、秋人が


「あれは、透視スキル付きのゴーグルだよ。修一君たちは兜で顔が分からないから

あれで確認したんだ」


なお、これを使っても、顔が分からない時は、

顔確認の為、兜を脱ぐことを求められることがあると言う。


 事務手続きようなものを終えると


「エスケープペンダントは?」


と聞いてきた。


「ください」


と秋人は言うが、修一は、何のことかわからなかったので


「何ですかそれ」


受付に聞いた。


「脱出用の転送システムです」


と説明。その後、担当者は、簡素なデザインで、

真ん中にボタンの様なものが付いたペンダントを人数分持ってきて


「説明は?」


と聞いてきたので、修一は


「聞いてもいいか?」


と皆に聞くと、秋人が


「いいよ」


と言い、他の面々も似たようなことを言って了承したので、


「お願いします」


と説明を頼んだ。


 担当者は、説明を始める


「このペンダントのボタンを押せば、転送魔法が発動し、

検問所の前まで戻ってくることができます。緊急時はもちろん、戻りが御辛い時、

お急ぎの時もご使用ください。使えるのは一度きりです。

あと再利用しますので、お帰りの際は返却をお願いします」

「わかりました」

「あと、場所によっては、発動しない事もありますので、

使用の際は余裕があるうちに使ってください」


 そのまま、代表する形ではペンダントを受け取り、みんなに配った後、

身に着けた。そして受付の証明である半券を、これは、秋人が代表で受け取り、

皆に配る。なお証明書は戻って来た時に、返すとのこと。


 手続きを終えると、少し、待たねばいけなかった。

異界こと立入禁止区域への入り口は、戻ってくるときは随時だが、

こちらから入るときは決まった時間に扉を開く事になっている。


「………」


待っている間、五人は自然と無口になっていた。

修一、この先の事を想像すると自然と緊張感に襲われた。

慣れている秋人達でも、この待ち時間は、すこし緊張するとの事。

ただ、アキラはそんなことは無いようで、何処か、のほほんとしている。


 そんな中、修一は側にいる冒険者たちの会話を聞いた


「週末って、魔王が現れる率が高いって知ってた?」

「そうなの?」

「知り合いから、聞いたんだけどね。特に第5区画以降に現れやすいんだって」

「へぇ~~~~~~~でも、魔王って何がしたいんだろ、

別に人を襲っているわけじゃないし、

前のサイレンの時は魔獣と戦っていたみたいだけど」

「さあねぇ、ファンタテーラじゃ、魔族を率いて、人間に戦争を仕掛けていたらしいけど」

「たしか、勇者と戦ってたんだっけ」

「そうそう、聖なる剣を持った勇者とね。でも噂じゃ、今は魔王が聖剣を持ってる。

勇者を倒して奪ったって」


話を聞いていた修一は


(魔王がいるなら、やっぱり勇者までいるのか。でも絶望的な話してないか)


ここで、修一は土砂崩れの件を思い出し、秋人に聞こうとするが、

その時、彼は神妙な面持ちしていた。


「秋人……」

「なに?」


ちょうど、その時、開門のアナウンスが流れる


「いよいよだよ」


と秋人は、真顔で言う。


「腕が鳴るぜ」


嬉しそうなアキラ、そして元から付けていたペンダントを握りしめ


「無事戻って来れますように」


と祈りを捧げるシルフィ


「………」


無言で、特にリアクションの無い蒼穹。

こんな感じで、出発となり、結局のところ、土砂崩れの件は聞きそびれてしまう。


 そして五人を含めた冒険者たちは、受付横の広い通路に向かっていく。

通路の途中には、鎧姿の兵士がいて、


「半券を」


と一言、五人は、他の冒険者も、次々にそれを渡し、さらに奥に、

やがて大広間にたどり着く。広間の奥には大きな門があった。それを見た修一は


(あの門の向こうが立入禁止区域、異界か)


そして、先ほど通って来た受付の方へ通路の扉が閉まり、直後大きな門が開く、

この時、門の部分だけ、結界に穴が開いている。

門の向こうは靄の様なものがあった。冒険者たちは靄の中へと入っていく


「それじゃ皆」

「ああ、行こう」


 修一は、手にメタモルブレードを出現させた。

この先は、何があってもおかしくないからだ。

他も同じようで、シルフィも短剣を抜くし、アキラも赤い剣を出現させた。

蒼穹は、腰に銃のような物が付いているが、装備する様子は無かった。


 そして五人は、靄の中へ入っていく。

靄を抜けると、そこにはまた門の様なものがあり、そこを通り抜けると、

どこまでも広がる広大な森が五人の前に現れた。自殺の名所になりそうな、

入ったら二度と抜け出せないような、そんな恐怖さえ感じる。

更に天気は、曇りで更に恐怖を増幅させている。ただ、


「さっきまで、晴れていたはずなのに」


検問所にやって来た時の天気は晴れ、しかも快晴だった。


「異界と外の天気は、違うこともあるよ、ひどい時だと、

外は快晴でも、異界は大雨だったり、その逆もあるし、

疑似空間にはよくある事なんだよ」


この事は冊子にも書かれていたが、修一はその部分を読んでいなかった。

なお原因などは、今も分かっていないらしい。


 この後、修一達は、一緒にいた冒険者たちと同じように、

森の中へと入っていった。目的のブラックスライムを探すために。

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