5「冒険者の心得」

 さてマリーナは話題を変える。


「それより冊子にも書いてあって、みんなも知ってると思うけど、

冒険者の心得は、秋人」


生き生きとした様子で答える秋人


「一つ、半端な覚悟で臨むな。

二つ、獲物は早い者勝ち。

三つ、他人の獲物を横取りするな。

四つ、助け合いの心を忘れるな。

五つ、先輩は後輩の面倒を見ろ。

六つ、サイレンが鳴ったら即逃げろ。

七つ、必ず帰ってくる」

「その通り」


そして、修一の方を見ながら


「冒険者たるもの、この七つの心得を守らなければならない」


と言ったものの、ため息交じりで自虐的に、


「と言っても、一つ目は守れてない事があってね。

つい軽い感覚で挑むことはあるわね」

「僕もです。まだまだ、駄目ですね」


更に、アキラも


「俺は、俺はそう言うのは考えないないな。

これしか出来ないからやる。今もそんな感じだしな、

それに、戦いとなると興奮しちまうし」


嫌悪感に満ちた表情をする。


 シルフィは


「私も、ファンタテーラにいた頃から、これしか出来ませんでしたから」


覚悟を決める前に、もうやるしかないと言うところ。


 蒼穹は、


「覚悟がどうこう言われると、痛いですね。私は、鍛錬が目的ですから」


そして修一は、


「俺は、流されてるような物ですから、覚悟なんて全然足りてませんよ」


 まとめるようにマリーナは、


「まあ、半端な覚悟じゃ、命取りと言うのは、確かだからね

それに対する戒めって事ね」


と言った後、ここからは、今の現状を憂いているように、


「ただ特に三から五は、守らない奴も多い。手柄は横取りするし、

他人の危機を見て見ぬふりするし、後輩を奴隷みたいにこき使う奴も多いし、

まったく、最近の冒険者は人情ってやつが無いのかしら」


話を聞いた修一も、憤りを感じているように


「どこも同じですね。今の社会は……」


なんだか暗い雰囲気になる。マリーナはこの状況を振り払うように明るい口調で


「ごめんね。なんだか暗い感じになっちゃって、新人君、質問ある?」


と言う。


 修一は心得の中で、疑問に思ったことを尋ねた


「六つ目のサイレンって何ですか?絶望的なゲームみたいですけど」

「『区画崩壊』を知らせるサイレンよ」

「区画?」

「冊子に書いてると思うけど、異界は10の区画に分かれてる」


異界は外側から、第一、第二、中心部が第十と区画が、決められている。

これは過去の異界の調査から、勝手に定めたものである。


「区画番号が大きくなるほど強い魔獣が生息しているわ。

最も生息域は変化するから絶対じゃないんだけど、

特に『魔王城』のある第十区画はシャレにならない。」


 ただ不定期に異界がぐちゃぐちゃになって、その上で魔獣たちが凶暴化して、

生息域無視で暴れだすことがある、それが『区画崩壊』。

それが起きると最悪、第一区画にいるはずが第十区画にいたり、

そもそも生息域を無視しているわけだから、

本来の区画に現れるはずのない魔獣が現れる事もあるし、

それ以前に魔獣が凶暴化しているので、

熟練の冒険者でも命を落とすことがあるという。


「区画崩壊が起きると、観測所がサイレンを鳴らすの、

だから『サイレンが鳴ったら即逃げろ。』」

「なるほど・・・・・」


なお、冊子にはよると区画崩壊は、第八区画と第一区画のもっとも外側は、

全く影響を受けない。ただ第8区画は、影響は受けないものの、

危ない場所には変わらないので、外側に向かって逃げろと言うのが正確だろうか

そして、ここまで話を聞いた修一は内心


(やっぱり、どうあがいても絶望、逃げ場なんてないよって感じか)


「まあ、元凶は、魔王城、そもそも異界も城の防衛機能とか、なんとか……」


区画崩壊も、原因は魔王城である。ただし、なぜ起こしているかは不明である。

異界化と同様、防衛機能の一貫と言われるが仮説の域を出ていない。また、発生時は魔王城が赤く光る。そして観測所は、魔王城を観測し赤い光を確認するとサイレンを鳴らしている。


「魔王城……」


修一は、新聞や駅のホームで耳にした事を思い出し、


「そこに、魔王がいるんですか?」

「正確には、鎧の魔王がだけど、ファンタテーラには、他にも魔王がいるからね」


異界を作っている魔王城は、修一達が、魔法街で出会った。あの魔王の城との事


「あの城がファンタテーラというか、魔界にあった頃は、住んでたみたいだけど、

今はどうだが」

「魔界?」

「ファンタテーラにあって、ファンタテーラない特殊な空間らしいんだけど、

詳しい事はちょっとね。まあ異界みたいな物なのかも」


と言った後


「魔界はともかく、アタシも魔王城に行ったことあるけど、見たことないよ。

見るのは城以外の場所さ、結界の外の時だってある」

「………」


魔王の話になってから、神妙な面持ちで秋人は黙り込んでしまう。


「どうした?」


その様子に気づいた修一が声を掛けると、


「何でもないよ……」


と答えるだけ、修一は気づいていないが、シルフィも神妙な面持ちをしている。


「何でもないって……」


と修一が言いかけた時、それを遮るかのように、ウェイトレスが


「おまたせしました」


と台車に乗せて、六人が注文した食事を運んできた。食事を並べ終えると


「ごゆっくりどうぞ」


言ってウェイトレスは去っていく。


 食事が来たことで、


「さあ、飯だメシ、あと、ここはアタシが払うから」

「「いいんですか?」」


修一と蒼穹がタイミングよく、同じことを言った。


「なに、あなた達、息ピッタリね」

「「………」


合わせたつもりじゃなかったから、恥ずかしくなり黙る二人。

そして秋人が、驚いたような顔をしながら、


「良いんですか、一人や二人なら兎も角、五人もいるんですよ」


と言うが、マリーナは、笑いながら、


「いいのよ。先輩として年下に払わせるわけにはいかないから、

それに懐も潤ってるし」


そんなわけで、昼食は彼女のおごりとなった。食事になった所為か、

修一は、先ほどの秋人の様子の事や、更には土砂崩れの件を聞くのを、

すっかり忘れてしまった。あと余談であるが、

蒼穹の鎧は口元が開くようになっていて、

彼女は、兜を付けたまま、食事を食べた。



昼食を食べ終わり、精算を済ませると、店を出た


「すいません。会ったばかりなのに、飯までおごってくれて」

「僕まで、ご馳走になっちゃって」

「ホントすいませんね」


申し訳なさげな表情の、修一と秋人、鎧で表情は分からないが、

申し訳なさげな雰囲気を醸し出す蒼穹。


「どうも、ゴチなりました」


と笑顔で言うアキラ。


「ありがとうございます。このお礼はいつか」


と言って、頭を下げるシルフィ。そんな五人に対し、


「いいの、いいの、これも先輩の務めだから」


と言った直後、大きなあくびをするマリーナ


「ごめん、もう限界、アタシは帰るけど、後は頑張ってね。アンタ達、

それじゃ、またね」


そう言って、去っていく、マリーナ


「僕らも、行こうか」

「ああ」


五人も移動し始める。


 目的地は立入禁止区域こと異界、まずは支所の近くにあるバス停に向かい、

そこから、駅発、異界方面へのバスが出ていた。

バス停に、向かう途中、アキラが、唐突に


「なあ、魔導コンピューターって知ってるか」


すると秋人が、


「聞いた事あるけど、どうしたの急に?」

「昨日母さんが、デンワでさ、魔王城の、魔導コンピューターとか言ってて」


その時は、母親に聞きそびれて、そのまま忘れていたとの事だが、

先ほどに、魔王城の話題が出て、それでここまで、魔王城の事考えていたら

今、思い出したと言う。


「それはね、古代魔装のアルティモアの機械版なんだけど……」

「たしか、あらゆる魔法が書いてある本って奴か」

「書いているだけじゃないよ。誰でも魔法が使えるようになる。

究極のマジックアイテムなんだよ。」

「誰でも?」


と修一が言うと


「そう、アルティモアを『機械式魔法』みたいにしたのが、魔導コンピューター、

これらは、超能力者でも魔法が使えるらしい。手に入れれば、

疑似的だけど『規格外』になれる」

「そんなものが……」

「と言っても噂話だけどね」


ここで蒼穹が、修一にしか聞こえない様に、小さな声で


「桜井修一、アンタには必要ない代物よね」


と彼の耳元で、言った。その一言で、修一の表情が僅かに固まった。


 そんな事を話している内に五人は、バス停に着いた。

そこは彼らと同じく異界に向かう冒険者たちでいっぱいだった。


「乗れるかな」


と心配になったが、バスがやってきて、いざ乗車となると無事乗る事が出来た。


 バスは、発車すると町の外れへと向かっていき、やがて外壁の外に出た。

外は二車線の舗装された道路が走っているものの、周りは森で、

代り映えのしない風景が続き、そして森を抜けたのか車窓からの風景が一変し、

アスファルト塗装の、広場へと出た。それは大きな駐車場であった。

更にその奥に大きな鉄筋コンクリート造りの建物と、

その後ろにこれまた大きな壁のようなものも見えた。ここが目的地である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る